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梓「Have A Good Die」

このエントリーをはてなブックマークに追加 コメント (2) | カテゴリ: けいおん!SS | 更新日: 2011/04/15 12:30
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:05:32.27 ID:ylk7FBUWo


―― 2010年12月 放課後・職員室前


梓「失礼しました」ガラガラガラ

梓「はぁ……職員室に呼び出されたと思ったら明日健康診断の再検査に行けって、面倒くさいなぁ……」

梓「先輩方待たせちゃってるし早く部室行かなきゃ」


3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:06:25.03 ID:ylk7FBUWo


―― 部室

 去年の学園祭を最後に部活動を実質引退した先輩達だけど、今も受験勉強をするために部室に来ている。

梓「こんにちは、お待たせしました!」

律「おー、今日随分と遅かったな梓。」

澪「何かあったのか?」

梓「すいません、ちょっと職員室に呼び出されてたもので」

唯「わーい、ちょっと遅くなったけど今日のあずにゃん分補給~」ぎゅー

梓「ちょっ!いきなり何ですか!やめてくださいよ」

紬「まあまあ、とりあえずお茶にしましょ」

梓「それが、急に健康診断の予定が入って胃カメラ飲まないといけなくなったので今日は何も食べれないんですよ」

澪「健康診断?先月やったんじゃなかったのか?」

梓「それが、先月の検査で何か引っかかったそうで病院で再検査する事になったんです」

唯「あずにゃんお菓子食べすぎだからだよ」

梓「唯先輩に言われたくないです」

唯「ぶー、あずにゃんシドイ」

 はぁ、それにしても健康診断だなんて、何もないの分かってるけどそれでもいい気がしないよ。


4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:10:07.02 ID:ylk7FBUWo


―― 翌日

 この日は朝から病院にすし詰め、血を抜かれたりX線浴びせられたり大きな機械の中に寝たまま入れられたりバリウム飲まされてカメラ突っ込まれたり……噂には聞いてたけどバリウムって本当吐きそうになる位気持ち悪い。
 午後からは学校に戻って授業、放課後の部活は今日は休みと言われたのですぐ帰ろうと下駄箱で靴を履き替えて外に出ると……


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:12:15.28 ID:ylk7FBUWo


梓「あ、雨だ……どうしよう、天気予報見てこなかったから傘持ってないよ」

唯「お、あずにゃん発見!」ぎゅー

梓「にゃっ!?ゆ、唯先輩いきなり後ろから不意打ちしないでください!それに他の人達が見てるでしょう」

唯「よいではないかよいではないか」

梓「はーなーれーてーくーだーさーい」

唯「えへへー、って、あれ?それにしてもあずにゃんこんなとこで一体どったの?」

梓「今更ですか……傘持ってくるの忘れちゃったから困ってるんです」

唯「ふふふ、実はですね、こんな事もあろうかと、傘を用意してきました!」

唯「一緒に帰ろ、ね?」

梓「すいません、それじゃお言葉に甘えて」

唯「あずにゃんと相合傘だよー。雨の日も捨てたモンじゃないですなー」

梓「よくそんな言葉が恥じらいもなく出ますね」


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:18:23.09 ID:ylk7FBUWo


 しばらく歩いた頃、私はある事に気が付いた。
 今親は仕事で全国ツアーの最中で家にはいない。
 当然家事全て自分でやる必要があるし、夕食の買出しもしなきゃいけないのに今日1日忙しすぎてうっかり忘れてた。
 今日は疲れてたから外食にしようかな……でも何か1人でお店に入るのって緊張するし思い切って唯先輩を誘ってみよう。
 二つ返事でOKしてくれた。何でも憂がお泊りで今日は家に誰もいないそうな。


7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:21:10.07 ID:ylk7FBUWo


―― 近所の焼鳥屋


唯「それにしても、あずにゃんがこんなお店知ってるなんて以外だったよ」

梓「そうですか?私の家族、家を留守にしている事が多いからこうやって1人で外食する事がよくあるんですよ。でもこのお店、前にも一度先輩と来た事があったんですよ?」

唯「うーん、そんな事あったかなぁ。思い出せない……」

梓「覚えてませんか?私が1年の時の学祭の後、今日と同じように2人で来たじゃないですか」

唯「そういえばそんな事があったよーな無かったよーな」

唯「あ、思い出した!そうだよ、前にも来た事あったよ。確かあの時は私から誘ったんだよね」

梓「ええ」

唯「あれからだよね。よく帰りに2人で寄り道するようになったのは」

梓「そうですね、なんか随分昔のように思えますよ。まだ1年ちょっと前の出来事なのに」

梓「そうだ、唯先輩、私ここの他にも色々おいしいお店知ってるんですよ。よかったら今度時間空いてる時に行きませんか?」

唯「いいねー、行こうよ行こうよ。あずにゃんの知っているお店ならきっとおいしい筈だもんね」

梓「ふふっ、何ですかそれ」

唯「それはそうと……あずにゃん前来た時も確かそれ食べてたよね、なんだか美味しそう……」じゅる

梓「鶏皮ですよ。 私ここに来たら必ずこれ注文するんです」

唯「よし、じゃあ私もそれにしよっ! すいませーん」

梓「まだ食べるんですか?もう結構頼んでますよ」

唯「平気平気。だってあずにゃんと一緒なんだもん!もっと楽しまなきゃ」

梓(やっぱり唯先輩といると楽しいし落ち着くな……誘ってみてよかった)


8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:23:45.95 ID:ylk7FBUWo


―― それからしばらく経ち、翌年1月のある日・琴吹総合病院

 あの検査の日からしばらくの間、私は何度も病院で検査をさせられ検査入院までする事になった。
 でも病気で入院したわけでもないのですぐに退院でき、今日は診断結果を聞きに来ている。

梓「こんにちは」

金田「こんにちは」

 この人はこの病院の外科医で私の主治医でもある金田先生。

金田「今日は先日の検査の結果を聞きに来たんだよね」

梓「はい」

金田「中野さん、ご家族の方は今どちらに」

梓「あの……学校戻らないといけないのでなるべく早くしてもらえませんか」

金田「できれば、検査結果はご家族の方と一緒に聞いてもらいたいんだけどね」

梓「ですから、私は今急いで……」ハッ

梓(ちょっと待って!何で結果を聞くだけなのに家族も一緒に居て欲しいなんて言うのかな…普通言わないよねそんな事)

梓(先生とても険しい顔をしてる。なんか嫌な予感がする)

梓「親は仕事で出張していてしばらく帰ってこれそうにないです」

金田「そう」

梓「それで、私は何の病気なんですか?」

金田「肝臓に腫瘍が見つかった。胃から転移した物のようでとても悪性度が高いものです」

梓「え……」

金田「スキルス性の胃癌でね、既にかなり進行して手術で完全に除去するのは不可能な状態です」

梓「そんな……治す方法は無いんですか?」

金田「残念ながら、現在の医学では完全な治療法は確立されていません。出来る事は抗癌剤で進行速度を抑える位です」

梓「それで、私はあとどれだけ生きられるんですか」

金田「放置していたら半年、薬で進行を抑えた場合もってあと1年」

梓「1年って……」


9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:28:58.41 ID:ylk7FBUWo


 私は頭の思考回路が完全に停止した。
 気が付いたら自分の部屋にいた。ここまでどうやって戻ってきたのかすら記憶にない。
 ベッドに飛び乗り横になる。今はもう何も手に付かずただ時間だけがすぎて行く。
 どれ位たっただろうか、玄関のチャイムを鳴らす音が聞こえたので私はしぶしぶドアを開けに行った。

新聞屋「ちわっす! 新聞屋です。実はお客様の新聞の定期購読の契約が来月までとなってまして、契約の更新に伺わせていただきました」

梓「はい」

新聞屋「どうでしょうか? 来月以降もまた続けてくれますでしょうか」

梓「はい」

新聞屋「ありがとうございます。それではこの書類のこことここにサインをして……ここに印鑑お願いします」

新聞屋「出来れば、長期でとって貰えれば嬉しいんですが2年契約というのは如何でしょう」

梓「はい」

新聞屋「いやー、ありがとうございます本当に。ではこれはつまらない物ですがお礼の品と、契約書の写しです。では失礼します!」ばたん

梓「……2年じゃ長すぎたかな」ぼそっ

 17年間生きてきた。明日という日が来るのは当たり前の事だと思ってた、そう……今までは。

 私は今日、余命1年と宣告された。


10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:32:23.40 ID:ylk7FBUWo


―― 翌日・学校 2年1組

梓「……」ぼー

純「よっ、おはよ梓っ!」

梓「あ……純……おはよ」

純「どうしたのー?なんか浮かない顔してるけど」

梓「ううん、別に何もないよ」

純「何も無いような顔してないじゃん。これは……ははーん、さては恋の悩みですな」

梓「違うよ……だから何も無いって言ってるでしょ」

純「そ、そう(いつもみたいに突っかかってこない、これは変だ)」

憂「おはよう、純ちゃん、梓ちゃん」

純「おはよー憂」

梓「おはよ……」

憂「梓ちゃんどうしたの?て目に隈できてるよ!大丈夫?」

梓「平気だよ。昨日ちょっと夜中までTV見てて寝不足なだけだから」

梓(本当は一睡もしてないよ、寝れるわけないじゃん)

純「TV見てて寝不足だなんて、なんだかんだで抜けてるよね梓も。それで授業中寝てて指名でもされたらどうすんのー」

梓「……」

純(こりゃダメだ……)

憂(どうしたんだろ……なんかおかしいよ今日の梓ちゃん。絶対タダの寝不足じゃないよ。なにかあったのかな)

純「まっ、何かあったら相談してよね。困った時位友達を頼りなさい!」

憂「そうだよ、私達いつでも待ってるからね」

梓「ありがとう」

純「そうそう、まだまだ人生これからなんだからさ。もっと気楽にいこうよ!」

梓「これから……か」

憂「どうしたの?」

梓「あ、いや……何でもないよ。ただの1人言」

梓(ごめん……純……憂……でもこれは私自身の問題であって誰にも解決出来る事じゃないから)

 その日は部室には行かなかった。
 とてもじゃないけどそんな気分じゃないし先輩達に気を使わせたくなかったから。


11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:35:59.78 ID:ylk7FBUWo


―― 翌日

梓「あ、もうこんな時間。学校行かなきゃ遅刻しちゃう」

梓「……」

梓「喉かわいちゃった。ちょっと何か飲んでから行こうかな」

梓「冷蔵庫空っぽだ……そっか、買い物行き忘れてたんだっけ」

梓「あ……これお母さんの缶ビール……」

梓「お酒はハタチになってから、か……よく考えたらハタチになれないじゃん私」

梓「飲んでもいいよね」ぷしゅっ

梓「うわっ、苦っ!」

梓「はぁ……でも飲んでると何か嫌な事忘れられそうな気がする」

梓「もう今日は休もうかな」

梓「……今更学校なんか行ってもしょうがないもんね」


12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:40:16.54 ID:ylk7FBUWo


――  放課後・部室

澪「え?梓が無断欠席?」

唯「うん、さっき憂がそう言ってたんだよ」

律「あのマジメな梓がなぁ…無断欠席って…」

紬「そういえば昨日も来なかったね、何かあったのかしら」

唯「なんかね、昨日からあずにゃんの様子がおかしかったんだって」

唯「憂と純ちゃんが言うには今まで見た事ない位落ち込んでて思い詰めたような顔してたんだってさ」

律「あいつ、相談も何もしないで1人で悩み事かよ。私等じゃ頼りにならないってのかよ」   

唯「私、あとであずにゃんの家行ってみる。だって気になるもん」

紬「そうね、それなら私達も一緒に」

律「いや、ここは唯に任せよう。あんまり大勢で行くと逆効果だと思う」

澪「そうだな、唯、悪いけど頼めるか?」

唯「うん!まっかせなさいりっちゃん澪ちゃん!」


13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:45:35.91 ID:ylk7FBUWo


―― 中野家

ぴんぽーん

梓「うるさいなぁ、誰なのもう」

ぴんぽーん

梓「さっさと帰ってよ、うるさい」

唯「あずにゃん出ないなぁ……留守なのかな」

ぴんぽーん

梓「ああもう!誰か知らないけど私に構わないでよっ!」

 この時の私はまさか唯先輩がわざわざ家まで来てくれているなんて事は知る由もなかった。
 でも会わなくて正解だったのかも、あの人見かけによらず勘がいいから。
 私は布団に潜り込んで呼び鈴の音を無視し続けやがてその音も聞こえなくなった。

 その後も私は学校を休み続けた。
 家に居てもやる事もないので外をぶらつく事にした。
 普段は学校にいるから平日の街は少し新鮮にうつった。
 どうせあと1年しか生きられないのだから今までやらなかった事をやってやろうと思った私はいつもなら絶対1人で行かないような場所に行った。
 ゲームセンター、パチンコ屋、1人カラオケ等等、学校にバレたら大事だろうけど今の私には全然気にならなかった。
 もしバレて謹慎や退学になっても来年卒業できるかどうかも分からない私にとっては関係のない話なのだから。
 こうしている間1人ぼっちだけどそれも気にならない、人付き合いがあまり得意でない私は高校に入るまでこうしている事がよくあったからむしろ先輩達や同級生の友達に囲まれてる今の方が珍しいんだ。


14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:53:12.50 ID:ylk7FBUWo


 そんなある日の帰り道……

梓(あれ?家の前に誰かいる。誰なんだろこんな夜遅くに)

梓(え!?唯……先輩……!?)

唯「あずにゃん……」

梓「どうしたんですか唯先輩こんな夜遅くに家の前で」

唯「えっへへへ、あずにゃんにここの所ずっと会えなかったからあずにゃん分が不足してましてなぁ」ぎゅー

梓「わっ!?ちょっ!いきなり抱きつかないでくださいよ」

唯「……どうして」

 抱きついた状態のまま唯先輩は私の耳元でそう呟いた。

梓「え??」

梓(唯先輩すごい寂しげな顔してる……そりゃそうだよね)

唯「どうして急に何も言わずに学校来なくなっちゃったの?メールしても返事してくれないし」

梓「それは……」

唯「みんな心配してるんだよ?」

梓「すいません、実はインフルエンザにかかってて連絡できる状態じゃなかったんです」

梓(我ながら苦し紛れな嘘だなぁ……)

唯「あずにゃん、嘘だよね?流石に苦しいよ?」

梓「……」

唯「本当のこと、話すつもりはない?」

梓「すいません……今はまだ」

唯「分かったよ……じゃあ今は無理に聞いたりとかはしないよ。でもね」

唯「あずにゃんの気分が落ち着いてからでいいからね、その時になったら私達に教えて欲しいな」

梓「はい……」

唯「あずにゃんには早く元気になって欲しいから。そんな顔似あわないし私も嫌だから」

梓(先輩……)

唯「来週の月曜、学校来れるかな?」

梓「はい、何とか行けると思います」


15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:53:59.31 ID:ylk7FBUWo


唯「絶対だよ!絶対だからね!」

唯「じゃあ、はい!指きりしよっ」

梓「え?」

唯「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーますっ!と」

唯「約束だからね!絶対来てよね」

梓「大丈夫です」

唯「えへへ、じゃああずにゃん、また月曜ね!おやすみー」

梓「はい、また月曜に、おやすみなさい唯先輩」

梓(はあ……何やってんだろ私、とにかく家に戻ろう)

梓(TVでもつけよっか)

『続いてのニュースです。先日〇市で死者9人を出した通り魔事件で逮捕された〇容疑者ですが、警察の取調べで動機はタダの暇つぶしでやったと供述しており容疑を認めておりますが反省の言葉は一切口にしませんでした。この件についてry』

『次のニュースです。先日の不正献金問題で野党から辞任要求の上がっている〇大臣ですが今日の記者会見で改めて続投の意思を表示しました。既に証拠となる書類も検察庁に送られており起訴も時間の問題と言われてますがここにきての強気な発言に議会はry』

梓「何で私なんだろ……」

梓「何で私だけがこんな目にあわなきゃいけないのよ」

梓「なんで私なの!」

梓「どうして、どうしてなのよ!」


16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:55:51.12 ID:ylk7FBUWo


―― 翌日・病院

梓「先生、ちょっといいですか?」

金田「中野さんどうしたの?今日は診察日じゃなかったよね。どこか痛むの?」

梓「間違いなんじゃないんですか?私の検査の結果。本当は間違いなんじゃないんですか?」

金田「え」

梓「検査結果、誰かのと入れ替わったんじゃないんですか」

金田「それはないよ」

梓「でも、1%でも0.5%でも、間違いが起こる可能性はあるんですよね?」

金田「どうしてそう思うの」

梓「私は17年間地道に生きてきたんです。私は別に、大きな成功とかそういう事を望んでいたわけではありません」

梓「毎日平穏無事に暮らせればいいんです。そりゃあ小さい事は色々ありますよ。でも大きなトラブルは1度となく過ごしてきたんです」

梓「そんな私がこんな目にあう筈ないんですよ。おかしいと思いませんか、そんなの不公平ですよ!!これは絶対何かの間違いなんです。そうですよね先生!!」

金田「そうだね。君がそう思うなら間違いかもしれない」

梓「……」

金田「でも確かな事が1つある」

金田「それは今君が生きている事、生きているという事に間違いはない」

金田(告知は重すぎたかな、この子にとって)


17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 21:58:09.26 ID:ylk7FBUWo


 この後後家に帰った私はふと昔を思い返したくなってアルバムを漁っていた。
 見つかったのは小学校の卒業アルバム、そこには幼い頃の私の写真と将来の夢が書かれていた。

梓「なになに?将来の夢……プロのギタリストになって大勢の人達の前でライブ、かぁ。あの頃はそんな事も考えてたっけなあ」

梓「結局諦めたんだけどね。理想と現実って違いすぎるし」

梓「ん?他にも何か書いてある、何書いたんだろ私」

 『私は将来幸せな人間になりたいです。幸せな人間とは後悔のない人生を生きている人だと思います』

梓「ふふっ、私ったら随分生意気な事書いちゃって……ふふっ」

梓「今まで17年何事もなく無難に生きてきたんだから後悔する事なんて何もないもん、本当に生意気だよあの頃の私」

梓「本当に生意気……ぐすっ……あれ、何で涙が……どうしてよ」ぽろぽろ

梓「ひっく……うぅっ……ぐずっ……」

 実は私は後悔していた。本当にやりたい事もやらず、やろうとしなかった今までの日々を。


18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:01:31.50 ID:ylk7FBUWo


―― 月曜

梓「ご心配をおかけしました」

律「おっ、体の方はもう大丈夫か?」

梓「え?」

澪「唯から聞いたぞ。インフルエンザで寝込んでたんだってな」

梓「あ、は、はい」(そっか……唯先輩わざわざ言わないでいてくれたんだ)

律「心配したぜ全く、いきなり何も言わないで学校来なくなるんだもんな」

梓「す、すいませんでした」

 その後先輩達が勉強している間、私は1人でギターを弾いていた。
 
梓「……うっ!」

 演奏中突然お腹に激痛が走りギターの音が止まる。
 
梓(な、なにこれ……これって病気が進行してるって事!?)

 痛みはすぐに治まった。だけど言いようのない不安が私の頭の中を錯綜する。

唯「あれ?どったのあずにゃん、急に演奏やめて」

梓「な、なんでもないです。それより先輩はちゃんと勉強に集中してください!ちゃんとやらないと落ちますよ」

唯「うっ!受験生にその言葉は禁句だよっ」がーん

梓(無理矢理だけどなんとかごまかせたかな……)

梓(先輩達は受験で大変な時期なんだからもうこれ以上気を使わせて迷惑かけたくはないもんね)


19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:02:43.76 ID:ylk7FBUWo


 その夜、私は部屋でじっと携帯電話のモニターを見つめていた。
 モニターに映っているのは親の電話番号。
 病気の事を言わなきゃいけない…告知された日に本当は言うつもりだったけど言うのが怖くて言い出せなかった。
 今日こそ言わなきゃね、うん。

梓「もしもし、お母さん?あのね、私病気にかかっちゃったみたいなの」

梓「スキルス性の胃癌って知ってる?私それにかかってあと1年しか生きられないんだって」

 言ってみたけど実は発信ボタンは押していない、どう切り出すか考えて自分を落ち着かせるために練習で言ってみただけ。
 でもいざとなったら右手の親指をちょっと押し込むだけの簡単な動作が出来ない、出来ずにいる。
 告白してどう反応されるのかが怖くて言えない。

 私はそっと携帯を折りたたんで部屋の隅に置いた。


20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:05:15.53 ID:ylk7FBUWo


梓(あれ…ここはどこ?)

梓(こんな場所しらないよ…何時の間にこんなとこに)

梓(あそこにいるのは先輩達だ…どうしたんだろあんなとこに集まって)

すたすた

梓(え!?先輩達どうしたんだろう、泣いてる?)

梓「せんぱーい!」

唯澪律紬「……」

梓(おかしいな、聞こえてないのかな私の声…あれ?何見てるんだろ…)

梓(木の箱?あの大きさ…中に何が入ってるのかな)

梓(え!?私だ!私が寝てる…これって私の……!?)

梓「そんな……いやあああああっ!!」

ガバッ!

梓「はぁっ…はぁっ…」

梓「ゆ、夢…!?」

梓「なんなのアレ、いくらなんでも縁起でもないよもう……」

梓「2時……か」

時計「ちっちっち」

梓「時計の音……気になるなぁ。TVでもつけよっと」

時計「ちっちっち」

梓「……っ!」

 時計の刻を刻む音が今の私にとっては黒板を爪で引っ掻く音より苦痛だ。
 これが1つ刻まれる度に死へと少しずつ近づいていると連想させられるから。
 時計の音が聞こえないようにTVの音量を上げ耳を塞ぎ一睡もせずにそのまま朝を迎えた。


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:07:48.36 ID:ylk7FBUWo


―― 病院

 この日私は診察日ではないけど病院にいた。
 こうしている間にも少しづつ「その時」が近づいている、それもあと1年もの間毎日怯えながら過ごすのが怖くて先生にある事をお願いするために来ていた。

梓「あと1年と思ってましたけど、考え直しました。1年て結構長いですよね」

金田「そうだね」

梓「楽にしてください」

金田「何言ってるの」

梓「死ぬ事考えたらすごく怖いんですよね」

梓「すごく痛いんだろうなとか苦しいんだろうな、とか。毎日毎日怖いんですよ」

金田「そう感じるのは当然だよ。でも、残りの人生それだけじゃない」

梓「何の痛みも感じないまま楽にしてください。そういう方法ちゃんとありますよね」

金田「落ち着くまでこのまま少し入院しましょうか」

梓「楽にしてくれるんですね」

金田「そんな事法が認めないよ。例え法が認めたとしても私が認めない」

金田「少し待っててくれる?空きベッドの確認をするから」

 これ以上お願いしても進展はない、それにこのまま病院で薬漬けにされるのも嫌なので私は何も言わず足早に診察室を出た。

 私はもう諦めている。私に残されたのはあと1年、それまでただ待つしか道はないのかな……


22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:11:56.37 ID:ylk7FBUWo


―― その日の夜・病院の診察室

コンコン

金田「どうぞー」

紬「お邪魔します、お父様に頼まれていた今度の会議のレポートをお持ちしました」

金田「お嬢様自らわざわざ、ご足労かけます」

紬「いえ、たまたま私も暇でしたので……先生もこんな時間までお疲れ様です」

金田「いえいえ、丁度患者のカルテの整理をしてましたので」

紬「CTとMRIの画像ですか」

金田「ええ、最近私が担当する事になった患者のカルテなんですが……癌患者なんですよ」

紬「癌患者……先生のその表情を見る感じだともう手遅れなんですね?」

金田「ええ、まだ17歳の女子高生なのにですよ。本人も相当参ってるようで今日も相談に来たんです」

金田「誰か相談できる人がいれば心の支えになってくれるんですけどねぇ」

紬「そうですね……」

金田「おっといけない。これ以上はお嬢様といえど患者のプライバシーに関わる事なので」

紬「そうですよね、それでは私の用件も済みましたしそろそろお暇いたします」

金田「はい、お父様によろしく伝えておいてください……あっ!」ぱらっ

紬(先生が立ち上がった拍子に袖が机の上のカルテに当たって私の足元に……)

紬(患者の名前が書いてあるわ……え!?なんで、ウソでしょ!?)

金田「これは、失礼しました。ここは片付けておきますので」アセアセ

紬(ナカノアズサって……見間違いか同姓同名の他人よね?でも最近の梓ちゃんの行動を照らし合わせてみると辻褄が合う……)


23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:14:37.85 ID:ylk7FBUWo


―― 数日後・某海岸

 私は海に来ていた、目の前には断崖絶壁の崖、その先は吸い込まれるような青い海が広がる。

 別に海水浴に来てるわけでも観光に来てるわけでも詩を書きに来ているわけでもない。

 楽にしてもらえないのなら自分自身で楽になろうと、そう思いわざわざここまで足を運んだんだ。

 崖ギリギリまで行き下を見下ろす、あまりの高さに足がすくんだ。

 変だよね、飛び込むつもりで来たのに足がすくむなんて……

 黙ってこんなとこ来ちゃって先輩達怒るだろうなきっと……なんだかんだでやっぱり気になってるんだ私。

 一呼吸置いた後私は下を見ずに視線を正面に向けた。そこには視界いっぱいの水平線と私の心情とは裏腹の青空が広がっている。

 憂、純……勝手にいなくなってごめん……

 唯先輩、律先輩、澪先輩、ムギ先輩、こんなダメな後輩ですいませんでした。

 お母さん、こんな親不孝な娘でごめんなさい……

 一通り謝罪の言葉を頭の中でした私はその後、両足を一歩ずつ踏み出した

 その直後全ての意識が途絶えた。

 これで全てが終わった……終わったんだ……


24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:15:34.06 ID:ylk7FBUWo


梓(ん、ここは?もしかして私、生きてるのかな)

 意識を取り戻した私の視線に最初に入ったのは見慣れない天井、見慣れない部屋だった。

梓(というか何で私生きてるの!?)

金田「気が付いたようだね」

梓「先生!?という事はここは病院なんですね。私何で生きてるんですか」

金田「やっぱり死のうとしてたんだ」

梓「どうして私ここにいるんですか」

金田「この人が浜で君を見つけて運んでくれたんだ」

紬「……」

梓「え……ムギ先輩……どうしてここに、そうだ、ここ琴吹病院だから」

紬「ええ、ここは私のグループの病院よ」

金田「まさか君がお嬢様の後輩だったなんてね、驚きだよ」

梓「ムギ先輩がここにいるって事は……私の病気全部知ってるんですよね」

紬「ええ、この前カルテを見てしまってまさかとは思ったけど最近梓ちゃん様子おかしかったでしょ?もしやと思って万が一を考えて身辺探らせてたの」


25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:18:06.85 ID:ylk7FBUWo


梓「私は自分で死ぬ事もできないんですか?」

金田「そうだよ」

梓「余計な事しないでください」

金田「余計な事はしていないよ」

梓「私の命ですよ。どうしようと勝手じゃないですか」

紬「いい加減にしなさい!」

梓「……っ!」

紬「あなたに自分で死ぬ権利なんかどこにもないわよ!」

梓「先輩や先生に何が分かるんですか、他人のくせに!」

紬「他人だから何だって言うのよ!」

紬「梓ちゃん、あなたまだ生きてるでしょう?まだ生きているのなら精一杯生きて、それから死になさい!」

梓「……」

金田「中野さん」

金田「ついさっきね、僕の患者さんが死んだ。1ヵ月後に娘さんの結婚式があってね。何とか1ヶ月、1ヶ月でいいから生きたいって最後まで言ってた」

金田「僕はそういう人を何人も見てきたんだ。気持ちが安定するまで入院してもらうよ。お嬢様もそれで構いませんよね?」

紬「はい、お願いします」

金田「僕には君の残りの人生を支える義務があるから」

金田「それでは僕は診察があるのでこの辺で、お嬢様、あとお任せしますがよろしいですか?」

紬「ええ、後はお任せください」

ガチャリ

梓「ムギ先輩……私……」

紬「とにかく今夜1日冷静になってよく考えてみて。学校とりっちゃん達には今回の事は秘密にした上でしばらく休むって連絡しておくから」

梓「はい……」

紬「大丈夫よ、病気の事も黙っておいてあげる。病気の話は梓ちゃんの気持ちの整理がついたら自分の口で言ってあげて。その方がいいと思うから」

梓「わかりました」

紬「落ち着いたらみんなを連れてお見舞いに行くからね。その時はケーキも持って行くからみんなでお茶しましょうね?」

梓「はい……」


30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:49:56.08 ID:ylk7FBUWo


 翌日、軽音部の先輩達、憂、純が放課後の学校帰りにお見舞いに来てくれた。

唯「あずにゃんおいーっす!」

澪「こら唯、病院なんだから静かにしろ」

唯「えへへー、あずにゃんの顔見たらなんか安心しちゃったんだー」

澪「梓は絶対安静の身なんだからな、抱きついたりするなよ」

唯「ちぇー」

律「てかびっくりしたぞ、梓が入院したってムギが言い出したからさ」

憂「そうだよ、しかも自殺しようとした友達を止めようとして巻き込まれたって聞いたからホントに焦ったんだから」

梓(え?ムギ先輩本当に秘密にしてくれたんだ)

純「でも梓は悪運強過ぎだね、あんな高さから落ちて打撲で済んでるんだから。ま、私がお見舞いに来てやったんだから安心しなさい!」

梓「別に純が来たって安心するような要素ないでしょ」

純「ぶーっ!ひどいぞーそんな事いうなんてー」

律「まー見た感じ元気そうで何よりってとこだな」

唯「それはそうと、落ちる時『私死ぬのかなー?』とか思ったりしたの?」

梓「死ぬつもりでしたよ」

梓(そのまんまの意味だけどね)


31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:51:08.01 ID:ylk7FBUWo


澪「でもなかなか出来る事じゃないよな。自殺しようとしてる相手を体張って助けるなんてさ」

憂「それでそのお友達はどうなったの?」

梓「え、ああ、ちゃんと無事だよ。別の病院に運ばれただけでピンピンしてるよ」

純「ああそうだ、何かヒマ潰しになるかと思って梓の机の中の使えそうな物持ってきたよ」

梓「え?ありがと純。あれ、この本、昔買って読まずにしまっておいた本だ。こんなとこにあったんだ」

純「感謝しなさいよー?わざわざ持ってきてあげたんだからさ」

梓「そういう事にしといてあげる」

純「はいはい、あいかわらず素直じゃないんだから」

律「さて、そろそろ面会時間も終わりそうだし私らそろそろ帰るなー」

梓「はーい、今日はわざわざありがとうございました」

紬「お大事にね」

唯「……」

唯(死ぬつもりだった……って言ってたよね。私の考えすぎかな。でももしかしたら)


32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 22:55:17.00 ID:ylk7FBUWo


―― 診察室

コンコン

金田「どうぞ」

唯「失礼します」

金田「あなたは?中野さんのお友達ですか?」

唯「私、梓ちゃんと同じ軽音部に所属している平沢唯といいます」

金田「はじめまして、中野さんの主治医の金田です」

唯「実はちょっと先生に聞きたい事がありまして……」

金田「どんな?」

唯「梓ちゃんの今回の入院の件なんですけども、もしかして……」

金田「中野さんの件に関しては完全に事故です。自殺だと思われてるかもしれませんが決してそんな事はありません」

唯「事故の詳しい内容分かりますか?」

金田「申し訳ありませんが患者のプライバシーは秘密厳守となっておりますので」

唯「そうですか……なんかあの子、最近様子がおかしかったんです。だから今回の事件もなんか不自然に思ったんですけど先生がそう言うなら大丈夫なんですよね」

金田「ええ、あの子なら心配いりませんよ。これからもお見舞いに来てあげてください。それがあの子にとって一番の励みになりますので」

唯「はい、勿論です」

金田「それはそうと……平沢さんでしたっけ、あなたは中野さんにとっての特別な人?」

唯「え?」

金田「いや、いいんです。大した意味はありませんので」

唯「そうですか、それでは私はこの辺で」

金田「はい」

唯「失礼します」


34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:02:40.50 ID:ylk7FBUWo


 その夜、私は暇を持て余していた。

梓(暇だなぁ……8時かー、まだ寝るには早いし病院てホントやる事ないなぁ)

梓(ちょっと病院の中散歩してみようかな)

梓(やっぱり真っ暗だな廊下……戻ろっかなやっぱ)

梓(あれ?あそこだけ明るい、なんだろう、行ってみよう)

梓(赤ちゃんがいっぱいいる……みんな産まれたばかりみたい。そっか、ここ新生児室か)

じー

梓(この子達にもこれから長い人生が待っているんだよね)

梓(そういえば私にもこんな時期があったんだよね……さすがに記憶はないけど)

梓(私は周りから何を期待されて、私自身は何をやりたくて生きてきたんだろ)

梓(そうだ、少し確かめたいこと思いついた)

 私は公衆電話の前にいた。
 病院では携帯電話が使えないので電話を使う時は必然的に公衆電話を使う事になる。
 おもむろにダイヤルしある人に電話をかける。


35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:03:08.66 ID:ylk7FBUWo


 その夜、私は暇を持て余していた。

梓(暇だなぁ……8時かー、まだ寝るには早いし病院てホントやる事ないなぁ)

梓(ちょっと病院の中散歩してみようかな)

梓(やっぱり真っ暗だな廊下……戻ろっかなやっぱ)

梓(あれ?あそこだけ明るい、なんだろう、行ってみよう)

梓(赤ちゃんがいっぱいいる……みんな産まれたばかりみたい。そっか、ここ新生児室か)

じー

梓(この子達にもこれから長い人生が待っているんだよね)

梓(そういえば私にもこんな時期があったんだよね……さすがに記憶はないけど)

梓(私は周りから何を期待されて、私自身は何をやりたくて生きてきたんだろ)

梓(そうだ、少し確かめたいこと思いついた)

 私は公衆電話の前にいた。
 病院では携帯電話が使えないので電話を使う時は必然的に公衆電話を使う事になる。
 おもむろにダイヤルしある人に電話をかける。


36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:05:44.92 ID:ylk7FBUWo


『もしもし』

梓「あ、もしもしお母さん?私、梓だけど」

『あら梓、どうしたのこんな時間に』

梓「ううん、ちょっとお母さんの声が聞きたくて電話してみたんだ」

『そうなの、珍しいわね。留守の間何も無かった?』

梓「何もないよ、私なら平気。あとちょっとお母さんに聞きたい事があるからそのまま聞いてくれる?」

梓「あのねお母さん、私を産んでくれた時どう思った?」

梓「うん、ちょっと気になってね、聞いてみたくなったんだ」

『そうねぇ……やっと会えたねって』

『そして、この子の為なら自分の命を捨てられる、そう思ったかな』

梓「……!!」

『どうしたの?』

梓「なんでもない、私今友達待たせちゃってるからそろそろ切るね」

『あんまり友達待たせちゃダメよ。それと体には気をつけるのよ。来月には私達一度そっちに帰れそうだからそれまで我慢してね』

梓「うん、わかってるよ、ありがとうね」

梓「大丈夫、私しっかりやっていけてるから」

梓「じゃあ切るね、うん、またね」


 電話をきった私は誰もいない待合室に行きそこの椅子に腰をおろした。
 
梓(私のためなら命も捨てられる、か……)

梓(それなのに私、なにをやってたんだろ……)

梓(自分で死ぬ権利なんかない、か……)

 手元には忘れ去っていた手付かずの本がある。
 私は照明が落ちて薄暗い待合室の椅子に腰掛け本の表紙をじっと見つめながら物思いにふけっていた。

梓(私この本買ったけど読もうとしなかった……純が持ってきてくれなかったらずっと読まずに忘れてたままだったんだろうな)

梓(何もやらずにいたらいつまでたっても変わらないもんね……なら私はこれからの1年、やりたい事を全てやって悔いがないようにしなきゃ)

梓(私が長く生きられない分、他の人達には私の分まで長く生きていて欲しい……なら私はその人達の為にも生きなきゃいけない)

梓(1年しかないのなら残りの1年を17年よりも長いものにして、1日1日を大事にして生きていこう)


37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:08:26.62 ID:ylk7FBUWo


―― 学校・部室

梓「こんにちは!お久しぶりです先輩方!」

唯「あずにゃーん、待ってたよぉー」ぎゅっ

梓「にゃっ!?もう、唯先輩ったら……」

唯「えへへーっ」すりすり

澪「梓、退院おめでとう、もう体の方は何ともないのか?」

梓「はいっ!おかげさまでこの通りです」

律「よかったよかった、来期の部長に何かあったら部の存続に関わるからなー」

紬「とりあえず一件落着ね?梓ちゃん」

梓「はいっ!私、精一杯がんばります」

紬(ふふっ、何か吹っ切れたようね梓ちゃん、これでいいのよね)

澪「よし、それじゃ梓も無事に復帰した事だし」

律「お茶だな」

澪「勉強だろっ!」ゴチン

唯「ええーっ、私まだあずにゃん分の補給が終わってないよぉー」

律「そうだそうだー!たまには気分転換でお茶だー」

澪「何言ってるんだ、もうすぐ受験なんだぞ、さ、戻った戻った」

唯律「ちぇー」

梓「それでは私はあっちでギターの練習してますね、ずっと演奏してないからなまっちゃってて」

 私はもう決めた、治らない病気ならせめて向き合って行こう。
 そう、私は生きる、人生最期の日まで
 
 第1話 終


41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:22:08.66 ID:ylk7FBUWo


数日後

●REC

『1月26日、ビデオ日記を始める事にした。私は残りの人生を精一杯生きたい。後悔しないように生きたい』

梓(とりあえず最初はこんなもんでいいかな)

梓(ビデオ日記なんて映画やドラマの中だけの話だと思ってたけど、まさか自分がやる事になるなんてなぁ)

梓(でも頑張らなきゃ!私が生きてきた事の証を何か残しておきたいし)

梓(よし、これくらいにして学校行かなきゃ!)


42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:29:41.32 ID:ylk7FBUWo


―― ある日の放課後・部室

唯「おっ、あずにゃんおいーっす!」

梓「こんにちは唯先輩、って他の先輩方は?」

唯「えっと、みんな今日は受験勉強で調べ物があるからって図書館に行ってるんだー」

梓「そうなんですか。唯先輩は行かないんですか?」

唯「私はいいよー。だってあずにゃんに会いたかったんだもん!」

梓「なんなんですかそれ……てかちゃんと勉強しないと置いていかれますよ」

梓(全く大丈夫なのかなこの人は……受験生っていう自覚あるのかな)

唯「私が勝手に来てるだけだからあずにゃんはギター弾いてていいよー」


43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:32:55.26 ID:ylk7FBUWo


唯「あっ、あずにゃーん」

梓「どうしたんですか?」

唯「窓の外見てみなよ、雪だよー」

梓「あっ、本当だ……今年初めてですよね、雪降るのって」

唯「へへー、こうやって2人きりで部室で雪見るなんて初めてだよね」

梓「そうですよね」

唯「また来年もこうやって一緒にいれるといいねー」

梓「……」

梓「来年……か」

唯「どったの?」

梓「い、いえ!来年て先輩は卒業してもうここにいないじゃないですか」

唯「あーそうだったよ!残念だー」

梓「今日は朝から寒かったのに先輩といるとあまり寒く感じませんね」

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

唯「手出して」

 私が両手を差し出すと唯先輩は両手で握ってきてこちらを見つめている。

唯「えへへ、あったかあったかだよあずにゃん」

梓「はいっ!」

梓「そろそろ帰りましょうか、もうこんな時間ですし」

唯「そうだね、じゃ一緒に帰ろっ」


44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:35:58.59 ID:ylk7FBUWo


帰り道

唯「うわぁー、雪が積もってるよ」

梓「本当ですね、これはしばらく止みそうもありませんね」

梓「外に出ると余計に冷えますよね。唯先輩、雪で滑って転ばないでくださいよ」

唯「平気平気!あ、そうだあずにゃんや」

梓「はい?」

 そう返事すると唯先輩は手を繋いでくる。
 突然の事で私は一瞬ドキッとした。

唯「こうやって手繋いでいれば転ばないし安全だよね」

梓「そうですね」

唯「どったの?もしかして迷惑だった?もしそうならごめんね、すぐ手離すから」

梓「いえ、迷惑なんかじゃありませんよ。しばらくこのままでいさせてください」

唯「あずにゃんの手、ちっちゃくてかわいいし暖かいし私幸せだよ」

梓「唯先輩の手もとても暖かいですよ」

唯「そうだ!」

梓「どうしたんですか?」

唯「あずにゃん今日マフラー持ってきてなかったよね」

 そう言うと唯先輩は自分のマフラーの半分を私の首にかけてくれた。
 この間私達の体はマフラーと手の2つで繋がれている。

唯「お裾分けだよ、これで2人共あったかあったかだよね」

梓「はい、ありがとうございます」

梓(温かい……唯先輩の温もりがマフラーを通じて伝わってくる感じだ) 

梓(胸がさっきからドキドキして止まらない……病気のせい……じゃないよねこれって)


45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:37:52.55 ID:ylk7FBUWo


●REC

『1月27日、今日は部室で唯先輩と2人きりだった。他の先輩達は受験勉強で忙しいっていうのにあの人は何でああもマイペースなんだろうか』

『来年もまた一緒に雪を見れたらいいなって言われたけど私にはもう先の未来なんかない。でも未来が無いのなら今を大切に生きたい』

『……唯先輩の事をどうしても意識してしまう。どうしてなのか私には分からない』


46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:41:35.30 ID:ylk7FBUWo


―― 翌朝

梓「おはようございます唯先輩、憂」

憂「おはよう梓ちゃん」

唯「おっはよーあずにゃーん」ぎゅっ

梓「にゃああっ!もう、しょうがないですね」

唯「えへへー、あずにゃんあったかーい」すりすり

梓「……」ぼー

梓(そういえば私、以前程スキンシップを拒まなくなったなぁ。慣れただけなのかな)

梓(むしろ離れて欲しくないような)

憂「梓ちゃん、そろそろ教室いこっか」

梓「そうだね、それじゃあ唯先輩、また後で」


47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:44:33.37 ID:ylk7FBUWo


―― 2年1組

純「なんか最近の梓さ、妙にご機嫌だよね」

憂「そうだよね、何かいい事あったの?梓ちゃん」

純「きっと今度こそ好きな人でも出来たんだよ」

憂「そうなんだ、梓ちゃん、頑張ってね!」

梓「純だけじゃなくて憂まで、やめてよ、そんなんじゃないもん!」

憂「顔真っ赤だよ?梓ちゃん」

梓「なっ……!//」

純「やれやれ、恋する乙女は大変ですなぁ」

梓「なにそれ、老け込んだ事いわないでよ」

純「ふふっ、可愛いですなー梓も。ま、大体誰が好きなのか大方予測がついてますけど」

梓(好きな人か……私多分唯先輩の事が気になってるのかな、今まで気付いてなかっただけで本当は私、唯先輩の事が好きだった、のかも)


48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:47:31.64 ID:ylk7FBUWo


●REC

『1月28日、今日は純と憂に茶化されてしまった。口では否定したけど心の中では否定しきれなかった』

梓「ふぅ……明日は定期健診の日か、病院行かなきゃ」

―― 病院

金田「どうしたの?何か悩み事?」

梓「いえ、そういうワケではないんですが」

金田「その顔は恋の悩みだね。いいよね、今の内にどんどん青春はした方がいいよ」

梓「違うんです」

金田「違う?またどうして」

梓「これからだって恋なんかしてる場合じゃないですし、私、有意義に過ごすって決めたんです」

梓「今までは毎日なんとなく過ごしてきました。でももう違います。先輩達がいなくなった後の軽音部を部長としてしっかり守っていかなきゃいけないんです」


49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:50:43.71 ID:ylk7FBUWo


数日後・部室

澪「やあ梓」

梓「こんにちは澪先輩。他のみなさんはどうしたんですか?」

澪「律とムギは日直で教室に残ってるから終わったらすぐ来ると思うよ。唯の奴は進路指導でまた職員室に呼ばれてる」

梓「そうですか……大丈夫なのかな唯先輩」

澪「梓、唯の事が気になるのか?」

梓「いえ、別にそんなんじゃないです」

澪「そうは見えないな。好きなんだろ?唯の事」

梓「どうしてそんな事言えるんですか」

澪「顔に書いてあるぞ」

梓「へ、変な事いわないでください!」

澪「まあ冗談は置いておいて、梓が唯を見ている時の表情が他の人を見ている時の表情と違ってたからな。それも昔から」

梓「そ、そんな事ないです」

澪「じゃあさっきまで梓が何を考えてたか当ててやろうか?」

梓「分かるんですか?」

澪「それが分かるんだよ。ちょっと耳を貸して」

梓「はい」

澪「ごにょごにょ」(耳元で)

梓「なっ……//」

澪「図星だったか」


51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:55:14.56 ID:ylk7FBUWo


梓「……確かに私は唯先輩の事が好きなのかもしれません。でも今は恋なんかしてる場合じゃないんです」

梓「先輩達は受験が大詰めで大事な時、私は春から部長として軽音部をまとめていかなきゃいけないし今は恋愛なんかできません」

澪「なあ梓」

梓「はい」

澪「確かに受験も部長としての役目も大事な事だけど。でもさ」

澪「この先、いくらでも恋ができるとか、またすぐ好きな人が出来るとかそんなの無理だから。先の事なんか考えずに今やれるだけの事を失敗してもいいからとにかくやってみた方がいいと思う」

梓「……今やれるだけの事、か」

梓「澪先輩、1つだけいいですか?」

澪「なんだ?」

梓「私分からないんです。どうして唯先輩が好きになってしまったのか。恋なんかした事なかったしこれからもしないつもりだったのにどうしてこんなの考えるようになっちゃったんだろうって」

澪「好きになろうとして好きになるもんじゃないんだ。好きになっちゃうんだ。恋はしちゃうもんなんだ」

梓「好きになるのに理由なんかない、今やれるだけの事を、か……ありがとうございます。私何か大事な事が分かった気がします」

ガチャッ

律「おまたせ澪ー、おっ!梓も来てたのか」

澪「おそいぞ律」

梓「こんにちは」

紬「こんにちは梓ちゃん」

唯「あずにゃんおいっす!」


52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:56:12.49 ID:ylk7FBUWo


●REC

『1月30日。こんな状況だけど唯先輩と付き合ってたらという能天気な空想をしてしまった。しかも澪先輩にばれてしまった』

『澪先輩に指摘されてやっと分かった。私は嘘をついていたんだ。この恋を忘れようとしていたのは余命1年だからじゃない。傷つくのが怖かったからだ。ありのままを伝えよう。それが私にとって今を生きるという事だから』


53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/10(日) 23:58:21.53 ID:ylk7FBUWo


●REC

『2月1日、私は今更になって初恋という物をしてしまった。それも相手はあの唯先輩だ』

『明日ちゃんと気持ちを伝えようと思う。このままじゃ何も始まってなんかいない』

『女の子同士だからもしかして唯先輩に軽蔑されるかもしれない。でも背中を押してくれた澪先輩の為にも私自身の為にもやれるだけの事をしよう』


54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:00:34.98 ID:8NWvgLkAo


―― 翌日・昼休みの学校の屋上

梓(ふぅ、まだ唯先輩は来てないか)

梓(なんか緊張するなぁ、でも頑張れ私!)

ガチャッ

唯「おまたせあずにゃん」

梓「急に呼び出したりなんかしてすいません」

唯「ううん、それよりも私に用って何?」

梓「唯先輩、私どうしても伝えておきたい事があるんです」

梓「私うすうす気付いてたんです。でもはっきりと分かりました」

梓「単刀直入に言います。唯先輩、あなたが好きです!」

唯「……!」

梓「私と……お付き合いしてくださいっ!」ぺこり

 私は深々と頭を下げそのままの姿勢で固まった。
 頭を上げるのが怖かった、唯先輩の顔を見るのが怖かった。
 しばしの沈黙が場を支配する。
 その沈黙を破ったのは唯先輩だった。

唯「あずにゃん、顔あげて」

梓「はい……」

唯「ありがとうあずにゃん、私の事好きでいてくれて」

梓「いえ……」

唯「それでね、返事だけど」

梓「……」

唯「……ごめんね」

唯「私もあずにゃんは可愛くて大事な後輩で大好きだよ……でもあずにゃんの言ってる好きとはまた違う意味の好きなんだよね」

唯「嬉しかったよ、でもやっぱりね、ほら……言いにくいけどさ」

梓「分かってます、おかしいですよね女の子同士ですものね」

唯「うん……本当にごめんね」

梓「いいんです、元々覚悟はしてましたし言いたかった事も言えたしスッキリしました」

梓「それじゃあ、今日はありがとうございました唯先輩」


55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:02:17.52 ID:8NWvgLkAo


●REC

『2月2日、恋を始めることができた。一瞬で終わってしまったけど。これが最後の恋になると思う。でも自分の気持ちを伝えることができて本当に良かったと思う』


56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:06:12.82 ID:8NWvgLkAo


―― その夜・平沢家

憂「どうしたのお姉ちゃん」

唯「あ……憂……何でもないよ」

憂「そんな落ち込んだ顔で何でもないって言われても何も説得力ないよ。何か学校であったの?」

唯「……」

憂「梓ちゃんも何か様子が変だったし、梓ちゃんとお姉ちゃん、何かあったの?」

唯「私のせいだよ」

憂「どういう事なの?」

 私は昼休みにあった事を全て憂に話した。
 あずにゃんに告白された事、そしてそれを私は周りの目を気にして断ってしまった事、洗いざらい話した。

憂「……やっぱりそうだったんだ。梓ちゃん、やっぱりお姉ちゃんの事が好きだったんだ」

唯「もしかして分かってたの?」

憂「うん、何となくだけどね」

唯「私、あずにゃんに悪い事しちゃったのかなぁ」グス

憂「お姉ちゃんは梓ちゃんの事どう思ってたの?本当に只の部活の先輩後輩関係だったの?」

唯「最初はそう思ってたよ。あくまでも先輩と後輩、それ以上でもそれ以下でもないと思ってた」

唯「だけど途中からそれ以外の感情が出てくるようになったんだ。でもそれっておかしい事、いけない事だよね」

唯「それが理由であずにゃん自身が周りから変な目で見られるなんて私が嫌なんだ」

憂「お姉ちゃんは本当にそれで良かったと思ってるの?」

唯「わからない……わからないよぉ……どうしよううぃー」

憂「私思うんだけどね、人を好きになるのに年齢も性別も理由も必要ないんじゃないかって」

憂「梓ちゃんはお姉ちゃんの事が好き、お姉ちゃんは梓ちゃんの事どう思ってるの?」

唯「……多分好きなんだと思う」

憂「だったら問題ないよ。他人がどうとか関係ない、お姉ちゃんの気持ちをぶつけてみればいいんじゃないのかな」

唯「うん、そうしてみるよ。ありがと憂」


57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:07:16.72 ID:8NWvgLkAo


―― 翌日

唯(あっ……あずにゃんだ……何か気まずいなぁ)

梓「おはよう憂!」

憂「おはよう梓ちゃん」

梓「おはようございます唯先輩!」

唯「あ……お、おはようあずにゃん」

梓「どうしたんですか唯先輩」

唯「え、えーと」

唯(言いにくい……)

梓「昨日の事なら只の私自身の我侭だったしもう全然気にしてませんから大丈夫ですよ」

唯「……」


58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:12:07.47 ID:8NWvgLkAo


―― 部室

唯「……」ぼー

澪「……」カリカリ(勉強中)

紬「……」カリカリ

律「……」いらいら

律「だーーーーっ!!」

澪「律うるさい!!もう少し集中したらどうだ」

律「もう面倒くせー!こんなのずっと続けてたら頭パンクするだろーー!」

澪「おいおい、まだ30分しかたってないぞ。休憩するにはまだ早いんじゃないのか」

律「時間なんて関係ねー!時間よりも内容の濃さで勝負だろうが」

澪「全く……なにを言ってるんだこんな時期に。唯を見てみろ、こんなに真剣に……って」

唯「……」ぼー

澪「何にもやってないじゃないかっ!」

唯「ちょっと考え事しちゃってたんだよ」

律「よーしお茶だお茶!ムギ!お茶の準備だっ」

梓「受験までもう時間がないじゃないですか律先輩。見てるこっちが心配になってきますよ」

澪「ほら、後輩に心配されてどうするんだよ律」

紬「そうよ、それに私達が勝手にここに押しかけてきてるんですもの。気を使わせている梓ちゃんにも悪いわよ」

律「ま、なんとかなるだろ、本番でいざとなったら正解率7割を誇るこの6角君を使えば!」

澪「お前鉛筆に全部を任せるつもりかよ。今やっておかないと将来絶対後悔するぞ」

律「受験なんかに私達の未来は決めさせないぜ!」

澪「もう少し真面目に先の事を考えろよ……」

梓「あの……そんなに将来って大事なんでしょうか」

律澪紬「え?」


59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:14:12.59 ID:8NWvgLkAo


梓「私の友達に将来の事ばかり考えてる人がいました。彼女は人生80年のつもりで地道に生きてきました。本当は甘い糖分いっぱいな物がすきだったけど将来の健康を考えてたまにしか食べないようにしました」

梓「旅行なんかも老後の楽しみにしようと思ってどこにもいきませんでした。でも彼女はある日、自分があと1年しか生きられない事をしってしまったんです」

紬(梓ちゃん……あなた……)

梓「将来を考えるのは大事な事です。でも将来の事ばかり考えすぎて今を見失ってはいけないんじゃないでしょうか」

梓「でも澪先輩の言ってる事も分かりますよ。実際に律先輩全然真面目に勉強してませんから」

律「グサッ」

梓「だから皆さん、とにかく今は大学受験を無事成功させる事だけを考えましょうよ」

唯「みんな、あずにゃんの言うとおりだよ!私絶対に4人揃って同じ大学行きたいもん!」

澪「ああ!!」

律「そうだなー、そこまで言われちゃな。これ以上後輩心配させたらそれこそ見下げ果てた先輩になっちまうもんな」

梓「先輩達なら絶対できますよ!」

律「今やりたい事をとりあえず今やっとこうぜ。というわけでお茶」

澪「おいっ」

紬「まあまあ澪ちゃん。ちょっとだけ一息つきましょ」

澪「はあ……」

紬「梓ちゃんもいらっしゃい。休憩しましょ」

梓「はいです」


60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:16:39.54 ID:8NWvgLkAo


●REC

『2月3日、今日は先輩達に自分でもありえない位変な事を言ってしまった。でも全員で第一志望に合格して欲しいのは私にとっても大切な願いだ』

『先輩達には私の分まで充実した人生を送って欲しいから』


61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:22:26.95 ID:8NWvgLkAo


律「何やってんだ梓」

梓「今度の新歓に向けて何をやるか考えてたところです。あと最近新入部員探し始めたんですよ」

紬「今の時期からもう新歓の事を?」

梓「そうです。あと新学期になってから新入生の部員をどうやって集めるかそれもすぐに考えないと。空いた時間を使って大学受験の勉強も始めてます。とにかく何もしない時間を1分でも作るのが勿体ないですから」

澪「……いくらなんでも少し早すぎるし急ぎすぎやしないか?」

梓「それはないです。前に私が入院した時本を持ってきてくれましたよね?あの本を見て分かったんです」

梓「私は1年前にその本が読みたいと思ったので買いました。しかし今度読もう今度読もうと思いつつ未だに読んでません。読む時間が無かった訳じゃないんです。読もうとしなかっただけです」

梓「あの日病院で読まなかった本を見てなかったら5年たっても10年たってもこの本を読む事はなかったと思います。」

梓「まだ時間があると思って何もしなかったら5年あっても10年あっても何もしないと思います。だから早すぎるとか急ぎすぎとか言ってないで今やれる事をやる事にしたんです」

梓「部長として先輩達から受け継ぐこの軽音部をしっかり支えていかないといけませんから」


―― 中野家

梓「どうしよ……洗濯でもしよっと」

梓(あのメモ翌用紙……そっか、あれお母さんに言わなきゃいけない事が書いてあったんだ……)

梓(やっぱり電話しなきゃね。黙ってるのもよくないし)

梓「話中だ……良かった……」

1人そう呟いた私は手元のメモ翌用紙を丸めてゴミ箱に投げ入れた。


62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:23:26.43 ID:8NWvgLkAo


●REC

『2月4日。お母さんに言わなきゃいけないことは、なかなか言えない。やりたい事も全くはかどらない。時間だけがどんどん過ぎていく』


63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:26:11.71 ID:8NWvgLkAo


梓「どうしたんですかムギ先輩。こんな時間に電話なんて」

紬「あなたムチャしすぎよ。病人だという事忘れてるでしょ」

梓「分かってますよ、でも時間がないんです」

紬「だけど!」

梓「昔は今日出来なくても明日やればいいって思ってましたけど今はそういう訳にいきません」

梓「病気を知ってからのこの1ヶ月、本当にあっという間でしたから」

梓「身体がきく内に色々やっておかないとです」

紬「そう……それでみんなに病気の事はいつ言うの?」

梓「今は言うつもりはありませんし、これからも言うつもりはありません。勿論親にも」

紬「本当に誰にも言ってないのね」

梓「ええ。それと、私の生命保険、受取人が母になってるんですよ」

梓「最大の親不孝ものですよね。保険金を母に受け取らせるなんて」

紬「あなたは本当にそれでいいの?突然何も言わずにいなくなったりしたらみんな悲しむし何より相談に乗ってあげれなかった事で悔やむと思う」

梓「私は誰かに寄りかかることなく一人で歩んでいくことになると思います。それが私の運命ですから」

梓「それでは私、今日は病院で検診があるので……失礼します」

紬「……」


64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:29:58.90 ID:8NWvgLkAo


―― 病院

金田「学校で病気の事を理解してくれている人はいるの?」

梓「まだ知らせてません。話せば色々と気を使わせちゃうので学校に迷惑がかからない範囲で黙っていようと思います」

金田「誰か病気の事を打ち明けられる人がいればいいんだけどね。今の君に必要なのは悩みや苦しみを受け止めて支えてくれる人の存在だから」

梓「この先もそんな人は出てこないと思いますよ。私はこれから1人で病気と向き合って1人で死んでいくって決めましたから」

金田「それは違うよ」

梓「どういう事ですか?」

金田「僕は長年医者をやってきて中野さんのような患者をいっぱい見てきた。その経験から1ついい事を教えてあげよう」

梓「なんですか?」

金田「その人はある日突然やってくる。一番最初にやってきたその人を絶対に逃がしちゃだめだ。その人は生涯を通じて君の力になってくれる」

梓「いるんですかそんな人」

金田「大人の言う事は素直に信じるもんだよ」


65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:33:07.45 ID:8NWvgLkAo


●REC 
『2月5日、生涯を通して味方になってくれる人が現れるって言われたけど、そんな人いないよね、ドラマじゃあるまいし』

『そんな事より今の私がやらなければいけないのは先輩達が卒業していなくなった後の軽音部の事だ』

『先輩達との思い出が詰まった軽音部を部長として守っていく事は私がここで生きていた証にもなるのだから』

梓「ふぅ……今日のビデオ日記終わりっと……さて、寝よっかな」

梓「……!!?」

 突然お腹に激痛が走り私はソファの上に倒れこむ。

 今まで感じた事のないような激しい痛みで頭の中は真っ白、思考は完全にストップしている。

 数秒で痛みは治まったけどその間に時間はとても長く、いつまでも続くように感じた。

梓「うぅっ……はぁっ……はぁっ……」

梓(な、何これ……段々症状が悪くなっていってる!?まさか病気の進行が……)

梓(明日休日でよかった。明日は少しゆっくりしよう)


66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:41:48.77 ID:8NWvgLkAo


―― 翌日・行きつけの焼鳥屋

梓(やっぱり私、少し焦り過ぎなのかなぁ)

梓(ううん、そんな事ない!私には時間がもうあまり残ってないもん!)

梓(……でも本当にそれだけなのかな)

梓(先輩達がいなくなっちゃう寂しさを紛らわせようとしてるだけなんじゃないのかな私)

梓(駄目駄目!こんなんじゃ駄目だよ私。もっとしっかりしなきゃ!)

梓(……)

梓(はあ……病気に部活に新入生勧誘、頭の中いっぱいいっぱいで大変だよ。強がってみたはいいけどどうしよ……)

?「隣座ってもいいかなー?」

梓「え?あ、はい、空いてますのでどうぞ」

?「ありがとーあずにゃん」

梓「いえいえ……って、ええ!?」

唯「やっほー」

梓「唯先輩、どうしてここに?」

唯「あずにゃんの家遊びに行ったんだけど留守だったからさー、多分ここにいるんじゃないかと思ってね」

梓「そうだったんですか」

唯「ねぇあずにゃん」

梓「はい?」

唯「最近何でそんなに焦ってるの?まるで時間に追われてるように見えるよ」

梓「私はもう明日があると思って生きるのをやめたんです」

唯「それはこの前の事故で死にそうになったから?」

梓「入院した日に先輩達が持ってきてくれた本を見て自分にはやりたいと思ってもやらなかった事がいっぱいあるって気付いたんです」

梓「ですからもうやりたいと思った事を先延ばしにするのはやめようと思いました。私は今日やろうと思った事は今日中にやっておきたいんです」

唯「それって新学期からの軽音部?」

梓「そうです。それだけではありませんけどね」

唯「そっかぁ……」


67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:45:36.45 ID:8NWvgLkAo


唯「あずにゃんが軽音部を大事に思ってくれているのは嬉しいよ。でも今のあずにゃんはちょっとおかしいよ」

梓「どういう事ですか」

唯「前にさ、困ったら相談してねって言ったよね?でもあずにゃん私達に何にも相談してくれないんだもん。私達ってそんな頼りない先輩なの?」

梓「そんな筈あるわけないじゃないですか」

唯「相談するのが迷惑だと思うのならそれは違うよ。人間って1人じゃ絶対に生きていけない生き物なんだから。これからあずにゃんが3年生になって部長になっていずれは後輩の子達が来てくれると思う」

唯「もしその後輩の子達が悩みを抱えて打ち明けられずにいたらどう思う?」

梓「それは……嫌ですよね。何となくですけど分かります」

唯「だったらそろそろ話してくれてもいいんじゃないかな。ここから先は私の予想なんだけどね、間違ってたらごめんね」

唯「私達が卒業した寂しさを紛らわせようとして自分を苛めるような事をするなら私はあずにゃんに部長を任せたくないな」

梓(……この人勘が良いなあ。私より私を知ってるみたい)

梓「……やっぱり私、寂しいし嫌なんですよ。先輩達が卒業した後の誰も居ない部室を見るのが」

唯「寂しくなんかないよ。私達とは通う学校が変わるだけで別れるわけじゃないんだから。それにね、きっと新しい出会いがまたあると思うんだよ。私達があずにゃんに出会えたように」

梓「そういうものなんですか?」

唯「そういうものだよ。あずにゃんはしっかり屋さんだから別に焦ったり無理に突き詰めたりしなくてもきっとみんな分かってくれると思うよ」

唯「それに私にどうしても会いたいのならいつでも行くからね」

梓「先輩……」

唯「それに私もたまにはあずにゃん分補給したいですからなー」

梓「何ですかそれ……卒業生が出入りする部活なんて聞いたことありませんよ」

唯「えへ、そうだよね」

梓「ふふっ」

唯「そうだ、それなら私卒業するのをやめてあずにゃんと同じ3年生をもう1回……」

梓「何バカな事言ってるですか!」

唯「えー、冗談だよー冗談っ」

梓「唯先輩の冗談は冗談に聞こえませんよ」


68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:48:57.12 ID:8NWvgLkAo


唯「あずにゃんやっと笑ってくれたね。うん、笑って楽しくやっていこうよ。部活ってそういうものだよ」

唯「ピリピリしてたら上手く行く物も上手くいかないよ?」

梓「そうですね。頑張るのもいいけど頑張りすぎるのもよくないですよね」

唯「そういうことっ」

梓「唯先輩と話せて少しスッキリしました。ありがとうございます」

唯「いやー照れますなー」

唯「あっ!そうだ、私まだ注文してないよー。お腹ペコペコだよ、何にしようかなー」

 唯先輩の顔を見て話していたら何時の間にか悩みが嘘のようになくなっていた。
 何も言ってないけどきっと私の事が気になってここまで来てくれたんだろう。
 この人はこの人なりに私の事を心配して相談に乗ってくれてる。
 もしかして、病院の先生が言っていた運命の人って……唯先輩の事!?
 本当にそうなのかは分からない。ただ今はっきりと分かる事は1つだけ、それは唯先輩が鶏皮を頼むという事だ。

唯「すいませーん、鶏皮5本お願いしまーす」


69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:51:30.06 ID:8NWvgLkAo


―― 帰り道

梓「そうだ、先輩今週の火曜受験でしたよね」

唯「そだよー」

梓「絶対合格してくださいね!先輩はその気になったら何でもできる人なんですから」

唯「任せなさい!どんと来いです」

梓「じゃあ私はこの辺で」

唯「もう夜遅いんだから気をつけて帰りなよー」

梓「唯先輩こそ気をつけてくださいよ」

唯「失礼な!」

梓「ふふっ、では失礼します」


70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:53:44.05 ID:8NWvgLkAo


―― 病院

梓「先生の予言あたりましたよ。私に運命の人が来たみたいなんです」

金田「ほらね?だから言った通りだったでしょう」

梓「この先の予言も当たるんですかね」

金田「この先って僕何か言ったっけ」

梓「前に言ったじゃないですか。その人は生涯を通じて力になってくれるって」

金田「あー、そんな事言ったっけか。ははは、覚えてないや」

梓「もう、先生ったら……」

金田「その人に病気の事相談できたらいいんだけどね」

梓「だめです、絶対にできません」

金田「どうして?」

梓「その人だけには絶対に同情されたくないんです」


72:レス番ミス >>70と>>71の間にこれ:2011/04/11(月) 00:59:18.55 ID:8NWvgLkAo


唯(やっぱり私、あずにゃんの事が気になってるのかな)

唯(あの日以来ずっとあずにゃんの事が頭の中に焼きついて離れない)

唯(プロポーズされた時何で私断っちゃったんだろう……)

唯(こんな恋愛をして周りの視線であずにゃんを苦しませたくないからって思ってたけど違ったんだ)

唯(ただ単に私自身が怖かっただけ、理由を作って逃げただけ)

唯(サイテーな先輩だよ私。あんな可愛い先輩想いの後輩泣かせるなんて)

唯(自分に正直に、か……そうだよね、うん)

唯(でもとりあえずは受験に合格しなきゃ!)


71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 00:55:30.86 ID:8NWvgLkAo


 それから日は流れ先輩達の受験も終わり結果を待つのみとなった。
 試験が終わった後先輩達は部室に来てくれて打ち上げに行こうと律先輩が誘ってきた。
 まだ合格したかどうかも分からないのに気が早すぎ……
 そんなわけで、完全ななりゆきで今カラオケBOXに来ています


73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 01:00:44.75 ID:8NWvgLkAo


―― カラオケ屋の廊下

梓「今日は久しぶりに騒いだなぁ。やっぱ先輩達といると楽しいな」

梓「うん?このお店テラスなんてあるんだ。狭い部屋でエアコン効き過ぎで暑かったからちょっと夜風にでも当たっていこうかな」

梓(誰かいる、って唯先輩だ)

唯「おっ、あずにゃんだ。どしたの?」

梓「トイレに行った帰りですよ。先輩こそどうしたんですトイレに行ったっきり帰ってこないと思ったら」

唯「暖房ききすぎてて暑かったからここで涼んでたんだよ」

梓「なんだ、私と一緒ですね」


74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 01:01:59.72 ID:8NWvgLkAo


―― その頃

律「義理と人情の板挟み だからお前はアホなのだ♪」

澪「なあ、唯の奴帰って来るの遅くないか?」

紬「そうねぇ、梓ちゃんもトイレ行ったきり帰ってこないし」

律「愛で地球が救えると救いきれない馬鹿が言う♪」

澪「なんかヒマだ……律の奴1人で何曲予約入れたんだよ」ぼそ

澪「これならHTTのボーカル私じゃなくて律がやればよかったじゃないか、もう」ぼそぼそ


79:>>75修正:2011/04/11(月) 22:15:48.86 ID:9XY2+n4bo


―― テラス

唯「今日は楽しかったよねー」

梓「そうですね」

唯「そうそう、話は変わるけどさ」

梓「はい?」

唯「前にさ、病気になったお友達の話してくれたよね?」

梓「ええ」

唯「そのお友達って今どうしてるの?」

梓「前向きに生きてますよ」

唯「そっかー、すごいよねその子」

梓「いえ、それよりも今日は誘ってくれてありがとうございました。久々に人生の洗濯ができた気がします」

唯「言い出しっぺはりっちゃんなんだけどね。それよりもまた行こうね、今度は2人でさ」

梓「え、いいんですか」

唯「私、あずにゃんの事大好きだよ。誤解しないでね、好きっていう意味」

梓「もちろんです。私はそんなおめでたい人間じゃありません。ちゃんと分かってますから学校帰りの遊びはよくてデートは駄目、好きってのは部活の後輩としての意味ですよね」

唯「ぶーっ!やっぱり誤解してるよ」

梓「え!?」

唯「こういう意味だよっ」

 そう言うと唯先輩は私を引き寄せていきなりキスをしてきた。
 
梓(え、ちょっ……ゆ、唯先輩!?)

 あまりに唐突すぎて何が起きたか分からず頭の中がごちゃごちゃだ。

唯「今度の金曜の祝日、映画にでも行こうよ、ね?」

梓「」ぽかーん

唯「おーい、あずにゃーん」

梓「はっ!?す、すいません、な、なんですか?ぼーっとしてたので」

唯「だーかーらー、金曜映画行こって言ったんだよー」

梓「え、映画ですか。はい、分かりました」

唯「よーし、約束だよ?じゃあそろそろ部屋に戻ろっか、澪ちゃん達待たせちゃってるし」

梓「」ぼー

唯「おーい、もどってこーい」

梓「……はっ」


76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 01:12:30.28 ID:8NWvgLkAo


―― 部屋

梓「駆け抜けていく蒼い時の嵐が頬をたたくよ♪」

梓「ずっと 愛してる♪」

唯「愛してる♪」

律「なあ、この2人に一体何があったんだ?急に息合いすぎだろ。それにさっきまでと違ってご機嫌すぎるし」

澪「さあな」

唯梓「息を吐いて♪」

唯「今選びに行こう未来 ヴァルキュリア♪」

澪(上手くいったんだな。おめでとう梓)

律「なんだよニヤけてさー、澪ちゅわーん」

澪「やかましい!」ゴンッ

律「えろばっ!」

紬(唯ちゃん、これからが大変よ……でもあなたならきっと乗り越えられるわ)

梓「私は風に出会いヴァルキュリア♪」

唯「いつか風を見送るヴァルキュリア♪」

梓「夜明け前に♪」

唯梓「輝かない生命はない♪」

 私の初恋はまだ終わりそうにありません。


81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:17:42.91 ID:9XY2+n4bo


 第3話

―― 病院

梓「」にこにこ

金田「何かいいことあった?教えてよ」

梓「そんなもったいないことできません」

金田「あ、そう」

梓「恋人ができました」

金田「平沢さん?」

梓「どうして知ってるんですか?」

金田「ふっふっふ」


82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:18:24.20 ID:9XY2+n4bo


―― 翌日

梓「いけない、朝の薬飲み忘れちゃってた。すぐ飲まなきゃね」

 休み時間、朝飲む予定だった薬を今日は飲み忘れてたのに気が付いた私は給湯室にあわてて駆け込んだ。
 薬袋を流し台の上に置いて備え付けのコップでカプセルを一気に飲み干した直後私を呼ぶ声がした。

クラスメート「中野さんここにいたんだ、探したよ」

梓「どうしたの?」

ク「今日の日直の子がね、急用できて早退しちゃったんだ。それでね、明日中野さん日直でしょ?だから悪いけど次の授業の用意代わりにやってくれないかなって」

梓「えー」

ク「お願い!この通り!」

梓「うーん、しょうがないなぁ。それじゃあ職員室へ行けばいいんだよね」

ク「うん、本当にありがとう。恩に着ます!」

梓「早退じゃ仕方ないもんね。じゃ行ってくる」

 この時の私は知る由もなかった。取り返しのつかないミスをしていた事に。


83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:20:11.43 ID:9XY2+n4bo


 昼休み

純(今日はいつもと趣向を変えて金ちゃんヌードルにしてみました!、お湯お湯ー♪)

ドボドボ

純「よし、あとは2分待つだけ!3分も待ってられないもんね、麺ふにゃふにゃになるし」

純「ん?何この紙袋。誰かの忘れ物かな」

純「病院の薬かぁー誰のだろ……ん?中野梓?梓のか」

純「ちょっと中身はいけーん。失礼しますっと」ごそごそ

純「……!?このカプセルまさか!何で梓がこんな物もってんの!?」

純「多分梓が取りに戻ってくるだろうからこれはここに置いて教室に戻ろう……」すたすた

 この数分後

梓「いけない、薬持ってくの忘れてたよ、こんなの誰かに見られたら大変だもんね」

梓「よかった、ちゃんとある。誰にもバレてないよね、よしよし」

梓「純と憂待たせてるから早く教室戻らなきゃ」


84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:22:41.86 ID:9XY2+n4bo


教室

梓「相談したいことがあるんだ。もしかしたら気付いてるかもしれないけど……」

純「…!」

憂「なになに?」

梓「実はね、唯先輩とお付き合いする事になったんだ」

憂「それなら昨日お姉ちゃんが嬉しそうに教えてくれたよ。本当におめでとう」

純「ほっ……」ぼそっ

純「昨日何かあったの?梓と憂のお姉ちゃんと」

憂「お姉ちゃん、梓ちゃんとキスしたんだって」

純「うわー、とうとうゴールインですか!」

梓「や、やめてよ純」

純「なるべくしてなった感じだねー」

梓「はいはい」

梓「なんか私、憂から唯先輩取っちゃったようで悪い気がする」

憂「そんな事ないよ。2人共私の大事な人だもん。梓ちゃんとお姉ちゃんが幸せならそれは私にとっても幸せだから」

梓「憂にそう言ってもらえると嬉しいよ、ありがとう」

憂「それで今度の金曜映画行くんだよね?」

梓「うん」


85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:24:24.36 ID:9XY2+n4bo


 ここで机の上の焼きそばパンを手に取り口に入れる、が、一気にいったせいか喉に詰まらせてむせてしまう。

梓「うぐっ!?げほっ!ごほっ!ごほっ!」

純「あずさあっ!!!」ガタンッ

憂「純ちゃんどうしたの?いきなり大声あげて立ち上がって」

梓「何なの純怖い顔して。ただパンが挟まってむせてただけなのに大袈裟すぎ」

純「う……」

梓「ほら、純のせいでみんな見てるし。恥ずかしいじゃんもう」

純「ぬぅぅ……まー気にしない気にしない!それよりさっきの話だけどさ」

憂「そうそう、金曜の話だったね。これってお姉ちゃんが誘ったんだよね」

梓「うん、でもこれって普通に考えたらデートだよね」

純「そうなんじゃない」

梓「じゃあ私、唯先輩の恋人でいいんだよね」

憂「うん、2人共とってもお似合いだよ」

梓「でも信じられないよ、私恋人の実感全然わかなくて」

純「私も突然すぎて驚いちゃったけど」

梓「全く予想がつかない事が起こると最初は実感わかないものなのかな。いいことも……悪い事も」

純「悪い事って?」

梓「ううん、別に何もないよ」

純「私こう見えても口堅いからどんな事でも相談してよ」

梓「なんか信用できない」

憂「ふふっ」

純「……」


86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:27:07.54 ID:9XY2+n4bo


―― 学校の屋上

梓「純、用事って何?」

純「梓、最近病院通ってるよね?」

梓「え?」

純「給湯室で薬の袋みちゃったんだ」

梓「あ、あれね、そ、そう、胃腸薬なんだ」

純「私のおばあちゃんが飲んでた薬と一緒だった。おばあちゃんは本当に胃腸薬だと思ってたけど梓は違うよね」

梓「言っている意味がよく分からないんだけど、純ってほんと変な事いうよね」

純「ふざけないで梓、真面目に答えてよ!!」

梓「……っ!」

純「私の目はごまかせないよ、本当の事話してよ!ねぇ!」

梓「お願い……この話はみんなに黙ってて」

純「……学校通ってて体は大丈夫なの?」

梓「しばらくは薬を飲みながら続けていいって言われてる」

純「手術は?」

梓「もう無理だって。あともって1年くらいらしいんだ」


87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:28:41.75 ID:9XY2+n4bo


純「そんな……1年って」

梓「学校には時期見ていうつもりだけど今はまだ話すつもりはないよ」

純「私のおばあちゃんは医者に言われたよりずっと長く生きてたからさ……ねぇ、私に出来る事があったら何でもするから。身体が辛くなったらすぐ言ってよね?」

梓「うん、ありがとう純」

純「それとさ……この事、他の人達は知ってるの?」

梓「知ってるのは純とムギ先輩だけだよ」

純「唯先輩は……まだ知らないんだ」

梓「うん……でも話さなきゃいけないよね?」

純「私が唯先輩だったら話して欲しいと思う」

梓「そうだよね……」


88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:31:47.19 ID:9XY2+n4bo


―― 金曜

唯「今日は楽しかったねぇ」

梓「はい、そうですね」

梓(先輩の顔ばっか見て浮かれてて映画の内容なんて全く覚えてない……)

梓(浮かれてもいられない。病気の事言わなきゃな……今日言えるかなぁ)

唯「この後どうしよっか。あずにゃんどっか行きたいとこある?」

梓「うーん」

唯「そうだ!あずにゃんの家行ってもいい?」

梓「へ?まあ今家に誰もいないからいいですけど」


89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:34:58.74 ID:9XY2+n4bo


―― 中野家

梓「どうぞ、あがってください」

唯「お邪魔しまーす」

梓「先に私の部屋で待っててください。お茶持っていきますから」

唯「おーけー」

 梓の部屋

唯「そいえばあずにゃんいっつもお留守番してるよね」

梓「親は仕事でいつも家を留守にしてますからね。家にいるのは1年通しても数日程度ですよ」

唯「私の家族と同じだねー」

梓「唯先輩には憂がいるじゃないですか」

唯「そうだよね。だから私あずにゃんは本当にすごいと思うよ」

梓「買いかぶりすぎです。だけど先輩は姉なんですからもっとしっかりしてください」

唯「そうだよね。私憂がいないと何もできないからさ。お姉ちゃんなのに妹に頼りっきり」

梓「先輩はやればできる人なんだからその気になれば絶対に何でも出来ますよ。ギターだってそうだったじゃないですか」

唯「あずにゃん私を励ましてくれたんだ、嬉しいなぁー」

梓「なっ!違いますよ!そんなんじゃないです」

唯「あっずにゃーん」ぎゅー

梓「ふにゃああっ」

唯「ありがとねあずにゃん」

梓「え?」

唯「私あずにゃんに出会えて良かったよ。卒業してからもずっとずっと一緒にいようね」

梓「は……はい」


90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:36:16.25 ID:9XY2+n4bo


●REC

『2月11日、黙っている私はずるいですか?これぐらい許してもらえますよね?』

梓「話さなきゃないい加減……」


91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:38:38.06 ID:9XY2+n4bo


―― 学校

純「それで、結局言い出せなかったんだ」

梓「うん……言おう言おう思ってたけどいざとなると言い出せなくて」

純「後に引き伸ばせばそれだけ辛くなるよ。お互いにさ」

梓「話すのが怖いんだよ。純はどう思う?これからもずっと一緒にいたい大事な人が私のような人だと知ったら」

純「そんなの聞かないでよ。一緒にいたいと思わなくても、ただの部活の先輩後輩の関係というだけでも……うぅっ」ぐすっ

梓「ごめん……変な事聞いちゃったよね」

 有耶無耶になった状態でそれから数日が過ぎた。
 授業を受けていた私の元に1通のメールが届いた、唯先輩からだ。
 そう、先輩達全員第一志望の大学に合格した報せ。


92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:40:48.03 ID:9XY2+n4bo


―― 中野家

梓「いいんですか先輩。折角の律先輩達との打ち上げ抜け出してきちゃって」

唯「いいんだよ。今日くらいあずにゃんと2人きりで過ごしてもバチは当たらないもん」

梓「そうですか、私も本当に嬉しいですよ。先輩達が無事同じ大学に行けるようになって」

唯「ありがとうあずにゃーん」ぎゅっ

梓「もう……今日だけ特別……ですよ」


93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:42:19.17 ID:9XY2+n4bo


唯「あずにゃん、来年受験だよね?どこに行くかもう決めたの?あずにゃんしっかりした子だからもう決めてるんじゃないかなーって思って」

梓「え?ああ、そうですね。もし行けるのなら先輩方と同じN大に行きたいですね」

唯「おおっ!それなら私から1つ提案があります!」

梓「何ですか?」

唯「私春から1人暮らし始めるつもりなんだけどね、もし良かったら来年私と一緒に暮らさないかなーって」

梓「え?同棲ですか」

唯「うん!」

梓(どうしよう……唯先輩すごい嬉しそうな顔してるし、これじゃ言い出せないよぉ)


94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:43:27.46 ID:9XY2+n4bo


●REC
『2月16日、明日こそ話そう。あと生きられるのはせいぜい1年ぐらいだということ。一緒に暮らす事はできないということ』


95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:46:31.23 ID:9XY2+n4bo


―― 中野家・夜

唯「あずにゃんの手料理おいしいよー」

梓「喜んでもらえて何よりです」

梓「そういえば、唯先輩って今まで深く悩んだ経験ってあるんですか?」

唯「そりゃあるよ。私だって人間だもん!」

梓「どんな時なんです?」

唯「私と憂が小さかった頃にお母さんが死んじゃった事かな」

梓「!?す、すいません!変な事聞いてしまって……」

唯「いいよー。それにさ、今は軽音部のみんなや何よりあずにゃんがいるから寂しくなんかないよ」

梓「先輩……」

唯「でも出来ることなら、もう二度と大切な人を失いたくないんだ……」

梓「……っ!」

唯「どったの?」

梓「い、いえ、そうだ!飲み物切らしちゃってるからちょっとコンビニ行ってきますね!あ、アイスもついでに買ってきますから!」

 唯先輩の一言で締め付けられるようなショックを受けた私はコンビニに行くという名目を作って逃げるように部屋を出た。
 一瞬だけ見せた先輩の悲しげな顔がコンビニに行く最中ずっと脳裏に焼きついている。


96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:49:10.88 ID:9XY2+n4bo


唯「うーん、ヒマだよぉ……」

唯「そうだ、あずにゃんのお部屋拝見しちゃおっと」

唯「ほえ?何でこんなとこにビデオカメラ?三脚付いててテープが入ってる……何かこの部屋で撮影してたのかなぁ」

唯「まだ帰ってきそうにないしこっそり見ちゃってもいいよねー。なんか気になるもんね、あずにゃんにホームビデオの趣味があったなんてさー」

唯「それでは、ちょいとご拝見いたしますっ」かちっ


97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:53:53.59 ID:9XY2+n4bo


―― 翌日

 放課後、私は近くの喫茶店にムギ先輩に来てもらって相談をしてもらっていた。
 受験が終わって3年生は学校へ登校する事も無くなったから。

紬「そう、唯ちゃんがそんな事を……」

梓「皮肉ですよね。私が病気にならなかったら唯先輩とは只の先輩後輩の関係のままだったかもしれないのに」

紬「そうね……」

梓「でもこんなことになるんなら先輩の言った通りもっと早くに病気の事を言うべきでした。もしかしたら恋なんてするものじゃなかったのかもしれません。ムギ先輩、あの人が私の病気を知ったらどうなるんでしょう」

紬「どうなるのかしらね。梓ちゃん、あなたはどうなった?」

梓「え?」

紬「あなたは病気を知ってどう変わった?あなたの人生はどう動き出した?」

 そうだ、私の人生は病気になって前向きに動き出したんだ。


98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 22:57:49.16 ID:9XY2+n4bo


―― 平沢家

唯「……ごちそうさま。悪いね憂、せっかく作ってくれたのに残しちゃってさ」

憂「どうしたのお姉ちゃん、体の具合でも悪いの?」

唯「そんなんじゃないよ、ちょっと……ね」

憂「何かあったの?」

唯「あのね憂、私思い知らされたんだ……」

唯「私って今まで大して悩んだりもせずその上何も知らずに能天気に生きてきたんだなって」

唯「やっぱり私温室育ちだったんだよね」

憂「お姉ちゃんいきなり何言ってるの?今日のお姉ちゃん変だよ」

唯「ごめん憂、私今日はもう寝るね。おやすみ……」


99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:05:11.04 ID:9XY2+n4bo


―― 翌日・中野家

 今家には唯先輩が来ている。卒業旅行はどこに行くか相談するつもりで来たらしいけど私にとっては病気を告白する唯一の機会だ。
 テーブルの上に散らかされたツアーのチラシに見入っている唯先輩の反対側に座る。

梓「唯先輩に聞いてもらいたい話があります」

唯「あ、私もあるんだよー。旅行なんだけど暖かい所でのんびりしたいからさ、ハワイなんかどうかなぁ?」

梓「その前に私の話をきいてください。私は12月の健康診断で引っかかって再検査の結果病気がみつかりました。病名は胃癌です」

梓「私の場合かなり進行していて肝臓にも転移してました。手術は無理で抗がん剤で治療していますが今の医学では完治する見込がありません」

唯「~♪」

梓「現在もってあと1年近くの命です。黙っててすいませんでした」

唯「知ってたよ」

梓「えっ!?」

唯「でさー、あずにゃんは何処がいいの?やっぱり海があった方がいいよねー?」

梓「ですから私はあと少ししか生きられないんですよ。私の話聞いてます?」

唯「あー、ハワイじゃあずにゃんまた焦げちゃうよね、やっぱりアメリカにしよっか」

梓「唯先輩私の顔を見てください」

唯「うーん、悩んじゃうねぇ」

梓「いい加減にしてください唯先輩」

唯「じゃあ私が決めてもいいよね、じゃ決定」

梓「唯先輩っ!!!」

唯「だから分かってるって言ってるでしょ!!!」ドカッ

 唯先輩はテーブルを両手で思いっきり殴りつけながら今まで聞いたことない位大きな声で怒鳴った。
 その目は怒りというより悲しみに満ちた目をしていて今にも涙がこぼれ落ちてきそうで正直見ているこっちも辛かった。

梓「私は唯先輩と一緒にいる事はできません」


100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:07:51.06 ID:9XY2+n4bo


 しばらく気まずい時間が流れる。
 私はじっと唯先輩の目を見つめる、というより視線を逸らす事が出来なかった。
 そんな私を唯先輩は今まで見た事もないような目で睨みつけている。
 この時私は病気を告白した事が本当に良かったのかどうか自分を疑ってしまう。
 
唯「私……帰るね……」

 それだけ言うと唯先輩は荷物を取って足早に逃げるように家から出て行ってしまった。
 私はそれを止める事も追いかける事もなくただその場に立ち尽くす。

梓「あれ?これって……」

梓「私のビデオカメラ……電源が入ったままだ。そっか……唯先輩、これ見ちゃったんだ」

 ふと机に上に散らばった旅行のパンフの山を見る。

梓(神様、お願いです。私の運命を変えてください。だめですか?)


101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:13:21.96 ID:9XY2+n4bo


―― 公園

唯「はぁっ…はぁっ……」

 私はあずにゃんの家から逃げるように家の近くの公園まで走ってきてた。
 昨日興味本位で見てしまったビデオカメラの内容を半ば信じきれずに……いや、信じたくなかったといのが正しいのかも。
 そしてあずにゃん本人から今さっき一番聞きたくなかった事実を告げられた。
 私は自分を誤魔化して旅行の話をして何とか逸らそうとしてたけどあずにゃんに怒鳴られて……そして私は堪えていた感情が爆発してしまった。
 
唯「そっか……前々からおかしかったよねあずにゃんの様子。何で私気が付かなかったんだろ」

『旅行なんかも老後の楽しみにしようと思ってどこにもいきませんでした。でも彼女はある日、自分があと1年しか生きられない事をしってしまったんです』

『将来を考えるのは大事な事です。でも将来の事ばかり考えすぎて今を見失ってはいけないんじゃないでしょうか』

『私はもう明日があると思って生きるのをやめたんです』

『自分にはやりたいと思ってもやらなかった事がいっぱいあるって。ですからもうやりたいと思った事を先延ばしにするのはやめようと思いました。私は今日やろうと思った事は今日中にやっておきたいんです』

 そういえば思い当たる事前々からこんなに言ってたんだよね……
 あの余命1年を宣告されたお友達ってあずにゃん自身だったんだね。
 やっと分かったよ。

 同時に今まであずにゃんと過ごしてきた日々が頭の中を駆け巡る。
 中学まで部活に入った経験のない私にとって初めて出来た只1人のかわいい後輩。
 口では言わないけどこんなダメな先輩を受け入れてくれて慕ってくれた大事な大事な後輩。
 そして勇気をだしてプロポーズまでしてくれたのにそれを断った私を笑って許してくれた大好きな人。

唯「あずにゃん……私嫌だよ……あずにゃんが死んじゃうなんて……あんまりだよぉ」ポロポロ

唯「ひぐっ……ぐすっ……うわあああぁぁぁぁん!!!」

 私は泣いた、人目も憚らずに。
 多分今まで生きてきて一番長く激しく泣いた、でもいくら泣いても涙が枯れるなんて事はなかった。
 それは私にとって今一番大切な人がもうすぐいなくなってしまうかもしれないから。


102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:14:24.29 ID:9XY2+n4bo


―― 学校

梓「ねぇ純」

純「どうしたの梓」

梓「私ね、言っちゃった、とうとう」

純「え?」

梓「言っちゃったんだよ病気の事、唯先輩に」

純「そうなんだ。それで唯先輩は?」

梓「泣いてた、すごく。私酷いよね。勝手にプロポーズして勝手に振って」

純「確かにちょっと酷だと思うけどいつかは言わなきゃいけなかったんだよね。だけどまだ全てが終わったわけじゃないよ、別れるなんて絶対にダメ」

梓「終わったよもう。終わらせたんだ、私が」


103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:15:57.19 ID:9XY2+n4bo


―― その頃病院

唯「じゃあ本当に病気を治すのは無理なんですか」

金田「はい」

唯「でも何かある筈じゃ」

金田「……」首横振り

唯「そんなぁ……もうそこまで病気が……」

金田「ええ、残念ですが……」

唯「それで、梓ちゃんは今どんな気持ちでいるんでしょうか」

金田「中野さんの気持ちは中野さんにしか分かりませんから。中野さんの痛みをあなたが理解しようとしてもそれは無理なんです」

唯「先生、私にできる事って何ですか」

金田「中野さんの話し相手になってください。中野さんが辛い時に辛いって言える相手になってあげてください」

唯「はい……」


104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:19:23.19 ID:9XY2+n4bo


―― その日の夕方・中野家

梓(あれ?家の前に誰かいる)

唯「やっほーあずにゃーん」

梓「唯先輩……」

……

梓「どうぞ……」

唯「お邪魔しまーす」

梓「ちょっと座ってください、聞いてもらいたい話があります」

唯「うん」

梓「唯先輩にはもっと早く事実を話すべきでした。自分の身体の事を最初に知ったとき本当に信じられませんでした。ヤケになったりもしました」

唯「……」

梓「でも今は自分の運命を受け入れてます。唯先輩を始め軽音部の皆さんと一緒に過ごした時間はかけがえのない物となりました。ありがとうございました。最後にこれだけは言っておきたかったので」

唯「何か別れ話してるみたいだよ?」

梓「それはそうですよ」

唯「私と別れたいの?」

梓「私は長く生きられないんですから」

唯「別れる理由にはならないよ」

梓「なりますよ」

唯「私はずっとあずにゃんのそばにいたいんだよ」

梓「いいですか?この先私は体調が悪くなる事でしょう。気持ちが不安定になって自制が効かなくなる事もあるでしょう。そんな私のそばにいようと思ったら大変なエネルギーが必要です」

唯「分かってるよ」

梓「本当に分かってるんですか!?それって自分を犠牲にするって事ですよ!」

唯「違うよあずにゃん!私はそんな風に思わないから!」

梓「いくら唯先輩が違うと言っても私はそう思うんです」

唯「私のためを思ってそう言ってるのならさ」

梓「唯先輩のために言ってるんじゃありません。私が辛いんです。先輩に無理をさせてるんじゃないかと思うと私が辛くなるんです。私が苦しくなるんです」

 私は願った。唯先輩が幸せになってくれる事を


105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:21:35.53 ID:9XY2+n4bo


―― 病院

梓「唯先輩に病気の事を話しました」

金田「そう、よかったよ。君に今必要なのは辛い時に辛いって言える相手だから」

梓「私は自分の辛さを誰かに話すつもりはありません」

金田「誰にも話さないつもりなの?」

梓「ええ、そうです」


106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:25:26.07 ID:9XY2+n4bo


―― 平沢家

唯「ねえ憂、ちょっと聞きたい事があるんだ」

憂「なに?」

唯「お母さんが死んじゃった時ね、憂はどう思ったの?」

憂「どうしたの突然」

唯「ちょっとなんとなくね」

憂「そうだね……お母さんがこんなに早く死んじゃうとは思わなかったから。さよならくらい言いたかったかな」

憂「それに、死ぬとわかってたらもっと色々してあげたかったよ」

唯「何をしてあげたかったの?」

憂「特別な事っていうより当たり前の事かなぁ。例えば作ってくれたご飯が美味しかったら美味しいって笑顔で言ってあげたりするとかね」

唯「当たり前の事、かぁ……」


107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:27:26.38 ID:9XY2+n4bo


―― 翌朝・学校

憂「という訳なんだ。お姉ちゃん何か様子がおかしいんだよ」

純「訳を聞かなかったの?」

憂「聞いてもはぐらかされちゃうんだ。こんなの初めてだよ、お姉ちゃん今迄隠し事なんかしなかったのに」

純「そっかー」

憂「思えばちょっと前に梓ちゃんの家に行ってからかな。梓ちゃんと何かあったのかな」

純(……これはマズい)

憂「純ちゃん何が知ってるの?」

純「あ、いや……」

憂「何があったのお姉ちゃんと梓ちゃんに。知ってるのなら教えて!」

純「……どうせいつかはバレちゃう、か、私が黙ってても唯先輩が言っちゃうかもしれないし限界かも」

梓「おはよう、純、憂」

純「あっ、おはよう梓」

憂「おはよう梓ちゃん」

憂「純ちゃん、この話は放課後に……」ぼそぼそ

純「うん」ぼそっ


108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:29:50.69 ID:9XY2+n4bo


―― 放課後・屋上

憂「それ冗談で言ってるの?全く笑えないよ」

純「冗談でこんなん言えないよ!てか冗談でも言いたくないさこんなの」

憂「だって梓ちゃんまだ17歳だよ?それなのに癌であと1年しか生きられないだなんて常識でありえないよ!」

純「間違いないよ。そりゃあ信じたくはないけどさ……」

憂「でも言われてみると今までの梓ちゃんとお姉ちゃんの言動を思い返してみれば辻褄が合う……」

純「とにかく、今はあの2人をそっとしておいてあげたいんだ」

憂「そうだね……」


109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:31:33.78 ID:9XY2+n4bo


―― その頃・校門前

梓「唯先輩?どうしたんですか。3年生はもう登校しなくてもいいんじゃないんですか」

唯「あずにゃんに会いたくなってさー。それよりも久しぶりに焼き鳥とか鯛焼きでもどう?」

梓「唯先輩、私達は別れたんですよ」

唯「学校帰りのご飯くらいいいじゃん」

梓「やめときましょう」

唯「ちぇー」


110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:34:16.75 ID:9XY2+n4bo


―― その夜・平沢家

TEL中

唯「うん、そうなんだよ。私、あずにゃんにふられちゃった」

紬『ふられちゃったんだ……あんなに仲睦まじかったのに』

唯「ムギちゃんは知ってたんだよね。あずにゃんの病気の事」

紬『ええ。やっぱりそれが原因だったのね』

唯「私はずっと傍にいたいと言ったんだけどね。ムギちゃんならどうするの?やっぱりずっと傍についていたいと思う?」

紬『それはずっと一緒にいてあげたいけど、私には耐えられないかも。だって辛すぎるもの』

紬『でも私と違って唯ちゃんは見かけによらず強いから』

唯「そんな事ないよ」

唯「……」ぐすっ

紬『大丈夫?唯ちゃん』

唯「うん、平気だよ私。ああもう!私のこと振るなんて何様のつもりなのあずにゃんったらさー!」

紬『そうよ!とっちめてやりなさいよ』

唯「うん!」

――

紬(唯ちゃん、電話の向こうで泣いてた……辛いかもしれないけど唯ちゃんなら絶対に乗り越えられるから、諦めないで)


111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:40:48.40 ID:9XY2+n4bo


―― 学校

梓「そうなんだ……聞いちゃったんだ病気の事。誰から聞いたの?」

純「私が話しちゃったんだ、ごめん」

梓「ううん、別にいいよ。唯先輩が知ってるのなら憂の耳にもいずれ入ってたかもだし」

憂「昨日純ちゃんから聞いてその後お姉ちゃんにも問い詰めてみたよ。本当だったんだね」

梓「うん、隠してたりした事は悪いと思ってる。憂にも……そして唯先輩にも」

憂「本当に体、大丈夫なの?」

梓「今のところは平気だよ。それよりも2人には今迄通り普通に接して欲しいんだ」

純「分かった。それで唯先輩とは本当に別れるつもりなの?」

憂「……」

梓「もう別れたよ。それが唯先輩の為だと思うから」

憂「それは違うよ梓ちゃん」

梓「え?」

憂「昨日から色々考えたんだ。もし私が梓ちゃんの立場だったら。学校や将来の事、お姉ちゃんやお父さんの事、好きな人がいたらその人の事」

憂「好きな人の為を想って別れるって私も考えたけどそれって只の格好つけだと思うよ。私なら別れない、私なら絶対に別れたくない」

梓「憂……」

憂「どうしてもこれだけは言っておきたかったんだ。だから別れるなんて絶対駄目だよ!」


112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:44:17.21 ID:9XY2+n4bo


―― 中野家

ピンポーン

梓「はーい、今いきまーす」がちゃっ

唯「こんにちはあずにゃん。来ちゃいましたっ!」

梓「何で来たんですか」

唯「えへへ、つい、ねー」

梓「つい、って何ですか」

唯「最近あずにゃん分補給してない禁断症状で体が勝手にここに来てしまったのです!」

梓「全く……まあ立ち話も何なのでどうぞ」


113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:45:44.69 ID:9XY2+n4bo


唯「あずにゃん、今日はギー太持ってきたんだー。私達学校来なくなってからずっと合わせてなかったからさ、ちょっと演奏しようよ」

梓「分かりました。少しだけなら……」

~♪

 しばらくの間部屋の中に2つのギターの音が響きあう。
 私は精一杯に無邪気に振る舞いながら演奏して時を過ごす。
 あずにゃんが心変わりしてくれないかな、て願いながら。


114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:47:49.62 ID:9XY2+n4bo


梓「……唯先輩」

唯「ほぇ?」

梓「私がこんな事いうのはなんですけど、私の心を揺さぶるような事をするのはやめてください。出来るだけ心おだやかに過ごしたいんです」

唯「あずにゃん前に言ってたよね。将来のことを考えすぎて今を見失っちゃいけないって。今の私にとって今日という日は1年後10年後のためにあるんじゃないんだよ。今日は今日だけの為に過ごしたいんだ。あずにゃんと一緒にね」

梓「それは無理です。本当にこれで終わりにしてください」

ぴんぽーん
そう言った直後、不意に玄関のベルが鳴った。
重苦しい空気が流れ出してたのが止まったような気がして少し安心した。

梓「ちょっと失礼します」


115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:50:47.80 ID:9XY2+n4bo


がちゃっ

梓母「ただいま梓」

梓「わっ、お母さん!?どうしたの急に。ツアー終わったの?」

梓母「ええようやくね。驚かせたかったからいきなり押しかけちゃった」

梓「もう……連絡ぐらいしてよね」

梓「あらお客さん?」

梓「紹介するね。前にも話したよね?軽音部でお世話になってる唯先輩」

唯「はっ、はじめまして。あずに……梓ちゃんといつも軽音部でご一緒させてもらってます平沢唯ですっ」

梓母「あなたが噂の唯先輩ね。あなたの話はいつも梓から聞いてます。はじめまして梓の母です」

唯「は、初めまして」アセアセ

梓母「それにしても梓がいつもあなたの話ばかりするからどんな人かと思ってたら……期待通りのいい人じゃない。これなら梓が惚れちゃうのも無理ないわね」

唯「え!?//」

梓「ちょっ!や、やめてよお母さん」

梓母「ふふっ、照れちゃって、ほんと素直じゃないわねこの子。そうだ、唯ちゃんも今日は泊まっていきなさいな。梓との仲がどれだけ進展したか私も気になるし」

梓「だーかーらー!違うってばー!そんなんじゃないもん!」


唯「どうしよう、私あずにゃんの恋人だと思われちゃってるよ」ぼそぼそ

梓「とりあえず、今は恋人のフリしててください」ぼそぼそ


116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:56:25.83 ID:9XY2+n4bo


 その夜、あずにゃんがお風呂に入っている間、私は寝室であずにゃんのお母さんと2人きりでいた。
 あずにゃんどうするんだろ……病気の事言わなくていいのかな……

梓母「こういう場合、私は誰と寝ればいいのかしら。やっぱり梓と唯ちゃんが一緒に寝るべきよね」

 私は一瞬戸惑った。こういう場合どうすればいいんだろう……
 いつもの私なら「あずにゃんと一緒に寝るー」て言うんだろうけど今日だけはそんなの言える気分じゃなかった。
 残された僅かな時間、ここは親子水入らずの場面にしてあげるべきなんだろうな。
 だって年に数日しか家に帰ってこれないって聞いてたし、次に2人一緒にいられる日が何時になるか分からないんだから。

唯「じゃあお母さんと梓ちゃんが一緒に寝るっていうのはどうですか?そうしましょう」

梓母「唯ちゃんがそう言うならそうしましょうか。あ、そうだ、ちょっと待っててね」

 そう言うとお母さんは箪笥の引き出しを漁り始め1つの箱を持ってきた。
 中に入っていたのはとても綺麗な真珠のネックレス、これをどうして私に見せたりなんかするんだろう。

梓母「これ、唯ちゃんに渡しておこうと思って」

唯「これは?」

梓母「昔ね、私が結婚した時に死んだお父さんからプレゼントされた物よ。いつか梓に相応しい人が現れたら渡すつもりだったの」

唯「……え!?それって!?」

梓母「唯ちゃんなら梓の事幸せにしてくれると確信したからこのネックレスを唯ちゃんに受け取って欲しいのよ」

唯「そんな……こんな大切な物はいただけません!」

梓母「大切な物だからこそ受け取ってもらいたいと思ったんだけど……」

唯「……」


117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/11(月) 23:59:23.29 ID:9XY2+n4bo


―― その夜

梓「はぁ、なんか寝付けないなぁ」

 私は台所でそう呟きながら水を飲んでいた。

梓(言わなきゃなぁ……はぁ)

梓母「梓?起きてたのね」

梓「お母さん、どうしたの?」

梓母「なんか久しぶりに梓の顔見たら嬉しくてね、寝付けないのよ」

梓「そうなんだ、私もだけどね……そうだ、久しぶりに肩揉んであげるね」


118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:01:17.63 ID:kSCm5skso


梓「話したいことがあるんだ。あのね」

梓母「なに?」

梓「その……お父さんと結婚してよかった?」

梓(ダメだ……何で言わなかったのよ!私のバカ!)

梓母「父さんは疲れる人だった。何もしないし、一々細かいし。でも本当は気の小さい人だった」

梓「お母さんに甘えてたんだよ」

梓母「梓も唯ちゃんと一緒になったら父さんみたいになるのかしらね」

梓「私はならないよ。迷惑なんてかけたりしないから」

梓母「迷惑?」

梓「だから甘えたり我侭を言うことだよ」


119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:04:54.84 ID:kSCm5skso


 隣の部屋

唯「……」聞き耳

唯(……あずにゃん)

―― 翌日の昼・駅

梓「お母さん、もう少しゆっくり出来なかったの?」

梓母「ごめんね、今回は梓の顔がどうしても見たくて無理矢理時間の都合つけてきたからもう行かなきゃ」

梓「飛行機間に合いそう?」

梓母「大丈夫よ。今度は海外だからまたしばらく帰ってこれそうにないから悪いけどまた留守お願いね」

梓「うん、私ならしっかりやっていけるよ」

梓母「そうだ、唯ちゃん」

唯「はい?」

梓母「これお土産、受け取って」

唯「あ、いや、悪いですよ何か」

梓母「気にしないで、ほら」

唯「……すいません。本当に何から何まで」

梓母「それじゃ、そろそろ時間だから行くわね。元気でね梓」

梓「行ってらっしゃい。お母さんも元気でね」

梓母「あっ!大事な事言い忘れてたわ」

梓「どうしたの?」


120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:08:22.31 ID:kSCm5skso


梓母「唯ちゃん」

唯「はい」

梓母「梓の事、どうかよろしくお願いします」ぺこり

唯「……!?そんな、顔上げてください滅相もないです。私でよければいつだって梓ちゃんの力になりますから」

 こうして私達2人は新幹線がホームを出て行くのを静かに見送った。

梓「帰りましょうか」

唯「そうだね」

梓「!?」

 歩き出した直後、私の手にあの感触が伝わってきた。
 唯先輩が手を握って来たんだ。

唯「少しだけだから……少しだけこのままでいさせて……」

梓「……はい」

 断る気になれなかった。
 最近忘れかけていた唯先輩の手の感触、あの雪の日の事を思い出しつい私もぎゅっと手を握り返す。


121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:12:39.29 ID:kSCm5skso


―― 病院

 この日は定期健診の日、たまたま診察室にムギ先輩も来ていて先生と3人で会話をしている。

紬「唯ちゃんが恋人と思われて結局言えなかったんでしょ」

梓「そうなんです」

金田「クククッ」

梓「ちょっと!こんな所で普通の医者は笑いませんよ」

紬「いいじゃないの。告白の事は置いといて2人の関係はいいとこまで来ているんだから」

梓「そんなつもりなかったのに。全く、困りましたよ。母に勘違いされちゃってるし」

金田「いっそのこと結婚しちゃえば?」

梓「私達女性ですよ?」

金田「分かってて言ったんだけどね」

梓「もうっ!//」

紬「梓ちゃん、こんな言葉知ってる?昔の偉い人が言った言葉だけどね」

梓「はい」

紬「たとえ明日世界が滅亡しようとも今日私は林檎の木を植える」


122:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:20:30.40 ID:kSCm5skso


 家に戻った私の目の前にあったのは机の上に置かれた1通の封筒だった。

梓「ん?手紙だ。お母さん書置きしていったんだ」

『梓へ。誰かに甘えられたり頼られたりすることで幸せになれることもあるんだからね。母より』

梓(あんなお父さんでもお母さんは幸せだったんだ……)


123:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:22:17.83 ID:kSCm5skso


―― 平沢家

憂「お姉ちゃんどうしたのその荷物」

唯「あずにゃんのお母さんに貰ったんだ。お土産だって」

憂「へぇー、また1つ進展したんだ、よかったねお姉ちゃん」

唯「だねー。おっ、見て見て、このお菓子美味しそうだよ」

憂「本当だ、後で切ってお皿に出してあげるね」

唯「うん!」

唯「あれ?底に何か入ってる……この箱……」

 私は底に隠したように入れてあった箱を手に取り蓋を開ける。
 そこにはあの日の晩、受け取るのを断った大事なネックレスが入っていた。

唯「……」

憂「わぁー、綺麗な真珠のネックレスだね。梓ちゃんのお母さん、結構真剣に考えてるのかもね」

唯(どうしてこんな大事な物を私に……)

憂「どうしたのお姉ちゃん」

唯「あ、いや、何でもないよ」

 その夜

唯梓「……」

唯梓「……はぁ」


124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:25:57.29 ID:kSCm5skso


―― 翌日

 今私は唯先輩と一緒に近所の河原を歩いている。
 ここは去年、演芸大会に出る為に2人で練習に明け暮れた場所だ。

梓「お母さんを駅に見送りに行った帰り道のこと覚えてますか?唯先輩は私の手を握ってくれましたよね」

唯「うん」

梓「正直言ってあの時心がすごく安らぎました」

梓「私は自分の運命を受け入れたと言いましたけどやっぱり怖いです。急にたまらなく怖くなったりします」

梓「これから先、もっと辛くなったりもっと苦しくなったりするかもしれません」

梓「唯先輩、ずっと私のそばにいてくれませんか?私とずっと一緒にいてください!!」

唯「うんっ!勿論だよ」

梓「先輩っ……」ぐすっ

唯「えへへ……もう絶対に離さないから、いつまでも一緒だからねあずにゃん」

梓「はい、愛してます唯先輩」

 唯先輩はぎゅっと私を抱きしめる。私はそんな唯先輩の背中にそっと手を沿えた。


125:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:28:44.14 ID:kSCm5skso


 あのプロポーズから数日後、今私達は私の部屋にいて私が唯先輩の首にネックレスを付けてあげている。

梓「よし、と……先輩、出来ましたよ。はい、鏡です」

唯「どれどれ……おおっ!」

梓「お似合いですよ、先輩!とても綺麗です」

唯「えへへーありがとあずにゃん」

 何となくだけど、より一層先輩との距離が近くなった気がした。
 それにしてもアクセサリ1つで結構雰囲気変わる物なんだな……なんか大人っぽく見える。
 でも本当の目的はそれじゃない、そう、もっと大事な事をしなければいけない。
 私の右手には携帯電話がある。

梓「さて、次は私の番ですね……」

唯「うん」

梓「お母さんに報告しなくちゃ」prrrr

梓「もしもし、お母さん?私だけど今日報告しなくちゃいけない事があるんだ」


126:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:32:05.88 ID:kSCm5skso


梓母『どうしたの?』

梓「唯先輩にプロポーズしてね、OKもらったんだ」

梓母『プロポーズならとっくにしてると思ってた』

梓「お母さんごめんね」

梓母『どうして謝るの?』

 思わず口をつぐんでしまう。言わなきゃ……覚悟を決めろ私!

唯(あずにゃん……頑張って)

 固まっている私を見て、唯先輩は私の手を両手で握ってきた。
 優しい笑顔を浮かべて見つめているのを見て勇気付けられた気がする。
 やっぱり私にはこの人が必要だ。今までずっとそうだったように……そしてこれからも。

梓「あのね、お父さんに会ったら伝えておくから。お父さんはお母さんに甘えてばかりで我侭だったけど、お母さんはすごく幸せだったって……私、お母さんより先にお父さんに会うことになりそうだから」

梓母「梓?」

梓「お母さん。実は私……」

 私は1言1言ゆっくりと、ありのままの全てを伝えていく。
 お母さんの動揺したような声が受話器越しに聞こえてきた、だけどすぐにその声は嗚咽交じりになっていった。
 途中言葉に詰まりそうになるものの、しっかりと、今まで育ててきてくれた事への感謝の気持ち、親よりも先に逝ってしまう事への謝罪を告げる。
 電話の向こうからヤカンの沸騰する音が聞こえる、それだけの大きい音にも気が付かない程お母さんは動揺していて話す声も涙声で何を言っているのか聞き取るのも困難になっていた。
 私も貰い泣きしそうになるけど必死に堪えた。
 その間も唯先輩は何も言わずずっと手を握り続けて寄り添っていてくれた。


127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:33:23.73 ID:kSCm5skso


 この日私達は誓った。
 2 人で幸せになる事を。
 例え明日世界が滅亡しようとも今日私達は幸せに生きる事を……


129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:45:09.29 ID:kSCm5skso


―― 病院

金田「そうか、報告したんだね」

梓「はい、母は何度もごめんね、ごめんね、って謝ってました。多分代わってやれなくてごめんねって事だと思うんですけど」

梓「母は仕事を全てキャンセルして帰ってくるって言ってくれましたけど私の事で振り回させたくなかったので断りました。もっとも私が生きてる間にまた会えるかどうかわかりませんけどね」

金田「そっか、君にとっても辛かっただろうね。今回の報告は」

梓「辛かったですけど、今迄言いたくて言えなかった事が全て吐き出せたのは良かったと思ってます」

金田「君がそれなら良かったじゃない。それで、これからどうするの?」

梓「唯先輩と一緒に暮らすつもりです。大学に行けたらですけど。いいですよね?」

金田「ダメ」

梓「何でそんな意地悪言うんですか!」

金田「ははは、いやあ、幸せそうな顔してる君の顔見てたらさ、ついからかいたくなってね」

梓「もう、それでも先生ですか!……ふふっ」


130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:49:56.53 ID:kSCm5skso


―― 平沢家

唯「待ってたよあっずにゃーん」ぎゅっ

梓「もう!いつになっても変わりませんよね先輩は」

唯「えへへ、今日のあずにゃん分補給です」

梓「離れてください暑いです」

憂「いらっしゃい梓ちゃん」

梓「こんにちは憂。呼んでくれてありがとう」

 今日は平沢家でのお食事会です

唯「そうだあずにゃん、一緒に住む話お父さんに報告したんだけどOKもらったよ」

梓「OKしてもらえたんですか、病人の私と住むなんて言ってどうなるかと思ってましたけど何よりです」

憂「私達家族の過去がアレだったからね。お父さんもすぐに理解をしてくれたんだよ」

梓「なんか嬉しいですよ、本当に」

憂「……でもやっぱり納得いかないな。梓ちゃん幸せそうなのに、まだまだこれからなのに……不公平だよ、この世の中は」

梓「憂、私は別に不公平だなんて思ってないよ」

憂「どうして?」

梓「病気になって私の人生は大きく変わったからね。失うばかりじゃなく得たものもあるから」

唯「得た物って?」

梓「私が得た一番大きなものは唯先輩、あなたです。唯先輩と一緒に生きていきたいと思ったことです」

唯「ありがとうあずにゃん。私もあずにゃんと一緒に生きて行きたいからさ、そう言ってもらえて私も嬉しいな」

憂(梓ちゃんもお姉ちゃんも本当に幸せそうだな……まるで新婚の夫婦みたいに。でも、だからこそ……)

梓「憂どうしたの?なんか元気ないよ?」

憂「ううん、何でもないよ……」

梓「憂、私の事考えてくれてるのならそんな暗い顔しないで。私は唯先輩だけじゃなくて憂にも笑顔でいて欲しいから。みんなで笑って過ごしていこうよ」

憂「そうだよね!梓ちゃん、これからもよろしくね!」

梓「うん、こちらこそこれからもお世話になります!」


131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:52:05.19 ID:kSCm5skso


 そして時は流れ、今日は桜高の卒業式の日。
 今日をもって先輩達はこの学校を卒業し去っていく。

 ……とは言ったものの、最後のHRが終わり部室に集まった先輩達はいつも通りの平常運転なんだけどね。
 泣いても笑ってもこうして5人揃ってこの部屋に集まるのも今日で最後、次にこのメンバーが集まるのは何時になるかわからない。
 生きてる内ににまた会えたらいいな……ううん!絶対に先輩達と大学でまた一緒に音楽やるんだ!


132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:56:35.58 ID:kSCm5skso


さ「卒業式の後なのに本当にあなた達最後の最後まで変わらないわね。いつも通りというかなんというか」

律「なーんか短いようで長かった3年間だったよなー」

澪「それを言うなら長いようで短かっただろ!」

紬「みんなー、お茶が入ったわよー」

がちゃっ

澪「おっ梓」

梓「最後くらい私がお茶淹れようかと思ったんですけど」

律「いーからいーから!ほら」

梓「先輩方ご卒業おめでとうございます」

律「あのさ、これからの事なんだけどな」

梓「大丈夫です」

唯「でも私達あんまり……」

梓「本当に大丈夫ですから!新入部員いーっぱい勧誘して絶対!ぜーったいに廃部になんてさせませんから」

梓「そうだ、先輩達に手紙を書いてきました。直接口で伝えるのは言いにくくて」

澪「なあ梓、唯の分は書いてきてないのか?」

梓「昨日の内に言いたい事は全て直接伝えておきましたので」

律「最近益々お熱いですわねーこの2人は」

唯「えへへー」

澪「ちょっと羨ましいよな……な?律」

律「ん?どうしたーみおー」

澪「……この鈍感が」


133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:58:17.91 ID:kSCm5skso


律「?あれムギ、お前珍しく浮かない顔してるな。何かあったのか」

紬「!なんでもないわーりっちゃん。うふふ」

梓(ムギ先輩……)

さ「さて、そろそろ下校時刻よ。名残惜しいかもしれないけど遅くならない内に早く帰りなさい」

HTT「はーい」

律「じゃあな梓、来年大学で待ってるからな」

唯「うん、大学でまた放課後ティータイム再結成だからね!必ず来てよね。絶対に絶対だよ!」

梓「はい、また大学で一緒に音楽やりましょう。私その為にこの1年しっかりやりますから!」

澪「部長がんばってな。学園祭必ず見に行くからさ」

梓「はい!私頑張ります!」

律「よし、いくかー」

紬「梓ちゃん」

梓「はい?」

紬「体には気をつけてね、何かあったらすぐ連絡してね」ぼそぼそ

梓「はい」

律「どうしたムギ、梓に何て言ったんだ?」

紬「何でもないわよりっちゃん。お茶が無くなったら分けてあげるって言っただけだから」

澪「さ、もういい加減時間だ、帰るぞ」

 こうして先輩達の高校生活は終わった。
 同級生も後輩もいない私は1人きりになってしまったが、大見得を切った以上廃部になんか絶対させたりなんて出来ない。
 そんな私の前に助け舟が現れる。


134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 00:59:17.04 ID:kSCm5skso


純「やっほーあずさー」

憂「梓ちゃんお邪魔しまーす」

梓「純に憂、どうしたの?」

純「いやー、先輩達がいなくなって落ち込んでる梓を慰めようと思いましてねーわざわざ来たわけですよ」

梓「別に落ち込んでなんかないもん」

純「またまたー、本当は泣きたいくせに」

梓「うっさい!」

梓「もう、それより何の用なの?」

純「来年から軽音部梓1人でしょ?だから新入部員連れてきてやったんだー」

憂「それも2人もね」

梓「……え?どこどこ?」

純「あんたワザとやってるでしょ、そのボケ……」

梓「てことは、まさか2人共入部してくれるの?」

憂「うん、私もお姉ちゃんが1人暮らし始めちゃうから暇になるし」

純「わざわざ放っておくなんて出来ないもんね。梓の体も心配だし」

梓「……」

憂「どうしたの?」

梓「確保ーーーっ!!」ぎゅっ

純「うわーっ!」

梓(ありがとう、純、憂……本当にありがとう)

 私は生き続けてみせる。私を支えてくれる親友の為にも、私を信用して軽音部を託してくれた人達の為にも、最愛の人の為にも……
 唯先輩、必ず行きますから……待っててください。

 第3話 終


138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:49:04.42 ID:gQ7c2A0Fo


第4話

 それからの時間はあっという間に流れていった。
 先輩達の引越し、卒業旅行……慌しい春休みも終わり新学期、高校生活最後の1年の始まり。
 新学期が始まってからは新入部員の勧誘で動き回り新歓ライブも無事に終わらせた。
 その結果新入部員の1年生が2人入部してくれる事になり軽音部は5人で新しく再スタートをする事ができた。
 放課後の部活動の伝統?ティータイムはしっかりと残っている。
 変わった事といえば練習しないで怠けているのを叱る相手が唯先輩と律先輩から純に変わった事ぐらいか。
 その卒業した先輩達ともたまに会ったりしたり遊びに行ったりスタジオ借りて演奏したりもしている。
 体の方もすこぶる良好で全てに於いて順風満帆な感じかな。


139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:50:45.67 ID:gQ7c2A0Fo


 私は今、どこかの教会にいる。
 こじんまりとした古めのチャペルだ。
 隣を見ると純白のドレスに身を包んだ唯先輩がいてこちらを見つめている。
 正面には神父さんがいてこちらを呼んでいる。
 ここにいるのは私を含めてこの3人のみ、立会人はいない。
 唯先輩は私の手を取るとゆっくりと正面の神父さんの方へ歩いていき、私はそれに付いていく。

神父「よろしいですか?」

唯梓「はい」

神父「汝平沢唯は、この女中野梓を伴侶とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

唯「誓います」

梓(唯先輩、普段見せないようなすごい凛々しい顔してる……この人、こんな一面もあったんだ)

神父「続いてあなたです」

梓「はい」

神父「汝中野梓は、この女平沢唯を伴侶とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

梓「誓います」

神父「それでは、結婚指輪を……」

唯「はい」

 そう言うと唯先輩は私の薬指に指輪をはめてくれた。
 私もそれに返すように指輪をはめてあげる。
 
梓(ん?ちょっと待って!なんで私結婚式なんてあげてるの?いきなりこんな流れ、出来すぎでしょ)

梓「唯先輩!」

唯「ほえ?」

梓「すいません、ちょっと私の頬をつねってくれませんか?」

唯「えー!そんなのできないよぉ」

梓「いいからお願いします」

唯「うー、分かったよぉ。それじゃちょっとだけだからね?」ぐいっ

梓「あ、いたふない…いらふない…」


140:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:51:53.08 ID:gQ7c2A0Fo


梓「はっ!」がばっ

梓「夢か……そりゃそうかぁ」

梓「こんな夢見るようになったのはこの人の横で寝たせいだよね……ふふっ」

 私のすぐ隣では最愛の人が寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。
 そう、先輩達が卒業して大学へ行った後も唯先輩は時間があれば家によく来てくれる。
 その頻度は高校時代の時より増えていて正直離れ離れになった感じが全くしない。

梓(こうやって見てると可愛いなぁ……ちょっとキスしてもいいかな)

梓(すいません先輩、失礼しちゃいますね)

唯「ふぁぁ~」

梓「!?」

唯「うーん……おはよーあずにゃーん」

梓「お、おはようございます唯先輩」

唯「どったの?何か顔真っ赤だよ」

梓「な、何でもありませんっ!//」

唯「朝から変なあずにゃんだなぁ」

梓「もうっ!朝ご飯支度しますよ、ほら、さっさと起きてください!」

梓(唯先輩が起きてくれてほっとしたようなしなかったような……ちゃんと起きてる時にしなきゃダメ、ズルはいけな


141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:53:10.14 ID:gQ7c2A0Fo


―― その年のある夏の日・ファミレス

律「おーい、ゆいーあずさー、こっちこっち」

唯「おまたせー」

梓「おまたせしました」

律「とりあえず店員呼ぶからさ、何注文するか決めとけよ」

唯「ほーい」

梓「じゃあ私はバナナパフェに」

唯「私は目玉焼きハンバーグのセットに山盛りポテトフライにチョコレートパフェ!」

澪「相変わらずよく食うなお前は……」

律「そうそう、あんま食べ過ぎると太るぞ。こないだだって澪の奴、体重3キロ増えたって騒いでたもんな」

澪「余計な事を言うなっ!」ガツン

律「すいませんでした」


142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:55:45.53 ID:gQ7c2A0Fo


梓「そうだムギ先輩、別荘貸してくれてありがとうございました。おかげで夏合宿今年もやることができました」

紬「いえいえ、あんま大きい場所じゃなくてごめんなさいね」

律「ムギの言ってる大きな場所じゃないってどんな大きさを言ってるのか理解できない……」

澪「だよなぁ」

紬「それで上手くいってる?軽音部」

梓「はい。もうすぐ学園祭なのでみんな気合入ってますよ。純だけは誰かさん達みたいにお茶ばかり飲んでて怠けてますけど」

律「誰かさんて誰のことだよ」

梓「さあ、誰なんでしょう」じー

律「中野ォーッ!」

梓「ぷっ」

唯「だけどさ、あずにゃんにとって初めての後輩なんだよね。見てみたいなー」

梓「学園祭のライブでイヤでも見れますよ。2人共すごく楽しんでくれてて私としても嬉しいですよ」

律「そっかー。やっぱ梓に部長任せて正解だったみたいだな。いやー、しかし梓先輩かぁ」

唯「そうだねぇー、あのあずにゃんが先輩なんてね」

梓「いつまでも下級生扱いしないでくださいよ」

澪「でも楽しそうでよかったじゃないか。学園祭楽しみにしてるからな」

律「梓達にとっては最後の学園祭で後輩の2人にとっては初めての学園祭か。初めてといえば思い出すよな私達が一年だった頃をさ、あの時は……」

澪「だーーーーーっ!!」

梓(最後の学園祭……か)


143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:57:35.48 ID:gQ7c2A0Fo


―― 病院

金田「ううむ……」

梓「どうしたんですか?」

金田「ちょっとヘモグロビン値が下がってるな。疲れたと思ったら早めに休んでね」

梓「わかりました」

金田「それでどう?部活の方はうまくいってる?」

梓「はい、毎日とても充実してますよ」

金田「平沢さんとは?」

梓「よく家に来てくれますよ。来ない時は電話で話をしてますね」

金田「そっか。上手くいってるようで何よりだよ」

梓「今になって思うんです。唯先輩が傍にいてくれて良かったって。もし今、夜1人で居たらとても怖かったんじゃないかって。悩みを隠さず打ち明けられる人がいてくれるだけですごく安心するんです」

金田「そうだね。平沢さんも君の事すごく大事にしてくれているから。同情とかじゃなくて本気で君の事が好きなんだろうね」

梓「そうですね。よく分かりますよ」

梓「そうだ、今日はそんな話しに来たんじゃないんだった。先生、私みたいに余命が分かってる人の場合遺影ってどうしてるんですか?」

金田「いえい?」

梓「だから遺影ですよ。お葬式の時に使う写真の」

金田「ああ、その遺影ね。それがどうしたの?」

梓「だからその遺影、私みたいに死ぬのが決まってる人の場合あらかじめ撮っておいたりするんですか?」

金田「うーん、どうなんだろうね。その人次第なんじゃないのかな」


144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:58:21.20 ID:gQ7c2A0Fo


―― 写真屋

 今日は写真屋に来ている。おそらく私にとって最後になるであろう写真を撮る為に。
 こうやって写真に写るなんて卒業旅行のパスポートに使う証明写真の時以来だな。

カメラマン「それではいいですかー?撮りますよー」

梓「……」

梓(……最後くらい笑顔で写りたい……だけど)

梓(ダメだ……どうしても笑えない。笑いたいけど笑えない)

梓(今の私は幸せな筈なのに、どうしてなのかな)

カ「どうしました?」

梓「……すいません。今日は気分ではないのでまた今度でいいですか」

 そう、私は素敵な顔で写りたい。人生最後の写真だから


145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 22:59:32.64 ID:gQ7c2A0Fo


―― 唯のアパート

 この日、私と憂は唯先輩にお呼ばれされて先輩の住んでいるアパートに来ていた。
 何気に唯先輩の部屋入るの初めてなんだよね。いい加減な人だから散らかってるのかと思ってたけど以外にも綺麗に片付いてた。
 ちゃんと家事こなしてるんだ先輩……
 それはさておき、何しに来たのかというと特に何も決まってないんだ。
 でもこうやってだらだらと団欒してる時間てすごく大事な気がする。
 昔は何とも思わなかったけど今ではとても貴重だ。


146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:01:38.69 ID:gQ7c2A0Fo


唯「え?ビデオ日記やめちゃうの?」

梓「今ようやく分かりました。どうしてビデオ日記をつけようと思ったのか。余命1年を宣告された後、私はこれまでの17年間を後悔しました。私が歩いてきた道には足跡が付いてない気がしたからです」

梓「そして、残りの1年を悔いなく過ごそうと決心しました。でもちゃんと足跡をつけてるかどうか不安でビデオ日記をつけて自分が今生きている事を確認したかったんだと思います。でももうビデオ日記は必要なくなりました」

梓「私は今ちゃんと足跡をつけて歩いているって分かりましたから」

唯「うん、大丈夫だよ。私が保証するよ」

憂「今まで撮ったテープどうするの?」

梓「元々誰かに見せるための物じゃないし残しておかない方がいいのかもね」

唯「そういえばさ、私達が2人で写ってる写真もまだ無いよね」

梓「言われてみればそうですよね」

憂「でも軽音部の皆さんと撮った写真があるでしょ?」

梓「うん、それはまああるけど……」

唯「私とあずにゃんが2人きりで写ってる写真だけがまだ1枚もないんだよ」

憂「お姉ちゃんと梓ちゃん、恋人同士なのに写真が1枚もないって変だよ。普通記念に1枚くらいはあってもいいんじゃないの?」

梓「多分、今この瞬間の出来事がいつか過去になってしまうんだという事を撮影する時に思いたくなかったんだ。ほら写真て後に残すための物でしょ?」

唯「憂だったらどう思う?好きな人の写真やビデオを残しておきたいと思う?」

憂「うーん、付き合って別れた人との思い出なら全部捨てちゃうけど好きなまま別れるんだよね……あっ、ごめん……」

唯「私こそこんな事きいてごめんね」

憂「ねぇ、2人の写真て1枚もないの?」

梓「うん、卒業旅行で一緒に撮った写真はピンボケだったしね」

唯「やっぱり思い出は形で残すなって事なのかなぁ……」


147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:03:29.41 ID:gQ7c2A0Fo


 夏休みも終わり、学園祭に向けての準備は本格的に最後の追い上げ、同時に私達の大学受験の勉強も行われていた。
 最初は順風満帆に見えた部活動だったけど最近になって歯車が狂い始めた。
 軽音部内の関係がギクシャクしているようにある日気が付いた。
 最初は思い過ごしかもって思ってたけどやっぱりおかしい。
 最初の時点で私が何とか対応出来てれば良かったんだけど気が付いた時には手遅れだった。
 
 ある日の放課後の部活で1年の1人が演奏中ミスをしたのがきっかけだった。
 もう1人の1年生がそれを指摘し、いつもならそこで終わる物だったんだけれどもこの日は違ってた。
 そう、言葉のニュアンスの食い違いでこの2人がケンカを始めてしまったんだ。
 私達3年生が止めに入ったものの、結局その日は練習どころではなく解散ということに。
 律先輩ならこんな時どうするんだろう……私は部長としてやっていけるか自信を失いかけていた。


148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:06:42.78 ID:gQ7c2A0Fo


 そんな学園祭まであと2週間を切った9月のある日の放課後の部室。
 この日私達3年生はここで話し合いをしてる。幸いにも1年生の2人はまだ部室には来ていない。

梓「やっぱりさ、あの時私がちゃんと気が付いてあげてればこんなに問題にもならなかったんだよね。3年間の間部長としてみんなをまとめてきた律先輩はすごい人だと改めて思ったよ。私があそこまで出来ていればなぁ……」

純「やめなよ梓。律先輩は律先輩、梓は梓だよ。関係ないじゃん。それにあんたは十分過ぎる程にしっかりやってるよ」

憂「そうだよ、梓ちゃんは本当によくみんなをまとめてきてるいい部長さんだからね、もっと胸を張っていいと思うよ」

梓「そう言ってもらえると助かるよ」

梓「……とは言ったものの、はぁ」

純「もう学祭まで2週間ないよ。あの一件から殆ど5人で音合わせてないし流石にこのままじゃマズいよね」

憂「でもあの子達があの調子じゃあね」

純「私達が割って入る隙もないんだもん。だけど放っておくわけにもいかないし」

梓「あのさ」

憂「どうしたの梓ちゃん」

梓「2人共頑張り過ぎていっぱいいっぱいになってるんだよ。きっとそこから抜け出したくても出口が見えない状態だと思う」

梓「私が前にそうだったからさ……何となくだけど気持ちは分かるんだ。だからね、あの子達に私が今伝えたい事をぶつけてみようと思う。ダメなら何度でも分かってくれるまで」


149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:08:25.28 ID:gQ7c2A0Fo


純「うーん」

梓「どうかしたの純」

純「いやさ、いきなり言うのも何だけど、梓……あんた本当に変わったよね。びっくりする位に」

梓「な、なによいきなり」

憂「私もそれ感じたな。お姉ちゃんと付き合いだしてからの梓ちゃん、いい意味で人が変わったみたいだよ」

梓「もう、2人共真面目に聞いてよ//」

憂「…そろそろみんな来る時間だよ」

梓「そうだね……だけどもし来てくれなかった時はこっちから呼びに行くからね、いい?」

純「おっけー。だけど今日の梓、なんか顔色悪いよ。体調悪いの?」

梓「平気だよ。一応しっかり休める時は休んでるし」

憂「それならいいけど……」

梓「部長として後輩達に最後にどうしても伝えたい事があるから……私が先輩達からしてもらった事を今度は私があの子達にやってあげる番だからさ、いつかこの学校を卒業する時に軽音部に入って良かったって思ってくれるように」


150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:11:37.50 ID:gQ7c2A0Fo


 それから数十分後

憂「来ないね」

純「だね……このまま待ってても来そうにない気がする」

梓「いこっか、教室にさ」

 そう言って椅子から立ち上がった瞬間、久しく忘れていたあの腹の痛みが突然襲い掛かってきた。

梓「うっ……あぐっ……ああぁ……」

 今回は前に来た痛みとは違った。まるで腹の中をナイフでえぐるような激痛、瞬間的に体中の至る所から脂汗が吹き出てきて私は床に倒れこんだ。

憂「梓ちゃん……?どうしたの?」

純「梓!どうかしたの!?ちょっと!」

 視界に映っていた2人の姿が白みがかってぼやけて見える。
 何か呼びかけてきてくれているようだけど段々とその声も遠のいてくる。
 私……まだこんな所で死ねないのに……


151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:19:31.24 ID:gQ7c2A0Fo


―― 純視点

純「梓!どうかしたの!?ちょっと!」
  
 突然私の前で腹を押さえて苦しみだした梓の姿を見て私は叫んだ。
 何が起きているのか理解できない、何なのこれ!?。

梓「じゅ……じゅん……う…い……」

 かすれた声でそう言うと梓はその場に倒れこんで動かなくなってしまった。

憂「え!?梓ちゃん…梓ちゃあんっ!」

純「あずさあっ!」

 私はすぐに駆け寄って梓を抱きかかえる。

純「梓!しっかりして梓っ!」

 必死に呼びかけるものの意識がなく反応がない。
 憂は完全に動揺しているし、私だけでもとにかく冷静にならなきゃ……こういう時は、そうだ!

純「憂!すぐに職員室に行ってさわ子先生に連絡して!それから毛布とかあったら借りてきて」

憂「う、うん……分かった」

純「とにかく急いで!」

 憂が部室を出て行った後、私は携帯を取り出し119番をかける。

純「もしもし?そうです、友人が突然倒れて」

純「ええ、意識はありません。はい、場所ですか?」

純「桜ヶ丘高校の音楽準備室です。はい、すぐ来てください!お願いします!」

 携帯の通話を切り、私は物言わなくなってしまった親友をソファに移す。
 そして前に授業で聞いていた応急処置を始める事にした。
 どうせそんなもん使わないよーとか当時はそう思って流す程度で適当に聞いてたけどまさか本当に役に立つ日が来るなんてね……全く嬉しくないけど。

純「ねぇ梓、起きてよ。もしこのままあんたを死なせたりしたら私、唯先輩に何て言えばいいのよ!だからお願い、目を開けてよ梓ってばぁ!」


152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:20:01.24 ID:gQ7c2A0Fo


―― 同時刻・N大キャンパス

律「でなー、昨日のTVがさー」

唯「うんうん、あれ面白かったよねー」

澪「おい律、お前レポートの提出まだ済んでないだろ」

律「あー忘れてた。澪お願い!写させて!」

澪「お前確か前回もこんなんだったよな。今度という今度は自力でやれよ」

唯「りっちゃんはいつもいつもだらしがないですなー」

律「そういうお前はやってあるのかよ」

唯「私は後でムギちゃんに見せてもらうもん」

澪律「おい」

紬「ところで今日はいつもと趣向を変えてうなぎパイ持ってきたの。これでお茶しましょ」

唯「わーい」

澪「ムギもムギで何考えてるんだよ……」

prrrr

唯「およ?電話だ。憂からだ、どうしたんだろ」

唯「もしもしーういー?どったの?」


153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:22:26.76 ID:gQ7c2A0Fo


律「でさー、昨日の夜澪の奴がさー」

澪「うるさいバカ律!それは秘密にしろって言っただろ!」

紬「あらまあー、気になるわぁ……りっちゃん、それでその後は?」

律「それでなー……」

唯「みんな!みんなぁー!!」

澪「どうしたんだ唯、血相かえて」

唯「憂から連絡あってね……あずにゃんが……あずにゃんがあぁぁ!」

律「おい落ち着けって。それじゃ何があったか分からないだろ。梓がどうかしたのか?」

紬(!?)

唯「はぁはぁ……あずにゃんがね……学校で倒れたんだって!」

律「なに!?本当かよそれ」

唯「本当だよ!さっき救急車で病院に運ばれたんだって」

澪「ウソだろおい……」

律「唯!運び込まれた病院って琴吹総合病院だったよな?」

唯「うん!」

律「こうしていられるか!すぐ行くぞ!こんなのレポートどころの騒ぎじゃないだろうが!」


154:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:26:00.60 ID:gQ7c2A0Fo


―― 病院

唯「はぁっ……はぁっ……あっ、さわちゃん!」

さ「あなた達……待ってたわよ」

唯「憂と純ちゃんはまだ来てないの?」

さ「あの子達ならもうすぐ来るはずよ」

紬「先生、梓ちゃんの容態はどうなんですか」

さ「さっき処置が終わって病室に移されたとこよ。今は寝てるわ」

澪「それって助かったって事でいいんですよね?」

さ「ええ」

律「よかったー、一時はどうなるかと思ったぜ」

唯「あ、来た来た!おーい、ういー」

憂「お姉ちゃん!」

純「はぁっ……はぁっ……先生、梓は!?梓は大丈夫なんですか!?」

さ「落ち着いて純ちゃん」

純「梓は……梓は死んじゃったりしませんよね?無事だって言ってくださいよ!!」

純「まだあと4、5ヶ月は大丈夫だって言ってたじゃないですか!こんな早く死んじゃうわけないですよね?そうですよね!!」

さ「いい加減冷静になりなさい!!あなたがそんなんでどうするの!?」パンッ

純「うっ……」ヒリヒリ

さ「梓ちゃんなら大丈夫よ。命に別状はないって」

純「よかった……うぅ……あずさぁー」ウルッ

律「なあ鈴木さん」

純「はい」

律「さっきの後4ヶ月って、どういう意味なんだ?」

純「あ……」

さ「……流石にもう隠しておく事も出来ないわね」

紬「さわ子先生知ってたんですか?」

さ「ええ、新学期が始まってあの子達の担任になった日に梓ちゃんから直接、ね」


155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:34:41.35 ID:gQ7c2A0Fo


律「……何てこった、くそっ!!」

澪「そんな……嘘だ……梓があと4ヶ月しか生きられないなんて」

紬「残念だけど本当なの。そして病気が見つかった時には既に手遅れだった事も」

律「なあムギ、お前の系列の病院だろ?どうにかする事はできないのか?」

紬「出来るのならとっくにしてるよ……いくらお金持ってても友達1人助ける事もできないなんて……滑稽ね」

律「私等もそうだよ……黙って見ているしかできないなんてさ」

澪「ところでさ、唯、お前も知ってたのか?」

唯「うん」

澪「もしかして梓がもうすぐ死ぬと分かってて付き合ってたのか?」

唯「そうだよ」

澪「死ぬ事が分かってる相手と付き合ってたのか。平気なのか唯?」

唯「何言ってるのさ澪ちゃん!」

澪「え?」

唯「死ぬと分かっている人はあずにゃんだけじゃないよ!世の中の人全てなんだよ!!」

憂「お姉ちゃん……」

唯「命にもしもの事が起こるかもしれないのは私達だって同じだよ!あずにゃんは……たまたま余命が判っているだけだから……」

澪「……ごめん唯。変な事聞いて」

唯「この際だからみんなに話しておくね。私の覚悟を聞いて」

唯「私は幸せな家に生まれて、恵まれて過ごして来たけど何の為に生まれてきたんだろうって考えた時、答えが見つかった事はなかったんだ」

唯「でも今は違うよ。初めて生きる理由を見つけられたから。今、あずにゃんと一緒に生きるために生きているの。一緒に住んで、支えてあげて、見送るために生きているの」

唯「だから私は最後の最後まであずにゃんの傍から離れないから。これだけはみんなに話しておきたかったんだ」

律「唯、お前変わったよな。最初は梓だけかと思ったけどお前も昔とは別人のようだよ」

澪「ああ、凄いよお前達はさ。大変な筈なのにそんなそぶりも見せないもんな」

唯「そんな事ないよ。みんな私を買いかぶりすぎだよ」

さ「さて、話の途中だけど私は学校に報告しなきゃいけないから一度学校に戻るわ。あなた達もここで騒ぐのは他の人に迷惑だから移動しなさい。いいわね?」

全員「はい」

さ「唯ちゃんは梓ちゃんの傍にいてやりなさい」

唯「うん」

憂「それなら私は一度家に帰って荷物取って来ます」

さ「分かったわ、気をつけて行って来るのよ」

憂「はい」


156:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:43:48.04 ID:gQ7c2A0Fo


―― 病院の廊下

紬「こんなの言えた義理じゃないけど病気の話を秘密にしてた事で唯ちゃんと梓ちゃんを責めないであげて」

律「ああ、あいつらを責めたりなんかする訳ないだろ。私だってもしあいつらの立場になったら言えるかどうかわからねえよ……」

澪「そうだな」

律「全く梓の奴、自分が死ぬかもしれないって位ヤバいってのにさ……卒業式で強気な事まで言って今日まで隠し通して……あいつやっぱり素直じゃねーな」

紬「そうね。でも梓ちゃんらしいわ」

律「それとさ、さっき別れる前に唯が言ってたの、覚えてるか?」

澪「覚えてるさ、敵わないよな、あそこまで言われちゃな」

律「あいつはもう全てを受け入れる覚悟を決めてるんだよな……大した奴だよ普段はトボけてるのに」

澪「そうだな。あんな真剣な目をした唯、今まで見た事なかったな」

律「とにかくだ、これから先もいつもと変わらない様に普通に接してやろうぜ」

紬「それが一番いいわね」

澪「ああ」

紬「それじゃあ私はここでちょっと離れるね」

澪「どこかいくのか?」

紬「ちょっと金田先生のとこに行ってくるわ。りっちゃんと澪ちゃんは先に待合室に行ってて」

律「ああ、じゃあまた後でな」


157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:45:02.38 ID:gQ7c2A0Fo


澪「……」

律「澪」

澪「なんだ律」

律「もういいぞ、ここには私以外誰もいないからさ」

澪「何言ってんだよ律、私なら全然平気だから。先輩がうろたえてたりなんかしてたら笑われるだろ」

律「そっか……」

澪「……」

律「……」

澪「……何でだよ」

律「澪?」

澪「何で梓なんだよ!!あいつ私達より年下なのに、順番でいったら年上の私達から先に死んでいくのが普通の世界ってもんだろ!それなのに……どうして梓がこんな目に会わなきゃいけないんだよ!!」

律「そうだよな……もっと早くに気付いてあげれればな……後輩の悩みに気が付かないなんて部長失格だ」

澪「やめろよ…そんな事いうなよ」ぐすっ

律「澪、もしかして泣いてるのか?」

澪「うっ、うるさいバカ律!」うるうる

律「もう我慢しなくていいんだぞ。今の内にいっぱい泣いておけよ」

澪「ぐすっ……ひくっ……りつうぅぅ!」ぎゅっ

律「よしよし……なあ澪」なでなで

澪「ん」

律「唯と梓の前では絶対に泣いたりするなよ」

澪「分かってるよ……今日だけ、今日だけだから……もう少しこのままでいさせてくれ……」

律「ああ……」なでなで


158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:46:53.68 ID:gQ7c2A0Fo


―― 病室

 病室に入ってからそう長い時間を置かずに先生がやってきた。
 今回の結果とこれからの入院計画を話す為だ。

金田「もう胃の出血は止まってますが貧血が酷いのでしばらく輸血が必要で入院してもらう事になります」

唯「どれくらい必要ですか」

金田「順調にいけば3、4日です」

唯「退院したらまた普通の生活に戻れますか?」

金田「はい、でも再出血の可能性があります。食事がとれなくなると再入院が必要となります」

唯「わかりました」

金田「それでは私は一度失礼します。何かありましたらすぐ連絡してください」

 どれ位経ったんだろう、私はベッドの脇にある椅子に座って目の前で眠っているあずにゃんの顔をただ静かに見つめていた。
 色々な不安が頭の中によぎってくる。その度にそれらを否定する繰り返しの作業が続く。
 ふと時計を見る。もうすぐ6時になろうとしている。
 私の他に誰もいなくただ心電図の音以外何もない沈黙の続く病室、いつの間にか夕陽が室内をオレンジ色に染めていた。
 何時だったのか分からない、不意に病室のドアが開いた。
 憂と純ちゃんだ。


159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:49:33.21 ID:gQ7c2A0Fo


憂「お姉ちゃん、着替え持ってきたから。今日は1晩梓ちゃんの傍にいてあげるつもりなんだよね」

唯「うん」

純「梓の様子はどうですか?」

唯「今は落ち着いて寝てるとこだよ。あとは目を覚ますのを待つだけだから」

純「良かった……本当に良かった……」

憂「ねぇ、梓ちゃん本当に大丈夫なの?もう一度ちゃんと検査してもらった方がいいんじゃないの?」

唯「今回は貧血で3、4日の入院で済むみたいだから心配いらないよ」

憂「お姉ちゃんも気が動転してるだろうけどしっかり気を持たなきゃ駄目だよ、梓ちゃんも頑張ってるんだから」

唯「私なら平気だよ。憂達こそしっかりね」

憂「うん、私達なら大丈夫だから……それとね、話変わるけど梓ちゃんの病気、あの騒ぎで学校中に知られちゃった……」

唯「そっか……学校に救急車が乗り込んで来たんじゃ隠せる訳ないもんね。それで軽音部の後輩の子達にも知られちゃった?」

純「はい、私がここに来る前事情を話したんですけど正直あの子達も動揺していてまだ事実を受け入れられないみたいです」

唯「突然だもんね。そりゃあしょうがないよ」

憂「……それじゃあ私達澪さん達のとこ行ってるね。梓ちゃん起きたら教えてね」


160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:54:55.01 ID:gQ7c2A0Fo


梓「うーん……ここ……は?」

梓「病院?そっか、私部室で倒れて……ん?唯先輩……」

 横を見ると椅子にもたれ掛かって眠っている唯先輩がいた。
 私がどれだけの時間寝てたのか分からないけど、もしかしてこの人ずっと付き添っててくれたのかな。

唯「んんー……あっ、あずにゃん……起きてたんだ……」

梓「今さっき起きた所です。すいませんでした心配かけて……唯先輩だけじゃなくて他の皆さんにまで」

唯「本当に心配したんだからね。貧血で輸血が必要で3、4日入院が必要だって」

唯「それとね、お願いがあるんだけど」

梓「なんですか?」

唯「写真が欲しいんだ。やっぱり私、あずにゃんと一緒に写った写真が欲しいよ」

唯「あずにゃんが倒れて、もしかしてこのまま目を覚まさなかったらどうしようって一瞬だけど思っちゃったんだ。そうしたらどうしても一緒に写っている写真が欲しいって思ってね」

梓「先輩……」

唯「1枚だけでいいからさ、ね?駄目かな?」

 先輩からの意外な頼みだった。だけど断る理由がない。
 先輩が私とのいつまでも残る思い出が欲しい、残さないつもりだったけどやっぱり欲しい、それだけ世界中の誰よりも私の事を真剣に想ってくれているわけだから。
 私は何も言わなかった。だけど精一杯の笑顔を送った。


161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/12(火) 23:59:51.19 ID:gQ7c2A0Fo


 その後、病院の先生に言われた通り3日後には無事退院する事ができた。
 すぐに学校に復帰した私を出迎えたのは嬉しそうに「おかえり」と言ってくれる憂と純、2人の顔を見たらまた日常に帰ってこれた幸せで胸がいっぱいになる。
 後輩達は既に仲直りしていて迷惑掛けてしまった事を謝ってきたけど私の方こそこの子達にも心配かけてしまったのでなんか申し訳ない気持ちでいっぱい、お互い様なのかな?
 仲直りした理由も詳しくは教えてくれなかったけど、あの日私がもうすぐ病気で死んじゃうのを聞かされてかららしい。 
 とにかく今は病気の事や私の残された時間の事は自分の口で説明しなきゃいけない。そう思った私は今日中にでも放課後の部室で後輩達に自分の病気、これからどうするかをしっかりと話す事にしよう。

純「梓、ギター演奏して体大丈夫なの?」

梓「1日3、40分程度ならやってもいいって許可もらってるから」

梓「本当はね、これからもっと体調が悪くなってくるから学校も部活も続けるべきじゃないって思うんだ。だけどここまで来たら最後までやり遂げたいから……純、憂、本当に勝手なお願いかもしれないけどよろしくお願いします」ぺこり

純「何言ってるの!私は梓に付いていくって決めてるんだから例えあんたがダメって言っても何処までも付いていくからね!」

憂「そうだよ。私達友達なんだから、大変だと思ったらどんどん迷惑かけてよ、ね?」

梓「純、憂……2人にはホント感謝してもしきれないよ……」


162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:06:25.22 ID:QNBPIm/xo


 その後、部室に5人揃った所で話をした。
 とても重ーい空気、そして後輩の2人、元気がないな……きっと私の病気が気になってるんだろうな。
 とにかく話そう……今言えるだけの事を。
 私の命が残り少ないのは事実でそれは変えることのできない運命だけど今の私には迷いや恐れはないから。残りの人生をしっかりと生きると。
 とにかく今は学祭を絶対に成功させるように頑張っていこう。
 それが今の私達のさしあたっての目標なんだから、と。
 私は気持ちの沈みこんだ後輩を励ましながらそう言った。
 話している内にみんなに笑顔が戻ってきた、やっぱりみんな一緒に笑っていたいもんね。
 全てを話し終えた時私は清清しい気持ちになっていた。
 そしてこの日、軽音部はいつもの賑やかさを取り戻した。

 先輩達も見に来てくれた学園祭のライブは大成功に終わった。
 ライブが終わった後部室でみんなにお礼を言って後輩達にこれからの軽音部を任せると伝えた。
 そう、今日で3年生は部活動を引退する。これからはこの子達がこの軽音部を引っ張っていかなきゃいけない。
 かつて私が先輩達から伝えられた想いを今度は私が後輩達に伝えていく事がちゃんとできたんだよね。
 私の今の心は澄み切った青空のように晴れやかだった。


163:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:07:28.04 ID:QNBPIm/xo


 そしてしばらく経ったある日

―― 写真屋

カメラマン「準備ができましたらどうぞ」

梓「よしっ……と。私の方はいつでもいいです。唯先輩、どうですか?」

唯「えー、ちょ、ちょっと待ってよぉ」

梓「もう!早くしてくださいよ。待たせちゃってて悪いでしょ。ほら、手伝ってあげますよしょうがないなぁ」

唯「へへー、すいませんねぇ」

梓「ったく唯先輩はもう……」がさごそ

梓「よし、出来ましたよ。すいませーん、Okです」

カ「ヘアピンの方はもう少し寄ってくださいね。カメラに入りきらないので」

唯「こうですか?」

梓「せ、先輩!くっつきすぎですよ!体当たってます!//」

唯「いいじゃんいいじゃん。私達にとって初めての記念写真なんだからさ」

梓「……もう、しょうがないですね……今回だけですからね//」

カ「それじゃいきまーす!はい、チーズ!」

 2人で力を合わせてこれからを過ごしていく決心をした今の私達は生きる希望に満ちている。
 その一方で私達はゆるやかに心の準備を始めている。やがて訪れる永遠の別れの日に向かって

 第4話 終


164:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:10:12.98 ID:QNBPIm/xo


 第5話

純「ほら梓、早く早くー」

梓「ちょっ純!そんなに手引っ張らないでよ!痛いって!なんなのよもう」

純「へっへー、到着ー」

梓「到着って……ここ平沢家じゃん」

純「まあどうぞどうぞ、遠慮なくあがってくださいな」

梓「別にあんたの家じゃないでしょ」

純「まあそうなんだけどね」

がちゃっ

梓「お邪魔します……っと。静かだなぁ、誰もいないの?」

純「さ、どうぞどうぞこの中へ」

梓「何なのよもう」

 純のよそよそしい態度を疑いながら居間のドアを開けると……

クラッカー「ぱぁ~~~ん!!!」

唯澪律紬純憂「お誕生日、おめでとうーーー!!」

梓「うわあぁっ!」びくっ

梓「びっくりしたー。心臓に悪いですよこれ」

澪「悪いな梓、唯と律の提案で梓を驚かせようとサプライズ仕込んだんだ」

唯「あずにゃん、今日は何日か知ってる?」

梓「今日はえっと……11月11日…そうか、私の誕生日だったんだ」

律「なんだよ自分の誕生日くらい覚えとけよー」

梓「まさか自分の誕生日を祝ってくれるなんて思ってもいませんでしたから考えてもいなかったです、予想外ですよ」

唯「私達今迄1度もあずにゃんのお誕生日会やってなかったからね。今年こそやってあげようって」

紬「私1度でいいからお友達の誕生会で三角帽子被ってクラッカー鳴らすのが夢だったの~」

梓「ありがとうございます。本当に何て言ったらいいか」

純「おめでとう梓、これで今日から18歳だね」

梓「そっか……私18歳になったんだ……なれたんだ」

律「そうだぞー梓、今日から18歳だ。パチンコ行ける年齢だぞ」

澪「パチンコなんでどうでもいいだろっ!」がつん

律「いでぇー」

梓「18歳……なれたんだ……」

憂「梓ちゃんの為に今日はいっぱいお料理作ったからね。どんどん食べてね」

唯「ほらあずにゃん早くこっちおいでよ」

 前に誕生日を祝ってもらったのはいつだろう、確か小学生の頃に家族に1回やってもらったっきりだったな。
 まさかこんな大勢の人に盛大に祝ってもらえるなんて夢みたい。
 そして18歳、歳をとるなんて何とも思ってなかったけど今はとても感慨深い。次は365日後の19歳か……また祝ってもらえたらいいな。何時の間にか私は贅沢な考えをしていた。

純「ほら早くしないと梓の分も食べちゃうぞー」

梓「ああっ!もう、待ってよ純!」

 私は十分すぎる程満喫しています。今の充実しすぎた日々を。


165:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:12:28.32 ID:QNBPIm/xo


 それからの日々は大学の受験勉強の日々だった。
 かつて先輩達がそうしたように私達も音楽室で後輩達の演奏をBGMにして勉強に励んでいる。
 第一志望は当然N大、そして憂も純も同じN大を志望していた。
 勉強の甲斐あって受験は3人揃って合格、ようやく肩の荷が降りた気がする……あとは卒業式を迎えるだけだね


166:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:16:26.86 ID:QNBPIm/xo


―― 2012年3月・水族館
 
 今日はデートの日、私の希望で行き先は水族館。

唯「ちょっとあずにゃーん、くっつきすぎだよぉ。もう、他の人達が見てるじゃん//」

梓「離れませんよ、いつぞやの仕返しです」

唯「えー。じゃあ私もっ」ぎゅっ

梓「ふにゃあ//」 
 
唯「そういや今日のデートはあずにゃんにとっては高校生での最後のデートだね」

梓「そうですね。唯先輩としても独身最後のデートでしょう」

唯「だねー」

老人「あのー、ちょっといいですかな?」

唯「ほえ?」

梓「私達ですか?」

老婆「ええ、お嬢ちゃん達にちょっと頼みがあってねぇ」

梓「どうしました?」

老人「このカメラでわし等の写真を撮って欲しくてねぇ」

梓「はい、そういう事なら喜んで」

 私はデジカメを受け取って2人の前に立ってシャッターとフラッシュの位置を探る。
 ふと片割れの御婆さんが話しかけてくる。

老婆「出来れば日付を入れたいんだけどねぇ…私達機械あんま得意じゃないからどう操作すればいいのか分からなくて」

梓「日付ですか?分かりました。何とかやってみます」

老人「ほら、いいから日付なんて。時間取らせてその子達に迷惑かかるじゃろう」

老婆「何言ってるの!記念の大切な日なんだから日付がなくてどうするの!」

唯「今日は何かあったんですか?」

老婆「ええそうよ。今日は私達夫婦の50年目の結婚記念日なのよ」

梓「わぁー!結婚してから50年目なんですか!すごいじゃないですか!おめでとうございます」

老人「ありがとう。ところで君達はお姉さんと妹さん?すごく仲良さそうに見えたからねぇ」

唯「ちがいますよー」

老婆「じゃあ恋人同士かねぇ」

梓「なっ//」

老婆「図星のようねぇ。いいわねぇ初々しくて。私達にもこんな頃があったのよねぇ」

唯「私達、今月から一緒に暮らすんですよ」

老婆「あら、いいじゃない。おめでとう」

唯梓「ありがとうございます」

梓「あ、何とかなりましたよ日付、撮りますね」

老婆「ありがとうねぇお嬢ちゃん」

梓「いえ、こんな大事な日の写真に日付入れないなんて勿体無いですから。それでは行きますよ」

――

老人「すみませんねぇお嬢ちゃん達、わざわざ時間とらせてしまって」

唯「私達なら気にしなくていいですよ」


167:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:17:30.35 ID:QNBPIm/xo


老婆「それじゃあ私達は失礼するわね。あなた達も先は長いけど私達みたいに50年目指しなさいね」

唯「……」

梓「……」

 私達2人は返事に詰まった。だって50年先の将来を考えるカップルではなく死に向けて考える普通とは違うカップルなのだから……
 しばらく間があり私は横を見てみる。そこには同じく私を見つめる唯先輩の姿が。
 言葉を交わさなくても何が言いたいのかはお互い表情だけで理解できている、小さく頷いた後私達は正面を見据える。
 
唯梓「はいっ!」 

――

梓「ねぇ唯先輩」

唯「何?あずにゃん」

梓「唯先輩と約束したい事があります」

唯「約束?」


168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:18:20.89 ID:QNBPIm/xo


 そう、私達は約束した。
 私達は愛し合うことを約束した。
 私達は50年分愛し合うことを約束した。


169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:20:09.89 ID:QNBPIm/xo


―― 同年3月8日・病院

 この日の定期健診はいつもと違った。
 隣には唯先輩が付き添ってくれている。

梓「先生の予想外れましたね。先生に持って1年と言われたのに1年以上たちました」

金田「そうだね、痛みはある?」

梓「いえ、薬が効いてるみたいです」

金田「物は食べられる?」

梓「問題ないです。まだ入院しなくても大丈夫ですよね?」

金田「一応病人なんだし僕としては入院を勧めたいんだけどね」

梓「先生、やっぱり私は入院しないでこのまま普通の生活を続けて行きたいんです」

金田「平沢さんも、同じ考えかな?」

唯「はい」

金田「それはそうと、いよいよ明日卒業式だね」

梓「はい、まさかこうして卒業式に出られるなんて夢にも思いませんでした」

金田「卒業おめでとう」

唯「おめでとう、あずにゃん。約束守ってくれたんだね」

梓「ありがとうございます。先生も、唯先輩も」

金田「ところで約束って何?」

梓「べ、別に何でもないです!唯先輩、先生の前で変な事言わないでください」

唯「えー、別にいいじゃーん」

金田「ははは、本当に君達楽しそうだよね。これじゃまるで新婚さんだよ」

梓「また!茶化さないでくださいよ先生!」

 余命1年を宣告されてから既に1年以上過ぎている。
 私達は何も変わりなく過ごしている。
 さあ、明日は卒業式だ!


170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:22:10.68 ID:QNBPIm/xo


―― 桜高

 今日は私達の卒業式、色々あったけど無事にこの日を迎える事ができた。
 
梓「――そして、後輩の皆様方のご活躍と、桜ヶ丘高校の一層の発展を願い、ここに答辞とさせて頂きます」

梓「平成24年3月9日、卒業生代表・中野梓」

――

梓「ふぅー、緊張したー」

憂「答辞お疲れ様梓ちゃん」

梓「てか何で私にこんな役廻ってくるのよ。普通生徒会長の役目でしょこれ」

純「まあまあ、でも終わっちゃったよね卒業式」

憂「そうだね」

梓「これで高校生活ともお別れ、か」

憂「大学行ってもみんな同じ大学だからあんまり実感ないよね」

梓「おまけに先輩達も同じ大学だし、結局今までと変わらないしね」

純「それで梓はいつ引越しするの?」

梓「もう荷物まとめてあるし、すぐにでも行くつもりだよ」

純「ったく……ラブラブすぎるわあんた達」

さ「ちょっとあなた達いつまでそこにいるの?そろそろ最後のHR始めるわよ」

梓憂純「はーい」

梓「ほらいくよ2人共」

憂「うん!」

純「ちょっ、待ってよあずさー」


171:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:23:55.02 ID:QNBPIm/xo


 コンコン

唯「はーい」

 がちゃっ

唯「いらっしゃーいあずにゃーん」ぎゅっ

梓「にゃあっ!えへへ…来ちゃいました」

唯「待ってたよー、さ、どうぞどうぞ」

梓「お邪魔します」

唯「お邪魔しますだなんて変だよ。今日からここがあずにゃんの家なんだからただいまだよー」

梓「そうでしたね……ふふっ」

梓「……ただいまです、先輩」

唯「おかえり、あずにゃん」

梓「前来た時と同じであんま散らかってませんね」

唯「そうだよー、しっかり整理しておいたからね」

梓「とりあえず荷物置かせてください」

唯「はいよー」


172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:26:20.11 ID:QNBPIm/xo


 その夜、私達はテーブルを囲んで夕食をとっていた。
 2人分の食器がギリギリ乗る程度の小さなテーブル、だけどその分お互いの距離も近い。
 こじんまりとしたささやかなディナーだけど、今の私にとってはどんな高級料理や一流レストランも適わない素晴らしいものだった。

唯「味はどうかな?」

梓「美味しいです……本当に美味しいですよ唯先輩」

唯「よかったー、マズいとか言われちゃったらどうしようかと思ってヒヤヒヤしてたんだよ」

梓「本当に美味しいですから。私がお世辞言う人間じゃない位先輩なら分かりますよね」

唯「うんっ」

 どうやら唯先輩は私からプロポーズを受けたその日から憂に頼みこんで家事全般を教わっていたらしい。
 病気持ちでこれから先体調もままならなくなり満足に体も動かせられなくなるかもしれない私を支えていける様にしたいからって教えてくれた。
 やっぱりこの人はその気になれば何でも出来る人なんだな……ギターだけじゃなくて勉強も、家事も。


173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:31:43.85 ID:QNBPIm/xo


唯「ねえねえあずにゃーん」

梓「どうしました?」

唯「あずにゃんってさ、小学生の頃からギターやってたんだよね?」

梓「ええ、そうですけど」

唯「本格的に始めるようになったきっかけの出来事とかあったの?」

梓「両親がジャズバンドやってたって話は前にも聞きましたよね」

唯「うん」

梓「確かにそれもあるんですけど本当のきっかけは別にあるんです」

梓「その頃の私は小学校のクラスでもあんまり友達とかいなかったんですよ」

唯「えー、以外だなー」

梓「私って元々人付き合いが得意じゃなかったんです。家族は仕事で家にいない日の方が多いし学校でも家でも1人でいるのが殆どだったんです」

唯「ふむふむ」

梓「そんな時期に家にたまたま置いてあったギターを見つけて見よう見まねで始めたんです。最初は暇つぶしと寂しさを紛らわす手段のつもりでやってただけでしたけど何時の間にか日課になってしまって」

梓「音楽がきっかけで友達も少しですけど出来ましたね。先の話になりますけど中学でも音楽系のクラブに入れたし」

梓「その後両親が私がギター始めたって話を知ってそれからですね。両親の演奏会や色んな場所でやっているライブを見に付いていって段々と夢を見るようになっていったんです」

唯「夢?」

梓「プロになりたかったんです私。生きるのなら好きだった音楽でやっていきたかったんですよ。大勢のお客さんの前でスポットライト浴びて演奏してみたかったんです。両親と同じように」

梓「尤もすぐに諦めちゃったんですけどね……」


174:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:32:38.25 ID:QNBPIm/xo


唯「えーっ!勿体無いじゃん。あずにゃん演奏上手なのに諦めちゃうなんてさー」

梓「実際プロになると事務所や周りの声とかのしがらみやら何やらで大変なんですよ、好きでやっていた筈なのに何時の間にかその好きな音楽が好きでも何でもない物になっていくんです。両親がそうでしたから」

梓「すいません、なんか頭では分かってても口に出してみると具体的に説明はしにくいんです」

唯「ううん、何となく分かるよあずにゃんの言いたい事は」

梓「実際年に多くの人がデビューしてるんですけどその殆どは数年の内に姿を消すんですよ。流行るのは早いけど飽きられるのも早いんです。そうなったら後には何も残りませんよ」

梓「だから私はあくまで音楽は趣味に留めて無難に過ごすようにしたんです。余命宣告されてそれも否定されたんですけどね」

唯「でもさ、やってみなけりゃ分からないよ?もしプロになってみて実際そうなったとしてもやらないで後悔するよりよっぽどいいと思うな」

梓「そういえば先輩方が軽音部立ち上げた時の目標は武道館デビューでしたね」

唯「今でもそうだよー。私達大学でも軽音やってるし武道館が目標なのは変わってないよ」

唯「そうだ!あずにゃんの次にやるべき事思いついちゃった」

梓「どんなのです?」

唯「バンドのコンクールに出てみようよ!私達5人でさ」

梓「コンクールですか……」

唯「そうだよ!あずにゃんの夢だったんだよね?大勢の人の前で演奏するのって」

梓「そうですけど……上手くいくんですかね。私達のバンドが学校の外で演奏したのって3年前の大晦日のライブの時だけだったし」

唯「やってみなきゃ分からないよ。バットを振らなきゃヒットも出ないし点も入らないよ!」

梓「押し出しやスクイズがありますけど」

唯「ぶーっ!意地悪いわないでよー」

梓「すいませんすいません……ふふっ」

唯「もー」

梓「でもそうですよね。夢を目指せる最後のチャンスですもんね。それに先輩達となら何があってもやっていけそうな気がします」

唯「そうだよー。じゃあさ、明日早速りっちゃん達に相談してみようか」

梓「はいっ」


175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:37:15.07 ID:QNBPIm/xo


 翌日、私達軽音部5人はいつも集合場所に使っているマックに集まった。
 勿論昨日唯先輩と話し合ったコンクールの話をする為に。

律「コンクールかー。何か面白そうだよな」

紬「そうねぇ、何だか楽しそうね学校の外でみんなと演奏だなんて」

梓「何か目標があった方が練習にも身が入りやすいと思うんですよ」

澪「それってやっぱ学園祭や新歓の時よりも人がいっぱい来るんだよな?」gkbr

律「そりゃあそうだろ。何たって優勝すればメジャーデビューの可能性だってあるんだし関係者もいっぱい来るんじゃないの?」

澪「うぅっ……無理だろ学園祭よりも大勢の前で演奏だなんて……」gkbr

梓(相変わらずだなぁ澪先輩)

紬「今回の提案考えたのってやっぱり梓ちゃんなの?」

梓「いえ、唯先輩です」

律「へぇー、唯がなぁ……コンクールに出ようなんて言い出すなんてなぁ」

唯「私ね、みんなと一緒に武道館のステージに立ってみたいんだよ。だってそれを目標に高校1年生の時からやってきたんだよね」

唯「それにね……私の夢だけじゃなくてあずにゃんが一度諦めかけた夢でもあるから……」

唯「みんなちょっと聞いてくれるかな?……あずにゃん、昨日話してくれた事言ってもいい?」

梓「はい」


176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:38:13.03 ID:QNBPIm/xo


 唯先輩は昨夜話した一部始終を話し始めた。
 私が話したギターを始めたきっかけ、夢を持ったけど諦めた話、ありのままの話を。
 そして私にとっては最初で最後のチャンスだという事も。

律「そっか……なるほどなぁ……」

紬「私は賛成よ。折角唯ちゃんと梓ちゃんがこんないい話持って来てくれたんだもの。やらない手はないじゃない」

律「私も賛成だぜ。だって人に聞いてもらいたいから音楽やってるんだもんな。メジャーデビューとかそういうの関係なしに私等の演奏がどこまで通じるか確かめてみたいし」

律「……で、澪はどうなんだ?」

澪「……恥ずかしいけどやるよ。だって何時までこのメンバーで音楽やっていけるのか分からないだろ。だから私もやるよ。梓が諦めかけた夢、私達でやってみたいじゃないか」

唯「ほいじゃー決まりだね!」

梓「そうですね。律先輩、大学で練習する場所確保してあるんですか?」

律「もちろん!去年私が軽音部立ち上げたからな。練習場所もお茶やれる場所もバッチリ確保済みだ!」

澪「お茶はどうでもいいだろ」

梓「大学行っても相変わらずいつも通りの軽音部なんですねみなさん」

唯「それがあってこその私達軽音部だからねー」

梓「そうですよね」

律「よし!そうと決まれば明日からやるぞー!」

全員「おー!」

 という訳で私達放課後ティータイムは1年ぶりに再始動した。
 目指すは秋に行われるバンドコンクール。
 これが私の人生の集大成になるかもね……だけど大好きな先輩達と少しでも長く音楽をやりたいから……


177:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:39:58.03 ID:QNBPIm/xo


―― 4月・病院

金田「うぅむ……」

梓「どうしたんですか先生。まさか体の状態がそんな悪いんですか?」

金田「いやね……」

金田「その逆!すごくいいよ!いやぁーびっくりだよ。体の状態すごくいいよ」

梓「もう……脅かさないでくださいよ」

金田「いやーごめんごめん。つい、ね」

梓「悪ふざけにも程がありますよ」

金田「それでどう?大学生になってうまくやれてる?」

梓「それはもう!病気なんて忘れる位楽しくやれてますよ」

金田「そっか、それはよかったよ」

梓「先生、私達秋に行われるバンドコンクールに出る事になったんですよ」

金田「ほほぅ……それはそこにいる平沢さんも一緒に?」

唯「はい、勿論」

梓「先生、私絶対コンクールに出場します。今はそれが私の生きる第一の目標になったんですから」

金田「いいと思うよ。目標があれば生きる糧にもなるし、今の君にとってはすごく大切な物だよ」

梓「先生にもそう言ってもらえて安心しました」

金田「平沢さんも中野さんをしっかりと支えてあげてね。今の君なら要らぬ心配だと思うけど一応ね」

唯「勿論です。2人で決めた目標なんだから最後まで2人でやり遂げます」


178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:41:42.01 ID:QNBPIm/xo


 それからは練習に明け暮れる毎日。
 勿論大学の勉強も両立させてるけどね。
 講義が終わった後は部室で毎日練習、ただ私がギター触っていられる時間が病院の方で制限されてるので練習時間は3~40分程度でその分中身は濃くやっている……つもりだけどどうなのかな。
 残った時間は高校時代と何ら変わらないティータイム、何だかんだでコレがないと私達じゃないし……私も完全に毒されちゃってるな。


179:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:45:23.47 ID:QNBPIm/xo


―― 5月末・唯と梓のアパート

 この日は軽音部の先輩方と純、憂を家に呼んでお食事会を開いた。
 元々あんまり広くない部屋に7人も入ったからかなりぎゅうぎゅう詰めな部屋の中、でも案外何とかなったりもする。
 テーブルは同じアパートに住んでる憂が自分の部屋から持ってきてくれたのも使って何とか広さを確保できた。

唯「今日はみんなどんどん食べてね!」

律「言われなくても食べてるぜ!」

澪「お前は食べ過ぎだっ!」

紬「いいわぁこのお部屋。なんか家庭的でいい匂いがして2人がいつもどんな生活してるのか分かる気がするわぁ~」ほわほわ

梓「どんな想像してるんですか……」

純「でもいいの?今日は軽音部の集まりなんでしょ?私達部外者なんじゃ」

梓「気にしないでよ。純と憂には普段からお世話になりっぱなしだったからさ。それに2人共軽音部じゃん」

憂「言われてみればそうだったね」

純「最後の1年だけだったけどね」

澪「それにしても本当に料理上手だよな。これって梓と憂ちゃんが作ったんだろ?」

憂「違いますよ。この味は多分、お姉ちゃんが作ったんじゃないかな」

律「味で分かるのかよ……てか唯が作った!?マジで?」

唯「大マジだよー。ちょっとあずにゃんにも手伝ってもらったけどね」

律「という事はあれか、クリスマス会の時みたくイチゴのせるだけの簡単なお仕事だったりとか」

唯「りっちゃんシドい!」

梓「殆ど唯先輩ですよ。私は本当に補助的な部分しかやってません……というか入る余地が殆どなかったんです」

憂「1人暮らし始める前からお姉ちゃん特訓してたからね。今はもうそれ以上の事まで出来てるしやっぱりお姉ちゃんはやれば出来る子なんだよ」

純「さすが平沢姉妹……」

律「でもこの寿司の舎利、ちょっと柔らかすぎないか?」

唯「えーっ!?そっかなぁ……丁度いいと思ったんだけどなぁ」

梓「いいんですよ、私はこれでいいと思います。美味しいですよ先輩」

唯「あずにゃんにそう言って貰えるなんて最高の褒め言葉だよー」

憂(確かにこの舎利少し柔らかすぎる。でもこれは失敗したんじゃない、ワザとだよ……病気で食べ物が喉を通りにくい人でも食べやすいようにあえて柔らかくしたんだ……お姉ちゃんそこまで……)

唯「そういえばりっちゃんと澪ちゃんも一緒に住んでたんだよね」

澪「ああ、でも料理は専ら律が担当してるけどな」

律「澪といるお陰で翌日の話のネタには困らないぞ。昨日も部屋に出たゴキブリを新聞紙で叩いて潰したら澪の奴布団被って隠れちゃってさー」

澪「一々お前は余計な事言うなっ!」がつん

律「たわばっ」

唯「あっ!そろそろピザ焼きあがるから持って来るねー」

梓「私も手伝いますよ」

唯「じゃあお願いねあずにゃん」

梓「はいです!」

憂「……お姉ちゃん…梓ちゃん……」


180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:46:57.21 ID:QNBPIm/xo


 みんなが帰った後片付けを済ませた私は今一息ついている処。
 病気の症状かどうなのかは分からないけどちょっと胃がもたれてるようだ。

梓「すいません、ちょっと背中さすってもらえませんか?」

唯「お腹痛いの……?」

梓「いえ、そこまで悪いわけではないんですが」

唯「じゃあやるねー」

梓「はい、シャツめくりますね」

唯(!?あずにゃんの体、すごく痩せちゃってあばらが見えそう……やっぱり病気進んでるんだ……)

梓「どうしました?」

唯「あ!ううん、何でもないよ」
 
唯「えっと、この辺でいい?」

梓「もうちょっと下、胃の後ろあたりお願いします」

唯「こうかな?」

梓「はい、そこです」

唯「やっぱりあんまし調子よくないの?」

梓「ただの食べ過ぎだと思いますよ。ほら、あの人達といるとついつい自分も釣られちゃって余計に食べてしまいますから」

唯「そうだよねー。私もちょっと食べ過ぎちゃってお腹パンパンだもん」

梓「やっぱり楽しいですよねこういうのって」

唯「そだねー」

梓「いつまでもこんな毎日が続けばいいですよね」

唯「続くよ、私とあずにゃんがそれを願えばいつまでも楽しくいられるよ」

梓「はい」


181:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:48:01.75 ID:QNBPIm/xo


―― 翌日・病院

金田「あなたは……平沢唯さんの妹さんでしたよね」

憂「はい、いつも姉がお世話になってます」

金田「それで、今回はどのようなご用件で?」

憂「姉と梓ちゃんの事なんですけれど……」

金田「中野さんとお姉さんがどうかなさいましたか?」

憂「姉も梓ちゃんもとても楽しそうで、このままずっと生きていてくれるんじゃないかって思うほどです。でも2人の愛情が深まれば深まるほど心配になるんです」

金田「どんな心配を?」

憂「その……別れが来た時、姉はどうなってしまうんだろうって。そんな事を考えてしまうんです」

金田「平沢さん、僕の知っている限りでは愛情が深まるほど、そして楽しい時間を過ごした人ほど残された後楽しい人生を送っていますよ。お姉さんを信じてあげて大丈夫なんじゃないですか」


182:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:52:25.61 ID:QNBPIm/xo


―― 夜

 私と唯先輩は床についていた。
 部屋の中に1つしかないセミダブルサイズのベッドの上で2人くっついて寝るのが毎夜の日課。
 最初は唯先輩が勧めてきたんだけど私は正直恥ずかしいから断った……はずだった。
 やっぱり内心は先輩と一緒に寝たかったんだよね。
 結局部屋が狭くてもう1人分布団敷けないからって理由でOKした。
 表向きはね……我ながら本当素直じゃないなぁ。

 夜も更けようとしているのに私達は暗闇の中まだ起きていた。
 2人で背中をくっつけ合わせた状態でお互いの顔は見えない、というより暗いから元々見えないかも。

唯「ねぇあずにゃん」

 不意に唯先輩が話しかけてきた。
 私は背中合わせの体勢を崩さずに返事をする。

梓「まだ起きてたんですか」

唯「うん」

唯「あずにゃんに聞きたい事があったんだ」

梓「なんですか」

唯「初めて私に会った時の第一印象ってどうだったの?」

梓「そうですね……1年で見に行った新歓ライブで初めて唯先輩を見て同じギタリストとして私憧れたんですよ。だってあんなに人を惹きつける演奏するんですもの。きっとすごい人なんだろうなーって」

唯「へへー」

梓「もっとも入部してすぐに幻滅させてもらいましたけどね!」

唯「えーっ!しどいよあずにゃーん」

梓「だってお茶ばかり飲んでて練習もまともにしない、楽譜は読めない、コードも覚えられない、おまけにギターのメンテもまともにしない、居眠りと遅刻ばっかですぐ人に抱きついてくる、挙句の果てには勝手にあずにゃんだなんて変なあだ名をつけるし最悪でしたよ」

唯「がーん!重いよ!今のその言葉重いよあずにゃん!」

梓「だって事実ですから」

唯「そんなぁー」

梓「でも」

唯「でも?」

梓「ずっと先輩達といる内に分かったんです。唯先輩がただ傍にいるだけで安心するし、その笑顔を見て元気付けられて今まで何度も助けられたりもしました。今なら憂が何で先輩をあんなに慕っていたか分かる気がします」

唯「うん」

梓「やっぱり唯先輩は……初めて新歓ライブで受けた印象通りの私が憧れてた最高の先輩でした」

唯「あずにゃん……」

梓「私の中ではもう唯先輩無しの人生なんて考えられません。私という人間を構成する上での1番欠けてはいけない重要な要素なんです。だからこれからも私の傍を離れないでいてください」

唯「絶対離れたりなんかしないよ、絶対にあずにゃんを1人ぼっちになんかさせないから。もうあずにゃんは1人じゃないよ」

 唯先輩はそう言った後、私の両脇に両手を回りこませて優しく抱きしめてくれた。
 突然の行動に思わずドキッとして声を上げそうになるが踏みとどまった。
 そしてお返しとばかりに私は唯先輩の方に向き直り同じように抱きしめた。
 暗闇で顔は分からないけど吐息が顔にかかり息づかいが聞こえる。
 そう、当たりそうになる程近い距離で私達は顔を近づけ合わせていた。

梓「はい……これからもよろしくお願いしますね」

唯「こちらこそよろしくね。愛してるよあずにゃん」

梓「私もです。愛してます唯先輩」

 私達は唇を合わせた。
 限られた時間の中で私達はお互いの愛情を確かめ合った。


183:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:54:43.07 ID:QNBPIm/xo


―― 6月

律「佐々木さん、ちょっと話があるんだけどさ」

純「鈴木です」

律「ああ、そうだった。永田さん」

純「……もういいです」

律「まあどっちでもいいや。今日呼んだのはさ、私達とバンドやらないかって聞く為に呼んだんだ」

純「え?私をHTTの新メンバーに?」

唯「そだよー。みんなで相談して決めたんだ。ね?」

紬「ええ」

梓「純も3年の時に軽音部入ってくれたからさ。だからまたやろうよ私達と今度は6人で」

純「ちょっと待って、6人って憂には声かけたの?」

梓「憂には断られちゃった。私達のサポートに回りたいんだって」

律「梓の友達なら私達の友達でもあるからな、どう?」

純「そうなるとベース2人になっちゃいますよね」

澪「私は構わないぞ。ツインベースのバンドなんて他にもいるし」

純(そうだ!憧れの澪先輩と2人で組んでベースが出来る!なんて夢のような)

純「やります!やらせてください!」

律「よし、決まりだな!それじゃこれからよろしくな」

純「はい!」

梓「また同じバンドだね。よろしく純!」

純「よろしく梓」

梓「それはそうと」

純「なに?」

梓「純、あんたひょっとして『憧れの澪先輩と2人で組んでベースができる』て考えて決めたでしょ」

純「ギクッ!い、いいじゃん別に!」

梓「ぷぷっ、顔真っ赤」

純「梓のくせに生意気だーッ!」

 こうして今月から私達放課後ティータイムは6人編成になりました。
 やかましいのが入ってきたから余計に騒がしくなりそうだけど。
 ……楽しみだな♪


184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:57:19.87 ID:QNBPIm/xo


 私達はその後、毎日を充実させて過ごしている。

―― 6月中ごろ
 
梓「せんぱーい、具が出来ましたよ」

唯「よっし!それじゃそこの餃子の皮で包んでくれないかな?」

梓「了解です」

梓「……難しいですね。歪な形になっちゃいましたよ」

唯「いいじゃんいいじゃん!なんか手作りって感じするもん。この調子で夕方までに仕上げちゃおー」

梓「はいです!」

―― 6月末

梓「先輩!レポート出来たんですか?もうすぐ提出期限ですよ!」
 
唯「まだ手付かずですすいません……」

梓「もう!そんなんじゃ単位落としますよ!ほら、手伝いますから早く終わらせますよ」

唯「おおっ!さっすがあずにゃーん」ぎゅー

梓「はーなーれーてーくーだーさーい」


185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:58:07.67 ID:QNBPIm/xo


―― 7月

梓「先輩、この洗濯物ちゃんと畳めてませんよ」

唯「えー、出来てると思ったんだけどなぁー」

梓「出来てません。ここの袖の端、折れちゃってるじゃないですか」

唯「これぐらいいいじゃーん」

梓「ダメです。やり直し」

唯「ちぇーー!あずにゃんのいけずー!」


186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 00:59:39.82 ID:QNBPIm/xo


―― 7月7日

唯「ただいまー」

梓「おかえりなさい先輩。あれ?その竹どうしたんですか?」

唯「ムギちゃんに分けてもらったんだよ。今日七夕だもんね」

唯「だからさ、飾り付けしようよ!ね?」

――

唯「どう?出来たかな?」

梓「こっちは終わりましたよ」

唯「短冊いっぱい付けたねぇ」

梓「そうですね」

唯「それじゃあさ、一番大きいこの短冊、2人分の願い事書こうよ」

梓「はいっ!何にしましょうか……そうだ!」

 カキカキ

梓「よし、出来ました!」

唯「じゃあこれは一番目立つ場所に……っと。完成だね!」

梓「綺麗ですね」

唯「うん」

梓「あの短冊の願い事、叶えばいいですね」

 【少しでも長く一緒にいれますように ゆい&あずさ】


187:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:00:54.90 ID:QNBPIm/xo


―― そして夏

唯「あずにゃーん、憂からスイカ貰ってきたよー」

梓「丸々1個ですか。太っ腹ですね憂も」

唯「早速食べようよー」

――

梓「唯先輩、何で真ん中だけ食べてるんですか?」

唯「私ね、スイカの真ん中の種の無い場所だけくり貫いて食べるのが夢だったんだよぉ」

梓「お行儀悪いですよ……」

唯「あずにゃんもやろうよー」

梓「やりません!」

―― 8月初頭・部室

梓「律先輩に唯先輩、それに純も!もうすぐ予選なんですよ!お茶ばかり飲んでないでいい加減練習しましょうよ」

純「今は暑いからもう少しして涼しくなってからね。梓もカッカしてると余計暑苦しくなるよ」

梓「カッカさせてるのはどこの誰よ」

律「そうそう、分かってるじゃん純も。こんな暑い中やっても身が入らないってもんだ。おー冷茶うめー」

澪「ったくこいつらは……結局唯もいつもの唯だし……お前等もっと真面目に出来ないのか」

唯「ほぇー?なにーみおちゃーん」

紬「今日のおやつは信玄餅よー」

唯「わーい、ムギちゃん大好きー♪」

澪梓「頭痛い……」


188:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:04:22.94 ID:QNBPIm/xo


 月日が流れるのは早いもんでお盆がやってきました。
 コンクールの予選は来月、いよいよ練習も大詰め。
 というわけで毎年恒例の夏合宿にやってまいりました。

律「さあ、泳ぐぞー!」

唯「泳ぐぞー!」

澪「だーっ!お前等練習しに来たんじゃなかったのか!」

 この光景も毎年恒例のお約束、今年で見納めになるかもしれないけどね……

純「ねえ梓」

梓「何?純」

純「軽音部って今までずっとこんな合宿やってたの?」

梓「そうだけど?」

純「くっそーっ!羨ましーーっ!」

梓「練習なんてほったらかしで海水浴して、バーベキューして、花火とか肝試しして、結局練習に割く時間なんてほんのちょっと。いい加減でだらけてると思ってたけど今じゃいい思い出だし大切な時間なんだよね」

梓「だからさ、純も遊ぼ!いっぱいいっぱい思い出作ろうよ!」

純「もっちろん!そうと決まれば行くぞーあずさー!」

梓「ちょっ、待ってよ純」

唯「おーい、あずにゃんに純ちゃーん、こっちこっちー」


189:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:08:03.04 ID:QNBPIm/xo


 あっという間に日は暮れて海水浴の後はバルコニーでバーベキュー、次に海岸で花火大会。
 練習する為にスタジオに入ったのは結局夜の10時を廻ろうとしている頃、1回通しただけで終わっちゃったけどこの人達元々本番に強いし私自身も楽しかったから別にこれでよかったよね。

 夜も更けて今私は1人で露天風呂に浸かっている。
 ぼーっとただ空を見上げてのんびりとゆったりした時間を過ごしていた。

 ふと後ろで物音が聞こえた。
 誰か来たのかな?
 
唯「おおっ!あずにゃんもお風呂ですか、奇遇だね」

梓「唯先輩でしたか。先輩も1人でお風呂に?」

唯「そだよー」

――

唯「卒業旅行行けなかったし合宿も海外じゃなくなってごめんね」

梓「気にしてませんからいいですよ」

唯「卒業旅行行こうって話した時にさ、私達の分だけじゃなくてあずにゃんが卒業する時にも行こうって約束してたのに結局行けなかったから。なんか悪い事しちゃったみたいでね」

梓「いいんですよ。この体で海外なんて飛行機の中で何かあったら大変ですし、先輩方や純がいてくれれば国内でも十分なんです」

唯「そっか……」

梓「……星が綺麗ですね」

唯「……そうだね」

梓「こんな綺麗な夜空が見れるなんてやっぱりここに来て良かったです。最高の気分です」

唯「ねぇあずにゃん」

梓「どうしました?」

唯「ちゅーしよっか?」

梓「いきなり何なんですか……でも、やってみましょうか、誰も見てないし……」

唯「ほいじゃあいくね」

 私達は湯煙の中顔を近づけていく。
 もうすぐ唇が当たりそうになった時だった、何故か思わず吹き出してしまった。
 
唯「どしたの?いきなり笑っちゃったりしてさ」

梓「いえ、なんか急におかしくなっちゃって……ぷふっ」

唯「変なあずにゃーん」

 3度目のキスシーンはこうして立上り消えていく湯気の如く幻となったのでした。


190:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:09:41.63 ID:QNBPIm/xo


 この日は疲れも溜まっていたせいもあって布団に入ったらすぐに寝てしまった。
 
 だけどこの日は珍しく夜中に起きてしまった、いつもなら一度寝たら朝までグッスリなのに。
 ふと隣の布団に目をやると、そこで寝ている筈のあずにゃんの姿がない。
 眠い目をこすって辺りを見回してみる。
 月の光が差し込んできていてかすかに明るい室内を見渡すと窓のカーテンが風でなびいているのが目に入る。
 どうやらわずかに開いていてそこから隙間風が入ってきているぽい。
 確かこの窓の向こうはバルコニーだったかな……ちょっと見に行ってみよっと。


191:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:10:42.00 ID:QNBPIm/xo


 外は夏なのに涼しい風が吹いていて少し肌寒い。
 そんな空の下、バルコニーに置いてある木製のリラックスチェアから見慣れた人の後頭部が見えた。
 何をしてるんだろう……眠れなくて外の空気でも吸ってるのかな。
 でも薄着でこんな場所にいたら風邪ひくよ。
 私はそんな心配をしつつも後ろから近寄って声をかけようとしていた。


192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:14:14.98 ID:QNBPIm/xo


唯「あーっず……」

 言いかけた私の口が止まる、なにか変だ。
 よく見るとあずにゃんの肩が震えている、どうしたんだろ。

梓「――たくない…」

唯「あずにゃん、どうしたの?」

 恐る恐る声を掛けて顔を見ると、充血した目に大量の涙を浮かべて今にも零れ落ちそうになっているあずにゃんの姿があった。

梓「死にたくないよ……まだ死にたくないよぉ……」

唯「あずにゃん……」

梓「うっううぅ……唯先輩……唯せんぱあぁぁい!……ぁああぁぁあぁぁ!」
 
 あずにゃんは泣きながら私の胸に飛び込んできた。
 胸に顔をうずめて私を強く抱きながらひたすら泣きじゃくっている。
 私は何も言わず、ただ笑顔であずにゃんをそっと抱きしめてあげた。

 うん、分かってるよあずにゃん……私は全部分かってるから……
 みんなとお別れするのが辛いんだよね?
 今の私に出来る事はこうやって抱きしめてあげる位しかないけど、それでよければ好きなだけこの胸を貸してあげるよ。
 
 いつの間にか私の目も涙で潤んでいた。
 嗚咽し続けるあずにゃんをより強く抱きしめる


193:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 01:14:58.28 ID:QNBPIm/xo


 私は怖かった、寂しかった。
 死ぬことが痛いからとか苦しいからとかじゃない。
 ちょっと前までは1人で死ぬのに何も抵抗は無かったのに今じゃとても怖い、また1人に戻ってしまうのが怖い。
 大好きな人達ともう2度と会えなくなってしまうのが何よりも辛い。

 だから私は生きたい。
 もっともっと、生きたい。
 私は今、世界で一番幸せなんだから 
 
 第5話 終


198:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:51:36.37 ID:+mvlBbuio


 最終話

―― 9月のある朝

唯梓「ごちそうさまでした」

唯「今日は私が片付け当番だったね」

梓「そうでしたね。それではよろしくお願いしますね」

唯「まっかせなさい!」

唯(あずにゃんのお皿、おかずもご飯も半分以上残ってる……もうあんまり食べられなくなってきてるんだ……)

唯(大丈夫だよね!今日はたまたま食欲がなかっただけだよね!うん)

梓「どうかしましたか?」

唯「え?な、何でもないよ。ちょっと考え事してただけだから」

梓「そうでしたか。そろそろ学校行く時間なので遅れないようにしてくださいね」

唯「うん、わかってるよー」


199:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:52:17.84 ID:+mvlBbuio


―― 午後 N大・部室 

唯「未来は誰にも撃ち落せなーーい♪」ジャジャーン

澪「今日はここまでにしようか」

紬「そうね。もう今日は40分やったものね」

律「つっかれたぁーっ!今日は随分多めにドラム叩いた気がするぜ」

唯「それはそうと、来週いよいよ予選だね」

紬「そうね、ここまで来たらもうやれるだけの事をやるだけよ」

梓「そうですね」

純「大丈夫かな……こんな大舞台経験するの初めてだしなんか緊張するよ……」

澪「なんか想像したら私まで緊張してきたじゃないかよ……失敗したらどうするんだよ……」gkbr

純「あ、す、すいません。つい」

梓「いいじゃないですか。結果はどうであれ、頑張ったって事実は絶対後に残る財産になるんですから」

律「そうだ!あと少しなんだからみんな気合いれていくぜー!」

HTT「おー!!」

唯「それじゃ帰ろっかー。今日は夕食の買い物しにスーパー寄ってかなきゃいけないからね」

梓「」ふらっ

律「梓、どうした?大丈夫か?」

梓「はい、何とか」

純「ねえ本当に大丈夫なの?ちょっと休んだ方がいいんじゃない?」

梓「平気平気!ちょっと練習しすぎただけだから。もう、純は心配性なんだから」

純「……」

唯「純ちゃん、この後時間空いてる?」

純「はい。特に用事はないですけど」

唯「だったらさ、悪いんだけどあずにゃんを家まで送ってあげてくれないかな?買い物なら私1人でもできるし」

純「はい、それぐらいなら」

梓「そんな……悪いですよ。唯先輩にお使い押し付けるなんて」

唯「いーのいーの、たまには先輩に甘えなさい!」

純「そうだよ梓、唯先輩がこう言ってくれてるんだし今日くらい休んだ方がいいって」

唯「じゃあそーゆー事だから後よろしくっ!」

澪「それじゃあ純、梓をよろしく頼むな」

純「はい」


200:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:55:18.69 ID:+mvlBbuio


―― 唯&梓の家

梓「ありがと純、あとはもう私だけで何とかなるからさ」

純「……分かった。あんまり唯先輩に迷惑かけちゃ駄目だよ」

梓「何いってんの。親みたいな説教しないでよ」

純「それじゃあ帰るよ。また明日ね梓」

梓「うん、また明日……うっ!」

純「どうしたの梓」

梓「げほっ!ごほっ!ごほっ!」

純「ちょっ!梓!どうしたのよっ!!」

梓「大丈夫……大丈夫だからあんまり大きな声ださないでよ」

純「馬鹿っ!大丈夫なわけないでしょうが!……って、あんたその手血まみれじゃん……」

梓「ドジだな私も……純の目の前でこんな格好悪い姿見せるなんてさ……ふふっ」

純「梓、病院いこ?無理だよその体じゃ!」

梓「それだけは駄目だよ……病院行ったらコンクール出れなくなっちゃうもん、絶対にそれだけは駄目」

純「コンクールなんかより梓の命の方が心配だ!」

梓「ごめん純、私どうしてもステージに立って演奏したいの。私の最期の我侭…聞いてよ……お願い」

純「最期って……なに言ってんの梓」

梓「私ね……もうあんまり長くないかもしれない。予感がする」

純「縁起でもない事言わないでよ!」

梓「私の体だからさ……何となく分かるんだ……だから純に今の内に話しておきたいんだ」

梓「もし私の身に何かあったらさ、先輩達に……」

純「嫌だよ」

梓「純?」

純「私言わないから!梓の口から先輩達に直接伝えてよ!」

梓「え!?」

純「あんたまだ生きたいんでしょ!?音楽続けたいんでしょ!?」

梓「うん」

純「だったら死ぬなんて軽々しく言わないで!!次言ったら本気で怒るからね!!」

梓「そうだったね……ごめん純、変な事言っちゃって。私ちょっと弱気になってたかな」

 がちゃっ

唯「ただいまーあずにゃーん。おっ、純ちゃんあずにゃん送ってくれてありがとねー」

唯「おかえりなさい先輩」

純「お邪魔してます」

 思い返してみると私の人生は色々な人に支えられてたんだな……
 大好きな人に愛されて、最高の親友に囲まれて……


201:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:56:35.29 ID:+mvlBbuio


―― 病院

紬「そうですか……もうそこまで症状が」
              はしゅ
金田「ええ、先月の検査で腹膜播腫とリンパ節への転移が発見されました。正直言ってあまり時間的猶予は残されていないと見ていいでしょう」

紬「あとどれくらいなんでしょうか、梓ちゃんの残りの……その……もうすぐ予選も控えてますし」

金田「明確には言えませんが遅くてもコンクールの決勝が終わったら入院してもらうかもしれません」

紬「……」

金田「本来ならすぐにでも入院して欲しいというのが医者としての意見です。ただ医者ではなく中野さんを見守る1人の人間として、あの子には晴れの舞台に立ってもらいたいという気持ちもあります」

金田「なので中野さんにも平沢さんにもこの話はまだしていません。職務より私情を優先させるなん医者失格ですかね僕は」

紬「そんな訳ないじゃないですか。本当に心遣い感謝します。あと1週間……何とかもってくれればいいのですが……」


202:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:57:41.57 ID:+mvlBbuio


 予選の日は9月18日、それまでは練習とお茶の日々が続いた。
 幸い重篤な病気の症状はあの日以来出る事はないけど正直ただ立ったり座ったりするだけでも相当身体が辛いしもうほとんどご飯も喉を通らない……でもなんとか予選の日を迎えられそうだ。
 私のこの身体、もってくれればいいな……いや、もたせてみせなきゃ!


203:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:58:21.28 ID:+mvlBbuio


―― 9月17日 夜

 今日は部屋で平沢姉妹と私の私物の身辺整理をしている。
 私がいつ死んでもすぐに実家へ荷物を送れるように準備しておく必要があったし唯先輩と憂に余分な仕事をさせたくなかったから。
 ここに来る時に必要最低限の物しか持ってこなかったせいか整理は早く片付きそうだ。
 生活日用品以外の物を次々とダンボール箱の中に詰めていく度に部屋の中の隙間が増えていった。
 そして3人でやった甲斐もあり思っていたより早く作業は終わった。
 
梓「なんとか終わりましたね」

唯「そだねー。でも部屋の中が寂しくなっちゃったなぁ」

梓「憂もわざわざ手伝いに来てくれてありがとね」

憂「気にしなくていいよ。私も久しぶりにお姉ちゃんと梓ちゃんに会いたかったし」

梓「そうだ、そこの引き出しの中に私の預金通帳と保険関係の書類が入ってます」

梓「それに私が死んだ時に連絡して欲しい人の住所と電話番号が書いてある紙もまとめて入ってます」

唯「うん、分かったよー」

梓「大丈夫ですか?まあ憂もいるから問題ないとは思いますけど」

唯「私を信用しなさい!」

梓「はあ……」

憂「コンクール、いよいよ明日だよね!お姉ちゃん、梓ちゃん、頑張ってね!私も会場見に行くからね」

梓「うん、ありがとう憂」

唯「まっかせなさい!」

唯「そうだ!あずにゃん、本番に向けて私からプレゼントがあります!」

梓「え?プレゼントですか?」

唯「今日憂と一緒に探しに行って買ってきたんだ。はい、どうぞ」

梓「開けてもいいですか?」

唯「どうぞー」

梓「わぁ……ピックじゃないですか。しかもこれ、隕石で出来たピックですよね?」

憂「そうだよ、何件も廻ってようやく見つかったんだー。お姉ちゃんがどうしてもそれがいいって聞かなくてね」

梓「なんか悪いですよ……これすごく高かったんじゃないですか?」

唯「金額なんてどうでもいいんだよー。あずにゃんに喜んで貰いたかったからさ。それに、ほれ」

梓「先輩も全く同じピックを……こんな高級なの2つも買ったんですか!?」

唯「うん、明日はお揃いのピックでやりたいもんね。へへ」

梓「ありがとうございます唯先輩、憂。私、大事に使いますから!……ペアルックかぁ、嬉しいなぁ」

憂「じゃあ私は用事も終わっちゃったしそろそろ帰るね。明日朝早いから早く寝ないと」

梓「おやすみ憂、明日はよろしくね」

唯「ういおやすみー。明日は頼むよー」

憂「またね、お姉ちゃん、梓ちゃん」バタン

唯「私達も寝よっか」

梓「そうしましょうか。寝坊なんかしたら洒落になりませんからね」


204:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 22:58:52.00 ID:+mvlBbuio


―― 9月18日 朝

梓「そろそろ時間なので行きましょうか」

唯「うーん」

梓「どうしました?」

唯「あのねあずにゃん。洗面所の蛍光灯がね、チカチカしてるんだ。もうすぐ切れちゃいそうだけど替え置いてあったっけ」

梓「蛍光灯の替えならこの前買って置いた筈ですよ。たしかこの押入れの中に……あったあった、ありましたよ」

唯「おおっ!」

梓「でももう行かないと待ち合わせに遅れちゃいますから帰ってきてから付け替えますね」

唯「おっけー」

梓「それじゃこの蛍光灯は洗面所に置いておいて、と。むったんも昨日先輩からもらったピックもちゃんと持ったし……唯先輩、ちゃんとギー太持ちましたか?」

唯「ちゃんとあるよー」

梓「私の1年目の学祭の時みたいに忘れて取りに戻るなんてもうしないで下さいね」

唯「ぶー!わかってるよぉ、あずにゃんの意地悪ー」

梓「じゃあ、行きましょうか」

唯「うん!いってきまーす」

梓「いってきます」


206:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:09:16.80 ID:+mvlBbuio


―― コンクール会場・市民ホール

律「私等の出番は午後の一発目、1時からだ」

紬「今は10時、まだ結構時間あるね」

律「演奏する曲は1組1曲だそうだ。それと来週の決勝に残れるのは5組だけだってさ」

純「結構ハードル高いんですね」

梓「まあプロの登竜門とか言われてる大会だからね。競争率高くて当然だよ」

澪「演奏するの1曲だけか……それなら今回の為に作ってきた新曲でいいんじゃないか?」

律「そうするかー。折角作ったのに披露できずにお蔵入りじゃ勿体無いもんな」

梓「まだ負けると決まったわけじゃないですよ」

律「まーそうだけどさ」

澪「あとは……舞台のセットの打ち合わせ今の内にしておかないか?」

純「そうですね」

紬「それじゃあお茶でも飲みながら決めましょ」


207:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:09:51.46 ID:+mvlBbuio


―― PM12:30

律「どうだ唯?客席の様子は」

唯「思ったより人少ないね。まだ予選だからかな」

純「そうですね。空席目立ちますし」

澪「十分多いじゃないか……」

―― PM12:50

憂「お姉ちゃーん」

唯「おおっ、ういー来てくれたんだねー。それにさわちゃんまで」

さ「教え子達の晴れ舞台だもの。そりゃあ見に来るわよ」

係員「放課後ティータイムさーん。そろそろ出番ですので準備の程よろしくお願いしまーす」

HTT「はーい」

さ「時間ね。行ってらっしゃい。しっかりやるのよ」

唯「うん!」

憂「みなさん、頑張ってくださいね!」

梓「任せてよ!」

純「そうそう、かるーく勝ち抜いてくるから大船に乗ったつもりでみててよ」

梓「純が言うと泥舟に見えてくるって」

純「なにをーー!」

憂「ふふっ」

律「よし、みんな用意はできたか?」

唯「おっけーだよ!」

紬「いつでもOKよ」

梓「やってやるです!」

純「いつでもいけます!」

澪「……ああ」gkbr

律「よっしゃ行くぜぇー!!!」

HTT「おー!!」


208:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:15:22.71 ID:+mvlBbuio


―― PM13:00 
 
 私達はステージに上がって周りを見渡した。
 正面に審査員らしい人達が数人、その後ろにそれ程人数は多くないけど観客の人達がいる。
 スポットライトが私達を照らす。
 とうとう夢の舞台に足を踏み入れたんだよね……改めて実感した気がする。
 配置は高校の軽音部時代と同じ、ボーカルの私が真ん中に立っている。
 今年入った純ちゃんは私の右斜め後ろ、澪ちゃんとの間。
 まあ澪ちゃんが前に出るのを嫌がってこの配置になっただけなんだけどね。


209:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:15:59.86 ID:+mvlBbuio


唯「どもどもー、放課後ティータイムでーす」

 いつもと同じように、というより本能的にMCを始める私。

律「ライブじゃないんだからMCはいらないんだよ!」

唯「えへへ、そうでした!それじゃ早速行きます!Utauyo!!MIRACLE」

♪~

唯「大好き 大好き 大好きをありがとう♪」

唯「歌うよ 歌うよ 愛をこめてずっと歌うよ♪」ジャーン

唯(終わったぁー)

 大成功だった。
 私も、他のみんなもミスをする事なく完璧にこなせた気がした。
 これなら行けるかな?期待で胸いっぱいな私でした。


210:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:18:54.82 ID:+mvlBbuio


―― PM13:15 楽屋前の廊下

律「いやー、最高だったぜ、な?そう思うだろ?」

唯「うん!私すっごく楽しかった!」

紬「そうねー。これなら予選突破間違い無しよ」

純「やっぱ唯先輩のボーカル上手いなー。さっすが憂のお姉ちゃん」

律「あとは結果を待つだけだな。のんびり待とうぜー」

憂「お姉ちゃーん!」

唯「ういー!どうだった?私達の演奏」

憂「最高だったよ。もっと聴いていたい位にね」

さ「あなた達お疲れ様」

紬「先生も今日はお疲れ様でした」

さ「あなた達ほんと上達したわねぇ…元顧問としても鼻が高いわよ」

唯「もっと褒めてよー褒めてよー」


211:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:28:46.39 ID:+mvlBbuio


梓「……」

澪「?梓、どうした?」

梓「い、いえ……大丈夫です……気合入れすぎて少し疲れただ……うぐっ!」

憂「梓……ちゃん?」

梓「ゲホッ…ゴフッ!うぅ……がはぁっ!!」

 何が起きたか分からなかった。
 今の状況がスローモーションで展開されているようだった。
 私の目の前で突然あずにゃんが口を押さえて苦しみだしたんだ。

澪「お、おい……梓……」

紬「梓ちゃん!?」

 あずにゃんの突然の異変に場の空気がさっきまでとうって変わって一気に凍りついた。
 私はすぐにあずにゃんに走り寄ろうとした。
 だけど私の手が届く直前、あずにゃんはまるで全ての力を出し尽くしたかのようにその場に倒れてしまった。
 
唯「あずにゃあああんっ!!!」

 私は悲鳴にも似た大きな声を上げながら走りこみ抱き起こそうとする。
 よく見るとうつ伏せに倒れたあずにゃんの顔の周りの床に赤い水溜まりが出来て広がっていってる。
 水なんかじゃなかった……この瞬間、私は頭の中に最悪のケースを想定した。
 私は血まみれになりながらあずにゃんを抱き起こしその小さな身体を両手で抱きかかえて何度言ったか分からない程名前を呼び続けた
 みんなも悲痛な声で必死にあずにゃんの名前を叫んでいる。
 けど反応はない……

さ「あなた達落ち着きなさい!すぐ救急車呼んでくるからそこで待ってるのよ」

 なんだかんだでさすが先生……緊急事態でも冷静に判断してるよ。
 
 すぐに救急車はやってきた。
 救急隊の人達があずにゃんをストレッチャーに乗せ救急車に運び入れるのを私達はただ黙って見守っている。
 そんな中、りっちゃんが後ろから私に話しかけてきた。

律「唯、お前は梓についてろ。それに純と憂ちゃんもだ」

唯「え?でもそれじゃ」

律「後は私達が何とかする。結果聞くなんて別に全員じゃなくてもいいだろ」

律「唯、お前梓に約束したんだろ!『何があっても離れない』って。だったらさ、一緒にいてやれよ。純と憂ちゃんもさ……梓の一番の友達なんだからついていてやって欲しい」

純「分かりました。私梓についていきます」

憂「私もいきます。すいません、後はお任せしますみなさん」

唯「りっちゃんありがとう!私いくね!」

律「ああ、行って梓を元気付けてやってこい」


212:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:29:16.28 ID:+mvlBbuio


―― 夕方 病院

 私と憂と純ちゃんは手術室前のベンチに座ってただじっと手術が終わるのを待っていた。
 「手術中」の赤ランプが無機質に点灯してるのを私は見つめている。
 もうここに運び込まれてから5時間位経ってるんだよね……その間私も憂も純ちゃんもこのベンチから1歩も離れたりしていない。
 2人は完全に憔悴しきっているようだった。
 私は声をかけてあげれなかった、何を言っても気休めにもならないだろうから……それだけ今が絶望的な状況なんだろうと改めて思い知らされた。

 しばらくして手術室の反対側の廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
 1人じゃない、複数だ。


213:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:29:42.46 ID:+mvlBbuio


律「唯!」

唯「りっちゃん!それにみんな来てくれたんだ」

 りっちゃん達は全力で走ってきて私の前で息を切らしながら話しかけてきた。
 
澪「それで、梓の容態は?」

唯「……心停止で危険な状態なんだって……」

澪「心停止って……嘘だろ……おい……」

憂「梓ちゃん……ぐすっ」

純「あずさぁ……ひっく……ぐすっ」

律「梓なら絶対戻ってくる!だってそうだろ、まだ決勝残ってるんだから梓ならほったらかしたりなんか絶対したりしないだろ!」

唯「という事は私達予選通過できたんだ……」

紬「ええ、決勝は来週の28日の金曜日よ」

律「だからそれまで梓が死ぬわけないんだよ。あいつが一番……楽しみにしてたんだからさ」

唯「そうだよ、そうだよね!みんな、あずにゃんを信じてあげようよ。ね?憂、純ちゃん」

憂「うん」

純「そうですよね……」

 その時だった、手術中のランプが消えた。
 私達全員が手術室に注目する。
 
 しばらくして中から金田先生が出てきて私達の前に。

律「梓は!梓は無事なんですか?」

金田「大量の吐血をしてかなり危険な状態でしたが一応今の所は命は取り留めました」

 え?「一応」って?一応ってどういう意味!?
 その意味は次の言葉で分からされる事になる。
 それはまさに非情通告という物に相応しいものだった。

金田「しかし胃からの出血はもう止められません。物は食べられませんしまた吐血する可能性も高いのでずっと輸血が必要になります」

唯「退院できる事はもうないんですね」

金田「はい、今日のところは大丈夫ですが今後はいつ急変してもおかしくない状態です」

金田「ご家族とご友人の方には心の準備が必要かと思います」

 とうとう一番聞きたくなかった一言を聞かされちゃった……
 もうすぐ……あずにゃんは私達の前からいなくなってしまう……


214:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:30:08.18 ID:+mvlBbuio


律「唯!」

唯「りっちゃん!それにみんな来てくれたんだ」

 りっちゃん達は全力で走ってきて私の前で息を切らしながら話しかけてきた。
 
澪「それで、梓の容態は?」

唯「……心停止で危険な状態なんだって……」

澪「心停止って……嘘だろ……おい……」

憂「梓ちゃん……ぐすっ」

純「あずさぁ……ひっく……ぐすっ」

律「梓なら絶対戻ってくる!だってそうだろ、まだ決勝残ってるんだから梓ならほったらかしたりなんか絶対したりしないだろ!」

唯「という事は私達予選通過できたんだ……」

紬「ええ、決勝は来週の28日の金曜日よ」

律「だからそれまで梓が死ぬわけないんだよ。あいつが一番……楽しみにしてたんだからさ」

唯「そうだよ、そうだよね!みんな、あずにゃんを信じてあげようよ。ね?憂、純ちゃん」

憂「うん」

純「そうですよね……」

 その時だった、手術中のランプが消えた。
 私達全員が手術室に注目する。
 
 しばらくして中から金田先生が出てきて私達の前に。

律「梓は!梓は無事なんですか?」

金田「大量の吐血をしてかなり危険な状態でしたが一応今の所は命は取り留めました」

 え?「一応」って?一応ってどういう意味!?
 その意味は次の言葉で分からされる事になる。
 それはまさに非情通告という物に相応しいものだった。

金田「しかし胃からの出血はもう止められません。物は食べられませんしまた吐血する可能性も高いのでずっと輸血が必要になります」

唯「退院できる事はもうないんですね」

金田「はい、今日のところは大丈夫ですが今後はいつ急変してもおかしくない状態です」

金田「ご家族とご友人の方には心の準備が必要かと思います」

 とうとう一番聞きたくなかった一言を聞かされちゃった……
 もうすぐ……あずにゃんは私達の前からいなくなってしまう……


215:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:30:40.74 ID:+mvlBbuio


―― 夜 唯の部屋

 私と憂は部屋に着替えやら荷物やらを取りに戻ってきていた。
 今は憂がせっせと私の荷物をまとめてくれている。

憂「お姉ちゃん、用意できたよ」

唯「うん、ありがと憂」

憂「そろそろ行こ?梓ちゃんが待ってるし」

唯「そうだね」

 部屋を出ようとした時、ふと洗面台が目に入る。
 完全に電気が切れた蛍光灯の下に新品の蛍光灯が置かれていた。
 そう、今朝あずにゃんが押入れから出してきて置いておいた蛍光灯だ。
 本当なら今頃あずにゃんがこれを交換してくれてた筈なんだけど……

憂「もう梓ちゃんこの部屋には帰ってこないんだよね……」

 私は憂に返事はしないで新品の蛍光灯を手に取り部屋を見渡す。
 2人で仲良く使い続けてたお揃いの2本の歯ブラシとお箸、夫婦茶碗、もう使う機会は無くなっちゃったんだよね。
 
唯「どうして……替えてくれるって言ったのに。あずにゃん、帰ってきたら取り替えるって言ってくれたのに……」

 私は震える声でそう言い蛍光灯を強く抱いた。


216:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:31:08.28 ID:+mvlBbuio


―― 同時刻 病院の休憩所

 唯先輩と憂が出て行った後、私達は病室のすぐ横にある休憩所で休んでいた。
 休憩所といっても自販機があって椅子が置いてあるだけの仕切りも何もない狭い場所だけど。

 私も含めて全員疲れきった顔でうなだれている。
 澪先輩なんかもう今にも泣き出しそうな顔をして鼻をすすっている。
 この張り詰めた空気が耐えられない、何とかしたいけどどうしたらいいか分からない。
 だけどその空気は突然破られる事になる。

紬「悲しくなんてないの!」

 その場にいた人全員がムギ先輩を見た。
 その顔は台詞とは全く逆の表情だったがとにかく作り物でもいいから笑顔でいようとしている顔にも見えた。
 
紬「もって1年て言われたのに半年以上も長く生きられたのよ!悲しいわけ……ないじゃない!」

 再び沈黙が訪れる。
 そんな雰囲気の中、澪先輩が呟いた。

澪「……唯がいたからだよな」

律「ああ……きっとそうだよな……唯がずっといてくれたから生きてこれたんだ」


217:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:32:10.93 ID:+mvlBbuio


―― 9月19日

 翌日、あずにゃんが目を覚ましたと連絡を受けた私は病室へと向かった。

梓「唯先輩……」

 呼吸器は外されていたけど、誰の目から見ても明らかな程あずにゃんの表情はやつれていた。
 
梓「あの……予選の方はどうなったんですか?」

唯「残ったよ。決勝は来週の金曜だって」

梓「残れたんですか……よかったぁ…」

 ここで不意に病室のドアが開いた。

金田「中野さん、気分はどう?」

梓「はい、もう大丈夫です」

金田「そうか、それは良かったよ」

梓「それで先生、私はいつ退院できるんですか?金曜までには退院したいんです」

金田「……残念だけど無理かな」

梓「どうしてですか?」

金田「君の身体が一番よく分かってるんじゃないかな?」

唯「……」


218:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:33:05.93 ID:+mvlBbuio


 先生が病室を去って少しした後、あずにゃんのお母さんがやってきた。
 昨日私が連絡して仕事先から飛んできたようだった。

梓「お母さん!?どうしてここに」

梓母「あんたが倒れて意識不明になったって唯ちゃんから連絡もらって飛んできたのよ」

梓「で、でも仕事が……」

梓母「仕事なんかどうでもいいでしょ!娘がこんな大変な時に……」

梓「ありがとうお母さん」

 お母さんはあずにゃんのやつれ変わり果てた姿を見て涙を流していた。
 私も釣られそうになったけど我慢した。
 だけどもう泣かない、あずにゃんを笑顔で送り出そうと決めたから。

梓母「唯ちゃん、梓の事今まで本当にありがとう。唯ちゃんにはお礼を言っても言い切れないわ」

唯「いえ、私は別にそこまで大した事してませんよ」 

 コンコン、とここで病室のドアをノックする音がした。
 どうぞーと返事をするとりっちゃん達がきてくれた。
 だけどみんな表情が重い、あずにゃんの姿を見て本能的にもう残された時間が少ないのを察したのかも。

律「よっ梓、調子はどーだ?って、唯ももう来てたのか」

唯「うん」

紬「その方は?」

梓「紹介しますね。私の母です」

梓「お母さんにも紹介するね。この人達は私がお世話になってる軽音部の先輩方と同級生の友達」

 お母さんはみんなに1人づつお辞儀してまわってる。
 みんなもそれぞれお辞儀して返す。
 そういえばみんな初対面だったっけ。


219:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:33:34.22 ID:+mvlBbuio


梓「今日は皆さんに言っておきたい事があります」

憂「なに?梓ちゃん」
 
梓「今の内に皆さんにお礼を言っておきたいんです」

澪「お礼って何だよ梓、言ってる意味が……」

梓「みなさん、今まで本当に私の我侭を聞いてもらってありがとうございました。正直、こんなに長く皆さんと音楽続けられるとは思っていませんでした。今は退院のメドがたたなくなりました」

律「退院できないって……嘘だろ……」

梓「嘘ではありません。もしかしたらみなさんとまた演奏するのも決勝の舞台に立つのももう無理かもしれません」

 みんな俯いてる……かける言葉もないように見える。

梓「唯先輩、澪先輩、律先輩、ムギ先輩、憂、純、みなさんと出会えたお陰でこの3年半は私の中でとても有意義で忘れられない思い出になりました。本当に……ありがとうございました」

律「くそっ……何でお前そんなに落ち着いていられるんだよ!それに何で私達より年下の梓が死ななきゃいけないんだよ!出来るなら代わってやりたい気分だ」

梓「律先輩、そんな事言っちゃダメです!」

律「え?」

梓「もし律先輩が私に代わってこんな身体になったら今度は先輩を愛してくれている人が悲しむ事になるんですよ。代わってやりたいだなんて気持ちは嬉しいですけど言わないでください」

梓「決勝、見にいけそうにないですけど先輩方ならきっと出来ると信じてますから」

律「分かった……決勝は私達で何とかしてみせる。梓にいい報告が出来るようにしてくるからさ……」

梓「はい、先輩方ならきっと上手くいきますよ」

唯「それじゃー明日からまた部室で練習だね!」

律「いや、唯、お前はダメだ」

唯「どうして!?どうしてなのさりっちゃん」

律「お前は梓の傍にいてやれ。後は私達で何とかするからさ」

紬「そうね……唯ちゃんは梓ちゃんに付いていてあげて」

唯「でもそれじゃギターがいないよ!」

澪「そんなの何とかなるさ。コンクールはこれから先何度も機会はあるけど梓といられる時間は今しかないんだからさ」

律「そういう事だ。これは部長命令だからな」

唯「うん……」

律「じゃあ私達は打ち合わせあるからそろそろ帰るな」


220:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:34:26.43 ID:+mvlBbuio


 病室の外・帰り道

澪「なあ律」

律「なんだー澪」

澪「お前何にも考えてなかっただろ」

律「あ、バレた?」

澪「当たり前だろ!どうするんだよあんな事言って」

律「まーなんとかなるっしょ。それに唯と梓には最後までずっと一緒にいて欲しいだろ」

紬「でも現実問題ギターがいないのは事実よ。今から代わり探すと言っても……」

律「うーん」

澪「とにかく何とかしなきゃな。今更後には引けないしな……」


221:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:35:19.95 ID:+mvlBbuio


 9月20日

憂「お姉ちゃん、私に用って何?」

唯「憂に渡しておきたい物があるんだ」

憂「なに?」

 私はここで憂にギターケースを差し出した。
 そう、これは勿論私のギー太だ。

憂「何でこれを私に?お姉ちゃんの大切なギー太なのに」

唯「憂には私の代わりにコンテストに出て欲しいんだ。勝手なお願いかもしれないけどね」

唯「昨日さ、りっちゃんは大丈夫って言ってたけど絶対強がりで言ってたと思うんだ。私達に気を使ってね」

憂(やっぱりお姉ちゃん気が付いてたんだ……)

唯「憂さ、2年の時の学祭で私が風邪引いた時に私に変装してりっちゃん達の前でギター弾いた事あったよね?」

憂「うん」

唯「あの時の憂のギターね、もしかしたら私よりも上手く弾けてたかもしれなかったんじゃーないかな?と思ってね」

憂「でも出来るのかな私に……あの時はただの見よう見まねで少しだけ弾いただけだったし」

唯「大丈夫だよ。私にも出来たんだから憂が出来ない筈ないよ」

 憂はしばらく考え込んだ後、意を決したようにギー太を受け取ってくれた。

憂「私やってみるね。お姉ちゃんと梓ちゃんが喜んでくれるなら私何でもやってみせるから」

唯「ありがとう憂」


222:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:36:30.37 ID:+mvlBbuio


 その数時間後・マック

律「なるほどなぁ、やっぱ唯にはバレてたか」

憂「はい、だからお姉ちゃんは私にギー太を…」

澪「憂ちゃん、高校の軽音部じゃキーボードだっただろ?」

憂「そうですよ。でも昔からお姉ちゃんがギター弾いてるの何度も見てますし弾かせてもらった事もあるので」

律「確かに憂ちゃんなら練習すれば出来る様になりそうな気もするよなぁ……」

律「じゃあいいのか憂ちゃん。やってくれるのか?」

憂「はい!よろしくおねがいします!」

律「ギターが決まった所で……次はボーカルだな。さーて、どうしよっか」

澪「私がやるよ……」

紬「澪ちゃん……」

律「澪、急にどうしたんだ?あれだけ嫌がってたボーカルを自分からやるだなんて」

澪「今更恥ずかしがってなんかいられないだろ。まあちょっとは恥ずかしいとは思うけどさ。私だって一応HTTのボーカルなんだから!」

紬「本当にいいの?もう後には引けないのよ?」

澪「何だってやってみせるよ。後輩があんなに大変な思いをしてるんだからこれくらい何ともないさ」

律「よし!そいじゃーあと1週間出来る限りの事をしていこうぜ!出れない唯と梓の分までさ。」

澪「ああ!」

紬「どんとこいです!」

純「はいっ!」

憂「やってみせます!」

澪「そうだみんな、今思い出したんだけど私から1つ提案があるんだ」

律「なんだ澪、いきなり流れぶった斬って……」

澪「あのさ……」


223:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:37:29.79 ID:+mvlBbuio


 それから日は流れ9月27日の夜

 私は病室であずにゃんと一緒にいる。
 他に誰もいない部屋で2人きりの時間を過ごしていた。
 あずにゃんはベッドに横たわったまま私を見つめていた。

唯「あずにゃん」

梓「どうかしましたか?唯先輩」

唯「手、握っていい?」

梓「はい……」

 私はあずにゃんの手を両手で握った。
 その手はとても弱弱しくあずにゃんに残された時間がもう余り無いのを実感させられ息が詰まりそうになってしまう。
 あずにゃん自身今はただ寝ているだけでもすごく痛く大変な筈なのに私をじっと見つめて笑いかけてくれている。 
 私はいたたまれなくなり手を離そうとしてしまったけど、その離した手をあずにゃんはそっと握り返してきてくれた。

梓「ねぇ唯先輩」

唯「何?あずにゃん」

梓「思えば私達出会ってからよくこうやって手を繋いでましたね」

唯「うん……そうだったよね」

梓「私は今でも忘れていません。雪の日に先輩に手を繋いでもらって暖かい気持ちになった事も、駅に行った帰りに手を繋いでくれて安心させてくれた事も」

唯「まだ覚えていてくれたんだね」

梓「唯先輩、私の事忘れないでくださいね」

唯「当たり前だよ、忘れるわけないよあずにゃんの事。でも急にどうしたの?」

梓「でも……私に縛られないでくださいね」

唯「うん、わかってるから。私はちゃんと生きていくよ。私がしっかりしなかったらあずにゃんがゆっくり休めないもんね」

唯「でもね、どうしてもあずにゃんに会いたくなった時私どうすればいいんだろう」

梓「会いに来ますよ」

唯「え?」

梓「もしどうしても会いたくなったら、そうですね、私がプロポーズした場所を覚えてますか?」

唯「分かるよ。前に演芸大会に出る時練習したあの河原だよね」

梓「そこに来てください。必ず会いに行きますから」

 そう言ってより強く、精一杯の力で私の手を握ってきてくれた。
 私を安心させる為に笑顔を向けてくれているあずにゃんに応えるように笑顔を返す。


224:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:37:57.46 ID:+mvlBbuio


 夜中、病室を一度出た私は誰も居ないベンチに腰を下ろす。
 薄暗い中1人で佇んでいると隣に人の気配がした。

金田「ここ座ってもいいかな?」

唯「あ、先生……どうぞ」

金田「よければこれどうぞ。自販機でコーヒー買ったら2本出てきて徳しちゃった」

唯「あ、はい、いただきます」

唯「あの、先生」

金田「どうしたの?」

唯「死ぬ事って終わる事じゃないですよね」

金田「そうだよ」


225:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:38:48.99 ID:+mvlBbuio


 9月28日 AM9:00 病室

梓「いよいよ今日は本番の日ですね」

唯「そうだねー」

 あずにゃんはベッドから起き上がって会話をしてる。
 何とか起きる程度は出来るようになったみたい。
 さっきから時計をちらちら見てる……やっぱ気になるのかな。

 コンコン

梓「どうぞー」

金田「おはよう、2人とも」

唯梓「おはようございます」

金田「それで今朝の具合はどう?中野さん」

梓「先生、お願いがあります」

金田「何?」

梓「外出を許可してください。今から外出を許可してください。コンクールの会場に行きたいんです」

金田「中野さん、僕は医者として外出を許可する事はできません」

梓「どうしてもだめですか」

金田「はい」

梓「死ぬかもしれないからですか?」

金田「もちろん、その危険もあります」

梓「このままベッドでおとなしくしてれば少しは長く生きられるかもしれません。でもそれは私にとって生きたとは言えません」

梓「私は最後まで生きたいんです!生きたい!生きたい…」

 あずにゃんは真剣な表情で言葉強く訴えかけている。
 その剣幕に先生は一瞬悩んで視線を落とす素振りを見せたけどすぐに向き直って毅然と言った。

金田「……許可できない」

 そう言うと先生は病室を出て行った。


226:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:40:52.56 ID:+mvlBbuio


 PM13:15 コンクール会場

律「という訳で決勝は1組3曲づつだそうだ」

憂「3曲ですか」

澪「ふわふわ、ふでペン、ホッチキスでいいんじゃないか?私にとっても歌った経験ある曲だし」

紬「そうね、それなら憂ちゃんにとってもやり易いでしょうし」

律「じゃあホッチキス、ふでペン、ふわふわの順で行くぞ」

澪「ああ」

紬「ええ」

憂「……」

純「憂、どうしたの?」

憂「お姉ちゃんと梓ちゃんに見せたかったな、やっぱり……」

律「私達の想いを曲に乗せて届けてやろうぜ。それが私達放課後ティータイムの音楽だろ」

憂「そうですね。私思いっきりやります!お姉ちゃんが託してくれたギー太と一緒に!」

純「あの……少しいいですか?」

澪「どうした?純」

純「少し考えがあるんです。ちょっと離れる事になるけどいいですか?」

澪「何言ってるんだ、もうすぐ私達の出番が廻ってくるだろ」

律「……分かった」

澪「お、おい律!」

律「何か考えがあるんだろ。行ってこい。私達の事は気にしなくていいぜ」

純「ありがとうございます!行ってきます」

――

律「そういう訳でもしかしたらベースは澪1人になるかもしれないから頼むぜ」

澪「間に合わない可能性が高い……か」

紬「純ちゃんが向かった先って病院よね……」

律「ああ……ほんとお人よしだよなあいつ。あんま態度に出さないけどさ」


227:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:42:06.77 ID:+mvlBbuio


 病室、私は時計を見ている、2時を廻ってた。
 もうすぐ先輩方の演奏が始まる時間だな……見に行きたかったけど仕方ないよね……
 唯先輩は買い出しに出ていて今ここには私とお母さんしかいない。
 お母さんは私の乱れた布団を直してくれている。
 私はその光景をじっと見ていた。

梓母「どうかした?梓」

梓「どうもしないけどね…ありがとう……ありがとうお母さん」
 
 布団を直してくれたのを私がそうお礼をするとお母さんはハッとした表情をして私を見て足をさすってくれた。
 多分お母さんとこうして2人で水入らずの時間を過ごせるのはこれで最後かもしれない、そう思ったのかも。

 その時だった、病室のドアが突然開いて純が入ってきた。
 
純「やっほー梓」

梓「純!あんたどうしてここに!?もうすぐ本番じゃなかったの?」

純「相変わらずつれないですなー梓は。せっかく差し入れ持ってきてあげたってゆーのに」

梓「差し入れ?」

純「ほれ、今梓が一番欲しがってる物もってきたよ」

 私は手渡された紙袋の中身を見る。
 そこには私の服が入っていた。

梓「純……自分が何やってるか分かってるの?」

純「……分かってるって。このまま何もしないでいたら私も罰が悪いからさ」

純「行ってきなよ梓。後は私が何とかするから」

梓「ありがとう純……今迄本当にありがとう」

純「お礼ならいいって。全部終わった時にまとめてお返しはしてもらうから」

梓「分かった……また会おうね純」

純「うん、きっとまた会えるよ梓」


 数分後金田先生が病室に飛び込んできた。
 梓が病院を抜け出したとの報告を看護婦の人がしてきたから。
 もちろん病室には梓はいない、いるのは私と梓のお母さんだけ。

純(あーあ……ホントいつもいつも貧乏クジ引かされてばかりだな私)

純(でも汚れ役なら私1人で十分だもんね……梓、しっかりやりなよ)


228:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:47:06.21 ID:+mvlBbuio


 私は会場への道を1人歩いていた。
 誰もいない銀杏並木の道幅の広い遊歩道、今迄何度も歩いていた道。

 銀杏の木は既に黄色くなっていて落ち葉の絨毯を路面に作っていた。
 その中を1歩、また1歩とおぼつかない足取りで歩いていく。
 もう殆ど足の自由はきかないし足先の感覚もない、それでも私は私のいるべき場所へと行かなきゃいけない。
 折角送り出してくれた純の気持ちを無駄にしちゃいけない……そして最後まで生きたいと誓った私自身の気持ちに決着を着ける為にも……だから這ってでも行かないと……先輩方の下へ……


229:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:47:37.47 ID:+mvlBbuio


 どれだけ歩いたんだろう、よく分からなかった。
 ただ普通の人が適当に歩いても10秒程度で歩ける距離を今の私はその3倍以上の時間をかけて歩いている。
 足を1歩踏み出す毎に体中が悲鳴をあげ顔が苦痛で歪み倒れそうになる……それでも倒れたりしないで歯を食いしばって耐えた。
 しかし遂に右足の踏ん張りが効かなくなってしまう。
 足に力が入らなくなり次に腰、まるで全身から力が抜けていくような感じがした。
 このままここで野垂れ死にしちゃうのかな……最悪だよ…
 この瞬間私は完全に覚悟した。

 だけど目前に迫る筈の地面が迫ってこない……完全に倒れると思っていたのに、どうしてなんだろう。
 ここで気が付いた。支えているのは私ではなかった。
 暖かく人を安心させる優しいこの感触、初めてじゃない。
 私はゆっくり横を見る。
 そこにはいつもいつも私に元気や温もりをくれた人の顔があった。
 
梓「唯先輩……」

唯「いこ?あずにゃん」

 唯先輩は微笑みながら私を力強く抱いてそう言ってくれた。
 そして私達は再び歩を進める、二人三脚で…今迄そうだったように……そしてこれからも。


230:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:48:04.57 ID:+mvlBbuio


 PM14:45 コンクール会場

澪「がんばれふでペン、ここまできたからかなり本気よ~♪」

 パチパチパチ

澪(あと1曲か……何とかここまで来れたけど…)

律(澪の奴、すげぇ気合入ってるな……今迄あんだけ恥ずかしがって嫌がってたボーカルなのに……)

澪「それでは次が最後の曲になります。聴いてください!ふわふわ時間!」

律「1、2!」

澪「キミを見てるといつもハート……!?」

 ガチャッ

澪(唯!?それに梓も!)

憂(お姉ちゃん!?梓ちゃんまで!)

紬(純ちゃん、あなたやっぱり思っていた通りの子ね)


 私達が会場に入った時には3曲目のふわふわが始まっていた。
 唯先輩に促され空いている席に隣同士並んで座る。
 ふとステージ上に立つ澪先輩と目が合いアイコンタクトを送られ私はそれに同じように返す。

澪「あぁカミサマどうして好きになるほどDream Night切ないの♪」

 そういえばこうやって客観的に先輩方の演奏聞くのって1年の時の新歓ライブ以来だったかな…あれから3年か、懐かしいな……

澪「もしすんなり話せればその後は…どうにかなるよね♪」

澪「ふわふわターイム」

紬「ふわふわターイム」

 あの時入部を決めたのはこの演奏を聴いたからだった、そして今でもこの人達の演奏は衰えはしないであの頃のまま。
 私は静かに聴き入っていた。 


231:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:51:47.40 ID:+mvlBbuio


 PM15:30 楽屋

律「結局2位か……」

澪「でもやれるだけやれたしこれで良かったんじゃないか?」

紬「そうね、私はこれで満足よ」

憂「はい、今日は皆さんと演奏できて楽しかったです!」

ガチャッ

純「どーも……遅刻しました」

律「遅いぞー、ってもう終わった後だけどな」

純「面目ないです……でも作戦は上手くいきましたよ」

律「だな、今回は結果Okて事にしとくか」

憂「それで、お姉ちゃんと梓ちゃんは今どこに?」

純「2人共まだ客席だよ。さっきまで私も舞台袖にいたから見てたし」

紬「余韻に浸ってるのかもね2人共」

律「じゃあ報告でもしに行こうか」

澪「ちょっと待て」

律「なんだー?何かあるのか澪」

澪「先週私が提案した事覚えてるか?」

紬「ええ」

澪「どうせならさ……やってみないか?」

憂「私はいいですよ」

律「私もOKだぜ」

紬「じゃあちょっと待ってね……」TEL

紬「もしもし斉藤?ええ、今私達がいるホール、すぐに貸し切るように連絡して!ええ、今すぐよ!」

紬「これで大丈夫。さ、行きましょ」

律「よっしゃ行くぜ!これが本当に最後の私達のライブだ!」

憂「はいっ!」

澪「ああ!」

紬「ええ!」


232:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/13(水) 23:59:10.20 ID:+mvlBbuio


 同時刻・客席

 コンクールも終わり誰も居なくなった客席で私と唯先輩は余韻に浸っていた。
 
梓「唯先輩」

唯「どったの?」

梓「ふと思ったんです」

唯「何を?」

梓「私は余命1年と知った時それまでの17年の人生を後悔しました。だから残りの人生は悔いのないように生きようと思いました。そして生きました。」

唯「うん」

梓「後悔したはずの17年間が今ではとてもいとおしく感じます。褒められた人生ではありませんでしたけどとてもいとおしいです」

唯「うん」

梓「たった18年の短い生涯でしたけど80年の生涯より中身の濃い生涯だったと今では思ってます」

唯「うん……間違いないよ、私が保証するよ」

 唯先輩の目はこの時涙で溢れていた。
 泣かないって決めたんじゃなかったんですか?全くこの人は……

梓「もしあの時軽音部に入らなかったらどうなってたんだろうって考えたんです。でも全く考え付かなかったんです」

唯「そりゃそうだよ。私もあずにゃんと出会わなかった人生なんて思い浮かばないもん」

梓「そうですよね。病気になってしまったのは運命ですけど唯先輩と出会えた事もまた運命かな……って私も思います」

唯「運命なんて私は信じたくなかったけど……これだけは私も運命だと思うよ」

唯「で、あずにゃん、これからどうしよっか」

梓「次、ですか?」

唯「次は、打ち上げのパーティーとかかな?」

梓「いいですね、それ」

唯「パーティーの料理、どうしよっか?大抵はケーキとかチキンだけど……他に何がいいか考えようよー」

梓「唯先輩は相変わらず食いしん坊ですね」

唯「へへー」

梓「でもそうですね……色々やりたくてすぐに思いつきません。考えておきますよ」

唯「じゃあそろそろ病院戻ろっか」

梓「はい」


233:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:17:43.89 ID:Mw+eiwULo


 そう言って私達が席を立とうとした時、突然ステージ上に軽音部の先輩方と憂が現れた。
 それぞれ楽器を持っていてライブをするポジションにつく。

澪「今日は梓に聞いて欲しい曲があるんだ。本当は私達の卒業式の日に歌うつもりだったけど完成が間に合わなくて演奏できなかった曲だ」

澪「遅れてしまったけど……これが梓に届ける最後のチャンスだと思ったから聴いて欲しい!」

澪「行くぞ、律、ムギ、憂ちゃん!」

律「いいぜ!」

憂「いつでも行けます!」

紬「やりましょう!」

律「1、2、3!」

 4人の楽器が音を奏で始める。
 観客はたった2人だけの放課後ティータイムのファイナルライブが始まった。


234:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:18:45.59 ID:Mw+eiwULo


 ~♪

憂「ねっ、思い出のカケラに名前を付けて保存するなら宝物がぴったりだね♪」


唯「この曲……そっか……」

梓「知ってたん……ですか……?この……曲」

唯「うん、私達が卒業する時にあずにゃんに贈る為にみんなで作った曲なんだ」


澪「そっ、心の容量がいっぱいになるくらいに過ごしたねトキメキ色の毎日♪」


梓「そうだった……です…か。サプライズ…すぎます…よ」

 よく見ると舞台袖で見守っている純の顔も涙でボロボロになってるし。
 私にもステージ上の先輩方の気持ちが伝わってきて胸がいっぱいになる。

唯「私のパート、憂に取られちゃったな……ま、いっか」

梓「こんなと…こで……サボって…るから…ですよ…ふふっ」

唯「だよね、あずにゃん先輩やっぱり厳しいっす」

 唯先輩は普段どおりに接していてくれてる。
 私も普段通りに接しているけど、段々と視界がボヤけて意識が遠のいていく。


律「なじんだ制服と上履き ホワイトボードの落書き♪」

紬「明日の入り口に 置いてかなくちゃいけないのかな♪」


 もう視界がほとんどなくてどこに誰がいるのかも分からないよ。
 でもしっかりと歌声は私の耳に届いてきている。


憂律澪紬「でもね 会えたよ 素敵な天使に♪」


235:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:19:11.59 ID:Mw+eiwULo


 視界が効かなくなった代わりに今度は私の脳裏に今迄の記憶が走馬灯のように蘇ってきていた。
 入部していきなり猫耳をつけさせられて「あずにゃん」て変なあだ名をつけられたのが始まりだっけ……

 初めて行った夏合宿じゃ夜中唯先輩と一緒にギター練習して嬉しそうに抱きつかれたっけな……思えばあの時知ったんだっけ、実は唯先輩は普段サボってばっかだけど裏では誰よりも練習してる人なんだって。

 純からあずにゃん2号預かって毛玉吐かれて困ってた時も唯先輩はすぐに駆けつけてくれたっけな……
 修学旅行のお土産でもらった「ぶ」のキーホルダー、今でも大事に取っておいてありますよ……
 
 演芸大会でゆいあず結成……あれが私達の最初の共同作業でしたね。
 あの河原で勉強の合間を縫って練習したの楽しかったですよ…それにしてもあの河原、私がプロポーズしたのもあそこだったし……深い縁がある場所なのかな。

 最後の学祭ライブ、先輩方みんな部室で泣いてましたよね?あの時は分かりませんでしたけど3年生になってライブに出た時ようやく分かりましたよ、涙の理由。

 卒業してからも唯先輩との思い出ばっかだ……初めてしたキス、一緒に撮った2人きりの写真、短かったけど思い出ばかり詰まった共同生活の日々、2人きりで入った温泉と夜中に泣きじゃくった私を優しく抱きとめてくれた先輩。

 でも一番思い出深かったのは初めて2人で出かけたあの焼き鳥屋。
 2人で楽しく食べたっけな……確かあの時唯先輩は私が頼んだのをマネして頼んだんだよね。

 今でも先輩の楽しそうな顔を見ながら食べたあの味は覚えてますよ。
 何食べたんだっけ……そっか、あれ私がいつも頼んでたやつだったか…あれは確か……

梓「とり……かわ……」


236:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:19:37.57 ID:Mw+eiwULo


唯「ほえ?鶏皮って、パーティーで焼き鳥かー、あずにゃんにしては意外だけどいいんじゃないかな。ほら、昔2人でよく行ったお店に頼んでみてはどうなのかな?」

唯「あ、それより憂やりっちゃんにも手伝ってもらってみんなでお料理しあうってどうだろ?それでいろんな種類の料理をカラフルに並べてみよっか。考えただけで楽しくなるよねー?そうしよっか、ね?」

梓「」

唯「あず……にゃん?」

梓「」

 私が横を見るとそこには眠っているようなあずにゃんの顔があった。
 安らかに眠っているその顔を見て全てを悟り、もう動く事はないあずにゃんの手をそっと握る。
 その瞬間、今迄堪えていた涙が静かに流れ落ちてくる。
 そして椅子にもたれかかったあずにゃんの頭が私の方に倒れかけてきたので私はその頭に自分の頭をそっと付けてしばらく寄り添っていた。
 ステージの上での演奏の音ももう何も聴こえなかった…長い長い無音、私達2人だけの静寂な時間が流れていた。

唯「ありがとう……あずにゃん……」

唯「そして…また会おうね……」


237:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:20:21.30 ID:Mw+eiwULo


 エピローグ

―― あれから5年後・桜ヶ丘高校

唯「こんにちはー」
 
さ「あらあなた達、久しぶりね」

 私達は数年ぶりに母校の門をくぐった。
 相変わらずさわちゃんはここで教師をやっているようだった。
 ちなみに未だに彼氏は出来てないらしい、もう三十路なのに……て、こんなの声に出したら何されるか分からないから言わないけどね。
 
さ「あなた達仕事の方忙しいんでしょ?わざわざこんなとこまで来てて大丈夫なの?」

律「今日は完全オフの日だからな、最近まで全国廻ってて昨日やっとこっち帰ってこれたから顔出しとこうぜって話になってさ」

澪「明日からは海外公演だけどな」

さ「売れっ子も大変ねぇ……」

紬「忙しいですけどいつもみんなと一緒にいれるからきついとか思ってませんよ」

唯「それでさわちゃん、今日は音楽室空いてる?」

さ「今日はみんな下校した後だから誰もいないわよ。でもあなた達もあまり長居しない方がいいわよ。生徒に見つかったらパニックになるんだから」

律「わかってるって、それじゃ行こうぜー」


238:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:20:51.93 ID:Mw+eiwULo


―― 部室

澪「……私達がいた頃とあんまり変わってないな」

律「だよな……テーブルもティーセットもそのまんまだ」

紬「まだティータイム続いてるのねぇ」

 ふとティーセットの置かれている方を見ると棚に置いてあるカップを手に取って眺めている純ちゃんの姿があった。

唯「どしたの?純ちゃん」

純「このカップ、まだここにあったんですね……」

唯「これって……そっか、さわちゃん取って置いてくれてたんだ…懐かしいなぁ」

律「唯、純、どしたー?」

唯「ううん、何でもないよりっちゃん」

 純ちゃんは手に持ったピンク色の猫柄のカップを落とさないようにそっと元に戻した。

澪「そろそろ帰ろうか、あんまり長居すると学校にも迷惑になるし」

紬「そうね」


239:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:21:17.99 ID:Mw+eiwULo


 帰り道

律「今夜は凱旋記念にパーッと飲みにでも行こうぜー!」

紬「さんせー!」

純「今夜は朝まで付き合いますよ!」

澪「ハメ外し過ぎて二日酔いなんてやめろよ。でもたまにはいいか……最近忙しすぎて飲みになんて行けなかったし」

律「唯はどうすんだ?」

唯「あ……私ちょっと寄るとこあるから遅れていくね。必ず後でいくから」

律「いいぜー。じゃあこっち向かう時にメールでもくれよ」

唯「うん、それじゃ私こっちだから、また後でね!」


240:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:21:52.20 ID:Mw+eiwULo


 私は夕暮れの川沿いの道を歩いている。
 そしてとある川岸で足を止めてその場に座り背負っていたギターケースを下ろす。
 私の他に人の気配はなくただ川のせせらぐ音だけが聞こえてくる。
 
 私はギターケースからギターを取り出す、中に入っていたのは赤いギター……そう、大好きだったあの子が大事にしていたむったんだ。
 そして手に持った隕石で出来たピック、これはあの子とおそろで分け合った大事な物、今でもライブではこれを使っている。
 そして私は1人弾き始め語り掛ける。

唯「あずにゃん、今日は報告に来たんだ。私達ね、メジャーデビューしたんだよ?あずにゃんの夢だったプロになれたんだよ」

 そう、ここはかつてあずにゃんが私にプロポーズしてくれた私達2人にとっては思い出の場所。
 ここに来ればあずにゃんが「唯先輩!」とか言いながらひょっこり出てくるような……そんな気がする場所。

唯「ずっと忙しくて報告遅れてごめんね。そうそう、ツアー最後のさいたまでのライブ、あずにゃんのむったんとおそろのピックでステージに立ったんだよ。」

唯「武道館じゃないけどね……でもあずにゃんと一緒にスポットライトを浴びたかったから……昔からの私達の目標だったんだからあずにゃんも一緒じゃないと駄目なんだよ」

唯「……私あずにゃんの事未だに忘れられないけど……だけど私はしっかりやってるし元気にやってるから!」

唯「りっちゃん達待たせちゃってるから私そろそろ行くね。バイバイ、あずにゃん、また来るね」

 私はギターを背負い思い出の河原を後にする。
 ふと背後に気配を感じる……懐かしいこの感じ……やっぱり約束通り来てくれたんだね。


241:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/04/14(木) 00:22:17.60 ID:Mw+eiwULo


 唯先輩、やっぱり来てくれたんですね……
 先輩が元気でやっているように私も天国で元気にやっています。
 私も忘れられませんよ、唯先輩と過ごした3年半の日々と最後の1年を。
 また寂しくなったらいつでも来てください、私はいつでもここにいます。
 
 私は生きた。あなたがいてくれたかけがえのない人生を。世界で1つだけの私の人生を……

                                   Fin


244:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/14(木) 01:13:23.87 ID:i7x9+uNIo


乙!泣いた!


247:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/14(木) 07:01:17.64 ID:ALks7t/uP



クロス元知らないけど泣いた




元スレ:梓「Have A Good Die」
    スポンサーサイト梓「Have A Good Die」のコメント
  1. 名前:名無しさん@ニュース2ちゃん◆-[saga] 投稿日:2011/04/15(金) 17:11:11.00 ID:SSJUNKIE259
  2. 想いが通じたんだ、コレはBAD ENDではないな
  3. 名前:名無しの中毒者◆-[saga] 投稿日:2011/04/15(金) 18:33:19.00 ID:SSJUNKIE260
  4. 報われない物語に感じるけどこれがベストなんだろうな…
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