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少女「私が……魔王?」

このエントリーをはてなブックマークに追加 コメント (0) | カテゴリ: その他 | 更新日: 2011/06/11 22:30
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:38:45.25 ID:Y4tf1Tbwo


― 20XX年 冬 ―

少女「おはよー」

少女友「はよー。今日も遅刻ギリギリだねぇ」

少女「あははー、目覚まし時計さんが何かご機嫌ナナメでさ」

少女友「それ、昨日も言ってたよね」

少女「えー、そうだっけ?」

少年「おう、おはよう」

少女「あ、少年君。おはよう」

少年「ほら、これ。おばさんから預かってきたぞ」

少女「お弁当箱……って私の!?」ゴソゴソ

少女「ホントだ、入れてなかった」

少女友「ドジっ娘スキル発動だね」ニシシ

少年「ったくよ、週に2回はお前の弁当配達要員にされてるんだぞ」ペチ

少女「ごめーん」エヘ

少年友「なんだなんだ、我がクラスの夫婦は今日も朝から夫婦漫才か?」

少年「んなっ、そ、そんなんじゃねぇよ!!」

少女「あはは」



 これが、私の日常でした。


 これが、平和な日常でした。


 これが……私が持っている、最後の……



 日 常 で し た 。


3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:39:52.42 ID:Y4tf1Tbwo


レポーター『私は今、富士山麓に突如として現れた謎の巨大洞穴に来ています』


 事の始まりはあの日の夜。いつも通りに学校が終わって、いつも通りにバトン部に行って、いつも通りに来年の受験に備えて塾に行って、いつも通りに帰宅してご飯を食べている時に見たニュース番組でした。


レポーター『一昨日起こった地震の後に発見されたというこの洞穴。当初は世界大戦時に作られた秘密の研究所跡という説もありましたが、どうやら自然に出来た物らしいと本日政府より発表がありました。我々取材陣にも許可が下り、今、こうして洞穴前に来ております』

少女母「怖いわねぇ」

少女父「そうか? 僕なんかは大昔にやってた○口ヒロシ探検隊を思い出すよ」

レポーター『穴内部はまだ調査が進んでいない為入り口のみの取材という事ですが』

少女「あれ?」

少女母「どうしたの?」

少女「ん……何かヘンなのが見えたような」

少女父「洞穴から湧き出てきた地底人かもしれないぞぉ?」

少女「もう、そんなの信じるようなコドモじゃないもん!」プクー

少女父「はっはっは。それで、何が見えたんだい?」

少女「うーん……よくわかんない。ただ、なんとなく何かが『視えた』気がしただけだから」

少女母「『お勉強』のしすぎかしらねぇ? この前のテストの結果、聞いたわよ」

少女「はぅ……」

少女父「五教科平均が79点、か。もう少しだけがんばろうな」

少女「はぁーい」

少女母「今日は宿題はないの?」

少女「塾で片付けちゃった。あとは予習と復習だけ」

少女父「おぉ、偉いぞ。ご褒美に次の日曜日は好きな所に連れて行ってやろう」

少女「ホント!? あのね、あのねっ、私、春物のお洋服が欲しいなーって」

少女母「この子には本当に甘いんだから……」


 父との約束は結局果たされませんでした。

 私が『視た』のは気のせいなんかじゃなくて、なんだろうって思ったのは私が知らない得体の知れない『ナニカ』で、その『ナニカ』と私はその翌日に、出会う事になっていました。


4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:41:04.10 ID:Y4tf1Tbwo


レポーター『はここで、○○大学教授の説明を……きゃああああああっ!!??』

少女「ふぇ?」

少女母「?」

少女父「ん?」

レポーター『な、何、何なの!?』

クルー「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

クルー「なんだこいつは!?」

少女父「何が起こってるんだ?」

少女母「少女、見ちゃ駄目っ!」ガバッ

少女「っ!?」


 ほんの一瞬、テレビに映し出されたのは見たこともない異形の怪物としか言いようのない『ナニカ』で……


ニュースキャスター『中継が途切れてしまったようです。ここで一旦CMです』

少女父「何だ、今のは……」

少女母「暴漢なのかしら」

少女父「わからん。血が噴き出していたように見えたが」

少女母「あなた、少女の前ですよ!」

少女父「いや、すまない。大丈夫か?」

少女「……」


 両親は見逃していたのでしょうか。それとも『視え』なかったのでしょうか。私には、私には『視え』てしまったのです。

 『ナニカ』が、テレビ局の人を頭から……


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:42:06.32 ID:Y4tf1Tbwo


少女母「きっと何かのイタズラよ。少女、大丈夫?」

少女「う、うん……ご馳走様」カタン

少女父「真っ青だぞ。本当に大丈夫か?」

少女「……」

少女母「今日はお母さんと一緒に寝ましょう。一人だと怖いんじゃない?」

少女「ううん、本当に大丈夫。少しびっくりしちゃっただけだから……」

少女父「無理するなよ。眠れなかったらすぐにお父さん達の部屋に来るんだぞ」

少女「うん。宿題、してくるね」

少女母「お風呂すぐに入れるわよ」

少女「あとでいいっ」タタタタ

少女母「あ、ちょっと、少女っ」

少女「何アレ、何なのアレ!?」バタン

少女(レポーターさんが頭から食べられてた!? 血がすごくて、血が、血がっ)

Prrrrrr

少女「きゃぅっ!?」

Prrrrrr

少女「携帯電話……びっくりしたぁ。少年君? はい、もしもし」ピッ

少年『テレビ見たか!?』

少女「う、うん……」

少年『最後まで?』

少女「見た……と、思うんだけど」

少年『何か怪物みたいなの、居た……よ、な?』

少女「っ」

少年『うん、わかった。思い出すな。変な事聞いてゴメン』

少女「でも、お父さんもお母さんも見てなかったみたいで……」

少年『俺んトコもだ。親父も母さんも一緒に見てたはずなのに怪物みたいなのは見えてなかったみたいなんだよ』

少女「レポーターさんが、血がぶしゅーって、頭からっ、ひっく……」グスグス

少年『今から、そっち行っていいか?』

少女「う、うん」

少年『すぐ行く』プツッ


6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:43:32.56 ID:Y4tf1Tbwo


コンコン

少年『俺だ』

少女「あ、うん。窓開けるね」ガラガラ

少年「大丈夫か?」

少女「ふぇっ、ふぇぇぇぇぇ」ギュー

少年「なっ、ちょっ、おまっ」

少女「何なの? 何なのアレ!?」

少年「声っ、声おっきいよ。中2にもなってこんな事してるってバレたら大目玉だぞ」

少女「ふぅぅぅぅ」グスグス

少年「……」ナデナデ

少女「……失礼いたしました」

少年「まぁ、いいよ。柔らかかったし」ボソッ

少女「ふぇ?」

少年「なんでもないなんでもない。落ち着いたか?」

少女「うん、なんとか。でも、アレって一体何なんだろ?」

少年「わっかんね。でも、ゲームとかに出てくるモンスターみたいな雰囲気だったよな」

少女「言われてみればそうだね。ド○クエとか?」

少年「どっちかーってーともうちょっとリアルな女○転○みたいな感じか?」

少女「それ、わかんないよ」

少年「お前、怖いからヤダってプレイしなかったもんな」

少女「だって貸してくれる前に散々怖いお話してたじゃんっ! プログラミングする時にどーのこーのとかっ」

少年「あんなの冗談だよ。ネットで拾っただけなんだからさ」

少女「私が怖いの苦手って知ってるでしょー」プンスカ

少年「あはははは」

少女「だいじょうぶ……だよね?」

少年「だと思うよ。もし仮にモンスターみたいな未知の動物とかだったとしても、警察だって自衛隊だっているんだからさ。モンスターに戦車砲ぶちかませば勝てるって」ニカッ

少女「うん……」


7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:44:19.06 ID:Y4tf1Tbwo


少年「クラスの奴等にもメールしてるんだけど、みんな見てないとか見えなかったとかばっかりなんだよなぁ」

少女「ってそれって、私と……」

少年「俺にしか見えてない、ってコトっぽいな。今のところ。ワンセグでニュースの続きチェックしてるけど、何もなかったかのように次のニュース流してる」

少女「どういう……」

少年「単なる放送事故か、」

少女「……」キュッ

少年「……なんでもないよ。きっと幻だったんだよ」

少女「私たちだけ?」

少年「そういう偶然があるかもしれないだろ」

少女「うーん……あるのかな?」

少年「千分の一、万分の一の確率でしか起こらないコトは最初の一回目で起こったりするモンらしいぜ」

少女「ほぇー」

少年「それはそうと、頼みがあるんだけど」ズィッ

少女「へ?」ドキッ

少年「あ、あの、さ……」

少女「ふぇっ? ふぇぇぇっ!?」ドキドキドキ

少年「宿題見せて下さい!」コノトーリ

少女「……バカ」

少年「バカって言ったか!?」

少女「バーカバーカ!」

少年「なんだとぉっ!?」

少女「あはははは」

少女母「あんた達ねぇ……」

少年少女「……」チーン


8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:45:29.31 ID:Y4tf1Tbwo


― 深夜 ―


少女「くぅ……くぅ」Zzzz

少女「ん……んぅ」

ヒソ ヒソ

少女「くぅー……」

ヒソヒソヒソ

少女「んー」ゴロリ

ピタッ

少女「くぅ……」Zzzz

ヒソヒソ

少女「んー、うるさぁぃ」

ピタッ

少女「ラジオつけっぱなしだったのかな……」ムクリ

少女「えっと、ラジオラジオ……」ムニャ

?「こんばんは、お嬢様」

少女「ふぁ、こ、こんばんは……?」

?「お迎えに上がりました」

少女「おむかえ……?」

?「はい」

少女「誰を?」ボケー

?「貴女様でございます」

少女「なんで?」

?「我々の主となっていただく為に」

少女「あるじ? ある……じ……!? 誰っ!?」

?「申し遅れました。私、貴女様の忠実なる下僕が一人、吸血鬼と申します。以後、お見知りおきを」スッ

少女「あ、わざわざありがとうございま……って誰!?」

吸血鬼「貴女様の下僕でございます」

少女「わ、私の……?」

吸血鬼「はい」

少女「すみません、ワケがわかりません」

吸血鬼「混乱なさっておられるのですね。不思議な事ではございません。貴女様からすれば唐突な出来事なのですから。しかし、我々魔族にとっては待ちに待った日なのでございます」

少女「まぞく? ど、どうして……ですか?」

吸血鬼「私のような下僕に敬語などお止め下さい。おっと、ご説明が先でしたね。貴女様は我々魔族を統べる王となるお方。魔王様なのです」

少女「……私が……魔王!?」


 こうして、本当に軽いノリで、何の事でも無さそうに私の日常は破壊されてしまいました。


9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:46:28.93 ID:Y4tf1Tbwo


― ? ―

?「とりあえず運んでみたものの……獣王、どう思う」

?「吸血鬼よ、この方が本当に魔王様なのか?」

?「それは間違いありませんよ。この魔力波動、間違えようがありません。竜王も海王も、そして獣王、貴方もそれはわかっているのでしょう?」

?「むむ、それは確かにそうだが」

?「となると、魔王様の対となる勇者も復活している、という事だな」

?「既に目星は付いてあります。現在斥候達に魔力波動を確認させていますから数時間以内にはわかるでしょう」

少女「ん……」モゾ

?「お目覚めになるぞ」

少女「あ、あれ、ここは……?」ムクリ

吸血鬼「お目覚めでしょうか、魔王様」フカブカ

獣王「ご復活おめでとうございます」

海王「魔王様のお帰りをお待ちしておりました」

竜王「これほどまでに喜ばしい事はございません」

少女「……」

一同「?」

少女「ば」

吸血鬼「む、これはいけません」

竜王「どうした?」

少女「ばけ……もの」パタンキュー

獣王「おい、また気絶したぞ」

吸血鬼「まだ魔王様としての記憶が戻っておられないのです。ショックが大きかったのでしょうね」

海王「人間から見れば化物、だものな」シュン

竜王「そうショゲるな」ポンポン

吸血鬼「止むを得ないですね。メイド長、居ますか?」

メイド長「こちらに」シズシズ

吸血鬼「魔王様の介抱をお願いしても良いですか?」

メイド長「魔王様のお世話をする事こそ私の仕事。そして喜びです」

竜王「まだ記憶が戻っておられずに混乱しておられる。その辺に注意してくれ」

メイド長「承知いたしました」

獣王「俺達はしばらく席を外したほうが良さそうだな」

海王「また気絶されたらこっちがショック死しそうだ」

竜王「はっはっは。それもそうだな」

吸血鬼「幸いにもメイド長は元人間ですから問題ないでしょう」

メイド「お任せください」ニコッ


10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:47:55.45 ID:Y4tf1Tbwo


― 寝室 ―


少女「うーん……ばけものこわいよぅ」ムニャムニャ

メイド長「うなされておいでですね」ナデナデ

少女「ん、えへへへ」ニコッ

メイド長「あらあらこれは可愛らしい。それにしても、このような年端もいかない少女が魔王様とは、因果なものですね」

少女「んぅ……あれ、夢?」パチクリ

メイド長「お目覚めですか?」ニコッ

少女「えっと、どちら様でしょうか?」

メイド長「私はメイドを統括するメイド長と申します。魔王様の身辺をお世話する命を仰せつかっております」

少女「夢じゃなかった……」ズーン

メイド長「混乱なさるのは無理もありません。お飲み物をご用意いたしましょう。紅茶でよろしいですか?」

少女「あ、はい。お願いします」

メイド長「お砂糖とミルクたっぷりですよね?」

少女「ふぇ? なんで……?」

メイド長「ふふふ。魔王様の事は何でも知っておりますから」ニコッ

少女(綺麗な人だなぁ……)

少女「じゃなくてっ! ここ、どこなんですか?」

メイド長「魔界と呼ばれる世界の中心、魔王城でございます」

少女「まかい? まおうじょう?」

メイド長「我々魔族が棲む世界ですわ。魔王城はその中心に聳え立つ難攻不落の魔王様の居城でございます」

少女「すみませんぜんぜんわかりません」

メイド長「時間をかけてゆっくりと理解して下されば良いかと思われます。ご記憶も次第に戻られるでしょうし。はい、紅茶が入りました」カチャ

少女「わ、良い香り……」

メイド長「人型魔族が魔王様の為に栽培した極上の茶葉でございます」

少女「ほぇー。まおうって偉いんですね」

メイド長「魔王様は魔族の頂点に君臨する絶対的支配者様ですからね」

少女「王様なんですねぇ。それで、その魔王様っていうのはどちらに?」

メイド長「貴女様でございます」

少女「そう言えば吸血鬼さんがそんな事を言ってたような」

メイド長「はい。魔王様に付き従う4つの王が一人ですね」

少女「他の王様っていうと、さっきの……えっと」

メイド長「はい。魔王様が化け物とおっしゃった者達ですね」

少女「びっくりして思わずあんな事言っちゃった……あとで謝らなきゃ」

メイド長「吸血鬼が人型魔族と呼ばれる人間に近い姿をした魔族を統べる王。獣王が動物型魔族を統べる王。海王が海棲生物の王。竜王が竜型魔族を統べる王となっております」

少女「その四王さんのさらに上司さんが」

メイド長「魔王様、貴女でございます」

少女「ぁぅ……」


11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:50:10.83 ID:Y4tf1Tbwo


メイド長「魔王様は記憶を失ってしまっておられますので、私がサポートさせていただきます。もちろん、四王が貴女様の下僕なのは変わりません」

少女「なんで……なんで私が魔王なんですか?」

メイド長「先代魔王様は勇者との戦いに敗れ、人間世界征服の志半ばで倒れました。しかし、その魂は不滅でございます。魔王様の魂は器となる者を探して両世界を彷徨い、今、貴女様の裡に在るのです」

少女「私の……中に?」キュッ

メイド長「私達はその魂を探し、ついに貴女様を見つけ出したのでございます。しかし、人間界との接続点は先代勇者により閉ざされてしまっておりましたので、その封印を解く事から始まりました」

少女「それが、富士山に開いた洞穴?」

メイド長「フジサン……あぁ、人間界ではそう呼ばれているのでしたね。そうなります」

少女「じゃあ、あのレポーターさんが襲われたのってやっぱり現実?」

メイド長「接続点が開いた時に斥候を放ちましたので、その際に血気に逸った者が暴走したようです」

少女「魔族は人間の敵、なの?」

メイド長「天敵と言ったほうが正しいかと思われます。人間は魔族の家畜のようなもの。魔族こそ世界を統べるに相応しいのでございます」

少女「……」

メイド長「今の魔王様には少し辛いお話でしたね。申し訳ございません」

少女「……人間界に出た魔族を、呼び戻す事は可能ですか?」

メイド長「できますが……?」

少女「全員戻してください」

メイド長「申し訳ございませんが、理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか? 斥候を呼び戻すということは、勇者を含め人間共を殲滅させるのが遅れてしまう事になりかねません」

少女「魔族は人間を殺しちゃうんでしょ? 私の家族やお友達、みんないなくなっちゃうなんてダメ!」

メイド長「……お気持ちはわかなくはありません。ですが、魔王様は魔王様でございます。我々魔族を率いて人間共を絶望の底に叩き込み、世界を統べなくてはなりません」

少女「そんなのいらないよ……私は、いつも通りの平和な日常が良いよ……」グスグス

メイド長「急な環境の変化にお気持ちがついていかないのですね」ナデナデ

少女「帰りたいよぅ……お家に帰してよ……」

メイド長「勇者も目覚めたであろう今、急がねばならないのですが」

少女「ゆう、しゃ?」

メイド長「はい。我々魔族の仇敵。人間の身でありながら魔族と戦う力を持つ者でございます」

少女「ほぇ……」

メイド長「ついでに申し上げますと、魔王様の幼馴染である少年が勇者です」

少女「へ? 少年君が?」

メイド長「先程ですが、勇者の魂を持つ者と確認されたとの報告がございました。現在吸血鬼が向かっております」

少女「ま、待って。向かってって、何かするの?」

メイド長「当然の事ながら、覚醒し、成長する前に抹殺いたします」

少女「だ、だめーっ!!」

獣王「なんだなんだ」

海王「魔王様に何かあったのか!?」

竜王「メイド長、どうした!?」

少女「ひゃぅっ」ギュッ

メイド長「そんなに怖がらなくてもよろしいのですよ。貴女様の下僕達でございます」ナデナデ

獣王「メイド長、何があったんだ?」

メイド長「それが、勇者討伐について魔王様が反対なさって……」


12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:51:50.56 ID:Y4tf1Tbwo


少女「そ、そうだっ。少年君に手を出しちゃだめっ!」

竜王「ですが魔王様、あ奴は我等の仇敵。成長する前に殺しておきませんと、必ずや我々、いや、魔王様にまで害を及ぼします」

少女「でも、少年君はダメっ!」アセアセ

メイド長「魔王様は勇者に対して恋心を抱いておられるのですね」

少女「そそそそそそそそそんなのじゃなくてっ」アワワワ

海王「わかりやすいな、おい」

獣王「前勇者の野郎、ここまで計画してやがったな」

竜王「その可能性は高いだろう。狡猾な男だったからな」

メイド長「ですが、吸血鬼が既に向かっておりますので、呼び戻す事は……」

少女「うぅぅぅぅ……でも、ダメなのっ!!」ビリビリビリ

獣王「うぉっ!」

竜王「ぐっ」

海王「なんて強い波動……」

メイド長「っ」ドサッ

少女「メイド長さん!?」

獣王「魔王様の波動をモロに浴びて失神しちまったんでさ」

少女「そんな……」

海王「魔王様としてのお力が少しずつお戻りになっているのですね。喜ばしい事です」

少女「ヤだ……」

竜王「記憶が戻るのもそう遠くなさそうですね」

少女「ヤだよぅ。お家に帰りたいよぅ……」

メイド長「う……」

獣王「おう、気づいたか。大丈夫か?」

メイド長「油断していました」

少女「メイド長さん大丈夫ですか? ごめんなさい」

メイド長「お気になさらないでください。魔王様にお力が戻っているのは良い兆候ですから」ニコッ

少女「うー、と、とりあえず、吸血鬼さんに連絡を取ってください」

海王「とはいえ、その方法がありません」

少女「携帯とかは?」

獣王「ケータイって何だ?」

竜王「魔法の一種なのか?」

少女「えっと、メールとか?」

海皇「メールというと、手紙でしょうか?」

少女「うわぁ、色々違うんだ……えっと、すぐに連絡を取る方法は本当にないんですか?」

メイド長「前魔王様は念話を使っておられましたが」

少女「念話?」

竜王「魔力波動を利用して遠く離れた者と連絡を取る手段なのですが、離れれば離れる程消費する魔力が多くなるので、魔王様にしか使えない術とも言われております」

少女「どうやるんですか?」

獣王「どうやる、ってなぁ」ポリポリ


13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:53:16.72 ID:Y4tf1Tbwo


メイド長「魔王様しか使っておられませんでしたので、私達には……」

少女「そんなぁ……」

海王「とりあえず頭の中で呼びかけてみてはいかがでしょう?」

少女「呼びかける……」

少女(吸血鬼さん、聞こえますか?)

吸血鬼『ま、魔王様! もう念話までお使いに……これ程嬉しい事はございません』

少女「通じたっ」スゴーイ

メイド長「おめでとうございます」ニコニコ

吸血鬼『私めに何か御用でしょうか? 間もなく勇者が住む場所に到着いたしますので、半日以内には彼奴の首を魔王様に献上出来るかと』

少女(ダメっ!)

吸血鬼『はて、これは奇な事をおっしゃる。勇者は我々の敵。成長していない今の内に倒すのが得策かと思われますが』

少女(少年君に手を出しちゃダメッ!)

吸血鬼『……なるほど。承知いたしました。全て理解いたしました。魔王様と勇者の関係を失念しておりました。ですが、これに関しては魔王様のご命とはいえ訊くわけには参りません』

少女(どうしてっ!?)

吸血鬼『メイド長や他の王達からも説明があったと思いますが、勇者は我々を倒す事のできる人間。成長してしまえば危険な存在になります。ですから、成長していない今の間に倒すべきなのです』

少女(そんなのわかんないよ! 少年君を殺すなんて絶対ダメッ)

吸血鬼『魔王様……貴女様は魔族を、魔界を、ひいては全世界をも統べる王なのです。そこを理解して……』

少女(絶対ダメっ!)ゴゥッ

メイド長「これは……」

海王「なんて魔力だ」

獣王「前魔王様と比べても遜色ねぇ。いや、それ以上だ」

竜王「束縛呪と見える」

吸血鬼『ぐっ!? ま、魔王様、何を!?』

少女(ダメったらダメっ! 少年君を殺すなんて絶対に許さない!!)

吸血鬼『ぐぁぁぁぁぁっ』

獣王「この魔力、やべぇ。メイド長」

メイド長「魔王様、落ち着いて下さい。このままですと吸血鬼の身体が引きちぎられてしまいます!」

少女「ふぇっ?」シュゥゥ

吸血鬼『ぐふっ……承知いたしました。今日のところは引き返します』

竜王「束縛呪で吸血鬼の身体を縛ったのですよ。あれだけの魔力から考えると、人間界に居たとはいえ、吸血鬼の四肢は引きちぎられる寸前だったでしょう」

少女「そう……なの?」

海王「あれ程の魔力、吸血鬼でなければ耐える事もできなかったかと」

少女(吸血鬼さん、大丈夫ですか!? ごめんなさい。私、カっとなっちゃって……)フォンッ

吸血鬼『これは……癒しの光。ありがとうございます。私のような下僕にお心遣いいただけるとは』

メイド長「癒しの光ですね。魔王様のお心優しさが我々にも伝わってまいります」

獣王「光を見てるだけでも心が癒されるな」

竜王「見てください。魔界の民が声を挙げています」

海王「魔王様の再来を喜んでおりますよ」

少女「?」

メイド長「こちらのバルコニーに」スッ


14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:54:10.29 ID:Y4tf1Tbwo


― 魔王城 バルコニー ―


魔族「魔王様!」

魔族「魔王様が復活なさったらしいぞ!!」

魔族「見ろ! バルコニーに誰か出て来たぞ!」

魔族「年端もいかない少女の姿だが……」

魔族「あの波動、魔王様に違いない!!」

魔族「魔王様!」

魔族「魔王様ご復活ばんざーい!!」

魔族「ばんざーい!!」


少女「ふぇぇ……」ビクビク

メイド長「魔王様、背筋を伸ばして下さい。皆に手を振って挨拶をお願いいたします」

少女「え……っと、こう?」ヒラヒラ


魔族「魔王様が手を!」

魔族「何て高貴なお姿だ!」


少女「ってあれ? なんで私ドレス着てるの!? さっきまで部屋着だったはずなのに」

メイド長「失礼かとは思いましたが、お召し替えをさせていただきました」

少女「一瞬で!?」スゴイ

メイド長「メイドたる者、この程度嗜みでございます」

少女「うぅー、もう色々ワケわかんないよ……」ヒラヒラ


魔族「魔王様の為に人間共に鉄槌を!」

魔族「人間界を我等の手に!」


15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/28(月) 23:54:56.53 ID:Y4tf1Tbwo


― 魔王城 魔王の部屋 ―


獣王「では、魔王様は人間界への侵攻には反対だ、と」

少女「はい」

海王「ですが、人間界を破壊し、蹂躙し、征服する事こそが我々の悲願」

少女「じゃあお聞きしますけど、どうして私達を殺そうとするんですか?」

メイド長「『私達』というのは人間の事をおっしゃっておられるのでしょうか?」

少女「もちろんです。私は人間です」

竜王「魔王様は魔王様でございます。人間のような下等種ではございません」

獣王「まだ記憶が戻っておられないからご自覚がないんだ。しばらく時間を置くべきだと思う」

海王「仕方ありませんね……一度人間界からは手を引き、魔王様の記憶が戻られるのを待ちましょう。勇者とて急激に成長するような事はないでしょう」

メイド長「魔王様、紅茶を淹れ直しました」

少女「あ、ありがとうございます……みなさん、ご迷惑掛けちゃってごめんなさい……」シュン

獣王「な、何をおっしゃるんですか!」

海王「そうです。魔王様が謝られるような事は何一つとして!」

竜王「我々が先走ってしまった結果です。魔王様の記憶が無いのを失念しておりました。申し訳ございません」

メイド長「夜には吸血鬼も戻るはずです。お話はまたその時にいたしましょう」

少女「はい……」

獣王「今日のところはゆっくりお休み下さい」


16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:01:05.56 ID:D6BnVlAAo


― 魔王城 中庭 ―


少女「ここどこ……?」キョロキョロ

少女「ぁぅー、お手洗い行きたいだけなのに迷っちゃった……」

少女「わぁ、綺麗な花壇! チューリップにカーネーション、薔薇にガーベラ。こっちはマーガレットも!」

?「お気に召されましたでしょうか?」

少女「ひゃっ」ビックリ

?「申し訳ございません。魔王様を驚かせるつもりはございませんでした。平にご容赦ください」

少女「い、いえ。私こそ勝手に入っちゃってごめんなさい」

?「私は獣王様の配下、獣人族の花守りと申します」

少女「よ、よろしくお願いします……」

少女(猫さんみたいな人間みたいな?)

花守り「猫と人間のハーフと思ってくださって結構ですよ」ニコッ

少女「にゃーん?」

花守り「にゃーん」ニコニコ

少女「あははっ」ニコッ

花守り「素敵な笑顔でございます。ここは魔王様の為の庭園。いつでも魔王様の為に花を咲かせております」

少女「ほぇー。お手入れ大変そう……」

花守り「そのようなお言葉をいただけるだけでも過分でございます」

少女「そんな、畏まらないでください。私、魔王なんて言われても全然わかんないですから」アセアセ

花守り「ご記憶がないと伺っております。前魔王様は花には興味を示されませんでしたが、今回は私の腕をご覧頂けると心から嬉しく思っております」

少女「あははは……」

少女(何て言えば良いのか全然わかんないよぅ。でも、悪い人じゃなさそう)

少女「あれ……?」ソッ

花守り「どうかなさいましたか?」

少女「あ、いえ、スズランが一本だけここに生えてたから」

花守り「これは失礼いたしました。種が紛れ込んでいたのでしょう。すぐに抜きますゆえ……」

少女「ううん。スズランとライラックってすごく綺麗で大好きなんです」

花守り「このスペースは確かにライラックを植えておりますが……なるほど。言われてみるとお互いが引き立てあって調和が取れておりますね」

少女「スズランは幸運のお花って言われてるんですよ?」

花守り「人間界では花に色々な意味を持たせていると聞いた事がございます」

少女「うん。薔薇には『愛』、チューリップは『思いやり』、カーネーションは『純粋な愛情』。他にもたくさんあるんですよ」イッパイ

花守り「なるほどなるほど。もしよろしければ他にも教えていただけないでしょうか」

少女「もちろんっ。って、ごめんなさい。今はちょっと……」

少女(お手洗い行きたかったの忘れてた……)モジモジ

花守り「お時間を取ってしまい申し訳ございませんでした。またお時間のございます時にお願いいたします」ペコリ

少女「は、はいっ。また来ますね。ぜったい!」タタタタタ


17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:02:52.64 ID:D6BnVlAAo


― 魔王城 キッチン ―


少女「うなー、お手洗いどこ……」モジモジ

少女「明らかにキッチンだよね、ここ。どう間違えてもお手洗いじゃないや」キョロキョロ

少女「おっきなお鍋がたくさんある……こっちは中華鍋、かな? これだけおっきのだったら作り甲斐あるだろうなぁ」

少女「誰もいないのかな? お手洗いの場所聞きたかったのに……」

?「誰だ!?」

少女「ひゃぅっ!?」ビクッ

?「こんな時間に来るとは、昼飯が足りなかったからって盗み食いしに来たんだね!?」

少女「あわあわあわ」アタフタ

?「って……魔王様!? し、失礼いたしましたっ!!」ペコペコ

?「まさか魔王様とは露知らず、暴言の数々申し訳ございません」ドゲザ

少女「わ、私こそごめんなさいっ。迷っちゃって……」

少女(ちょっとだけ漏れちゃったかも……)

?「お腹が空いたのですか? でしたらすぐにでも軽食のご用意をいたしますが」

少女「あ、いえいえっ。お腹が空いたんじゃなくてですね、その……」

少女(人間……なのかな? でも耳が尖ってて……あ、少年君が貸してくれた本に載ってた)

少女「エルフさん、なんですか?」

?「はい。人型魔族のエルフ族に属します、調理師長と申します。厨房の責任者を仰せつかっております。この度は魔王様のご帰還、心よりお喜び申し上げます」

少女「あ、あははは……」

調理師長「今宵の宴には調理師一同腕をふるって魔王様のご帰還をお祝いする料理を作りますので、どうぞお楽しみになさってください」

少女「お料理って人間のお料理とは違うんですか?」

調理師長「人間界の料理とあまり変わりませんよ。ただ、種族が多様ですので使う食材がかなり広がります」

少女「ほぇー」

調理師長「例えば、獣族の一部は肉や魚ではなく、昆虫などを好んで食べますので、それに合わせた調理方法や味付けをします」

少女「田舎のお婆ちゃんがイナゴの佃煮作ってたけど、そんな感じなのかな……」

調理師長「ツクダニとは何でしょうか?」

少女「あ、えっと、お砂糖とお醤油とかで甘辛く味付けするんです」

調理師長「醤油……?」

少女「ありゃ、お醤油がわかんないのか……えっとえっと、お醤油っていうのは大豆に色々と手を加えて発酵させた調味料なんです」

調理師長「ふむふむ。味は甘辛になるんですか?」

少女「はい。佃煮はそんな味になります。お醤油そのものはしょっぱいですね」

調理師長「甘辛い、ですか……ふむ、ショーユとかいうのを手に入れてみたいですね」


18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:03:20.44 ID:D6BnVlAAo


少女「調理師長さんの得意料理って何なんですか?」

調理師長「得意なのはやはり肉料理ですね。塊肉を焼いてオリジナルソースを掛けるんですけど、そのソースに秘訣があるんですよ」

少女「ローストビーフみたいな感じなのかな……でも、あれはお肉にも手を加えるから違うのかな」

調理師長「ローストビーフというのは?」

少女「んっと、牛肉の塊に塩コショウをしてから大蒜とかを添えてタコ糸で縛って、オーブンで焼くんです。お肉の中心がレアなので肉汁が出て美味しいんですよ」

調理師長「それは美味しそうですね。早速取り入れてみましょう。魔王様はお料理が得意なのですね」

少女「誰かに喜んでもらえるのって嬉しいじゃないですか。あ、そうだ。簡単でよかったらレシピ書きましょうか?」

調理師長「魔王様にここまでしていただけるとは、光栄の極みでございます」

少女「そ、そんな事は……えっと、よく考えたら魔族の字ってわかんないや。っていうか私、今日本語喋ってるよね?」

調理師長「いえ、れっきとした公用魔族語ですが?」

少女「ふぇ!?」

調理師長「魔王様のご記憶の中で言語部分が一番早く戻ったのかもしれませんね」

少女「ぁぅー……私人間なのにぃ」

調理師長「あははは。魔王様は何だか可愛いですね」

少女「そ、そんなことないですよぅ」

調理師長「ま、レシピは私のほうで色々と試してみます。夜の晩餐にはご期待くださいね」ニコッ

少女「はいっ」ニコッ

少女「あ、そうだ!」

調理師長「なんでございましょう?」

少女「あの、調理師長さんは女性だと私は確信してるのでお伺いしたいのですけど」

調理師長「もちろん女性でございますが?」

少女「お手洗い、どこですか?」ゲンカイ


19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:04:06.03 ID:D6BnVlAAo


― 魔王城 屋上 ―


少女「うぅ……お手洗いですっきりしたのは良いんだけど、帰り道わかんないよぅ」

少女「ここは屋上みたいだけど……うわぁ、綺麗な眺め」

少女「あれは……太陽、じゃないよね。何なんだろう? 輝いてる何かが山の向こうに沈んでいくけど」

吸血鬼「あれはこの世界の太陽でございます」スタッ

少女「吸血鬼さん」

吸血鬼「ただ今帰還いたしました。この度は勝手な行動をしてしまい、申し訳ございませんでした」

少女「い、いえ。私こそわかんない内に吸血鬼さんに酷い事してたみたいで、ごめんなさい」ペコリ

吸血鬼「魔王様は何一つとして悪くはございません。魔王様のご意思は絶対なのですから」

少女「お身体は大丈夫ですか?」

吸血鬼「仮にも不老不死と呼ばれる私です。それに、魔王様の癒しの光ですぐに痛みなど飛んでいってしまいました」ニコッ

少女「よかったぁ」ニコッ

吸血鬼「魔王城を散策なさっておられたのですか?」

少女「あ、えっと、それが……」


吸血鬼「……魔王様、申し訳ございません。笑います」ハッハッハッハッハ

少女「もーっ! 笑わないでよぅ」

吸血鬼「い、いやしかしですね、居城たる魔王城で迷われるとかっ」アハハハハハ

少女「むー、だってだって、初めての場所なんだから迷うのはあたりまえでしょー!」

吸血鬼「くっ、苦しっ、笑いすぎて横っ腹がっ!」ヒャッヒャッヒャッ

少女「もー、吸血鬼さんってば!」ポカポカ

吸血鬼「も、申し訳ございませんっ、しかしっ」アヒャヒャヒャヒャ

少女「ふーんだ。もういいもん!」ベーッ タタタタ

吸血鬼「ま、魔王様っ、お一人ではまた迷ってしまい、まっ、あっはっはっはっは」ゲラゲラ


20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:05:15.25 ID:D6BnVlAAo


― 魔王城 池 ―


少女「ほんっとにもう、吸血鬼さんはっ!」プンスカ

少女「って、また迷ったのね、私……」ズーン

少女「しかもお城から出ちゃうとか頭に血が上ってたのかなぁ」

少女「池、だよね。うわぁ、水が綺麗。しかもおっきい。池っていうより湖なのかな」

少女「うーん、こういうトコで水浴びとかしたら気持ち良いだろうなぁ」パシャパシャ

ゴボゴボゴボ

少女「ひゃぅ?」

ザバァァァァッ

?「なーにーをーしーとーるー!!」ウネウネ

少女「きーゃーっ!!」ジタバタ

?「魔王様ではございませんか! てっきり獣族の者が泳ぎに来たのかと思いまして……申し訳ございませんでした」

少女「イカー!?」デカッ

?「私は海王様に仕える海族が一人、巨烏賊と申します」

少女「魔族って本当に色んな人(?)がいるんですね……」スゴイ

巨烏賊「人間は単一種族ですからね。我々からすればそちらのほうが異色です」

少女「うーん、なるほど……?」

巨烏賊「それはそうと、魔王様も水浴びでしょうか? 魔王様でしたら大歓迎でございます」

少女「ううん。綺麗な池だなーって思っただけです」

巨烏賊「ここは我々海族の本拠地と地下水脈で繋がっておりますゆえ、絶えず綺麗な水を湛えるようにしております」

少女「でもここのお水、海水じゃないですよね?」

巨烏賊「魔界の海は淡水なのですよ」

少女「海はない……ということなんですか?」

巨烏賊「ない、とは申しませんが、どちらかというと巨大な湖が点在していると思ってくださったほうがわかりやすいかと。あのしょっぱい海はごく一部にしかございません」

少女「人間界とは全然違うんだなぁ……」

巨烏賊「あちらの世界は海水が主と聞いた事がございますが」

少女「うん。海が6割? 7割だったかな? あれ、この前習ったはずなんだけど……」ウーン

巨烏賊「淡水はほとんどない、と?」

少女「湖や川は淡水ですよ。海に比べたら少ないですけど。イカさんも海に住んでますよ」

巨烏賊「なんと! それは興味深い……」

少女「他にも鯨さんとかマグロさんとか……」

巨烏賊「鯨でしたら南の大湖に群れで生息しております」

少女「わ♪ じゃあイルカさんも?」

巨烏賊「おりますよ。陽気な奴らです。いつも歌を唄ったりしています」

少女「……やっぱり喋るの?」

巨烏賊「大型種はほぼ全種が喋りますよ。人間界の奴らは喋らないんですか?」

少女「えっと、喋らない、というかイルカさん同士、鯨さん同士では喋ってるのかもだけど、私達にはわかんないです」

巨烏賊「不便そうですね」

少女「あはは……」


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:06:14.59 ID:D6BnVlAAo


巨烏賊「ご記憶がまだ戻っておられないと伺いましたが」

少女「記憶っていっても、私は私だから魔王の記憶とか言われても……わかんないよ」シュン

巨烏賊「……失礼いたしました」

少女「魔王って、どんな人なの?」

巨烏賊「私が知る部分というのはほとんどございません。私のような者が魔王様にご拝顔願えるなど本来ないことですので。しかしながら、前魔王様の事で知っております事といえば、厳しいお方とお伺いしたことはございます」

少女「厳しい人、ですか」

巨烏賊「はい。冷徹なまでに厳しいと。場合によっては魔族の犠牲も厭わないお方だと伺っております。ですが、魔族の事を絶えず思ってくださっていたとも」

少女「ほぇー」

巨烏賊「貴女様はお心のお優しい方だとお見受けいたします。ぜひともその暖かい光で我々を導いてくださいませ」

少女「うー、よくわかんないけどがんばる……?」

メイド長「魔王様、こちらにおられましたか」

少女「メイド長さん」

メイド長「皆で探しておりました」

少女「ごめんなさい。道に迷っちゃって……」

巨烏賊「それでは、私はこれにて失礼いたします。魔王様に栄光を」ブクブクブク

メイド長「色々な場所に行っておられたようですね」

少女「はい。花守りさんや調理師長さんにもお会いしました」ニコッ

メイド長「皆魔王様とお話ができたと喜んでいましたよ」

少女「魔族の人たちってみんな怖い人ばかりだと思ってたんですけど、違うんですね」

メイド長「もちろんです。互いに諍い合い、戦った記録は確かにございますが、今は魔王様の下、一致団結しております」

少女「人間とは、仲良くできないの?」キュッ

メイド長「……」

少女「ごめんなさい。私……」

メイド長「いえ、魔王様が悪いわけではございません。魔王様はお優しい方ですからそう思われるのですね。素晴らしい事だと思います」ニコッ

少女「……」

メイド長「やはり、人間界にお戻りになりたいですか?」

少女「うん……」

メイド長「そう、ですか」

少女「ごめんなさい」

メイド長「謝らないで下さいませ。魔王様はまだこの世界に慣れておられないのです。私共も色々考えておりますので、あまり気落ちなさらないで下さい」

少女「はい」

メイド長「さぁ、晩餐の為のお召し替えの時間です。湯浴みをしましょう」

少女「うんっ」ニコッ

メイド長「そういえば」

少女「ふぇ?」

メイド長「吸血鬼が屋上で抱腹絶倒状態だったのですが、魔王様は何かご存知ありませんか?」

少女「……知りませんっ!」プクー

メイド長「?」


22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:07:29.20 ID:D6BnVlAAo


― 魔王城 大広間 ―


吸血鬼「皆も知ってのように魔王様が我等の前に戻って来られた! 今宵はその宴だ。無礼講とする。多いに楽しめ!」

魔族士官「魔王様ばんざーい!!」

魔族士官「魔王様に栄光あれ!!」

少女「ぁぅー、ちょっと怖いかも……」ガクブル

メイド長「ご安心下さいませ。ここに居る全員は魔王様に心から忠誠を誓う者ばかりでございます。仮に魔王様がここで死ねと言えば喜んで自らの命を断つでしょう」

少女「そ、そんな事言わないよぅ」

獣王「魔王様、こちらが我ら獣族からの献上品でございます」

少女「わぁ、綺麗な宝石」

獣王「北の鉱山で採れた物です。来るべき魔王様のご復活の為、一族の秘宝としておりました」

少女「でも、こんなに高価そうなもの、貰えないですよ……」

獣王「この地の物は全て魔王様の物。一級品ともなれば尚更です」

少女「……」チラ

メイド長「受け取りませんと話が進みませんので」コソッ

少女「じゃ、じゃあ、いただきます。獣族の皆さん、ありがとうございます」ニコッ

獣族士官「魔王様が微笑んでくださったぞ!」

獣族士官「なんと可愛らしい……」ポケー

少女「あ、あはは……」ドウスレバイイノ

海王「魔王様、本日の料理は我ら海の一族からの献上物となっております」

少女「だからお魚とかが多いんですね。すっごく美味しいです」モギュモギュ

海族士官「ほっぺたをいっぱいに膨らませて食べておられる……」

海族士官「なんだこの感情は。これが……萌えなのか!?」ズガーン

少女「なんでそこだけ人間臭いんだろう」

竜王「我ら竜の一族からはこちらを」

少女「ペンダント……ですか? 綺麗なトップがついてる」

竜王「竜の一族に伝わる始祖たる者、黄金竜の鱗と言われております。あらゆる障害を跳ね除け、身に付ける者を守るとも」

少女「うぅ、皆さんすごい物ばかり……」

竜族士官「見ろ、あの魔王様のお顔を」

竜族士官「可憐だ……」

少女「あぅあぅ」オロオロ

メイド「落ち着いてください」

吸血鬼「では、最後に私から」

少女「吸血鬼さんからも?」
吸血鬼「もちろんでございます。我らから、というより我々一同から魔王様へのプレゼントとなります」

少女「ほぇ……?」ナンダロウ


23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:09:08.15 ID:D6BnVlAAo


吸血鬼「人間界へお戻り下さって結構でございます」

少女「……へ?」

獣王「魔王様は魔王様ですが、まだご記憶も戻っておられないご様子」

少女「うん……」

竜王「人間界にお戻りになりたいとおっしゃっておられましたでしょう?」

少女「それはそうですけど」

海王「斥候には引き上げ命令を出しました。魔王様のご決断があるまで我々はお待ちいたします」

少女「あ……」

吸血鬼「明日には人間界のご自宅にお送りいたします。ですから、今宵はどうぞこの世界をお楽しみいただけますでしょうか?」

少女「ありがとうございますっ」ペコリ ニコッ

人型魔族士官「謙虚な魔王様だ」

人型魔族士官「素敵すぎる」

少女「それと、ごめんなさい。皆さんが思ってるような魔王じゃなくて……」

吸血鬼「何をおっしゃいます。魔王様は魔王様。我々は貴女様の命にのみ従うのです」

竜王「ただ、一つだけ条件がございます」

少女「条件?」

海王「メイド長を同伴させていただきます」

少女「メイド長さんを?」

メイド長「はい」ペコリ

獣王「人間界は平和だとおっしゃいますが、勇者を含め、いつ魔王様に仇なす者が出現するやわかりません。ですから、護衛としてメイド長を」

少女「え、えっと……」

メイド長「ご心配なさらずに。私は元々人間界の住人でした。あちらでの常識やマナーは一通り覚えております」

少女「そうなんですか?」

メイド長「はい」ニコッ

少女「ほぇー……」

吸血鬼「ご納得いただけますでしょうか?」

少女「私は大丈夫ですけど……お父さんとお母さんに何て言えば良いんだろ」

メイド長「その辺りは問題ございません。魔王様のお傍に付くとはいえ、魔王様と共に暮らすわけではございませんから」

少女「そうなんですか?」

メイド長「魔王様のご自宅の屋根の上で寝ます」

少女「さらっととんでもない事言ってます!」


24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:09:46.18 ID:D6BnVlAAo


獣王「そんなモンじゃないですか?」

竜王「魔王城ならいざ知らず、人間界の一軒家で魔王様と共に暮らすなんて畏れ多い事この上ないですからね」

少女「何か色々ツッコミどころ多すぎるよぅ。お父さんとお母さんは私が説得するから、メイド長さんもちゃんと一緒に住みましょう!」

メイド長「なんてお優しいお言葉。そのお言葉だけで十分でございます。下水管の中でも土の中でもどこでも耐える事ができそうです」ニコニコ

少女「ダメダメダメ! いいからちゃんと一緒に住むコトっ!」

メイド長「……魔王様のご命令とあれば」スッ

海王「和やかだなぁ」

吸血鬼「まだ今はこれくらいで良いのですよ」ニコニコ

獣王「話も済んだところで魔王様」

少女「はい」

獣王「お飲み物でございます」

少女「ありがとうございます」コクコク

少女「……」

獣王「お、お気に召されなかったですか?」

少女「……ヒック」

吸血鬼「アルコールを渡したんですか?」

獣王「つっても子供用のやつだぜ?」

竜王「人間の子供は酒を飲まないそうですよ」

少女「……うーん」バタンキュー

海王「魔王様!?」

吸血鬼「言わんこっちゃない……」アチャー

メイド長「酔い潰れてしまったようですね。私が寝室までお運びいたしますので皆さまはこのまま宴を」

竜王「すみませんね。お願いします」

獣王「す、すまねぇ……」


25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:11:42.18 ID:D6BnVlAAo


― 富士山麓 洞穴上空 ―


吸血鬼「人間共は撤退したようですね」

メイド長「被害者が出てますからね。警察や軍が規制したのではないのでしょうか」

少女「タカイノコワイ」ガクブル

吸血鬼「魔王様、今しばらくのご辛抱を。急ぎますゆえ」

メイド長「あらあら、高いところは苦手ですか?」

少女「生身で飛ぶなんて初めてだもん……」

吸血鬼「夜も更けて参りました。今宵は満月。私の魔力が満ちる日です。飛ばしますよ」ヒュォッ

少女「きーゃーっ!!」コワイコワイコワイ

メイド長「魔王様、暴れないようにしてください」

吸血鬼「大丈夫ですよ。魔王様はお身体が小柄ですから」

少女「発達途中なんです!」プンスカ

吸血鬼「……何か私、嫌われてます?」

メイド長「さぁ……?」

少女「むー」

吸血鬼「宴の時は普通だったのに……」

少女「でも、本当に良かったんですか?」

吸血鬼「とおっしゃいますと?」

少女「帰りたいって言ったのは確かに私なんですけど、本当に帰っちゃっても良いのかなって」

吸血鬼「我々といたしましては魔王様が魔界を離れられるのは本意ではありません。ですが、現在の魔王様の状態を考えますとこれが最善ではありませんが、次善ではあると判断いたしました」

少女「……みなさんが期待してるような魔王じゃなくてごめんなさい」

メイド長「貴女様がお気にする事ではありませんわ。魔王様は魔族の中で最も尊いお方。貴女様の意思を我々は尊重いたします」

少女「でも、魔族は人間と戦おうとしてるんですよね?」

吸血鬼「はい。我々にとって人間は忌むべき存在。対極の生物と言っても過言ではないでしょう」

少女「どうしてそうなっちゃったの?」

吸血鬼「どうして……我々の裡にそういう『感情』が秘められている、としか答えようがございません。遥かなる古から我々は人間共と戦って来ました」

少女「戦争なんて悲しいだけだよ?」

メイド長「……それは、そうかも知れませんね」

吸血鬼「……」

少女「魔族の人たちだってみんな良い人ばっかりだったよ。花守りさん、調理師長さん、巨烏賊さん、獣王さん、海王さん、竜王さん……吸血鬼さん、も」

吸血鬼「ありがとうございます」ニコッ

少女「人間だって良い人がたくさんいるよ? ニュースとかで事件はたくさん起こってるけど、悪い人ばかりじゃないんだよ?」

吸血鬼「魔族とて同じです。魔王様に謁見した者達は厳重な審査をパスした者、所謂エリートでございますから。下層の者は野蛮です」

少女「……」

メイド長「人間と魔族は相容れない者同士。どちらか一方が滅びない限りは戦い続ける宿命なのです」

少女「そんなのヤだなぁ……」

吸血鬼「魔王様はお優しいですからね。しかし、いつかは決断の日が来ます。それまでは平穏な日を謳歌するのも悪くはないでしょう」

少女「……」

メイド長「……」

吸血鬼「我々魔族は魔王様の命あるまで人間界にはこちらからは手は出しません。それはお約束いたします」


26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:12:54.83 ID:D6BnVlAAo


少女「一緒に仲良くするっていう道はないの?」

吸血鬼「残念ながら……」

少女「ぁぅ……」

吸血鬼「間もなく到着いたします。少し揺れますのでしっかりと私に捕まっていて下さい」バサッ

少女「きゃっ」ギュッ

吸血鬼「ふむ、確かに発育段階ですね」

少女「えっち!」ポカポカ

吸血鬼「はははははは」

少女「やっぱり吸血鬼さんキライ……」

メイド「あらあら」ニコニコ


― 少女の家 玄関前 ―


吸血鬼「では、私はこれにて失礼いたします。何かございましたら念話でお知らせください」スッ

少女「ありがとうございました」

メイド長「お疲れ様でした」ペコリ

吸血鬼「魔王様に栄光あれ!」バサッ

メイド長「では、私も屋根の上に……」

少女「ダメです! ほらっ、メイド長さんも!」グイグイ

メイド長「で、ですが……」

ピンポーン

少女母「どちらさまで……少女!!」

少女父「少女だって!?」ドタドタ

少女「た、ただいま」

少女母「あなた今まで一体どこに……」

少女父「とにかく家の中に。えっと……?」

少女「あ、こちらは私がすごくお世話になった方でメイド長さんっていいます。事情はあとで説明するけど出来れば一緒に住めればって」

メイド長「はじめまして。メイド長と申します。まお……いえ、少女様の身辺警護とお世話を仰せつかっております」

少女父「警護? お世話?」

少女「と、とにかく入ろ? 外はまだ寒いよぅ」

少女母「少女、よく無事に」ギュッ

少女「ふぁっ……ごめんなさい、お母さん」ギュッ

メイド長「……」


27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:14:51.96 ID:D6BnVlAAo


少女父「それで、一体何が起こったんだ? あの日の朝、お前が起きてこないから見に行ってみたらもぬけの殻だったんだ。父さんも母さんも心配して走り回ったんだぞ」

少女母「あ、そうだわ。警察に戻ってきましたって言わなきゃ」パタパタ

少女「やっぱり大事になってた……」

メイド長「ご両親から愛されておいでなのですね」

少女「……?」

少女父「メイド長さん、娘がお世話になったようで」

メイド長「いえ、私の使命ですからお気になさらないで下さい」ニコッ

少女父「き、綺麗だ……」ポケー

少女母「あ、な、た?」ガシッ

少女父「お、お前!? いや、なんでもないなんでもない。えっと、少女、何が起こったから教えてもらえるか?」

少女「うん……実は」


少女「ふぃー、なんとかなった、かな?」

メイド長「見ず知らずの男が侵入してきて誘拐、同じように誘拐されてた私が逃走の手引きをして共に脱出。でも私には帰る家がない、というのは少々苦しい言い訳でしたがご両親は納得なさったようですね。となると、吸血鬼が誘拐犯という事になりますが……」クックック

少女「それくらいは被ってもらわなきゃね。酷い事ばっかり言うんだから!」

メイド長「酷い事とおっしゃいますと?」

少女「……な、なんでもないですっ」プイス

メイド長「魔王様がそうおっしゃるのでしたら」

少女「あと、ここではその言葉は禁句だよ?」

メイド長「申し訳ございません。承知いたしました」

少女「明日には隣の部屋をお父さんが空けてくれるから今日は一緒の部屋で我慢してね?」

メイド長「我慢だなんて……魔王様と同室など、本来私のような者に許されるような事ではございません」

少女「そいえばメイド長さんって元人間って言ってたけど……」

メイド長「……申し訳ございません。その件につきましては」ペコリ

少女「ご、ごめんなさい」

メイド長「いえ、私の我儘でございます。魔王様にはご説明差し上げるべきだとわかっておりますが……」

少女「ううん。いつかお話してくださいね」

メイド長「はい」ニコッ


28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:15:17.42 ID:D6BnVlAAo


コンコン

少女「ふぁっ!?」

メイド長「窓、でございますね」スッ

?『おい、少女。帰ってきたって本当か!?』

少女「少年君っ!」ダッ

メイド長「なりませんっ」ギュッ

少女「へぶっ」ステーン

メイド長「申し訳ございません! つい……」

少女「だ、大丈夫……」イタイ

少年『おい、どうした? 誰か居るのか?』コンコン

少女「あ、ううん。ちょっと着替え中だからっ」

少年『ご、ごめん! じゃあ、また明日』

少女「待って!」

少年『ん?』

少女「メイド長さん、すみませんけど……」

メイド長「しかし、あの者は我らが敵たる勇者の魂を持っております。いつ魔王様に手を挙げるかわかりません」

少女「大丈夫。少年君は絶対そんな事しないから。お願い」ジッ

メイド長「……承知いたしました。私はお風呂を頂いて参ります」

少女「ごめんなさい」

メイド長「お気になさらずに」ニコッ


29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:17:21.11 ID:D6BnVlAAo


少女「お、お待たせしました」カラカラ

少年「お、おう。無事だったんだな。良かった」ニコッ

少女「う、うん」

少年「一体何が起こったんだ? いきなりお前がいなくなったって大騒ぎになってたんだぜ」

少女「心配かけちゃってごめんね? ちょっと色々あって……」

少年「まぁ、無事だったならそれで良かったよ」ナデナデ

少女「うにー」ニコッ

少女「少年君は……何か変化とか、あった?」

少年「変化? いや、別に何もないなぁ。例の富士山の件以降警察とか自衛隊とかが何かやってるってネットで書いてたけど、それ以外は特に、かな。あぁ、学校の登下校が集団ですることってなったのと、夜間外出禁止令が出たくらいじゃないかな」

少女「ほぇー」

少年「それはそうと、あの時の『アレ』、やっぱり俺とお前にしか『視えて』なかったみたいだ」

少女「そ、そうなんだ……」

少年「一体何なんだろうなぁ。あの辺は今立ち入り禁止になってるみたいだけど」

少女「ほらっ、地震であんな穴があいちゃったんだから、土砂崩れとかの二次災害とか大変だからじゃない?」

少年「んー、そうかなぁ。俺はやっぱりあの怪物みたいなのが……」

少女(やっぱり……言っちゃダメだよね。私が魔王で、少年君が勇者だなんて)

少年「ん? どうしたんだ?」

少女「んーん。少年君とまたこうやって会えてよかったなって」ニコッ

少年「な、何言ってんだよいきなり」

少女「あっ、なななななんでもないよっ! 気にしないで!」アタフタ

少年「お、おう。っと、そろそろ帰るな。お前の顔見たかっただけだから」

少女「うん」

少年「明日は学校来れるのか?」

少女「もちろん! みんなとも会いたいもん」

少年「んじゃ、朝迎えにくるな」

少女「い、一緒に学校行くの!?」アタフタ

少年「いや、集団登校してるってさっき言ったじゃねぇか」

少女「あ、あ、そ、そっか。うん。集団登校ね……」

少年「ホントに大丈夫か?」

少女「大丈夫大丈夫っ。ちょっと疲れてるだけだから」

少年「んー、わかった。早く寝ろよ」

少女「うん。少年君もね」


30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/29(火) 00:17:47.40 ID:D6BnVlAAo


少年「おうよ。おやすみ」

少女「おやすみなさい」ニコッ

少年「……」ジー

少女「ふぇ?」

少年「本当に無事で良かった」クシャッ

少女「ふぁ……」

少女(頭撫でられるの、気持いいなぁ)

少年「んじゃな」タッ

少女「ばいばーい」フリフリ


メイド長「お話は終わったようですね」カチャ

少女「うん。追い出しちゃってごめんなさい」

メイド長「いえ。良いお風呂でした」ホコホコ

少女「あはは」

メイド長「勇者はまだ目覚めてすらいないようですね」

少女「そう、なの?」

メイド長「目覚めているのでしたら私の気配や魔王様の魔力に反応しているはずですから」

少女「魔力?」キョロキョロ

メイド長「見てわかるものではございません。ですが、魔王様が放っておられる魔力は桁違いですから」

少女「ほぇー」

メイド長「では、魔王様もお風呂にどうぞ。お背中お流しいたします」

少女「ふぇ!?」

メイド長「魔王様のお世話は私の使命でございます」

少女「い、いえいえいえいえ。自分でできますからっ」エンリョシマス

メイド長「ですが……」

少女「ほ、本当に大丈夫ですからっ」

メイド長「……承知いたしました」

少女「いってきますね」トタトタトタ

メイド長「本当に、人の好い魔王様ですこと」クスッ


38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 19:57:40.38 ID:tN+DsQC+o


― 学校 ―


少女友「少女~っ!!」ギュッ

少女「わぷっ」

少女友「無事だったんだね。よかったぁ」ギュー スリスリ

少女「あうあうあうあう」

少女友「いきなり行方不明って聞いてたからすっごく心配してたんだよ!」

少女「ご、ごめんね……」

少女友「こうやって会えたんだから無問題っ。少年君も良かったね」ニコッ

少年「な、なんで俺に振るんだよっ」アセアセ

少女友「んー? 心配しすぎてご飯も喉に通らなかったんじゃないのー?」ニヒヒ

少年「ばっ、何言ってんだよっ」

少女「少年君……」

少女友「でもさ、少年君ってば1年の子から告白されてたんだよー?」

少女「……え?」ドクンッ

少年「ちょっ、おまっ!」

少女友「なによー、事実でしょ。一昨日の放課後、手紙で呼び出されてたじゃない」

少女「……しょう、ねん、くん?」ドキドキ

少年「余計な事言うなよっ。それに、あれは断ったし!」

少女「……そう、なの?」

少年「あ、当たり前だろ! 後輩は確かに可愛いかもだけどよ、俺は別に何とも思ってなかったよ!」

少女友「だってさ。良かったねぇ、少女」

少女「ふ、ふぁっ!? なななななな、なんで私に?」

少女友「んー? なんでもなーい」ニヤニヤ

先生「おーい、HR始めるぞー」

少女友「ほらほら、先生来たよ。席に戻ろっ」


39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 19:58:34.89 ID:tN+DsQC+o


少女「あ、うん……」

先生「さーて、まずは少々季節外れだが教育実習生の方が今日から来る事になった」

生徒「今頃?」

生徒「普通2学期とかじゃないの?」

先生「まぁ、色々事情があるんだ。早速紹介するぞ。メイド長先生だ」

ガラガッシャン

先生「少女、どーした?」

少女「い、いえっ、なんでもありません」イタタ

メイド長「皆様はじめまして。本日より教育実習生として本校に参りました、メイド長と申します。何卒よろしくお願いいたします」ペコリ

生徒「うぉー! 美人!!」

生徒「うわぁ、綺麗な人!」

生徒「サイコー」

少女友「すっごい美人さんだね」

少女「う、うん。そうだね……」

少女(今朝何も言わなかったからおかしいなーって思ってたけど、こういう事だったのかぁ)

先生「メイド長先生は数学を担当して下さる。一時間目が数学だからこのままお願いします」

メイド長「承知いたしました。では皆様、授業を開始いたします」

少女「何か色々不安……」


40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:00:28.36 ID:tN+DsQC+o


― 授業後 ―


メイド長「では、この辺りで終了いたします。皆様お疲れ様でした」ニコッ

生徒「いつもは長く感じる数学が一瞬だった……」

生徒「わかりやすかったね~」

生徒「あっ、先生! 俺、わからないところがっ!」

生徒「おれもおれも!」

少女「め、メイド長先生っ、ちょっとよろしいですか?」

少女友「あれ、少女?」イツノマニ

メイド長「少女さん、何でしょうか?」

少女「ちょ、ちょっとこっちに……」グィグィ

生徒「おいおい少女~、積極的だなぁ」

生徒「百合か!? 百合なのか!?」

少年「……?」


少女「ここなら大丈夫、かな」ハァハァ

メイド長「魔王様、息が上がってますよ」ヘイキ

少女「呼び方違いますっ」

メイド長「……少女様」

少女「様づけもいらないんだけどなぁ……」

メイド長「授業中ならまだしも、そこだけは譲歩できません」

少女「そうだよっ、なんで先生に!?」

メイド長「少女様をお守りする使命がございますので、すこーしだけ手を廻しました」

少女「ぇー……」

メイド長「危険はどこに潜んでいるかわかりません。貴女様をお守りする為にはこうするしかありませんでしたので」

少女「ぅー……」

メイド長「さて、私は次の授業の準備がございますのでこの辺りで失礼いたしますね」

少女「あ、はい」

メイド長「下校の際はご一緒させていただきますので、また放課後にお会いいたしましょう」

少女「わかりました」


41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:01:04.10 ID:tN+DsQC+o


― 放課後 ―


少女「あれ、少年君。サッカー部は?」

少年「集団下校の兼ね合いでしばらくの間部活停止だとさ」

少女「ありゃりゃ。残念だね」

少年「大会も近いってのにさ。身体鈍っちまうよ。それに下校は集団つっても結局みんなバラバラだからなぁ」

少女「そうだよね。みんな普通に帰ってるね」

?「せ、先輩っ!」

少年「ん?」

少女「ふぇ?」

?「もしよかったら一緒に……」

少年「後輩か。ごめんな、こいつと帰るからさ」ポンポン

少女「もー、子供扱いしないでよぅ」プンスカ

少年「あははは。ごめんごめん」

後輩「貴女が、少女先輩ですか?」

少女「あ、うん。そうだよ」

後輩「……」ジー

少女「?」

後輩「負けません」ボソッ

少女「っ」ゾッ

後輩「じゃあ先輩、また明日」タッタッタ

少年「気をつけて帰れよー」

少女(すごい目……)ドキドキ

メイド長「明らかに殺意を持っておりましたね」ボソッ

少女「ひゃぅっ!?」

メイド長「驚かせてしまいましたか。申し訳ございません」


42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:03:34.76 ID:tN+DsQC+o


少年「先生、どうしたんですか?」

メイド長「いえ、少女さんと帰る家が一緒ですのでご一緒しようかと」

少年「そうなのか?」

少女「あ、うん」

少年「親戚か何か?」

メイド長「はい。遠縁にあたりますので、少女さんのお家にお世話になっております」

少年「……」ジッ

メイド長「何でございましょう?」スッ

少女(め、メイド長さんっ)

メイド長『ご心配なさらずに。あくまで用心でございます』

少年「こんな美人な親戚が居るなんて、羨ましい」ハァ

少女「……」

メイド長「あらあら、お褒めのお言葉ありがとうございます」ニコッ

少女(ほっ)

少年「でも先生、職員会議だとか色々忙しいんじゃないの?」

メイド長「書類仕事は全て片付けました。職員会議は本日はないそうですので実習生は先に帰って良い、と」

少年「んじゃ、一緒に帰ろうぜ」

メイド長「お邪魔いたしますね」

少年「いや、別に邪魔とかじゃ……」モゴモゴ


43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:05:13.01 ID:tN+DsQC+o


― 帰宅の道すがら ―


少女「少年君はさっきの後輩さんと仲良いの?」

少年「んー、別にそんなに仲良かったつもりはないんだけどな。あいつ、サッカー部のマネージャーだから色々頼みごととかはしてたけど、他のやつらも似たような感じだったぜ」

少女「ふーん……」ジトー

少年「いや、本当にちゃんと断ったんだぞ?」

少女「べ、別にそんなコト気にしてないもんっ」プイッ

少年「……」

メイド長「あらあら」ニコニコ

少年「そ、それはそうと、いつまでこのまんまなんだろうな」

少女「集団登下校?」

少年「うん。夜間の外出禁止令も出たまんまだし、色々と不便なんだよなぁ」

メイド長「深夜にこっそり本屋に買い物に出かけたりできないから、でしょうか?」

少年「なっ、何言ってんだよ!?」アセアセ

少女「ふぇ?」キョトン

メイド長「少女さんはご理解なさっておられないようですね。ご説明いたしましょうか?」

少女「何の事?」

少年「な、なんでもねぇよ! 気にすんなっ!!」アタフタ

少女「?」ナンダロ

メイド長「少年さんは今のこの状況をどうお考えなのですか?」

少年「んー、別にどうとも思ってない、かな。何かあったんだろうとは思うけど、俺みたいなガキが何か出来るワケないしさ」

メイド長「……」

少女「そう、だよね」

少年「難しい事は大人が片付けてくれるんじゃないか? 俺達はいつも通りに学校行って、遊んでりゃ良いんだよ」ニッ

少女「うんっ」ニコッ


?「きゃぁぁぁぁっ!!」

少女「えっ?」

少年「なんだありゃ!!」

メイド長「っ」

少女(メイド長さん!)


44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:08:20.53 ID:tN+DsQC+o


メイド長『下等種の魔物ですね。撤退命令に従わなかったのでしょう』

魔物「ブルルルルルル」フゴーフゴー

少年「イノシシ……にしちゃでけえな」

少女「四つんばいなのに大人よりおっきい……」キュッ

少年「だ、大丈夫だ。すぐに警察とかが来てくれる」

メイド長「警察ごときに何が出来るのか疑問ではありますけど」ボソッ

少女「ど、どうしよう?」

少年「暴れられたら手のつけようがないだろうな。ここは刺激しないように逃げるしかないだろ」

学生「なんだよこの化け物! あっち行けよ!」ポイッ ゴツン

メイド長「いけませんね」

少女「おっきな石投げちゃった」

魔物「ブォォォォォォォ!!!」

学生「う、うわぁっ!?」

主婦「きゃぁぁぁっ!!」

子供「うわーん!!」

少年「余計な事しやがって! おい少女、逃げるぞ!」ギュッ

少女「あ、う、うんっ」

メイド長「私は避難の手伝いをしてから家に向かいます。先にお戻り下さい」

少年「先生、あぶねぇぞ!」

メイド長「大丈夫ですよ。伊達に修羅場は何度も潜っていませんから」ニコッ

少年「っ!?」ゾワッ

少女「しょ、少年君、行こっ」ギュッ
少年「わ、わかった」

メイド長『人目のつかない場所まで移動して片付けます。魔王様はまっすぐお戻り下さい』

少女(気をつけてくださいね)

メイド長『お優しいお言葉、ありがとうございます』


45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:20:20.33 ID:tN+DsQC+o


― 少女の自宅近く ―


少女「びっくりしたね」

少年「先生、大丈夫かな」

少女「きっと大丈夫だよ。さ、行こ?」

少年「……待て」グィッ

少女「へ?」

少年「何か、居る」

?「グルルルルルル」

少女「ななななななな何あれ!?」

少年「静かに。こっちには気づいてないみたいだ。でけぇ狼みたいだな」

少女「ふぇ……」

少女(メイド長さん、聞こえますか!?)

メイド長『申し訳ございません。かなりの量の下等種がこちらの世界に居るようです』

少女(どうすればいいの!?)

メイド長『こちらの野生動物と同じような知能しか持っていないので魔王様のご命令が行き届かなかったようです。現在そちらに急行しております。息を潜めて隠れておいてください』

少女「しょ、少年君、隠れよ」

少年「あ、あぁ……」

狼?「グル……」クンクン

少年「残念ながら見つかったみたいだぜ」

狼?「グォォォォォォ!!」

少女「に、逃げようよ!」

少年「動くな!」

少女「っ」ピタッ

少年「下手に動いたら襲いかかってくるぞ」


46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:24:01.10 ID:tN+DsQC+o


少女「ど、どうして?」

少年「親父に聞いたことがあるんだ。野生の動物ってのは逃げる奴を追いかける習性があるらしい。だから野生の動物に狙われた時は目を逸らすなって言ってた。目を逸らさずに、ゆっくり後退するんだ」

少女「う、うん」

狼?「グルルル」

少年「にしてもこいつら、普通の動物じゃないな」

少女「おっきいよね」

少女(魔界の動物だなんて絶対言えない)

少年「お前だけでも先に行け」

少女「ダメだよ。少年君を置いてなんて行けないっ」

少年「お前に怪我させるわけにはいかないだろ」

少女「でも、でもっ」

狼?「グォォォッ!」ダッ

少女「きゃぁっ」

少年「くそっ!」ダッ

少女「少年君っ!!」

少年「お前は逃げろ! 怪物め、こっちだ!」タッ

狼?「グォォォッ!!」ダッ

少女「少年君っ!」

メイド長『魔王様、くれぐれもその場を動かないようにお願いします』

少女(でも少年君がっ!)

メイド長『私が追います!』

少女「……やっぱり無理っ!」ダッ


47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:25:35.50 ID:tN+DsQC+o


― 見知らぬ路地裏 ―


少女「少年君っ!!」

狼「ギャォォォォォォォォォォォオオオオオ!!!」ドサッ

少年「はぁっ、はぁっ!」ゼェゼェ

ブォン

少女「少年君っ!」

少女(光でできた剣……?)

少年「少……女?」シュンッ

少女「少年君っ、大丈夫!?」ギュッ

少年「何が起こったんだ……? もうダメだと思ったのに。少女、大丈夫だったか?」

少女「うん。少年君は?」ギュー

少年「大丈夫だ。うん、大丈夫……」チクンッ

少女「無事で良かったぁ」ニコッ

少年「あぁ。俺も、お前が無事で良かった。お前が傷つく姿なんて見たくもないからな」ニコッ

少女「えへへー」ニコッ ギュー

少女「少年君、あのね……」

少年「ん? どうした?」チクッ

少女「わ、私、少年君の事が……好きなの」ギュッ

少年「お、おいおい」

少女「ずっと、ずっと好きだったの。でも言い出せなくて……後輩さんから告白されたって聞いた時、すっごく怖かった。少年君がいなくなっちゃうのかもって思ったら足が震えて……」

少年「少女……」

少女「少年君の傍にずっと居たい。少年君と一緒に笑っていたいの」

少年「……」ハァ

少女「……めい、わく?」キュッ

少年「そんなワケないだろ。何言ってんだよ。幼稚園に入る前からずっと一緒に育ってきたんじゃねーか」

少女「少年君」

少年「俺こそずっと言えなかった。もし少女にはその気なんかなくてただの腐れ縁程度にしか思われてなかったらって想像したらそれだけで怖かったんだ」

少女「うん……うん」

少年「先に、言われちまったな。俺も、お前の事が好きだよ」ニッ

少女「少年君っ!」ギュッ

少年「少女……」ソッ

少女「……」ソッ


ズキンッ


少年「っ!?」ガクッ


49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 20:32:31.92 ID:tN+DsQC+o


少女「どうしたの!? 大丈夫!?」

メイド長「遅かったようですね」スタッ

少年「……先生?」

少女「メイド長さん」

少年「っ……な、なんだ!?」ズキンッ

少女「少年君!?」

少年「あ、頭……が……」ズキンズキン

メイド長「覚醒したようです」

少女「少年君! 少年君!?」

少年「少女……? しょう……ま……?」

メイド長「お下がりください」ザッ

少女「で、でもっ」

少年「ま……ま、お、う……」

100L少女「少年君!!」

少年「魔王……魔王か!?」ギラリ

少女「!?」ゾクッ

メイド長「ちっ。魔王様、逃げます」ダキカカエ

少女「少年君!!」

少年「魔王……人間の絶対敵。人間の対となる陰の王。俺の……敵!!」ギンッ

メイド長「っ!!」ヒュンッ

少女「少年君っ!!!」


メイド長「ここなら大丈夫でしょう。魔王様、お怪我はありませんか?」

少女「何だったの、あれ……少年君の瞳じゃなかった……」ヘタッ

メイド長「勇者として覚醒した者の瞳です。我々魔族を憎み、滅ぼすためだけに生きる者の、瞳です」

少女「少年君はどうなるの!?」

メイド長「歴代勇者の記憶を受け継ぎ、技を受け継ぎ、成長し、我々に仇なす者となるかと」

少女「そんなっ! やっと、やっと好きって言えたのに!」

メイド長「少年としての記憶は残ると思われますが、それ以上に魂の鎖に縛られる事になると思われます」

少女「なんで……なんでこんな事になっちゃうの!? 私は普通に生きていたかっただけなのに!! 少年君の傍に居たかっただけなのに!!」

メイド長「……」

少女「少年君……」ポロポロ


53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 22:30:56.74 ID:tN+DsQC+o


― 学校 ―


少女「結局昨日はお家にすら帰れなかった……お父さん達には少女友ちゃんの家にお泊りするって言ったけど……」

少女友「おっはろー♪ あれ、今日は一人?」

少女「少女友ちゃん……」

少女友「ん~? 何かあったの?」

少女「……」

少女友「お、噂をすれば少年君」

少女「っ」

少女友「ほら、校門のトコ。ってあれ? あれって……」

少女「……後輩、さん?」

少女友「腕まで組んで……何があったのよ。昨日言ってたコトと全然違うじゃない!」

後輩「……」ニッ

少女「……っ」

少女友「こっち見て笑った? ねぇ、少女……」

少女「ごめん、ちょっと調子悪いから保健室行ってくるね」カタン

少女友「わ、私も一緒に行くよ」

少女「ううん。大丈夫だから」ニコッ

少女友「私、少年の奴問い詰めてくる」

少女「いいの!」

少女友「で、でもっ」

少女「いいの……」

少女友「……」

少女「授業が始まる前には戻るから」タッ

少女友「あっ、少女っ!」

タッタッタッタ

少女友「……」


少年「おー、おはよー」

少女友「ちょっと」

少年「ん? どうした?」

少女友「どうした? じゃないわよ! あんた一体何考えてんのよ!」

少年「何って、何がだよ」

少女友「ちょっと来なさい!」

少年「お、おい。授業もうすぐ始まるぞ」

少女友「いいから!」グィッ


54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 22:31:29.98 ID:tN+DsQC+o


― 学校屋上 ―


少年「一体どうしたんだよ」

少女友「それはこっちの台詞よ! あんた一体何考えてんの!?」

少年「その台詞2回目だぜ」

少女友「そんな揚げ足どうでもいい! 少女の事よ!」

少年「少女ぉ?」

少女友「そうよ! 昨日あんな事言っておきながら今朝になって後輩ちゃんと仲良く腕組んで登校とかどういう事!?」

少年「あー、その事か」

少女友「その事って……あんたねぇ!」グィッ

少年「胸倉掴むなって。お前は喧嘩っ早いなぁ、昔から」

少女友「一体なんなのよ! あんたは何考えてんのよ!」

少年「3回目」

少女友「っ」パァンッ

少年「いっててて……お前に叩かれるのも久しぶりだなぁ」ヒリヒリ

少女友「説明して。一から十まで全部」

少年「説明する事なんてねぇよ。お前には、な」

少女友「どういう事よ!」

少年「どうもこうもねぇよ。あいつは敵なんだ」

少女友「敵って……少女が?」

少年「当たり前だろ。あいつは敵だよ」

少女友「どういう意味よ」

少年「意味も何もそのままの通りだよ。あいつは、人間の敵だ」

少女友「わけわかんない」

少年「わかんなくて当然。でもな、後輩は『わかって』たんだよ」

少女友「どういう事なのよ! あの子を簡単に捨てて自分はヒョイヒョイと他の女と付き合うって、あんたそんな奴じゃなかったじゃない。それ以前に、あんたも少女もお互いに……」

少年「お前は何もわかってない」ギロ

少女友「っ」ゾッ

少年「少女は、あいつは敵なんだ。俺達人間の敵だ。天敵だ」ギリッ

少女友「どういう、意味なのよ」

少年「お前は何も知らないままのほうが良い。忘れろ。俺とあいつは何でもない」

少女友「ちょ、ちょっと!」

少年「俺は、勇者だ」

スタスタスタ

少女友「どういう意味なのよ……」


55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 22:32:40.02 ID:tN+DsQC+o


― 学校 放課後の屋上 ―


少女友(少女、結局戻ってこなかった……)

少女友(一体あの二人に何があったっていうのよ。昨日までは……、ううん。少女が誘拐されるまでは普通だったのに。お互いに好き合ってるけど、お互いにそれが言えなくて、でも雰囲気はもういちゃらぶで、見てる周りのあたし達からすりゃやきもきしちゃう程だったのに)

少女友「……あれ、もう誰もいないのか。はぁ、一体何がどーなってんのよ、本当に」カタン

少女友「少年の奴は授業が終わってすぐに後輩ちゃんが迎えに来て、それが当然みたいな顔して一緒に帰っちゃうし」

少女友「ワケわかんない……」


少女「少女友ちゃん」

少女友「少女! いつから居たの?」ビックリ

少女「私と少女友ちゃんって、お友達?」

少女友「当たり前でしょ! 親友だよ?」

少女「……ほん、とうに?」

少女友「何言ってるのよ。あんたも少年、あたしの三人は小学校からずっと一緒じゃない。あんたの事は全部知ってるわよ! それにしてもあのヤロー、一体何考えてんのよ……酷すぎるわ」ギリッ

少女「ありがとう」ニコッ

少女友「少女……?」

少女「少女友ちゃん、本当にありがとう」

少女友「なんであんたがそんなコト言うのよ。私は、何があってもあんたの味方よ」ギュッ

少女「あはは……」ポロポロ

少女友「少女、本当に大丈夫?」

少女「あは。ごめんね、少年君の言ってた事、本当なの」

少女友「どういう事?」

少女「私、人間の敵みたい」

少女友「何の事なのよ。ゲームの話? 今そんな話してな……」

少女「少女友ちゃん」

少女友「な、何?」

少女「一緒に、来てくれる?」

少女友「どこに?」

少女「私と、一緒に、来てくれる?」

少女友「私はあんたといつも一緒よ? そりゃ家は少しばっかり離れてるけど……」

少女「……ごめん。なんでもない」

少女友「一体どうしたのよあんたも少年も。何があったの!? ちゃんと説明してよ!」


56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 22:33:52.94 ID:tN+DsQC+o


少女「……メイド長」ボソッ

メイド長「こちらに」シュタッ

少女友「せ、先生!? 何、どこから来たの!?」

少女「……吸血鬼」

吸血鬼「仰せの通り馳せ参じました」シュッ

少女友「!?」

少女「……獣王」

獣王「ははっ」ザッ

少女友「な、何……?」

少女「……海王」

海王「我が王の仰せのままに」スゥッ

少女友「ば、化け……物」

少女「竜王」

竜王「我が君と共に」バサッ

少女友「……少女?」

少女「ごめんね、少女友ちゃん。私、魔王なの。人間を滅ぼす、人間の天敵だったの」

少女友「な、何言ってるのよ! あんたは正真正銘人間でしょうに! 私の親友でしょ!」

少女「ごめんね……もう全部どうでもいいやって思っちゃったら」

少女友「……」

少女「全部、『思い出し』ちゃった」ペロッ

少女友「少女っ!」


57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/03/31(木) 22:34:17.12 ID:tN+DsQC+o


少女「少女友ちゃんが居るこの街には絶対手は出さないって誓うから」ニコッ

少女友「ちょっと少女っ! どういうこと!?」

少女「魔界に戻ります。人間界への侵攻を再開。至急準備をして下さい」ザッ

四王「承知いたしました」ザッ

少女友「少女っ! 何がどうなってるのよ!?」

少女「……」スゥッ

少女友「消え……た?」

メイド長「少女友さん」

少女友「先生……何なの? 何があったのよ!? 少年の馬鹿と少女は一体何があったの!」

メイド長「少女……いえ、魔王様が仰った通りです」

少女友「魔王って何!? 勇者って何なの!? ゲームの話じゃないんだからっ」

メイド長「……貴女には手を出すなと魔王様より厳命されております」

少女友「手を出すなってどういう事よ!」

メイド長「じきにわかります。魔王様は魔界の中心、魔王城に行かれました」

少女友「魔界? 魔王城?」

メイド長「平和な世界を、取り戻したいですか?」

少女友「あ、当たり前じゃない! でも、平和な世界ってどういう事なのよ」

メイド長「貴女に鍵を託しましょう。私が成し遂げる事の出来なかった、鍵を託します」フォンッ

少女友「鍵? なにこれ、数式? 頭に何かが流れ込んで……」

メイド長「貴女の想いが本物なら、きっと魂の鎖からお二人を……」スッ

少女友「ちょっと! どういう事なのよ!?」


 この時を境に私の日常は音を立てて崩れ去り、私は嵐の中心に放り出されてしまいました。


61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:35:07.52 ID:YZbjmkcXo


― 2ヶ月後 学校 ―


少女友「おはよー」

友女「うぃっす。今日も無事に学校来れたね」

少女友「うん」

友女「富士の洞穴から化け物が大挙して侵攻してきたって言われても、なーんか実感ないわよね」

少女友「……だね」

友女「今朝のニュース見た? 自衛隊だけじゃなくて米軍も化け物退治に参加するみたいよ」

少女友「そうなの? でも結局自衛隊の二の舞じゃない? 被害、すごいんでしょ?」

友女「お父さんが言うには火力が違うって話だけどね。被害、被害かぁ。富士山周辺の街とかは化け物だらけって話だよね。それ以外のトコでも怪物が出現したって話もたくさんあるし。でもさ、この街だけは富士山からそんなに離れてないのになんでか知らないけど安全なのよねぇ」

少女友「そう、だね」

少女友(少女は約束を守ってくれてるって事……?)

友女「あ、そうだ。これこれ」ガサゴソ

少女友「雑誌? って少年じゃない」

友女「うんうん。最前線で活躍する『人類の希望』に独占インタビュー! だってさ。しっかしすごいわよね。クラスメイトが『勇者』だなんてさ。びっくりしちゃう」

少女友「……」

友女「勇者に魔王、ね。最初聞いた時は何の冗談かと思ったけど、今や世界を救うヒーローなんだもんね。しかもパートナーの子もこの学校の生徒なんでしょ?」

少女友「後輩、だっけ?」

友女「そうそう。インタビューにもチラっと載ってるけど、勇者より早く『覚醒』して手助けをしてたらしいね」

少女友「ふ、ふーん……」

友女「それにしても『魔王』ってどんな奴なんだろ。きっとおどろおどろしい化け物なんだろうな」

少女友「そっ、そんな事っ!!」

友女「どしたの?」

少女友「なんでもない……」

友女「少年君といえば、少女、無事にやってるのかなぁ。急に海外にホームステイする事になったとかで挨拶もなかったもんね」

少女友「……うん」

友女「あんたは二人の幼馴染なんでしょ? 何か連絡とかないの?」

少女友「べ、別にないかな。少女の引越し先も知らない、し」

友女「少年君も?」

少女友「あいつは全然。っていうか喧嘩別れ?」

友女「あー、何か言ってたね。少女をこっぴどく振ったとか聞いたわよ。そのショックで少女はホームステイに行く事になったとか」

少女友「全部、昔の話だよ」

友女「……ごめん。ヤな話しちゃったね。あーあ、所詮私たち一般ぴーぽーは勇者様が平和を取り戻してくれるのを待つしかないんだろうねぇ」


62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:37:17.55 ID:YZbjmkcXo


― 少女友自宅 ―


少女友「ただいまー」カチャ バタン

少女友(お母さんはパート、か。このご時勢だっていうのに暢気というか何というか……)

ピッ

テレビ『……日米安保条約に基づき、米軍が攻撃を開始する事となりました。作戦内容は秘密ですが、軍事ジャーナリストによると怪物が湧き出ているとされている富士山麓の洞穴に向けてミサイル攻撃を』プツッ

少女友「少女、あんた一体何してんのよ。なんであんたが魔王なのよ」

少女友(あの子はあの時この街は襲わないって言ってた。あたしとの約束や、あの子のご両親が住んでるからのはず)

少女友「少年のヤローはいち早く街を出て怪物退治しまくって、マスコミに取り上げられて今やヒーロー。パートナーの後輩と一緒に魔王討伐の旅、か」

少女友「あたしは……何やってんだろ」


メイド長『貴女に鍵を託しましょう。私が成し遂げる事の出来なかった、鍵を託します』


少女友「そんな事言われても、何すりゃ良いのかわかんないわよ……あたしは単なる一般人よ」

少女友母「あら、帰ってたの」ガチャ

少女友「あ、うん」

少女友母「ホントにもう、食料品の値段上がりすぎよね。ワケのわからない化け物とかのせいで」

少女友「そうなの?」

少女友母「なんかね、色々とトラブルが起こってるらしいわ。流通関係がパニックになってるみたいよ」ハァ

少女友「……」

少女友母「魔王だとか勇者だとか一体何がどうなってるのかしらね。みんなおかしくなっちゃったんじゃないかしら」

少女友「そう、だね」

少女友母「こんなご時勢だけど勉強はちゃんとしておきなさいよ。わかってる?」

少女友「わかってますー。自分の部屋行くね。宿題する」スクッ

少女友母「あとでおやつ持って行ってあげるわ」


63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:38:57.92 ID:YZbjmkcXo


少女友「はぁっ」ボスン

少女友「勉強する気も起きないわ」

Prrrr Prrrr

少女友「携帯? って少年!?」ピッ

少女友「もしもし?」

少年『よぉ』

少女友「何の用?」

少年『なんだよ、まだ怒ってるのか』

少女友「当たり前じゃない! あたしはあんたが少女にした事、忘れないわよ」

少年『少女じゃねぇ。魔王だ』

少女友「何が魔王よ! あの子はあたしの幼馴染で親友の少女よ!! あんたの幼馴染でもあるでしょ!」

少年『んな事知らねぇよ。あいつは魔王だ。倒すべき敵だ』

少女友「……もういいわ。用がないなら切るわよ」

少年『待てよ。そんな事話す為に電話したんじゃねぇよ。こっちだって忙しいんだから』

少女友「マスコミにちやほやされてさぞ気分が良いでしょうね、ヒーローさん」

少年『しょうがないだろ。むこうが勝手に取材とか言ってくるんだから。俺は勇者としての使命を果たすだけだよ』

少女友「あーあーそうですか。それは良かったですね~」

少年『……少女と最後に話したのはお前だよな』

少女友「そうだけど、何?」

少年『その街だけが魔族の襲撃に遭わないのはお前が居るからか?』

少女友「そ、そんな事知らないわよ! 何の話!?」

少年『反応だけでわかった。今からそっちに行く』

少女友「何の事よ!」

少年『会った時に話してやるよ。1時間後に行く』

少女友「は? どういう……切れちゃった」

少女友「一体何がどうなってんのよ……」


ピンポーン

少女友母「少女友、少年君が来たわよー!」

少女友「……入ってもらって」


64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:40:19.51 ID:YZbjmkcXo


トントントン

少女友「足音が一人じゃない……?」

少年「邪魔するよ」ガチャ

後輩「お邪魔します」

少女友「あんたか」キッ

後輩「……」

少年「そんなに邪険にすんなよ。こいつは俺のパートナーなんだから」ポン

後輩「はい」ニコッ

少女友「世間はあんた達を勇者とその相棒兼恋人って言ってるみたいだけど、有名人になったお二人があたしみたいな一般ぴーぽーに何の御用でしょうか?」

少年「棘あんなぁ」

少女友「当たり前でしょ。みんなが何て言おうとあたしはあんたを許す気なんてさらさらないんだからね」

後輩「勇者様を魔王の毒牙からお守りするのは当然の事でしょう? 責められる謂れがありません」

少女友「あんたに聞いてない」

後輩「……」

少年「まぁいい。少女友、幼馴染として頼みがある」

少女友「お断りします。お帰り下さい」

少年「あのなぁ……」

少女友「あんたからの頼まれ事なんて誰が聞くもんですか」プイッ

少年「少女に会えるかもしれない、って言ってもか?」

少女友「!?」

後輩「喰いつきましたね」ニッ

少女友「少女に会えるってどういうこと!?」

少年「テレビ見たか? 近い内に米軍が参戦して例の洞穴に攻撃を仕掛ける」

少女友「さっき見たわよ」

少年「俺とこいつは米軍のミサイル攻撃と同時に米兵や自衛隊の特殊部隊を連れて魔界に行く」

少女友「……魔王城ってとこ?」

少年「最終目的地は、な。だが魔王城に辿り着くまでには四王を倒す必要がある」

少女友(四王って少女が呼んだ化け物達の事よね……)

少年「連戦になるのは目に見えてわかってる。俺もこいつも下手すりゃ途中で倒れちまうかもしれん」

少女友「勝手にどうぞ」

後輩「……」ギッ

少年「あのなぁ、俺もこいつも人類の為にやってんだぞ?」

少女友「そんなの知らないわよ。あんたが勇者とかあの子が魔王とか私には関係ないわ。あんたはあたしの親友に酷い仕打ちをした極悪人よ」

後輩「黙って聞いていれば勝手な事を」スッ

少女友「な、なによ」

後輩「勇者様の双肩には人類の未来がかかっているのですよ。貴女の命などその使命に比べれば塵芥も同然。こうして勇者様直々にお迎えにあがっているだけでも平伏して感謝しなければならないという事がまだわからないのですか?」

少女友「何言ってんのこの子。頭おかしいの?」イライラ

後輩「っ!」

少年「やめろ。少女友も言いすぎだ」


65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:41:23.01 ID:YZbjmkcXo


少女友「ふんっ」プイ

少年「あーもう。頼みってのはさ、お前も一緒に来て欲しいんだよ」

少女友「なんであたしが」

少年「魔物や魔族はお前に手を出せない」

少女友「なんで?」

少年「魔王が、あいつが『そう』命令してるんだろ?」

少女友「っ、し、知らないわよそんな事!」

少年「あいつはきっとこう言ったんだろ。「少女友には手を出させない」って」

少女友「さぁね」

後輩「検知できました。魔王の魔力紋です」フォンッ

少女友「魔力紋?」

後輩「貴女が知るような事ではありません」

少女友「っ」

少年「やめろってば。少女友、頼むよ。お前が居てくれりゃ魔族の掃討もかなり楽になるんだ。何せ向こうはお前に手を出せないからさ」

少女友「あたしを盾に使おうってハラなのね」

後輩「勇者様のお役に立てるのですから喜ぶべき事ではないですか」

少女友「ぜんっりょくでお断りだわ! なんであんた達の手助けなんてしなきゃいけないのよ!」

少年「後輩、口が悪いぞ」

後輩「申し訳ございません。でも、勇者様の事を思うとこの者の口の利き方がなっていませんので」

少女友「イチャイチャしたいんだったらさっさと帰ってくれない? 虫唾が走るわ」

少年「俺とこいつはパートナーだけど『そういう』関係じゃねぇよっ」

少女友「あっそ。はいはい。お帰りはあちらですわよ、勇者様」

少年「……どうしても協力してくれないのか?」

少女友「どうしても協力したくないわね。あたしは何があっても少女の味方なの。あの子と約束したもの」

後輩「魔王との約束を守るとは愚かな。あっちはどうせそんな約束など最後にはあっさりと翻すに決まってるじゃないですか」

少女友「少女の事をロクに知らないあんたが語るな!」

後輩「……」

少年「この街以外の世界中では今この瞬間にも魔族や魔物の侵攻によってたくさんの犠牲者が出てるんだぞ。お前はみんなを助けたいと思わないのか?」

少女友「そ、それは……」

少年「俺と来い。少女を止めるんだ」

少女友「……」

少年「あいつを、少女を止めれるのは俺だけだ。頼む、お前の力が必要なんだ」

少女友「……ったわよ」

少年「?」

少女友「わかったわよ。一緒に行ってやればいいんでしょ。ただし、あたしはあくまで少女の為に行く。あんたの手助けなんて一切してやらない」

少年「それでも良い。一緒に、あいつを止めよう」スッ

少女友「握手? 悪いけどそれは遠慮しとくわ」

少年「……わかった」

後輩「お可愛そうな勇者様……」ソッ


66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:42:35.79 ID:YZbjmkcXo


少女友「で、どこに行けばいいの? あんた達とは出来るだけ別行動したいわ」

少年「つったって、俺の転移呪で一気に洞穴まで飛ぶから一緒でなきゃ無理だぞ」

少女友「なにそれ」

少年「魔法だよ魔法。ゲームでもよくあっただろ。一瞬で別の街とかに行けるやつ」

少女友「そんなの使えるの? だったら魔王城まで一気に行けるんじゃないの?」

後輩「転移呪は対象座標がわからなければ使う事ができません。必然的に一度赴いた事のある場所にしか行けないということです」

少女友「あっそ」

少年「米軍の攻撃は三日後の朝8時だ。明後日の夕方には迎えに来る。それまでに用意をしておいてくれ」

少女友「はいはい」

少年「それと、後輩を置いていく。後輩、少女友の護衛ちゃんとしておけよ」

少女友「は?」

後輩「わかりましたです」

少女友「ちょっと、なんでこいつを置いて行くのよ!」

少年「俺とお前が接触したのはもう魔王に知られてるはずだ。そうなったらお前が魔王の手先に連れ去られる可能性がある」

後輩「私がその手先を排除する役になります」

少女友「あんたは?」

少年「俺はまだ何箇所か制圧しなきゃならないトコがあるんだよ」

後輩「私がご一緒しなくて本当に大丈夫ですか?」

少年「なに、魔物じゃなくて怪物だから俺一人でも十分だ。お前は少女友をしっかり護ってやってくれ」

後輩「承知いたしました」

少女友「いらないわよ」

少年「いや、要る要らないじゃない。俺達にはお前が必要なんだ。だからこれはその為の措置なんだよ」

少女友「なんでこの子と一緒に居なきゃいけないのよ。こいつの所為で少女は……」

少年「……後輩、頼んだぞ」

後輩「はい」

少女友「ちょっと待ちなさいよ!!」

少年「転移呪!」ヒュォッ

少女友「……」


67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:43:36.43 ID:YZbjmkcXo


後輩「勇者様の転移確認」

少女友「あんたも行きなさいよ」

後輩「それは出来ません。転移呪は勇者様にしか使えない魔法です。それに、私には貴女を護るように勇者様から命を受けています」

少女友「いらないわよそんなの。あんたと一緒に居るなんて心底嫌だわ」

後輩「勇者様の崇高な理念を理解しない貴女と一緒に居るなんて私から願い下げですが、仕方ありません」

少女友「喧嘩売ってんのね。買わせてもらうわよ」

後輩「おやめになったほうが良いかと。貴女ごとき私の敵ではありません」

少女友「このっ!」ヒュッ

後輩「束縛呪」フォンッ

少女友「!?」

後輩「身体の動きを止める呪文です。私は勇者様のパートナー。あらゆる攻撃、補助、回復魔法を操る事ができます。貴女の命など一瞬で消し飛ばす事ができるですよ」

少女友「じゃあそうすれば?」

後輩「貴女は勇者様の行軍に必要な『盾』です。殺す気はありません」フォンッ

少女友「っと……」ウゴケル

後輩「魔王様に組しようとする貴女を護るなど、私だって虫唾が走ります」

少女友「だからこっちから願い下げって言ってるでしょ! さっさと出て行きなさいよ!」

後輩「それができればどれだけ良いか……」

?「じゃあ、そのお手伝いしてあげようか?」

後輩「!?」バッ

少女友「え?」

少女「こんにちは、後輩ちゃん」ニコッ

後輩「あ……あ……」

少女友「少女っ!!」ダッ ギュッ

少女「わぷっ、少女友ちゃん、久しぶり」

少女友「久しぶり、じゃないわよっ! 今まで一体何してたのよっ!!」クワッ

少女「あわわわ」アタフタ

後輩「火炎槍っ!!」ゴォッ

少女「屋内で火を扱うなんて危険だよ?」シュッ

後輩「そんなっ、無効化だなんて!」

少女「私は魔王だよ? 魔法の無効化なんて簡単なの」

後輩「っ」

少女「さて、と。少女友ちゃん」

少女友「?」

少女「私と、一緒に来てくれる?」

少女友「……それは、勇者に私を利用させない為、よね」

少女「利用? どういうこと?」キョトン

後輩「貴女が少女友さんに魔力紋を仕掛け、魔族や魔物、化け物からの攻撃対象から外しているのはもうわかってるんです!」

少女「あ、そゆこと? 少年君、すごい誤解してるね」

後輩「どいうことです!?」


68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:45:51.15 ID:YZbjmkcXo


少女「私が少女友ちゃんに魔力紋を残したのは少女友ちゃんだけを護る為。仮に貴女達が少女友ちゃんを盾にしたとしても、私たち魔族は少女友ちゃんに傷一つ負わせずに貴女達を攻撃する手段なんていくらでもあるよ?」

後輩「……」

少女「そして、私がここに来たのは少女友ちゃんを貴女達から護る為。貴女達に私の親友を利用させない為」キッ

後輩「勇者様は人類を救うお方です。その為に犠牲になるのなら喜んで身を差し出すべきです!」

少女「ほら、ね。少女友ちゃん、聞こえた?」

後輩「っ」ギリッ

少女「この人達は『人類を助ける』っていう大義名分の為なら仲間を、ううん、人間をいくら殺しても何とも思ってないの」

少女友「……」

少女「私は貴女達の戦いを見てきたわ」

後輩「なっ!? 気配はなかったわ!」

少女「『千里眼球』」ポゥッ

少女友「なにこれ」

少女「離れた場所が見れる宝珠なんだ♪」

後輩「そんな物までっ」

少女「ほら、見える?」ポワンッ


少年『だりゃぁぁぁぁぁっ!』ザッ

怪物『ギォォォォォ!!』

人間『た、助けてくれ!!』

少年『迅雷っ!!』ピシャァァァッ

怪物『ギャォォォォォォ!!』プスプス

人間『うぎゃぁぁぁぁぁっ』ジュォッ


少女友「なっ!?」

少女「ね? 少年君、今何の躊躇もなく怪物と一緒に人間も殺したでしょ?」

後輩「そ、それは止むを得なかったのです! 100人の人間を助ける為なら1人の人間の犠牲はっ」

少女「黙りなさい」

後輩「……っ」


69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:46:22.34 ID:YZbjmkcXo


少女「じゃあ訊きますけど、たった今犠牲になった人間はその事を知っていましたか? 勇者の使命の為に我が身を投げ出すと誓った?」

後輩「……」

少女「魔王軍のみんなは自らの犠牲を厭わずに私の、ううん、魔族の目的を果たすって誓ってるの。当然私もその中に居るわ。貴女や勇者みたいに何も知らない、何の罪もない同胞を無造作に殺す事なんてしない」

少女友「少女……」

少女「ごめんね、少女友ちゃん。私はやっぱり人間の敵なの。だから無理強いはしない。少女友ちゃんが思ったようにしてくれれば良いよ」

少女友「……」

少女「でも、これだけは約束する。私は無益な殺生はする気はないの。人間界を制圧するって言っても皆殺しにしようだなんて思ってない」

少女友「どういう、事?」

少女「人間は魔族に管理されるべきなの。でないと人間は増長して、互いに憎しみ合い、結局殺しあう運命にある」

後輩「詭弁です! 魔族こそ汚らわしい象徴ではないですか!」

少女「貴女は魔族の何を知っているの? 魂の鎖に縛られ、そこに刻まれた事しかなぞっていないのに」

後輩「そっ、そんな事ないっ!!」

少女「私は魂の鎖に頼ったりなんてしてないわ。この半年間、魔族だけじゃなくて魔物、怪物に至るまで全部の事を勉強して、できるだけみんなと話し合って、その結果として人間界への侵攻を自分で決断したわ。魂の鎖に引っ張られたんじゃないってちゃんと言える」

後輩「だっ、黙れっ!!」ボボボボボボボボッ

少女友「火の玉!?」

少女「だから無駄だってば」シュォンッ

後輩「氷の礫っ!!」バババババッ

少女「私を攻撃するっていう事は私の傍に居る少女友ちゃんも攻撃する意思があるっていう事?」

後輩「魔族に切り札を取られるくらいなら、私が殺します!」

少女「だってさ、少女友ちゃん」

後輩「っ」

少女友「さっきから犠牲がどうこう言ってるから十分わかってるわよ。少年のヤローがどう考えてるのかはまだわかんないけど、この子は人の命なんて大して重要に思ってないんだろうなってね」

後輩「そんなことないです! 私も勇者様も人類を救うという使命を!」

少女「使命や運命っていう言葉に踊らされて有頂天になってるだけっていうのがわからない?」

後輩「私は、私の使命は貴女を倒して人類を守る事です!」

少女「自分の判断じゃないでしょ? その想いは前の勇者と一緒に旅をして前魔王を倒した女賢者の執念。ううん、歴代賢者達の思念が刻み込まれた魂の鎖がそうさせているのよ」

後輩「そんな事はない! 私のこの気持ちは私の物なの! 勇者様を想う気持ちも全部!」

少女「……そう。わかったわ」

少女友「少女、あんたまだ……」

少女「えへへ。ちょっとだけ、ね」ニコッ


70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:47:01.02 ID:YZbjmkcXo


少女友「……わかったわ」

後輩「少女友さんっ、魔王の口車に乗せられてはいけませんっ!」

少女友「少なくともあんたや少年がやってる事より少女の言い分のほうが正しいわよ。残念ながら、ね」

少女「じゃあっ」パァツ

少女友「でも、あたしは何もできないわよ? あんた達みたいに魔法が使えるワケじゃないし、力だって普通だし」

少女「少女友ちゃんは私の親友だもん。戦えなんて絶対言わないよぅ」

少女友「マスコット代わりか何かにするつもり?」

少女「ま、まだ考えてないけど……」ウーン

少女友「ほーほー。あんたはとりあえずあたしを掻っ攫っていくことだけを考えた、っと」

少女「あうあうあうあう」オロオロ

少女友「……変わってないわねぇ」ギュッ

少女「ふぇっ?」

少女友「何でもいいわ。言ったでしょ。あたしは何があってもあんたの味方よ。勇者がどうこうとか人類がどうこうなんて関係ないわ。あんたはあたしの親友なの」

後輩「ま、待ちなさい!」

少女「ダーメ。そろそろ帰らなきゃいけないもん。ここに来るのだってすっごく大変だったんだよ。軍議すっぽかしちゃったから帰ったらメイド長さんから怒られちゃう。じゃあ、生きてたら魔王城で会いましょう。少年君にもよろしく伝えておいてね」ニコッ シュッ

後輩「ま、待って!!」

後輩「……」

少年「片付いたぞー」シュッ

少年「どうした? って少女友は!?」

後輩「申し訳ございません。魔王が直々に……」

少年「あいつが……怪我はないか?」

後輩「はい。ですが、少女友さんは自らの意思で魔王と共に」

少年「気づかれた、のか?」

後輩「千里眼球を持っていました」

少年「っちゃぁ、やられた。そんなモンまで持ってんのかよ」

後輩「急がなくてはいけません。人類を救わなくては」

少年「おう。わかってる」


71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:48:42.12 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 魔王の執務室 ―


少女「よっ、と」シュオンッ

少女友「うわわわ」

少女「はい、とうちゃーく♪」

少女友「ここが、魔王城?」

少女「うん。私の執務室だよ」

少女友「やっぱり、怪物とかばっかりなの?」

少女「見た目は少し怖いけど、みんな優しい良い人ばっかりだよ」

少女友「でも、人間を襲ったり殺したりしてるって」

少女「攻撃されれば、ね」

少女友「どういうこと?」

少女「専守防衛って知ってる?」

少女友「攻撃されない限りは、って事?」

少女「うん。本来の意味は自国内で、っていう言葉がつくけど、人間界に行ってる斥候達には自分が攻撃を受けない限りは人間に手をだしちゃダメっていいつけてあるの」

少女友「なんで?」

少女「なんでって……無差別に殺したいだなんて思ってないもん」

少女友「戦争、なんでしょ?」

少女「そうなる、かな」

少女友「あんたは……相変わらず優しすぎるくらいに優しいのね」ニコッ

少女「そんなこと、ないよ。斥候に出てるみんなの中には死んじゃった人もたくさんいるもん。私はみんなに死んで来てって言ってるようなものだよ……」シュン

少女友「少女……」

メイド長「ですが、皆その覚悟を以って魔王様にお仕えしているのです。魔王様の為に死ぬのならば本望でございます」

少女友「メイド長先生」

メイド長「もう先生ではないですよ。いらっしゃいませ、少女友様」

少女「あ、あのっ」

メイド長「わかっております。魔王様のご親友の少女友様はいわば我々にとってはお客様です。歓迎いたしますわ」ニコッ

少女「ありがとうございます」ペコリ

メイド長「ですから頭を下げないでください。魔王様なのですから」

少女友「あっ、あはははっ」

少女「ふぇ?」

メイド長「この調子ですからね」クスクス

少女「んぅ?」


72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:49:41.69 ID:YZbjmkcXo


メイド長「それはそうと、軍議をすっぽかされたのは駄目ですよ」メッ

少女「ぁぅー、ごめんなさい……獣王さん、怒ってましたよね?」

メイド長「心配しすぎて心労で倒れそうになってます」

少女「うなー、すぐ行ってきますっ!」タタタタタ

メイド長「本当に……」ハァ

少女友「えっと、私はどうすれば……?」

タタタタタ

少女「忘れてたっ。メイド長さん、少女友ちゃんを庭園に案内してあげてください。私も軍議が終わったらすぐに行きますからっ」

メイド長「承知いたしました」

少女「あ、あと、お手洗いの場所もちゃんと教えてあげてくださいねっ」

少女友「あんた、迷った事あるのね」ピーン

少女「そそそそそそそそんなコトないよっ!?」アセアセ

少女友「方向音痴だもんねぇ、あんた」

少女「ちがうもん! それに、今はもう迷う事なんてないよぅ」プンスカ

少女友「『今は』なんでしょ?」

少女「うっ……い、いいのっ! じゃあまた後でね♪」タタタタタタ

少女友「変わらないなぁ」

メイド長「魔王様はお優しいですからね」

少女友「でも、今まで無理してたみたいですね」

メイド長「おわかりですか」

少女友「少し痩せましたよね、あの子。もともとちっちゃいのに」

メイド長「はい。こちらに戻って来てからはほとんどお休みにもならずに四王や副官だけではなく、一介の兵や一般の者とまでお話をされておられましたから」

少女友「忙しくする事で少年の事を忘れようとしてたんですね」

メイド長「そう、かもしれません。魔王様のお心の中にはまだ勇者に対する恋慕の残滓が残っておられると思います」

少女友「……かわいそうに」

メイド長「……」

少女友「それはそうと」

メイド長「なんでございましょう」

少女友「メイド長さんが言ってた『鍵』ってやつ。まだわかんないけど、私が今してる事って間違えてない、よね?」

メイド長「……きっと、貴女でしたら大丈夫ですよ」ニコッ


73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:51:26.22 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 中庭 ―


少女友「うっわー、すっごい綺麗!」

メイド長「魔王様のお気に入りの場所なのですよ」

少女友「あの子、花好きだもんね。学校でも花壇に花の種植えたり水をあげたりしてたわ」

花守り「こちらでもいつも花の手入れをなさっておられますよ」

少女友「猫人間!?」ビックリ

メイド長「この庭園の責任者ですわ」

花守り「花守りと申します。以後お見知りおきを」

少女友「あ、よろしくお願いします。少女の友人の少女友っていいます」

花守り「魔王様からお話を伺っております」

少女友「どんなお話か気になるんですけど……」

花守り「そうですね、昨年のバレンタインデーとかいう日に想い人に告白したら盛大にフられてしまって魔王様を巻き込んでチョコのヤケ喰いをなさったとか」

少女友「あとでブン殴る」

メイド長「あらあら」ニコニコ

花守り「ここの庭園は魔王様の為だけに作られております。どうぞごゆっくりお過ごし下さい」

少女友「ありがとうございます」


少女「お待たせー」

メイド長「お疲れ様でございました。冷たい紅茶をお淹れしております」

少女「ありがとうございます。獣王さんに怒られちゃった」テヘ

少女「あれ、少女友ちゃんは?」

少女友「こーこーだーよー?」ギリギリ

少女「うわんっ、痛いよ!? こめかみがすっごく痛いよ!?」

少女友「花守りさんから聞いたわよー? あんた、私の失恋話を面白おかしく話したらしいじゃないの」

少女「え、えっと、ほらっ、少女友ちゃんのかわいいところとか、そういうのもちゃんとっ」イタイイタイ

少女友「内緒にしておいてーって頼んだよねー?」ギリギリ

少女「ごめんなさーい!」タスケテ

少女友「ま、いいわ」パッ

少女「ぁぅー」ヒリヒリ

少女友「次何か言いふらしたら頭から齧るからね」

少女「キヲツケマス」

吸血鬼「こちらにおいででしたか……おや、見知らぬお嬢様も」

少女「さっきお話した少女友ちゃんです」

少女友「よ、よろしくお願いします」

吸血鬼「そうでしたか。これはまた可愛らしい」ニコッ


74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:53:14.89 ID:YZbjmkcXo


少女友「ちょっと少女っ!」ヒソヒソ

少女「ふぇ?」

少女友「こちらのイケメンは!?」ヒソヒソ

吸血鬼「私は魔王様にお仕えする四王が一人、吸血鬼と申します」ペコリ

少女友「しょ、少女友です」アセアセ

少女「見た目は格好良いけど、セクハラばっかりするから気をつけてね」

吸血鬼「酷い言われようですね……」

少女友「って言うと、発展途上とかつるぺたとか?」ニヤリ

吸血鬼「そうですね。魔王様はもう少し成長なさったほうが……」ニッコリ

メイド長「増えましたね」

少女「しまったー。少女友ちゃんもこういう人だった……」ガックリ

少女友「あはははは。冗談よ、冗談。さっきの仕返し」ニコッ

少女「うー……わかったよぅ」

吸血鬼「冗談はここまでにして。魔王様、人間共に動きがあります」

少女「動き、ですか?」

吸血鬼「米軍が動いているようです。近日中に『門』に対する攻撃があるかもしれません」

少女友「それ、少年が言ってたやつじゃないかな」

少女「教えてもらってもいい?」

少女友「もちろんよ。えっと、三日後の朝8時に米軍のミサイルで洞穴を攻撃して、そのドサクサに紛れて米軍や自衛隊の人達と一緒に魔界に侵入するって言ってたわ」

吸血鬼「ほぅ、それが事実だとしたらかなり有力な情報ですね」

少女友「私がこうなるのを予測して少年が偽情報を流した可能性があるって事? それとも私自信が信用ならないって事なの、かな?」

吸血鬼「前者ですよ。魔王様が信用できるとおっしゃった方なのですから、我々も貴女の事を疑う事はしません」

少女友「魔王って本当にすごいのね。絶大な権力って感じ?」

吸血鬼「魔族を統べる王ですからね。それに、魔王様のお人柄も加味した上での判断です」

少女友「なるほど」

少女「少年君が、魔界に?」

少女友「後輩と入るから私も一緒に来いって」

少女「……そっか。思ったより早いね」

吸血鬼「いかがいたしましょう?」

少女「当然迎え撃ちます。『門』には私が直接防護魔法を施し、ミサイル攻撃による損傷を防ぎます。四王はそれぞれの領地を確実に護ってください。常駐している防衛隊に攻撃隊を追加編成して勇者達の魔界侵入を防ぐように」キッ

吸血鬼「承知いたしました」

少女友「……悲しそうな顔」ポツリ

メイド長「魔王軍を動かす時はいつもです。誰かが死ぬかもしれない、傷つくかもしれない、と心を痛めておられるのですわ」

少女友「……少女っ」ギュッ

少女「ふぇっ!?」

吸血鬼「おやおや」ニコリ

メイド長「あらあら」ニコニコ

少女友「あたしが来たんだからもう大丈夫よ! あんたの傍に居たげるね」ギュー

少女「う、うんっ!」ニコッ


75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:54:58.57 ID:YZbjmkcXo


― 魔界 人間界との『門』 ―


少女友「でかっ!!」ビックリ

少女「あはは。おっきいよね~」

メイド長「全高20メートルですからね」

少女友「んで、ここをどうするの?」

少女「ミサイルとかなら十分耐えるとは思うんだけど、一応壊れちゃわないように強化魔法を掛けるんだ」

少女友「このでかいのに?」

少女「うん」

少女友「よくわかんないけど、魔力っていうの? そういうのが尽きちゃわない?」

メイド長「魔王様の魔力はこの程度では尽きませんよ。魔族の中でも飛びぬけた魔力の持ち主ですから」

少女友「このちっちゃい身体のどこに魔力が入ってるんだろ?」ペタペタ モニュモニュ

少女「ひゃぅっ! もー、少女友ちゃん、セクハラだってばー!」アワアワ

魔族軍参謀「正直たまりません」ボタボタ

メイド長「自重なさい」

少女「と、とにかくっ! みなさん聴いてくださーい」

魔族軍「ははっ!!」ザッ

少女友「すごい量ですね」

メイド長「精鋭部隊ですから魔族軍全体からすればほんの少しです」

少女友「へぇー、もう想像つかないわ」

少女「間もなく人間からの攻撃が始まります。それと同時に勇者と賢者の魂に縛られた者が人間の軍と共に魔界に侵入してくるそうです。皆さんにはその阻止をお願いします」

魔族軍「魔王様の仰せの通りに!」

少女「ごめんなさい……みなさんの中には怪我をしちゃう人や、もしかしたら死んじゃう人もたくさん出るかもしれません。もっと平和的に物事が進める事ができればよかったんですけど……」

少女友「いつもあんななの?」

メイド長「そう、ですね。毎回こうやって血が流れそうな時は謝っておられますね」

魔族軍参謀「魔王様の、いえ、我々魔族の為でございます。どうぞ謝らないでください。我々はその為ならば命など惜しくもございません!」

魔族軍「魔王様の御為に!」

魔族軍「魔王様に栄光あれ!」

魔族軍「魔王様万歳!!」

少女友「あの演説で士気が上がっちゃうんだ……」

メイド長「魔王様は皆から慕われておられますからね」ニコッ

少女友「わからなくはないかなぁ。あの子見てるとほら、守りたくなっちゃうから」

メイド長「よくわかりますわ」


76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:56:41.32 ID:YZbjmkcXo


少女「皆さん、絶対に生きて戻って来てください! 門は私の守護魔法で絶対に破壊させません!」

魔族軍「おぉーっ!!」

魔族軍「魔王様-っ!!」

魔族軍参謀「魔王様、勇者は我々が必ず人間界に追い返します。どうぞご安心なさって下さい」ニコッ

少女「……はい。皆さんの事、信じてます」ニコッ

メイド長「間もなく攻撃予定時刻です」

少女「では、いきますっ」スゥッ


少女【世界にたゆたう数多の力よ、我に力を貸し給え……】


少女友「唄……?」

メイド長「呪文の詠唱です。魔王様が詠唱なさると唄のように聴こえるのです」

少女友「あの子、歌うまいもんね」

メイド長「魔族軍はこの唄で最後の英気を蓄え、戦いに打って出るようになりました」

少女友「わからなくはないわ」


少女【我が力、我が魔力もて。大いなる守護の光よ、護りの盾をっ!!】コォォォォォッ


フォンッ


少女友「『門』が光に包まれて……って兵士にも?」

メイド長「あらあら、思いが強すぎて兵達にも守護の光をお掛けになったのですね」

魔族軍「魔王様の光の守護だ!」

魔族軍「これで怖いモンなんかねえぞ!!」

少女「皆さんの吉報を魔王城で待ってます!」

少女友「お疲れ様」

少女「あはは」グスッ

少女友「まったくもう、あんたは。メソメソしないのっ」ギュッ

少女「ごめんね、少女友ちゃんまで巻き込んじゃって……」キュッ

少女友「あたしはあんたの傍に居るって決めたの。約束だってしたでしょ。さ、魔王城に戻ろ」

少女「うん。メイド長さんも」

メイド長「はい」

魔族軍参謀「ここはお任せください。必ずや護り通して御覧にいれます」

少女「お願いします。転移っ」ヒュンッ


77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:57:21.38 ID:YZbjmkcXo


― 富士山麓 洞穴近く ―


後輩「あと2分でミサイルが到着します」

少年「予定通りにミサイルで空けた大穴を通って魔界に行く。準備はいいな」

後輩「はいっ」

通信兵「精鋭部隊の準備完了」

少年「よっしゃ。いっちょ暴れるか!」

後輩「ミサイル来ます!」

少年「光の帯っ!」フォンッ

少年「ミサイル着弾時の衝撃は全部これで吸収できる。着弾後、すぐに飛び込むぞ!」

兵士「おう!!」


フォンッ


後輩「防護呪!?」

勇者「何!?」

ドガガガガガガァァァァァァッ

勇者「魔王が『門』を護ったのか!?」

後輩「その可能性が高いです。計画が漏れていたとしかっ」

通信兵「ミサイル着弾による電波障害発生中。通信不可」

勇者「ってことは……やべぇ、一旦退却だ!!」

後輩「勇者様!?」

勇者「少女友が喋ったんだ! 中は魔王軍の精鋭が待ち構えてるぞ!」

通信兵「通信回復まで10分はかかる!」

勇者「くそっ、みすみすと!!」ダンッ


78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:57:59.01 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 ―


メイド長「『門』からの報告です。人間共の撃退に成功いたしました」

少女友「やったじゃない」

少女「被害は……どれくらい出たんですか?」

メイド長「魔族軍の死者は17名、負傷者は50名で納まりました。魔王様の光の加護のお陰です。人間側の死者は100名以上。10名を捕縛いたしました」

少女「少年君……じゃなくて勇者は?」

メイド長「それが、姿を見せなかったとの事です」

少女友「あいつ、来なかったの?」

メイド長「人間の死体や負傷者を全て確認いたしましたが勇者と賢者の姿は確認されませんでした。門周辺は蟻の子一人として通さないようにしておりましたので、隠密裏に進入したとは考えられません」

少女「何か、あったのかな?」

少女友「あ、そっか」ポン

少女「ふぇ?」

少女友「ほら、私がこうやって喋っちゃったから」

メイド長「逃げた、のですか」

少女「……逃げたっていうのは言い方が違うと思うけど、退却指示が間に合わなかったって考えたほうが良いかな」

少女友「『門』は大丈夫だったんですか?」

メイド長「被害は全くありませんでした。さすがは魔王様です」

少女「大穴空けられちゃったら大変だもんね」

少女友「ミサイルが直接飛び込んでくるとか勘弁だわ」

少女「引き続き勇者の捜索を続行させてください。死者と負傷者には手厚い看護と補償を」

メイド長「承知いたしております」

少女「後ほどお見舞いに出向きます」

少女友「無理しちゃ駄目よ?」

少女「うん……でも、私の責任だから」


79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:59:12.34 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 救護棟 ―


魔族兵「魔王様だ!」

魔族兵「魔王様がわざわざいらして下さったぞ!!」

魔族兵「ぐっ、傷が痛んで身体が……」

メイド長「魔王様からのお許しが出ています。負傷者はそのままで」

少女「みなさん、お疲れ様でした。皆さんのお陰で人間の魔界侵入を防ぐ事ができました。ありがとうございます」ペコリ


少女【慈悲深き癒しの女神よ、傷つきし者にその寵愛を】フォンッ


魔族兵「傷が……」

魔族兵「治癒魔法では回復できない程の深い傷だったのに」

少女「っと、これで大丈夫……ですか?」

魔族兵「我々のような下兵にまでっ」グスッ

魔族兵「魔王様に改めて忠誠を!」

少女「ううん、みんながんばったんだから、ね? 生きて戻って来て下さっただけで嬉しいです。死んでしまっみなさんに、どうか弔いの祈りを捧げてあげてください」

魔族兵「なんと慈悲深い……」

少女友「時間と労力がすっごいかかるけどみんな少女にベタ惚れになっちゃうのは事実だよね」

メイド長「しかも天然でそれをなさってるあたりが魔王様の素晴らしいところですわ」

少女友「次は戦死した人のご家族のところ、だっけ?」

メイド長「はい。ご公務の合間にどうしても、とおっしゃいますので」

少女友「……どうにかして休ませないと、だね」

メイド長「えぇ」


少女「はふー。ちょっとだけ疲れちゃった」ヘタリ

少女友「ちょっとどころじゃないでしょ。結局戦死した人の家全部回っちゃって。ほら、寝室に行くわよ」グイ

少女「まだこの後もお仕事あるよぅ」

少女友「メイド長さんが全部キャンセルしてくれたの。あんたはちょっと休まなきゃ駄目よ」

少女「でもっ」

少女友「あんたね、こっち来てからロクすっぽ休んでないんでしょ?」

少女「そ、そんな事ないよ?」オロオロ

少女友「見りゃわかるわよ。痩せちゃってるじゃないの。ただでさえちっちゃいんだからこれ以上ちっちゃくなったらどうするの」

少女「は、発育段階だもんっ!」

少女友「そんな状態じゃ育つモンも育たないわよ! いいから休む!」グィグィ

少女「あぅー」ズルズル


80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 13:59:48.27 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 魔王の寝室 ―


少女友「ほら、寝る!」ビシッ

少女「むー、眠くないよー」

少女友「横になってりゃすぐに眠くなるわよ。ったくもう、吸血鬼さん達も少しは少女の身体を考えて欲しいわ」プンスカ

少女「みんなは休んでって言ってくれるよ」

少女友「じゃあ休め!」ガーッ

少女「だ、だって……」

少女友「わかってるわよ。独りだと眠れないんでしょ?」ナデ

少女「……」

少女友「心配しなくてもいいわよ。あたしがこうやって一緒に居てあげるから」

少女「ごめんね?」

少女友「謝る事ないわよ。あんたはがんばってる。がんばりすぎなくらいね」

少女「独りになっちゃうと少年君の事が……」

少女友「ぜーんぶわかってるってば。だからあたしがここに居るんじゃないの。全部吐き出しちゃえ。聴いてあげるから」

少女「……」グスッ

少女「ふ、ふぇぇぇ。少女友ちゃぁぁぁん」ギューッ

少女友「はいはい」ナデナデ

少女「っぐ、ひっく……私、私、少年君とっ、少年君と……」メソメソ

少女友「うん。わかってる。あいつだってきっと心の底ではあんたと同じ気持ちのはずよ。今は周りに振り回されてるだけなのよ。いつかきっと仲直りできるわ」

少女「うぇぇぇぇぇぇんっ!!」ギューッ


81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 14:00:28.15 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 庭園 ―


メイド長「こちらにおいででしたか。魔王様はお休みになられましたか?」

少女友「さんっざん泣いてからね。お陰でブラウスびしゃびしゃになっちゃったわ」

メイド長「後ほどお洗濯いたしますね」

少女友「やっぱり、かなり溜め込んでたみたい」

メイド長「そうでしたか……少女友様に来ていただけて魔王様のご心労もいくばくかは救われたと思われます。ありがとうございます」

少女友「ううん。あたしは自分がしたい事をしただけだから。少女と約束もしたからね」

メイド長「お友達想いなのですね」ニコッ

少女友「そっ、そんなんじゃない……わよ」ポリポリ

メイド長「あらあら」クスクス

少女友「そ、それはそうと、これからどうなるの?」

メイド長「魔王様のお考え次第ですが、人間界への攻勢を強めていく事になるでしょうね」

少女友「少女は人間を全滅させる気はないって言ってたけど」

メイド長「えぇ。それは既に軍議でもおっしゃっておられます。歴史を紐解けば魔族は太古の昔から人間を管理、育成していたという記述も見つかりました」

少女友「あの子が見つけたの?」

メイド長「はい。魔王城地下の書物庫に残っている文献をあらいざらい調べ上げてしまわれました」

少女友「あの子らしいわ」

メイド長「ですが、勇者との衝突だけはいつか必ず……」

少女友「だよね。あの子、大丈夫なのかな」

メイド長「……」

少女友「でもさ、四王さんとかメイド長さんが付いてるんでしょ?」

メイド長「それは当然です」

少女友「私だって居るんだから、きっとなんとかなるわよ」

メイド長「そう、ですわね」

少女友「理想は勇者と理解し合える事なんだろうけど、ね。そこはあたしがなんとかあの馬鹿の目ぇ覚ましてやるわ」

メイド長「期待しておりますよ」ニコッ


82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/04/01(金) 14:01:21.89 ID:YZbjmkcXo


― 魔王城 ―

竜王「『門』での戦闘から一ヶ月が経過いたしました。そろそろ人間界への攻勢に出られる時期かと」

少女「兵達の訓練は?」

獣王「問題ありやせん。士気も上がっております」

海王「人間共に目立った動きはありません。力を蓄えているか、諦めはじめているか」

少女「楽観はよしましょう。勇者を中心に何か画策をしているはずです」

吸血鬼「手始めに日本列島を掌握し、そこを足がかりとなさるべきかと」

少女「それが良いでしょうね。列島の掌握にかかる予想時間はどれくらいになりそうですか?」

獣王「おおよそ1ヶ月もあれば」

少女「魔族軍の損耗予想は?」

吸血鬼「10%程度といったところでしょうか。米軍や隣国の動き次第では30%を超える可能性はありますが」

少女「そんなに……」

竜王「魔王様、我々は魔王様の御為に生き、そして死ぬ事こそが喜びでございます。どうぞお気に病みませぬよう」

少女「はい……」シュン

獣族副官「緊急伝達です!」バァンッ

獣王「何事だ」

獣族副官「『門』を通過した者を捕らえたとの事です。それがどうやら賢者の魂を持つ者と……」

少女「すぐに行きます。四王は各領地で待機。罠の可能性もありますから十分気をつけて」

吸血鬼「なにも魔王様が直接出向かわれなくても」

海王「そうです。賢者の魂を継ぐ者だとすれば危険です」

少女「大丈夫です。お願いします」ジッ

獣王「魔王様がそうおっしゃるんでしたらしょうがないですな」

吸血鬼「獣王、何を」

竜王「魔王様は以外と頑固ですからねぇ。一度おっしゃったら曲げる事など私たちにはできませんよ」

少女「頑固……ですか?」

吸血鬼「はぁ、しょうがないですね。メイド長を護衛に付けてください。それと、少女友様にもご一緒に行っていただきますよ」

少女「はいっ。ありがとうございます」ニコッ


91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:05:30.01 ID:3VwabWPNo


― 『門』近くの最前線基地 捕虜収容所 ―


後輩「……来ましたね」ジャラリ

少女「少年君はどうしたのですか」

後輩「その件で話があります」

少女友「少女、気をつけて」

メイド長「封魔具で手足を拘束しております。さらにはすぐにでも首を刎ねる事ができるという事を忘れないようにしてお話くださいね」

後輩「……勇者様が米軍に捕らえられました」

少女「どういう事!?」

少女友「米軍にって、一緒に戦ってたんでしょ」

後輩「前回の打通作戦の失敗で、その責が勇者様一人に集中しました。それで勇者様は米軍の管理下に置かれる事に……」

少女「そんなっ。だ、だとしたらっ!」

少女友「どういうこと?」

少女「少年君の魂の鎖を解明しようとするつもりなのかもしれない。私の中にある魔王の記憶が気をつけろって言ってる」

メイド長「……」

後輩「その通りだと思います。米軍は勇者様の力の源を解明する為、勇者様をモルモットにする気です」ガシャッ

後輩「お願いします! 勇者様を助けて下さい! このままだと勇者様はっ!」

少女友「じ、自業自得でしょ! 自分勝手に少女の気持ちを踏みにじっておいて、今度は助けろなんて都合が良すぎるわよ」

後輩「それはわかってる! でも、他に頼れる人なんていないのです……みんな掌を返したように勇者様を叩いて、勇者様だけに責任をなすりつけてるの……私も捕縛されそうになったけど、勇者様が魔王を頼れって言って……」グスッ

メイド長「魔王様、これは明らかに罠としか」

少女「……少年君はどこに?」

少女友「少女っ、危ないよ!」

後輩「横須賀の米軍基地に……わ、私も連れて行って下さい!」

少女「無理です。貴女の全てを信用できません。理由は、おわかりですよね」

後輩「……」

少女「この者を魔王城地下に移送しておいてください。私は人間界に向かいます」

メイド長「お待ちください」

少女「……ごめんなさい。これだけはどうしても無理です」

少女友「私も行く!」

少女「少女友ちゃん……」

少女友「約束したはずよ。どこまでも一緒って」ジッ

少女「……うん、わかった。行こ」

メイド長「少女友様、これを」コソッ

少女友「?」ハ

メイド長「危険だと思ったら中央のスイッチを押して下さい」ヒソヒソ

少女友「わかりました」

少女「すぐに戻ります。人間界への侵攻は一時停止してください。これは魔王としての命令です」

メイド長「承知いたしました」

少女「ごめんなさい」シュッ


92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:06:09.58 ID:3VwabWPNo


― 横須賀 米軍キャンプ ―


少年「ぐ……」ズルッ

少年「あいつら……好き勝手やり、やがっ、て」ドサッ

少年(無理だ。もー動けねぇ……畜生、これじゃ人間のほうがトンデモじゃねぇか。簡単な検査とか言いながらやってる事は人体実験ばっかかよ)

少年(魔力も吸いつくされちまって回復呪すら使えねぇ。このまま終わる、か?)

ガチャッ

少年「だ……誰、だ」

兵士「次の実験だ」

少年「……好きに、しや、がれ」

兵士「さっさと来い」グイッ

少年「少女、すまねぇ。お前の顔、もう見れねぇや」

少女「そうでもないよ?」バシッ

兵士「!?」ズル ドサッ

少年「は、ははは……何だこりゃ、夢か? 走馬灯ってやつか?」

少女友「何言ってんのよこいつ。とうとう頭おかしくなった?」ニッ

少年「少女友までかよ。トンでもねぇ天使だな」

少女「夢でも走馬灯でもないよ。後輩ちゃんに教えてもらって助けに来たの」

少年「そう、か。あいつは無事に逃げたか」

少女「酷い傷……すぐに治すからっ」ソッ

少年「いい……だい、じょうぶだ」ギュッ

少女「少年君……」

少年「ごめん。勇者の力ってのに溺れてた。その結果がこのザマだよ」

少女「ううん……」

少年「すぐに他の奴らが来る。今の内に逃げろ。俺はここまでで、いい……」

少女「ダメだよっ。一緒に行こ! 後輩ちゃんも待ってるからっ」

少女友「そうよ。責任取りなさいよ。それとも勇者ってのは自分のしでかした事の責任は取らなくていいワケ?」

少年「……俺は、まだ、勇者なのか?」

少女「少年君は少年君だよ。勇者か、そうじゃないかなんてどうでもいい事だよ」フォンッ

少女【我が呼びかけに応えよ、慈悲深き愛の女神よ。私の大切な人を助けて……】ソッ チュ

少女友「って、おいおい……」アゼン

少年「……」ビックリ

少女「んっ、どう、かな?」

少年「結構なお手前で……って違う! おまおまおまお前っ、いきなり何を!?」

少女友「キスしたよね。キスだよね?」

少女「ぁぅ……恥ずかしいよぅ」マッカ

少女「大丈夫?」

少年「ん? おぉっ。何だこりゃ、傷も体力も魔力まで回復してやがる!」

少女「よかったぁ」ニコッ


93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:06:42.73 ID:3VwabWPNo


少女友「少女っ、人がたくさん来る!」

ドタドタドタドタッ

少年「兵士の奴らだ。二人ともこっちに来い。転移呪で逃げるぞ!」

少女「うんっ」ギュッ

少女友「わかっ……」

ズキュゥゥゥゥゥン

ドサッ

少女「少女友ちゃんっ!!」

少年「やべぇ! 対魔結界が動き始めてやがる。飛ぶぞ!」

少女「ダメっ! 少女友ちゃんがっ!!」

少年「全員逃げれなくなっちまう!」

少女「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」


ブォンッ

少年「しまった!」

兵士「そこまでだ!」チャキッ

少年「ちっ」

少女「少女友ちゃんっ!」タッ

兵士「動くな!!」

少女「っ!」

少年「ガキ相手にフル装備かよ……大人げないとは思わねぇのか」

兵士「勇者と魔王が相手だ。これでも心配なくらいだよ。壁に手を付けろ」

少女友「しょう……じょ」ゴポッ ドサッ カチッ

少女「少女友ちゃんっ!」

兵士「動くなと言っている!」ズキュゥゥンッ

少女「きゃっ」ドサッ

少年「少女っ!!」

少女「だ、大丈夫。掠っただけだから」

兵士「動くな。次動けば蜂の巣にする」チャキッ

少年「くっ……」

?「予定通り魔王も手に入りましたね」ザッ

少年「てめぇ……」

少女「……」キッ

?「初めまして、幼い魔王殿。私は全人類統合連合の幹部と言います。お見知りおきを」

少年「お前が裏で全部の糸を引いてやがったのか」

幹部「そうですよ。我々は勇者と魔王の魂の鎖を解明し、その力の源を突き止める、量産する事で人間界と魔界を支配するのです」

少年「きったねぇ手を使いやがって!」

幹部「何をおっしゃるのです。魂の鎖に縛られてその力に振り回され、そして我々のサポートを得て有頂天になっていたのは君ではないですか」

少年「っ……」

少女「少年君を操って世論を操作し、私達を捕える為にわざと少年君に協力したのね」


94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:07:09.34 ID:3VwabWPNo


幹部「その通り。これで二つの力が手に入りました。大成功です。前回の捕獲の時は無茶をしすぎてすぐに死んでしまったようですが、今回はじっくりと調べさせていただきますよ」ニッ

少女友「さ、サイテーね」ゴフッ

幹部「まだ息があったんですか。苦しいでしょう。今すぐ楽にしてさしあげますよ」チャキッ

少女「やめて!!」フォンッ シュンッ

少年「対魔結界さえどうにかなればっ」

少女友「やれるものならやりなさいよ。ただし、その後どうなるかの保証はしないわよ」キッ

幹部「戯言を。邪魔だ、死ね」ググッ

ドドォォォォンッ!

幹部「何事だ!?」

兵士「ま、魔物の急襲です! 大型の飛行型魔物がっ!!」

兵士「そ、空がっ!」

少女「え?」

少年「何が起こった?」

兵士「ば、化け物だらけだ!!」

兵士「見ろ! 空一面に化け物がっ!!」

兵士「に、逃げろ!!」

幹部「逃げるな! この二人を捕えろ!」

兵士「こんな状況じゃ命が何個あっても足りねぇよ!」ドンッ ダダダダ

幹部「くっ、覚えていろ!」ダッ

少女友「間に合った……かな? 少女、無事?」カランッ ドサッ

少年「魔族を呼んだのか」

少女「少女友ちゃんっ」ギュッ

少女友「あはは……何か、目が見えないや……」

少年「おいっ、しっかりしろ!」

少女「少女友ちゃんっ! 治癒呪っ!」フォンッ シュンッ

少年「畜生っ、対魔結界がまだ働いてやがる!」ギリッ

少女友「もう、いいから……」キュッ

少女「よくないっ! 私には、私にはっ、もう少女友ちゃんしかっ」

少年「っ……」

少女友「そんな事、ないよ。ほら、あんたのすぐ隣に居るじゃない。あんたが好きな人がさ」

少女「少年君は……」

少年「……」

少女友「あんた達、本当にお互い嫌いになっちゃった? そんなこと、ないわよね」ケフッケフッ

少女「お願い、喋っちゃだめっ」

少女友「あたしはあんた達がどれだけお互い好き合ってるか、知ってるわ……魔王だとか勇者だとか、くっだらない……」ゴポッ

少年「くそっ、こいつ黙らねぇ!」

少女友「今、はっきりさせてよ。あたしの前、で……さ。でなきゃ心配すぎて寝れないよ」

少女「わ、私は……」

少年「俺は、勇者だ。魔王とは……」ギリッ


95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:07:48.95 ID:3VwabWPNo


少女友「少年、あんたはそんな奴じゃないでしょ……あぁ、そっか。うん、わかるわ。『鍵』ってそういう事だったのね」ケフッケフッ

少女「少女友ちゃん?」

少年「意識が混濁してきてるのか?」

少女「そんなっ! お願いっ、少女友ちゃんしっかり!」

少女友「大丈夫よ。元気すぎるくらい元気。少年、あんたを『助けて』あげる。こっちおいで」ニコッ

少年「?」

少女友「あんたが縛られてるモノ、あたしが持ってたげるから、気持ちに素直になりなさい」スッ

フォンッ キラキラキラ

少年「お、お前っ!?」

少女「魂の鎖が……」

少女友「少女は、大丈夫だよね?」

少女「うん……でもなんで少女友ちゃんがその事を?」

少女友「メイド長さんから全部聞いてたから、ね……少女、少年と仲良く、するんだよ?」ニコッ

少女「でもっ、でもっ!」

少女友「お願い……あたしはもうあんたの側に居れないから……少年、少女の事、任せ……る、わ」パタン

少女「少女友ちゃんっ!?」

少年「おいっ、少女友っ!!」

少女「少女友ちゃんっ! いやぁぁぁぁぁぁっ!!」ゴォッ

パキィンッ

少年「なっ!? 対魔結界が壊れた!?」

ゴォォォォッ

少年「うぉっ!? なんだこの魔力!」

少女「う……うぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」ゴォゥッ

少年「魔力が強すぎて実体化してやがる!」


96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:08:15.70 ID:3VwabWPNo


吸血鬼「ここですか!」ガタンッ

獣王「魔王様っ!」

海王「ご無事ですか!?」

竜王「引き続き人間共に攻撃を続けろ!」

メイド長「魔王様!」

少年「来るなっ!」

獣王「てめぇ、勇者!!」ザッ

少年「駄目だっ、入るな!」

獣王「ぐぉぉぉっ!?」バババババッ

吸血鬼「獣王!? 勇者、一体何を!」

少年「俺じゃねぇ! 少女が暴走してんだよ! この部屋ん中は魔力嵐が吹き荒れてるんだ!」

少女「……」ゴォォォッ

獣王「ぐはっ、ま、魔王様っ」

メイド長「少女友様……そういう事ですか」ポツリ

少年「俺がなんとかする。だからそっから入って来るな!」

海王「魔王様に手を掛けるつもりか!?」

少年「んなことしねぇ! 俺は、こいつの事がっ」

吸血鬼「そのような戯言、どうやって信じろというのです」

メイド長「……いえ、信じましょう」

海王「メイド長、何を」

メイド長「少女友様が魂の鎖を解かれたのですね」

少年「……あいつが、持って行きやがった。お陰で目ぇ覚めたぜ」

メイド長「四王、ここは勇者に任せましょう。魔王様は彼に任せても大丈夫です」

吸血鬼「しかし」

メイド長「私が保証します」

獣王「……わかった。おい勇者、魔王様に何かあったらただじゃおかねぇからな。つってもどっちにしてもお前は敵なんだけどな」

少年「心配すんな」ニッ


97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:08:49.58 ID:3VwabWPNo


少年「おい、少女っ。しっかりしろ!」ユサユサ

少女「……」ゴォォォォ

少年「力に飲み込まれてやがる。このままだと……」

ピシッ ガラガラガラ

少年「やっぱり建物が保たねぇな。少女っ! 早く目ぇ覚ませ!!」ペシペシ

少女「……」

少年「一体どうすりゃいいんだ……」


少女友『少年、少女の事、任せ……る、わ』


少年「くそっ! おい、少女。俺はお前の事がっ!」ギュッ

少年「ーっ、こうだっ」チュー

少女「……!?」ビクッ

シュゥゥゥゥ

少年「やっと、落ち着いたか」

少女「な、な、何っ!? なんで少年君と私がっ!?」アワワワワ

少年「落ち着け!」ガシッ

少女「ひゃぅっ」

少年「いいか? 大きく深呼吸だ」

少女「う、うん」スーッハーッ

少年「今の状況、わかるか?」

少女「もう、大丈夫。少女友ちゃん……」キュッ

少女友「」

少女「ごめんね、私の所為だよね。私が少女友ちゃんを巻き込まなかったらこんな事には……」ポロポロ

少年「俺の責任だ。俺が有頂天になって、魂の鎖に縛られてなければっ」ギリッ

少女「少年君……」

少年「すまない。どれだけ謝っても許される事じゃないのはわかってる」

少女「……ううん、少年君だけが悪いんじゃない。私にも責任があるもん」

少年「……」

少女「ね、少年君。ひとつ教えて?」

少年「なんだ?」


98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:09:16.19 ID:3VwabWPNo


少女「さっきの人、全人類統合連合って言ってたよね」

少年「ああ。俺が勇者の力に目覚めた後、後輩と魔物や怪物討伐をしてる時に向こうからアプローチしてきたんだ。当時の俺は完全に魂の鎖と力に呑まれて有頂天になってたからあいつらの言葉にまんまと騙された」

少女「勇者の記憶に引っかからない?」

少年「何……? まてよ、言われてみれば」

少女「うん。私の魔王の記憶にはっきりと残ってる。あの人たちは……」

少年「思い出した。あいつら、大昔から俺達の力を求めてるやつらだ」

少女「2代前の魔王と勇者はその罠にかかって……」ギリッ

少年「そこまで鮮明に引き継いでるのかよ」

少女「半年間色々がんばったから」ニコッ

少年「……少女」ギュッ

少女「ふぇっ!?」

少年「本当に、ごめんな。少女友が言った通りで、俺が馬鹿だった。大馬鹿だった」

少女「ううん」キュッ

少年「俺は、あいつらを許せない。歴代の勇者や魔王の裏で糸を引き、その力を得ようだなんて」

少女「私も。少女友ちゃんをこんな目に遭わせた人達は許せない」

少年「俺と、来てくれるか?」スッ

少女「でも、少年君には後輩ちゃんが……」

少年「少女友にも言ったけどさ、俺は後輩とはなんでもないんだよ。相棒ってのは事実だけど、それ以上でもそれ以下でもないんだ」

少女「……」

少年「信じてもらえないのはわかってる。でも、俺はお前の事がやっぱり」

少女「うん、わかった。信じる」

少年「ごめん」

少女「ふふっ、謝ってばっかりだね」ニコッ

少年「そう、か?」

少女「少年君と一緒に行く。でも、一度魔王城には戻らなきゃ。後輩ちゃんも解放してあげたいし」

少年「あいつの魂の鎖も断ち切らなきゃな」

少女「うん。方法は少女友ちゃんが見せてくれたから大丈夫」

少年「そうなのか?」

少女「最後に教えてくれたの。少女友ちゃんから貰ったものは全部覚えてるもん」

少年「俺もだ。あいつに殴られた事とか蹴られた事とか、な」ニッ

少女「あはは。少年君、いつも少女友ちゃんにたたかれてたもんね」ニコッ

少年「あいつが男勝りなんだよ」

少女「少女友ちゃん……」キュッ

少年「弔ってやろうぜ。俺とお前で、さ」

少女「うん」


99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:09:42.39 ID:3VwabWPNo


― 魔王城 会議室 ―


吸血鬼「では、魔王様は勇者と共闘し、その組織を潰す、という事ですね」

少女「はい。彼らは長い年月の間、その時々の支配者の裏に隠れて私や勇者の力の根源を研究し続けてきました。事実として2代前の魔王と勇者は彼らの手によって殺され、その遺体は未だに研究素材にされ、蹂躙され続けています」

竜王「聴いた事があります。魔王と勇者が共に姿を消した代がある、と」

獣王「なんてやつらだ……」

少年「だから俺はこいつと一緒にその組織を潰したい」

海王「勇者よ、貴方のその気持ちは理解しました。それに、魂の鎖という呪縛から解放されているということも。だが、貴方はそれでも勇者だ。いつ魔王様のお命を狙いかねないという事実を危惧しているのです」

少女「少年君はそんな事しないよっ」

吸血鬼「ですが魔王様、我々からすれば勇者は倒さねばならぬ仇敵」

少年「証を立てろって事か」

海王「そうなるな」

メイド長「しかし、証といってもどうしましょうか」

少女「ぅー……」

少年「俺がこいつを殺さないって保証がありゃいいんだな?」

吸血鬼「そんな証が立てれるのでしたら、ね」

少年「簡単じゃねぇか」グィッ

少女「へ?」

少年「これが証だよ!」ブチュー

少女「!?」

吸血鬼「なんと」

獣王「ほほぉ」

海王「あー、そういう事か」

竜王「ふむ、確かに。殺したい程思っている相手に」

メイド長「接吻はできませんね。しかも情熱的」


100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:10:08.45 ID:3VwabWPNo


少女「!? !?」マッカ

少年「ぷはっ、どうだ!?」

メイド長「いえ、それよりも……」

少年「?」

吸血鬼「お前が今から魔王様に殺されると思うぞ」

少女「しょーぉーねーんーくーんー!?」ゴゴゴゴ

少年「い、いや、すまない。でもこれが一番手っ取り早いってーか……」

少女「だからといってみんなの目の前でっ!!」ゴゴゴゴゴ

竜王「なんと強力な魔力波動」

海王「メイド長、止めてやれ」

メイド長「そうですわね。魔王様、どうぞ落ち着きになってください。我々は勇者を認めましたわよ」

少女「……本当?」

吸血鬼「あのようなモノを見せられてしまってはしょうがないですね」ヤレヤレ

獣王「そのまま押し倒すかと思ったぜ」

少女「おおおお押したおっ!?」

少年「そこまではしねぇよ」

竜王「ひとまずはお前を認めよう。だが、これがいつまでも続くとは思わぬ事だ」

少年「それは、わかってる」

少女「……」

メイド長「ともかく、後輩を解放しなければなりませんね」

少女「魂の鎖も解除してあげなきゃ」


101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:10:34.63 ID:3VwabWPNo


― 魔王城 地下牢 ―


後輩「勇者様を助ける為とはいえ、このような……」ジャラリ

後輩「あれから丸一日。果たしてどうなったのでしょうか」

ガチャガチャン

メイド長「お元気ですか?」

後輩「元気なわけないです。こんなじめじめとした処」

メイド長「十分元気そうですわね。お食事もきちんと摂っておられるようですし」カラッポ

後輩「しょ、しょうがないでしょっ。お腹が空いては戦はできぬと!」

少年「うん、元気そうだな」

少女「そうだね」

後輩「勇者様! よくぞご無事で」

少年「心配かけたな。もう大丈夫だ」

後輩「魔王に手を借りたのは痛恨ですが、勇者様がお戻りになられたのでしたら」

少女「んっと……」フォンッ

後輩「魔王、何をする気です」キッ

少女「怖がらないで。貴女を魂の鎖から開放してあげる」

後輩「なっ!? ひ、必要ありません! 私は勇者様と共に歩くのです。女賢者の意思だけではなく、私自身の意思でもあるのです!」

少年「でもよ、その所為で今回の事態を招いたのも事実だ」

後輩「勇者様……もしかして」

少年「うん。少女友が命と引き換えに俺の鎖を外してくれた」

後輩「なんてことを! 魂の鎖がなければお力の半分が使えなくなってしまうのですよ!?」

少女「そうなの?」キョトン

少年「っぽいな。いくつかの魔法が使えなくなってるみたいだ。力も落ちてる」

少女「そういえばそんなリスクがあったね」

少年「お前も魂の鎖からは解放されてるみたいだけど、なんでそんなに魔力が残ってるんだ?」

後輩「魔王は邪悪だからです!」

少女「うわぁ、ひっどいなぁ、それ。あのね、魔族って言ってもみんな良い人ばかりなんだよっ!」プンスカ

後輩「そんなのは知りません。邪悪なのは邪悪なんです」

メイド長「やっぱり殺しましょうか?」

少女「ダメだよぅ。少年君と約束したんだから」

後輩「勇者様、もしかして魔王と何かの取引をなさったのですか!?」

少年「取引じゃない。俺はやっぱりこいつが好きなんだって話だよ」ポム

少女「……」

後輩「……っ!」ギリッ


102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:11:00.66 ID:3VwabWPNo


メイド長「その想い、本当に貴女だけのものなのでしょうか?」

後輩「何を言うんです。当たり前じゃないですか!」

少年「後輩、お前の気持ちは嬉しいよ。でもよ、俺にとってお前は相棒ではあるけど、それ以上でもそれ以下でもないんだ。わかってくれ」

後輩「……ゆ、勇者様は騙されているのです! 魔王の甘言に耳を貸してはなりませんっ」

少年「後輩、それ以上言うな。俺は勇者として目覚める前からこいつの事が好きだったんだよ。それなのに、魂の鎖の所為で少女友を失っちまった。全部俺の責任だ」

後輩「魔王の手下が何人死のうがそんなものっ」

少女「っ!」フォンッ

後輩「!? い、息がっ」

少年「少女っ、やめろ!」ギュッ

少女「……ごめんなさい」シュゥゥ

後輩「はぁっはぁっ……ほら見なさい。こいつは隙あらば私や勇者様の命を狙っているのです!」

少年「後輩!!」ギロッ

後輩「……」

少年「それ以上は俺も許さない。少女友は、間違いなく俺の親友なんだ」

少女「少年君……」

少年「許してやってくれ。こいつだってこいつなりに必死なんだ」

少女【顕れよ、斧持つ戦乙女スケッギォルドよ】コォォォッ

後輩「……やだ。やめてっ」

少年「ちゃんと、自分自身でこいつらと向き合おう。俺とも」

後輩「ダメっ! 私は……私なのっ!」

少女【彼の者をしばりつける鎖の呪縛を切り離せ】

後輩「いやっ! 私のこの『想い』を切らないで!」ポロポロ

少女「……」チラッ

少年「……」コクリ

少女【鎖よ、御魂を解き放て!!】フォォォンッ

後輩「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」フラッ

少年「っと」ガシッ

少女「これで、よかったのかな……?」

少年「わからない。でも、魂の鎖に縛られたまま生きるよりこうしたほうが良いはずだ」

少女「……メイド長さん、後輩ちゃんを客室に」

メイド長「承知いたしました」

少女「少年君は後輩ちゃんと一緒に居てあげてね」

少年「わかった」

少女「私も少し休みます。しばらくお願いします」

メイド長「ごゆっくりお休みください」スッ


103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:11:26.72 ID:3VwabWPNo


― 魔王城 中庭に作られた少女友の墓 ―


少女「……」

少女「ごめんね、少女友ちゃん。私が巻き込んじゃったばっかりに」

少女「ごめんね……」ポロポロ

少女「少女友ちゃぁぁぁぁんっ!!」ウワァァァァンッ


獣王「おい、行かなくていいのか?」

吸血鬼「あのようなお姿の魔王様を慰める事は私達にはできませんよ」

獣王「まぁ、そりゃそうか。しっかし、今までに例がないくらい『普通』の魔王様だよなぁ」

吸血鬼「魂の鎖の中でも最も強力といわれている魔王の魂の鎖を自ら解き放ったくらいですからね。その潜在能力は歴代でも稀有ですよ」

獣王「見た目、中身共に弱々しいのに」

吸血鬼「その芯は非常に強いです。が、少女友さんを喪った痛手は計り知れないでしょうね」

獣王「勇者のヤローが支えてくれる、か?」

吸血鬼「わかりません。我々からすれば勇者は敵としか考えられませんが、もしかしたら新しい時代の幕開けなのかもしれませんね」

獣王「そう、なるかもな」

吸血鬼「果たしてどうなるんでしょうねぇ」


104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:11:52.67 ID:3VwabWPNo


― 魔王城 魔王の寝室 ―


少女「ふぅ、すっごく泣いちゃったなぁ」シュッシュッ

メイド長「お髪(おぐし)が梳けましたよ」

少女「ありがとうございます」

メイド長「……魔王様」

少女「なんでしょう?」

メイド長「私の昔話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

少女「メイド長さんの、過去ですか?」

メイド長「はい。ご存知の通り、私は元々は人間でした」

少女「以前おっしゃってましたね」

メイド長「少女友様は、私だったのです」

少女「?」ホェ

メイド長「私の友だった女性は2代前の魔王です」

少女「そ、それって……」

メイド長「はい。勇者と共に捕らえられ生きたまま実験台にされ、嬲り殺しのような目に」ギリッ

少女「……」

メイド長「彼女達の敗因は最後までお互いに反目し続けた事です」

少女「魂の鎖に縛られたままだったんですね」

メイド長「はい。私は当時、あの二人の間に立ってなんとかして仲を取り持とうとしました。彼女達も魔王様と勇者のように幼馴染だったのです」

少女「魔王と勇者の魂は幼馴染に転生しやすいのかな?」

メイド長「それはわかりません……今まで調べた者がおりませんので」

少女「お話の腰を折っちゃってごめんなさい。続けてください」

メイド長「はい。私は魔界と人間界を往復しながら彼女達が反目する原因が魂の鎖だと突き止めました。ですが、解除方法を探している間に……」

少女「捕まってしまった」

メイド長「実験という名の拷問の果てに無残な殺され方をした二人の遺体は未だにあいつらの手に……」

少女「知って、います。どんな事をされたのか、どんな扱いをされたのか、そして、今でも」ギュッ

メイド長「申し訳ございません。魔王様には魂の鎖で受け継いだ記憶があったのですね」

少女「ううん、大丈夫です。話してくれてありがとう。続けてください」ニコッ


105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:12:18.55 ID:3VwabWPNo


メイド長「……あの時、私は決めたのです。人間を捨て、長命の魔族となっていつか来る同じ境遇の魔王様と勇者を救おうと」

少女「……」

メイド長「少女友様には私が習得した呪法を与えました。あの呪法は魔王様程の魔力なら別として、普通の人間では相手を想う気持ちが強く、その命を捧げる覚悟がなければ使う事ができません。そして、少女友様はその想いを有しておられました。私は彼女に託したのです。鍵となってくれると信じて」

メイド長「ですから、少女友様が亡くなった最大の要因は私なのかもしれません」

少女「……そっか」

メイド長「お叱りは如何様にも受ける覚悟はできております。私の命でよければそれでも構いません」ペコリ

少女「じゃあ、メイド長さんに命じます」

メイド長「なんなりとお申し付けください」スッ

少女「これからもずっと私と一緒に居てください」

メイド長「……魔王様?」

少女「私がここに連れて来られた時、メイド長さんはいつも私の側に居てくれて、いつも私の事を見ていてくれて、色々と教えてくれたり、身の回りの事もしてくれました」

メイド長「それは職務ですから」

少女「ううん、それでも良いんです。私にとって、すごく心強かったから」ニコッ

メイド長「……」

少女「人間界に戻った時もメイド長さんが一緒で、何だかお姉ちゃんができたみたいだった。私、一人っ子だったから嬉しかった」

メイド長「私も、妹ができたようでした」

少女「だから、これからも私の側に居てください。お願いします。少女友ちゃんの代わりとかそんなのじゃなくて、私のお傍付のメイド長さんとして、お願いします」ペコリ

メイド長「そんな、お顔を上げてください!」

少女「命令、聴いてもらえますか?」

メイド長「当然です。魔王様のご命とあれば……いえ、私自身の気持ちとして、魔王様が許可して下さる限りは誠心誠意お仕えいたします。ですからっ」

少女「えへへ。メイド長さんを困らせちゃった」ニコッ

メイド長「……本当に変わった魔王様ですこと」クスッ


106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:12:44.41 ID:3VwabWPNo


― 魔王城 中庭 ―


少女「花守りさん、おはようございます」

花守り「おはようございます、魔王様。花束のご用意しておきましたよ」

少女「ありがとうございます。お手数お掛けしちゃってごめんなさい」

花守り「いえいえ。少女友様も魔王様と同じように私が手塩にかけたこの庭園を気に入ってくださっていました。この花束は私からの気持ちでもありますから」

少女「本当に、ありがとうございます」

花守り「ありがたきお言葉でございます」ニコッ


少女「おはよう、少女友ちゃん。ほら、花守りさんが少女友ちゃんの為に花束作ってくれたんだよ。すっごく綺麗だね」

少女「私、もう泣かない。少女友ちゃんが救ってくれた私の想い、私の命。大切にするって約束する」

少年「俺も約束するよ」スッ

少女「少年君!」

少年「少女友、俺と少女はもう大丈夫だ。心配すんな」

少女「……後輩ちゃんは大丈夫?」

少年「ずっと寝てるけど、多分大丈夫だよ。朝方に一度目を覚まして謝ってた」

少女「よかった」

少年「あいつが目を覚ましたらもう一回話し合ってみる」

少女「うん……」

少年「心配すんな。俺はお前が大好きだよ」ギュッ

少女「私も、少年君が大好き」キュッ

後輩「こうまで見せつけられてしまってはお話もなにもないです」ムゥ

少年「後輩!?」

少女「あわわわわわわ」アタフタ

後輩「先輩の気配を探って来てみたらこれですもんね……」ハァ

少女「後輩ちゃん、雰囲気が柔らかくなったね」

後輩「……色々とすみませんでした。私も魂の鎖に振り回されていたみたいです」

少女「ううん。気にしてないよ」

後輩「ですが」

少女「ほぇ?」

後輩「先輩は渡さないです!」ズバーン


107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:14:10.28 ID:3VwabWPNo


少女「わ、私だって渡さないもんっ!」ギュッ

少年「お、おいおい……」

後輩「勇者だとか魔王だとかそういうのはとりあえず置いておきます。それを踏まえた上で、私は先輩が好きなんですっ」

少女「私だってずーっとずーっと昔から少年君の事が好きだったもんっ!」

メイド長「朝から何をなさっているのですか……」アキレタ

少女「あっ、メイド長さん。おはようございます」

少年「おはようございます」

後輩「おはようございますです。色々とご迷惑をお掛けしました」ペコリ

メイド長「いえいえ。お身体の調子はいかがですか?」

後輩「お陰様で大丈夫です。でも、予想通りに魔力とかはかなり削られちゃいました」

メイド長「お仕着せの魔力や力は必要なのでしょうか?」

後輩「いえ。自分の力で掴まないとその力に振り回されるだけだって良くわかりました」

少年「それは俺も同じだよ。それに、力や魔力は経験を積めばそれなりには取り戻せるからな」ポン

後輩「はい」ニコッ

メイド長「それはそうと、これからどうなさるおつもりなのですか?」

少女「私は例の組織について調べます。少年君達は失った力を取り戻すつもりなんでしょ?」

少年「それが最優先課題だな。とはいえ、どうやって修業すっかなぁ」

後輩「一時的とはいえ、魔族と手を組んだ今、魔族や怪物を無暗に倒すわけにはいきませんからね」

少女「実際に倒すんじゃなくて、仮想世界で戦うのはどうかな?」

少年「そんな事できんのか?」

少女「竜王さん、来れますか?」

竜王「こちらに」バサッ

少年「早っ」

竜王「当然だ。魔王様のお言葉であれば何を置いても最優先されるのだからな」フン

少女「お手数お掛けしちゃってごめんなさい」

竜王「何をおっしゃるのです。我ら魔族は魔王様の下僕。いかようにもお使いください」

後輩「こうして見ると、魔王のとてつもなさがよくわかりますね。竜族すらかしずかせるなんて……」

少年「そういや、少女の魂の鎖はどうやって解除したんだ?」

後輩「いわれてみると……それだけの強大な魔力を考えると魂の鎖を解いたとは思えないです」


108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:14:47.43 ID:3VwabWPNo


少女「ほぇ? 解いてないよ」

少年「まじで!?」

後輩「では、貴女は……」

メイド長「私から説明いたしましょう。魔王様は貴方達が魂の鎖に縛られ、暴れまわった半年間に魂の鎖を歴代魔王達の執念ごと取り込み、我が物となさったのですよ」

少女「あ、あはは」ポリポリ

少年「そんな無茶苦茶な」

竜王「魔王様は休む間も取らずに魂の鎖と向き合われ、克服なさったのだ。お主達のように力に振り回されたりなどしなかったぞ」

後輩「……ごめんなさい」

少女「あ、謝らないで。ね?」ニコッ

竜王「そのお優しさこそが魔王様の強さの素。全てを寛大なお心で包み込み、浄化してしまわれたのだ。我々とて信じられなかったが、目の前にその生き証人が居るからな」

少女「優しいだなんて……そんな事ないですよ。私は自分の思った事してるだけです」

メイド長「歴代魔王の中でも最強と言われる所以ですわね」ニコニコ

少女「あーうー」テレテレ

竜王「魔王様、私めに御用とは?」

少女「あ、そうだ。えっと、私が利用させてもらった事を少年君達にお願いしたいんですけど」

竜王「幻想空間ですね」

少年「幻想空間?」

後輩「聞いた事があります。というより、私に残ってる女賢者の記憶ですが……確か、仮想空間を構成して、その中であらゆる戦いの経験を積む事ができるのではなかったでしょうか」

少年「精神と時の部屋みたいなモンか」

少女「あはは、似た感じだねぇ」

後輩「となると、少女先輩も仮想空間で戦いを?」

竜王「いや、魔王様はあの空間で魂の鎖と向き合われたのだ。外から邪魔が入らぬからな」

少年「そこで俺達は戦闘経験を積んで、って事だな」

少女「そうなんだけど、もちろん仮想空間内で怪我をすると実体も怪我をしちゃうし、万が一死んじゃったら……」

後輩「実際に死んでしまう、と?」

竜王「当然だ。精神の死は肉体の死と同意義だからな。怖気づいたのならやめるか?」

少年「いや、むしろどんとこいだ」

少女「では、明日から二人には幻想空間に入っていただきますね。竜王さん、準備をお願いします」

竜王「魔王様の御心のままに」


109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:15:13.69 ID:3VwabWPNo


― 魔王城 魔王の寝室 ―


少女「ふぅ」ポスン

メイド長「お疲れですね」

少女「大丈夫です」ガッツ

メイド長「隠しても無駄です。私は魔王様のお傍付なのですよ」

少女「うー、ちょぴっとだけ」

メイド長「明日のご公務は全てキャンセルいたします」

少女「だ、ダメだよぅ。明日は病気の人のお見舞いがあるんだからっ」パタパタ

メイド長「ですが、魔王様が倒れてしまったら元も子もありませんわ」

少女「大丈夫ですっ!」フンス

コンコン

メイド長「こんな時間に誰でしょう?」

少年「遅くにすまない、俺だ」

少女「少年君? どうしたんだろ」

メイド長「夜這い……でしょうか」

少女「よよよよよ!?」マッカ

メイド長「あらあら。はい、どうぞ」ガチャ

少年「遅い時間にごめんな」

少女「どどどどどどうしたのかなっ?」オロオロ

少年「どうしたんだ? 熱でもあんのか?」

少女「なんでもないよ!?」アタフタ

メイド長「私は所用を片付けてまいりますのでどうぞごゆっくり」ニコリ

少女「め、メイド長さぁーん」

少年「何か重要な話の最中だったか?」

少女「う、ううん。寝る準備してただけだから大丈夫だよ」オロオロ

少年「なんでそんなに挙動不審なんだよ……」

少女「そ、そうかな? そういえば後輩ちゃんは?」

少年「あいつならもう寝ちまったよ。なんだかんだ言っても疲れてるんだろ」

少女「そ、そっか。それで、お話って?」ドギマギ

少年「あの、さ。明日から幻想空間に入るだろ?」

少女「うん。あ、そっか。幻想空間の中のお話?」

少年「違う違う。その話はあの後竜王に聞いたから大丈夫だ。それよりもさ」ズィッ

少女「ひゃ、ひゃぃっ!?」ドキッ

少年「改めて言っておこうと思ってさ」

少女「何を?」キョトン

少年「明日から俺と後輩は二人きりになっちまう」

少女「あ、そっか……そう、だよね」キュ


110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/02(土) 21:15:41.02 ID:3VwabWPNo


少年「正直に言うけどさ、俺だって男だ」

少女「……うん、言いたい事はわかってる」シュン

少年「いや、だからさ……」スッ

少女「んっ」ピクッ

少女(ほ、ほっぺた触られただけなのに身体に電気走ったみたいっ)ドキドキ

少年「目、閉じてくれるか?」

少女「う、うん」キュッ

少女(心臓爆発しそう……)

少年「少女」

少女「しょうねん、くん」

……ドーン

少年「っ、何の音だ!?」

少女「ほへ?」

メイド長「お楽しみのところ申し訳ございません。緊急事態です!」ガチャ

少女「おおおおおお楽しみなんてっ」アワワ

少年「何かあったのか?」

メイド長「正体不明の一群に『扉』を抜けられました」

少女「え?」

メイド長「人間のようですが、正体不明。魔法を使うとのことです」

少年「魔法を!?」

少女「最前線基地には誰が居ますか?」

メイド長「本日は獣王が当直です」

少女(獣王さん、聞こえますか?)

獣王『魔王様! 人間のやつらが侵入! こいつら、勇者の力をっ』

少女「勇者の力……?」

少年「もしかして」

メイド長「統合連合……」

少女「急いで向かいます。獣王さん以外の四王は?」

吸血鬼「こちらに」

海王「参っております」

竜王「もう少しでしたな」

少女「……覗いてたの!?」カァァッ

吸血鬼「なんの事でしょうか。それよりも」

少女「うー……あとでちゃんとお話伺いますからね! 四王はそれぞれの領地を守ってください。私と少年君、後輩ちゃん、メイド長さんは現地へ。各部隊のみなさんにも出動命令を」

四王「ははっ」


122:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:04:59.11 ID:eyKUOczDo


― 『門』周辺 激戦区域 ―


魔族兵「なんだこいつら!?」

魔族兵「気をつけろ! 魔法を使ってくるぞ!」

ドーン ズガガガッ

獣王「勇者の大群……だと?」

副官「力や魔力はさほどではないようですが、数が多い為に苦戦しています!」

獣王「魔王様がおっしゃってた統合なんちゃらって奴らか?」

フォンッ

少女「状況を教えてくださいっ」スタッ

獣王「魔王様!」ヒザマヅキ

少女「そんなのはいいですからっ」

獣王「敵の総数は不明ですが100以上かと。全員似たような容姿で勇者の魔法を使います」

副官「それと、魔力波動が……」

少女【精霊達よ、私の敵を教えてっ】フォォンッ

少年「範囲型の探知魔法か」

後輩「ですけど、見てください。範囲が……」

メイド長「魔界のほぼ全てを掌握出来るまで広げる事ができるそうですわよ」

少年「す、すげぇ……」

少女「勇者の波動ですね。数は103人。先々代勇者から摘出した因子を片っ端から移植したみたいです。因子の暴走で自我が崩壊、暴走状態になってるみたい」

少年「なっ!?」

後輩「そこまで……」

メイド長「っ」ギリッ

少女「メイド長さん、お気持ちはわかりますけど、今は落ち着いてください」キュッ

メイド長「申し訳ございません」

少女「獣王さん、動かせる兵は全部出ているんですか?」

獣王「はい。ここの防壁直衛以外は全て」

少年「少女、俺は先に行かせてもらうぜ」

後輩「私もご一緒します」

少女「二人は力が半減してるから危険だよ」

少年「でもこれは、俺の責任なんだ……俺が有頂天にならなきゃ……」ギリッ

少女「……わかった。じゃあ、私も行く」

獣王「魔王様!?」

メイド長「危険です。魔王様の身に何かあったら!」

少女「どちらにしてもこの数だったら防壁に辿り着かれるのも時間の問題です。だったら出向きます」キッ


123:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:05:27.59 ID:eyKUOczDo


メイド長「承知いたしました。私の身を挺しても魔王様をお守りいたします」

獣王「我が身を魔王様の盾に」

少女「ありがとうございます」ニコッ

獣王「お前ら! 魔王様自らがご出陣だ!! 気合入れろぉぉぉっ!」ビリビリビリ

魔族兵「うぉぉぉぉぉ!!!!」

少女【速さよ、鉄壁よ、貫く槍よ、我等にその力をっ】コォォォォッ

後輩「補助魔法をまとめて、しかも全体になんて……」

少女【戦いの装束よ、我が身に!】フォンッ

少年「暗黒のローブか。魔王らしい装備だよな」

少女「あんまりかわいくないのがちょっと、ね」ニコッ

少年「んじゃ俺も。できるかどうかはわかんねぇけど」

少年【勇者の御魂よ、我が身に!!】フォンッ

後輩【智慧持つ者よ、私に力をっ】フォンッ

メイド「それくらいはできないと失格ですわよね」

少女「行きます。防壁まで近づいている敵を駆逐の後、苦戦している部隊を援護しつつ敵を撃破」タッ

獣王「お言葉のままに!」ダッ

メイド長「魔王様の御心のままに」シュンッ

少年「いっくぞぉぉぉぉ!!」ダッ

後輩「はいっ!」タッ


量産勇者「……迅雷」ピシャァッ

量産勇者「……連斬撃」ドガガガガッ

魔族兵「こいつら、感情ってモンがねぇのか!?」

魔族兵「目に光がねぇ。アンデットを相手にしてるみたいたぜ」

量産勇者「……轟雷」ドシャァァンッ

魔族兵「ぎゃぁぁぁぁ!」

魔族兵「ぐぉぉぉぉっ!」

量産勇者「……轟雷」ドシャァァァンッ

少女【我らを守り賜えっ!】ガガガァンッ

魔族兵「ま、魔王様!」

少年「こンの偽者がぁぁぁっ!!」ザザンッ

後輩【炎の槍よ、敵を貫けっ!】

魔族兵「ゆ、勇者に女賢者!?」

少女「一旦退いて体勢を立て直してきてください!」

魔族兵「で、ですが!」

獣王「邪魔だからひっこめってこった!!」ドガァァンッ

メイド長「魔王様の命令は絶対ですわよ」ギギギギギィンッ

魔族兵「りょ、了解しました! 一旦退くぞ! ここは魔王様達にお任せする!」


124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:05:59.08 ID:eyKUOczDo


少女【貫け!】ドゥンッ ザザザザザザッ

少年「黒い錐……か? なんだありゃ」

後輩「異空間から物質を呼び出して錐状に具現化させているのです。魔王特有の攻撃方法です」

少年「あいつ、そんな事まで……」

後輩「悔しいですが、魂の鎖に縛られていた私たちでも太刀打ちできなかったかも……」

少年「今は今だ。やるぞ!」

後輩「はいっ!」

少女【我が呼びかけに応えよ! 槍持つ戦乙女ゲイルスケグルよ。我が眼前に立ちふさがる敵共を――薙ぎ倒せっ!!】ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン

獣王「すげぇ。なんて威力と数だ」

少女【開け、煉獄地獄の蓋よ! 全てを焼き尽くせ!】ゴォォォォォウッ!!

後輩「高々位火炎呪まで使うなんて……」

少女【風よ、刃となりて敵を切り裂けっ!】ザザザザッ

メイド長「魔王様、オーバーペースです。このままではお身体が!」

少女「許さない……勇者を、魔王を……少女友ちゃんの命を、みんなの命を軽く扱った貴方達を、許さない!!」キッ

メイド長「っ!? 獣王、大至急四王を呼び寄せる手筈を!」

獣王「わ、わかった!」ダッ

少年「おい、少女っ!?」

後輩「少女先輩!?」

少女【魔石よ、私に力をっ】パァァァッ

メイド長「魔王様っ!」

少女「大丈夫ですっ。一気に片付けます!!」

少年「少女、落ち着けっ!」

少女「絶対に、許さないっ!!」ギリッ

少年「キレてやがる。おいっ、落ち着けってば!!」

少女【深淵なる大地よ 怒りもて!】ゴゴゴゴゴ

メイド長「ぜ、全員退避っ! 防壁の向こう側に逃げて!!」

少年「なんだ!?」

後輩「こ、これは……」

量産勇者「……魔王ダ」

量産勇者「……魔王ヲ殺セ」ダッ

少年「やべぇ、あいつら一気にこっちに向かって来てるぞ!」

後輩「光の盾っ」キンッ

少女【我が力となりて、全てを呑み込め!!】

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ゴガァッ

少年「地割れ!? 偽勇者達がどんどん呑まれていってやがる」

後輩「アースクェイクです!」

メイド長「魔王様っ、これ以上はっ!!」

少女【世にたゆたう全ての光の力よ、我が下に集まれ!】フォンッ フォンフォンフォンッ


125:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:06:30.34 ID:eyKUOczDo


量産勇者「コロセ!!」

量産勇者「コロセ!!」

量産勇者「コロセ!!!」

少年「くっ」ギィンッ ザンッ

後輩「光よっ、護り賜え!」キィンッ

メイド長「魔王様、お気を確かに!!」ギンッ ザザザンッ

量産勇者「タオセ!」

量産勇者「コロセ!」

少女「こんなの、許せない!!」

少女【その光、その力、我が敵を打ち破る力となれ!!】

少年「少女っ!!」

少女「光よ、お願いっ!! 【聖光撃】!!」フォォォォォォォッ ドドドドドドドドド

少年「光弾が無数に!?」

後輩「何、この量!?」

メイド長「魔王様っ!」

少女「ほ、炎の矢っ!」ボボボボボボボボボボボボボッ

後輩「まだそんな魔力が!? ありえないです!」

少年「少女っ、やめろ! 敵はもう全部倒した!!」

少女「はぁっ、はぁっ……」

メイド長「上空からの偵察から連絡が入りました。侵入者は全て駆逐されたそうです」

少女「ほん、とう?」

吸血鬼「魔王様っ!」

竜王「なんと……」

海王「たったお一人でここまでなさったのか……」

少女「【扉】の警護を厳重にしてください。また来るかも……」フラッ

少年「少女っ」ガシッ

吸血鬼「魔力を使い果たされたようですね。それにしても……」

獣王「おう。今までにないキレっぷりだった」

少年「こいつ、ずっと溜め込んでやがったんだ。少女友の事も、先々代の魔王や勇者の事も」

メイド長「……」

後輩「魂の鎖を取り込んだということは、人体実験の果てに絶命してしまった魔王の記憶も鮮明に持っていた、ということですよね」

メイド長「そう、なりますね。私が余計な事を言ったばかりにその記憶が増幅して魔王様の脳裏に蘇っていたのでしょう。私があのような話さえしなければ……」

少年「とりあえずこいつを休ませよう」

竜王「空から運んだほうが早かろう。メイド長と勇者、女賢者も一緒に運ぼう」

吸血鬼「では、我々はここの後始末をしましょうか。我が軍の損害状況も確認しなければいけませんね」


126:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:06:52.27 ID:eyKUOczDo


― 魔王城 中庭 ―


後輩「先輩、少女先輩の様子は?」

少年「落ち着いてるよ。寝てるだけみたいだ。あれだけの大魔法を連続で使ったんだ、しょうがないよ」

後輩「先輩は、どう思われましたか?」

少年「……お前が言ったように、魂の鎖に縛られたままの俺達でも到底勝ち目はなかっただろうな」

後輩「今でも、身体が震えます。歴代最強どころではない強さです……」

少年「あいつと、いつかは戦わなきゃいけないのかと思うと恐ろしくなるな」

後輩「戦え、ますか?」ポツリ

後輩「大好きなあの人と、戦えるんですか?」

少年「それでも、俺は勇者だからな」

後輩「……私では、やっぱり駄目ですか? 少女先輩の代わりでもいいですから」キュッ

少年「お前はお前だよ」ポン

少年「かわいい後輩ってのは変わらないよ」

後輩「……」シュン

少年「降りるなら今だぞ。魂の鎖から解放されて、俺と一緒に行動する理由もないだろ?」

後輩「……いいえ。私はずっと先輩の背中を守ります! それは私だけができる仕事ですから」

少年「わかった。俺の背中はお前に任せるよ」ニコッ

後輩「はいっ!」

少女「覚悟は決まったみたいだね」

少年「もう起きて大丈夫なのか?」

少女「うん、元気元気だよ」ニコッ

少年「ほれ」トンッ

少女「わきゃっ」フラフラ

後輩「全然ダメじゃないですか」

少女「うー、だって……」

後輩「心配しなくて良いと思います。先輩はぜんっぜん私の事なんて見てくれません」

少年「おいおい……」

後輩「しょうがないから先輩の事は諦めてあげます」

後輩「でも、勇者様の背中を守るのは私だけの仕事です。これだけは絶対に譲りません」

少女「うん。私は少年君を守る事はできないから、後輩ちゃんにお願いするね」

後輩「あわよくば先輩を奪って差し上げますからね」ニコッ

少女「そっ、そんな事させないもんっ!」ギュッ

少年「ちょっ、お前っ」

後輩「じゃあ私はこっち側でいいです」ギュッ

少年「どっかで見た事あるパターンだ……」


127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:07:24.16 ID:eyKUOczDo


少女「冗談はさておき、二人とも準備はできた?」

少年「ばっちりだよ」

後輩「これといって準備する物もありませんでしたからね」

少女「じゃあ竜王さん、お願いします」

竜王「承知いたしました。勇者と女賢者を我が領域に入れるのは複雑な気持ちではありますが、致し方ございません」

少女「我儘言っちゃってごめんなさい」

竜王「これも魔王様の御為。では二人とも、我が幻想空間に招待しよう。説明した通り、今より7日間、お主達は我が空間内において戦い続ける事となる。時と場合によっては死ぬ事も有り得るが、良いな?」

少年「当然だ」

後輩「もちろんです」

竜王「では、我が空間へ誘おう!!」バサッ ゴォォォッ

少年「いってくる。戻ってきたら一緒にあいつらを片付けちまおうぜ」

後輩「いってくるです」

少女「行ってらっしゃい」ニコッ

少女「……戻って来る頃には統合連合を全部片付けておくから、ね」

少年「なっ!? お、おいっ!!」シュゥゥゥン

後輩「っ!?」シュゥゥゥン

竜王「本当によろしかったのですか?」

少女「これで良いんですよ。少年君と後輩ちゃんに危ない橋を渡らせるつもりなんて最初からありませんでした」

竜王「無礼を承知でお伺いしますが、将来、勇者と戦うとなった場合、魔王様は……」

少女「私は魔王です。そうなった場合は魔族の代表として勇者を倒します。でも」

竜王「でも?」

少女「そうならない未来っていうのがあっても良いんじゃないかな?」

竜王「……勇者と女賢者は我が命に代えてでもお守りいたします。魔王様は後顧の憂いなく存分にそのお力を発揮ください」

少女「ありがとうございます。もし、私に何かあった場合は再び雌伏の時代が訪れてしまいますけど……」

竜王「魔王様のご帰還を心よりお待ちしておりますよ」ニッ

少女「はい」ニコッ


128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:08:28.83 ID:eyKUOczDo


― 全人類統合連合本部 ―


幹部「あれだけの勇者が全滅だと!?」

士官「はい……魔王たった一人の所為で」

幹部「なんということだ。魔王の力量を見誤っていたというのですか」

研究者「勇者の『標本』は残り僅かになっている。これ以上の消費は今後の事を考えると……」

幹部「魔王の『標本』はどうなのだ」

研究者「あれは人間に移植する事が不可能だ。今まで何度も実験を行ったが拒絶反応が大きすぎて被検体が死んでしまう」

幹部「くそっ。だからこの前の時に捕えておけばよかったのだ。軍の弱腰めが!」

研究者「魔王の魔力を考えると、魂の鎖を裡に取り込んだと考えるのが妥当だな」

士官「今までの記録にあった魔王のどれよりも強力な魔力を放っておりましたのでそれは間違いないかと」

研究者「良い『標本』が手に入るチャンスと考えるのではないか?」

幹部「……なるほど。そういう考え方もありますね」ニヤリ

研究者「奴らはきっとここを狙って来ます。何せ魂の鎖を裡に取り込んでいるのですからこの研究所で何が行われたのか、そしてここの場所も記憶を読めばわかるんですからね」

幹部「対魔結界の威力を上げれば無力化できる、と?」

研究者「材質が耐えれる限界値まで強化し、配置数を増やせばどうとでもなるだろう」

士官「で、ですが、危険ではないでしょうか? 我々が持っている『標本』を奪取された場合、議会やスポンサーが黙っていないかと」

幹部「なに、奪わせなければ良いのです。『標本』を研究棟の最深部、地下5階のシェルター室に運び込み、封じてしまえばいくら魔王や勇者とはいえ手出しはできないでしょう。そこに対魔結界を幾重にも施せば無傷で手に入れる事も可能」

研究者「聞けば現在の魔王は年端もいかない少女と聞く……『実験』のし甲斐もあるというものだ」ニチャリ

士官「……っ」ゾワッ

幹部「急いで迎撃態勢を整えましょう。奴らがここに来る可能性はかなり高いと思われますからね」

研究者「我々も対魔結界の準備などをしておくとしようか。あと、『実験道具』の準備も、な」

士官「で、では私もこれにて……」

幹部「あぁ、そうだ」クルッ

士官「なんでしょう」

幹部「いえ、貴方はもういいですよ。兵達に指示を出してください」

士官「了解しました……?」タッ

幹部「……『例のアレ』はどうなっていますか?」

研究者「まだ培養段階だが、2,3日中には」

幹部「急いでください。中身がなくても構いません。魔王に対する切り札になりますからね」

士官(何の話だ?)

研究者「了解した」

士官(気にはなるが、聞いたところで返答があるわけはないか)


129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:09:04.62 ID:eyKUOczDo


― 富士山麓 洞穴前 ―


少女「抜け出すのに4日もかかっちゃった……」

メイド長「四王が警戒していましたからね」

少女「もう、最初から独りで行くって言ってたのに」ムー

メイド長「魔王様単独で行かせるなど四王が認めるわけございませんわ」

少女「でも、毎回私の我儘に皆さんを振り回すわけにはいかないです」

メイド長「魔王様のご意思は魔族の総意なのですからご命令を出してくだされば兵を出しますのに」

少女「駄目です。こんな事でみなさんの命を危険に晒すわけにはいきません」

メイド長「本当に……」ハァ

少女「ふぇ?」

メイド長「いえ。私は何があってもご一緒させていただきます」

少女「メイド長さんのお気持ちは十分わかりますけど……」

メイド長「統合連合の本部はアメリカ西海岸にあるようですが」

少女「転移できますよ。記憶に座標がありましたから」

メイド長「それでは、早速?」ギュッ

少女「もちろんです。……メイド長さん」

メイド長「はい?」

少女「あの、くっつきすぎじゃないかなーって……」チョットクルシイ

メイド長「ここまできて置いてけぼりは嫌ですから」

少女「あう……バレてたんですか?」

メイド長「魔王様のお考えはお見通しです。私すらも置いて行くおつもりだったのですね」

少女「……」

メイド長「足手纏いになるのは重々承知しております。ですが、これは私の戦いでもあるのです。どうか……」

少女「わかりました。じゃあ、一緒に行きましょう」ギュッ

メイド長「ありがとうございます」

少女「転移っ!」ヒュンッ


130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:10:24.52 ID:eyKUOczDo


― 人類統合連合本部 ―


幹部「魔族の姿はまだ確認されていないようですね」

オペレーター「レーダーに映る影はありません」

幹部「警戒されている、と思うのは楽観的ですかね」

研究者「こちらも準備は万端だ。早く新しい『実験台』が欲しいよ」ニチャァ

士官「……兵も臨戦態勢で配置しております」

幹部「引き続き警戒してください。勇者の絞り滓と魔王の残骸は?」

研究者「シェルターに移動させてある。対魔結界も限界まで強化して配置済みだ」

幹部「ふふふ……魔力さえ封じてしまえばただの小娘。我々の勇者部隊が魔族を薙ぎ払い、魔王と勇者を我が手に!」

研究者「実験器具の準備をしておかなければ」

士官「……私も持ち場に戻ります」サッ

ドォォォォン!! グラグラグラ

幹部「な、何事です!?」

士官「!?」

オペレーター「不明です! 突然爆発が!」

幹部「魔族ですか!?」

オペレーター「レーダーには反応ありません!」

ドォォォォン!!

研究者「ま、まさか、魔王が単独で……」

幹部「本部周囲を目視で監視! 敵の居場所をあぶりだせ!」

士官「くそっ!!」ダッ


少女【炎よ、乱れ、踊れ!!】ゴォォォォッ

メイド長「右手の建物が崩れ落ちましたね。倉庫だったようです」

少女「見つかってはいないみたいですね」

メイド長「まさかたった二人で来るとは思っていないでしょうからね。レーダーにも映りません」

少女「早く二人を探さなきゃ」

メイド長「ですが、遺体を捜すとなるとそう簡単には……」

少女「うーん、こればっかりは事前に調べる事もできなかったからなぁ」ドウシヨウ


131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:11:14.56 ID:eyKUOczDo


― 幻想空間 ―


少年「あーったく! 少女の奴勝手に決めやがって!」ドガァッ

怪物「グエエエエ!」ドサッ

少年「次だ! 一日でも早く力を取り戻してここを出るぞ」

後輩「は、はいっ。双火炎っ!」ゴゥッ

少年「あいつ、また一人で全部抱え込みやがって」ギリッ

怪物「グォォォォッ!」

少年「っるせぇ、轟雷!」ドガガガァンッ

後輩「力も魔力もかなり戻りましたね」

少年「まだだ。あいつに追いつくにはまだ足りない」

後輩「ですけど、このままでは先輩の身体が壊れてしまいます」

少年「壊れようがどうしようが構わない。あいつに、あいつに追いつける事ができればっ」ギリリッ

後輩「先輩っ!」ギュッ

少年「……すまない。自分の不甲斐なさにイラついてた」

後輩「先輩は十分以上にがんばっています。私が保証します。少女先輩にも負けないくらい」

少年「ありがとうよ。付き合わせちまってごめんな」ナデナデ

後輩「いえ、私は自分の意思で先輩と一緒に居る事を選びましたから」

少年「ここに入ってからどれくらい経ったんだ?」

後輩「えっと、今日で5日目ですね」

少年「あと2日か。それまでにどれだけレベルアップできるか、だな」

後輩「はい。がんばりましょう」ニコッ

ゴゴゴゴゴ……

少年「ん、どうしたんだ?」

後輩「何の音でしょうか」キョトン

竜王『聞こえるか、緊急事態だ。幻想空間を解く。多少揺れるが気をつけろ』

少年「何があったんだ!?」

竜王『魔王様が捕えられた』

後輩「っ!?」

少年「馬鹿な! あいつが捕えられるなんてあるワケねぇだろ!」

竜王『残念ながら事実だ。あとは出てからだ。解くぞ』

ゴゴゴゴゴゴ

後輩「きゃっ」フラッ

少年「大丈夫か?」ガシッ

後輩「あ、ありがとうございます……」キュッ


132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:11:54.44 ID:eyKUOczDo


― 魔王城 会議室 ―


少年「何があったんだよ!?」バァン

吸血鬼「戻りましたか」

獣王「こいつに頼らなきゃならねぇとはな」ケッ

海王「しょうがありません」

後輩「竜王は少し休むとの事です」

吸血鬼「わかりました。二人はそこに座ってください。事のあらましを説明します」

少年「メイド長さんはどうした?」

吸血鬼「それも込みでお話しますから黙って座りなさい」ギロッ

少年「……」ストン

吸血鬼「すみませんでした。気が立っていたのでね。さて、魔王様についてお話しましょう。2時間前、メイド長が傷だらけで戻ってきた事が全ての始まりです」

少年「あいつ、もしかしてたった一人で行ったのか?」

獣王「そうならないように俺達が見張ってたんだが、メイド長の手引きで裏をかかれちまった」

後輩「そんな無茶な……」

海王「我々とて全力でお引き留めしたのだ。だが、魔王様は個人的な事情だからと魔族軍を動かす事はなさらなかった」

少年「あいつらしいけどよ……」

吸血鬼「本当に魔王様には困ってしまいます」

少年「あいつは今、統合連合の本部に捕えられてるんだな?」

海王「そのようです。すぐにでも救出しなくては」

獣王「ご無事でいてくれれば良いのだが……」

後輩「望み薄、ですね」

吸血鬼「そうかもしれません。ですが、我々は全力で魔王様を取り戻します」

少年「当然俺も行って良いんだよな?」

獣王「俺達はあいつらの本部の場所がわからん。お前なら、と思ってな」

後輩「アメリカの西海岸です」

吸血鬼「転移呪は?」

少年「とっくの昔に覚えなおしてるよ。魔族軍もまとめて運んでやらぁ」

吸血鬼「魔族軍の準備が1時間程でできます。すぐにでも行きますよ」ガタッ

少年「おう」


133:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:12:31.10 ID:eyKUOczDo


ギィ……

メイド長「わ、私も……一緒に」

海王「メイド長、お主は寝ておれ。その身体では何もできまい」

メイド長「魔王様が捕えられてしまったのは私の責です……この命に代えても必ず!」

少年「詳しく話してもらえるか?」

メイド長「……私と魔王様は本部を強襲した後、施設内を片端から調べ上げました。他に方法がなかったので総当たりで先々代の遺体を捜すしかなかったのです」

メイド長「二人の遺体……といって良いのかわからない『物』は最奥の地下シェルターにありました。そこにたどり着くまでに数多くの偽勇者や兵士達が立ちはだかりましたが、それらを撃破しながら私達は扉を開けたのです」

メイド長「遺体を回収した瞬間、対魔結界が展開されましたが、魔王様には効果がありませんでした」

少年「ってことはあいつの魔力はあの時よりさらに上がってるのかよ……」

後輩「驚異的としか言いようがありません」

メイド長「施設内を破壊しつつ脱出を図ったのですが、外に出る直前に……」

少年「何があったんだ?」

メイド長「……少女友様が、そこに居られました」

少年「なんだと!? あいつの遺体は少女が自分でここの中庭に埋めたはずだ!」

メイド長「私も確認しております。ですが、あのお姿は間違いなく少女友様でした」

少年「あいつは、何か喋ったのか?」

メイド長「いえ、ただ、そこに居ただけでしたが、魔王様はそれだけで手を止めてしまわれて……なんとかお守りしようとしたのですが」ギリッ

少年「人形か何か、か?」

後輩「クローンという事も考えられます。少女先輩の遺体は回収しましたけど、血や小さな肉片などはあの部屋に散らばったままでしたから」

少年「どこまでも汚い手をっ!」ダンッ

吸血鬼「非常に『人間』らしいやり方ですよ」

少年「っ……」

後輩「訂正してください。人間の全てがこのような手を使うわけではありません」キッ

吸血鬼「……失言でした。申し訳ない」

メイド長「お願いします。私も連れて行ってください」

海王「しかし、その身体では……」

メイド長「でも、それでもっ!」

少年「わかったよ。一緒に行こうぜ」

獣王「おい勇者、勝手な判断するんじゃねぇよ。これは魔族の問題だ」

少年「んな事言ったって、このまま押し問答しててもしょうがねぇだろ。それに、メイド長さんの気持ちは俺にもわかるよ」

メイド長「ありがとう……ございます」


134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:13:39.30 ID:eyKUOczDo


― 人類統合連合本部 地下 ―


少女「……っく!!」

研究者「ほほぅ、耐えるのか。実に興味深い」ニヤニヤ

少女「こ、殺すなら早く殺しなさい!」

研究者「殺すわけないだろう。限界まで生きたまま我々の実験に付き合ってもらうぞ」ニチャァ

少女「……」

幹部「それにしても、見事に我々の罠にかかってくれたな。あの人形、良くできていただろう?」

少女「少女友ちゃんを冒涜するなんて、許せない!」キッ
研究者「はははははは! 許さなければどうすると言うんだ? 対魔結界を幾重にも張り巡らされたこの部屋で魔法が使えるのか!? 今回の結界発生器はお前の魔力に合わせて調整した特別型だ。それに、もし歯向かうなら……」チラリ

少女友クローン「……」

少女「っ、最低」ギリッ

幹部「クローン相手に情をかけるなど、そのほうが信じられんな。ただの人形なのに」ガッ

少女友クローン「……」ドサッ

少女「やめて! 少女友ちゃんに酷い事しないで!」

研究者「じゃあ、我々に言う事があるのではないか?」ニヤリ

少女「……わ、私の身体を好きにしていいから、少女友ちゃんには手を出さないで……」ギリッ

研究者「良く言えました。では、次は少し手法を変えようか」ベロリ

少女「っ!」ゾワッ

研究者「良い味だ。瑞々しい肌に健康的な脚」ニチャリ

幹部「相変わらず下種な趣味ですね。こればかりは私も耐えれません。司令部に戻ります。あとは任せますよ」スタスタスタ

少女「や、やめてっ!」

研究者「好きにして良いと言ったのはお前だよ。服が邪魔だな」ビリィィッ

少女「や、やぁっ! 少年君っ!!」

研究者「外には大量の兵を配置してるんだ。例え魔族軍が来ようとも……」

ドゴォォォォォンッ

研究者「何事だ!?」

兵士「て、敵襲!! 勇者とま、ま、魔族の大群がっ!!」

研究者「予定通り迎撃すれば良かろう! 幹部殿はどうした!?」

ゴゴォォォンッ


135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:19:48.18 ID:eyKUOczDo


兵士「司令部に向かわれました!」

研究者「勇者は魂の鎖を外されて弱体化してるんだろうが! 何をてこずる!?」

ズゥゥゥンッ ブツン

研究者「ちっ、停電か。非常電源を早くっ!」

少女「遅い!」ゴゥッ

研究者「ひぃっ!?」

少女「よくも……よくもよくもよくもっ!!」ゴォォォォ

研究者「こ、攻撃すればこのクローンを殺すぞ! それでもいいのか!?」

少女「っ……」シュゥゥ

研究者「それでいい。それでいいんだ。こいつが、こいつさえあれば研究はやり直せる!」

少女友クローン「……ょ」

研究者「ん?」

少女友クローン「しょ……う、じょ」ギギギ

研究者「馬鹿な! 中身はないんだぞ!?」

少女「少女友ちゃんっ!」

少女友クローン「い……い……か、ら……」

研究者「黙れっ!」ドガッ

少女友クローン「やっちゃえ」ニコッ ドサッ

少女【我が呼びかけに応えよっ!】ゴォォォォッ

研究者「なんっ!?」

少女【この世を統べる至高なる存在よ、我との契約に従い、その力を行使せよ!!】

ゴゴゴゴゴゴゴゴ


136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:21:26.48 ID:eyKUOczDo


― 地上 ―


少年「偽勇者は片付けたぞ!」

獣王「こっちも黙らせた!」

後輩「ここまで統制がとれているとは……」

吸血鬼「この程度、我々にとって朝飯前ですよ。魔族の頂点たる魔王様奪還の為です。本気にもなります」

少年「ったく、将来苦労しそうだな」

獣王「ふん、せいぜいがんばるこったな」

後輩「少女先輩はどこに居るんです!?」

兵士「し、知らん。捕えた後、幹部と研究者が連れて行った!」

少年「ちっ、俺達もしらみつぶしに探すしかないか」

士官「地下のシェルターだ」

吸血鬼「あっさり口を割ってしまって良いのですか?」

士官「あいつらにはついていけん。非人道的な実験ばかり……早く行け。お前達の主が無事かどうか保証はできんぞ」

ゴゴゴゴゴ

少年「なんだ?」

後輩「少女先輩の魔力紋です。地下で大型魔法を使っている……?」

吸血鬼「どうやらご無事のようですね。しかし、これは我々が危なくなりそうです。総員大至急避難を!」

海皇「魔王様の魔法が収まるまで一時上空に退避だ! 飛竜族、頼むぞ!」

魔族兵「退避! 退避だっ!!」

ゴゴゴゴゴゴゴ

メイド長「ま、魔王様っ!」ダッ

少年「おい、待てっ!」ダッ

後輩「先輩っ、危険です!」

少年「少女とメイド長さんは俺がなんとかする! お前は逃げろ!」

吸血鬼「勇者、魔王様をっ!!」

少年「わぁってる! 任せろ!!」

ゴォッ! ドドドドドドドドドド!!


少年「少女っ! どこだ!?」

メイド長「魔王様っ!!」

少年「魔法そのもののダメージはなんとか防げたが、言わない内に建物が崩れるぞ」

メイド長「くっ……魔王様っ! お返事を!!」ズキズキ

少年「少女っ! どこにいるんだ!?」


137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:22:11.48 ID:eyKUOczDo


…………く、ん

少年「メイド長さん、止まってくれ」

メイド長「聞こえたんですか?」ハァッハァッ

……しょう、ねん、くん……

少年「聞こえたっ! メイド長さん、まだ動けるか?」

メイド長「だ、大丈夫です!」フラッ

少年「あー、もうしゃーねぇ。ちょっと我慢してくれよ」ヒョィッ

メイド長「きゃっ」

少年「こっちだーっ!」ダダダダ


少年「ここだぁっ!」

少女「……しょう、ねん、くん?」

メイド長「魔王様!!」ギュッ

少女「わぷっ、メイド長さんっ! 無事だったんですね!?」

メイド長「魔王様、魔王様っ! よくぞご無事で……という訳でもなさそうですね」

少年「これ着ろ。大丈夫か?」バサッ

少女「あ、ありがとう……大丈夫だよ。何もされてないからっ。少女友ちゃんが助けてくれたの」

少年「これか……もう灰になっちまってるな」サラリ

メイド長「クローンに魂が宿ったと?」

少女「わかんない……でも、あれは間違いなく少女友ちゃんだった」

少年「と、とりあえず逃げるぞ! このままだと崩落に巻き込まれる!」

少女「う、うんっ。メイド長さんもっ」

メイド長「は、はいっ」

幹部「たっ、助けてくれ!!」ズルッ

少年「幹部!」

幹部「た、頼む。助けてくれ! 足がっ」

メイド長「……無様ですね」

幹部「お願いだっ!」

少女「貴方達が今までやってきた報いを受ける時です。研究者さんは先に地獄で待ってるそうですよ」ニコッ

幹部「助けてくれっ!!」


少年「転移呪っ!!」シュッ

ゴゴゴゴゴゴ ゴゴゴォンッ

幹部「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」


138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:23:15.60 ID:eyKUOczDo


― 富士山麓 洞穴前 ―


少女「少年君、助けにきてくれてありが……あぅっ」ペチッ

少年「勝手に先走った罰だ」

少女「うー……だってぇ」ヒリヒリ

少年「無事だったから良かったものの、何かあったらどーするつもりだったんだよ! 現にひん剥かれてただろうがっ!」ガーッ

少女「でもっでもっ、何もされてなかったしっ……ってきゃーっ!?」ガバッ

少年「今更!?」

少女「み、見ちゃだめーっ!」アウアウ

少年「今更すぎんだろ。ほれ」バサッ

少女「ふぇ……?」

少年「メイド長さんがもしもの時の為にって用意してたよ」

少女「あ、ありがとう……でもね、本当に何もされてないんだよ?」モソモソ

少年「そういう問題じゃねぇ。俺や四王達がどんだけ心配したと思ってんだよ」

少女「でも」

少年「?」

少女「少年君が、みんなを連れて助けに来てくれたよ?」ニコッ

少年「っ……あ、当たり前だろ!」マッカ

少女「ありがとう。大好き」ギュッ

少年「……俺もだよ」ギュ

少女「でも、お別れなんだよね?」

少年「あぁ。魂の鎖から解放されたとはいえ、俺は勇者だ。魔族の侵攻は止めなきゃいけない」

少女「……うん」

少年「まぁ、すぐにお前のところにたどり着いてやる。覚悟しとけよ」ニッ

少女「できるものなら、ね。私だって魔王として手を抜く気はないんだから」ニコッ

少年「よし。お前はそうやって笑っていろ。少女友だってそう思ってるよ」ナデナデ

少女「うんっ!」ニコッ

後輩「せんぱーい! 出発の準備が整いましたっ」

少年「わかった。すぐ行く!」

少女「じゃあ、またね」

少年「おう。俺が行くまで元気にしてろよ」ニッ

少女「遅かったら制圧しちゃうからね」ニコッ

少年「またな」チュッ

少女「♪」


139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2011/04/04(月) 00:23:51.05 ID:eyKUOczDo


この後、勇者と魔王はそう遠くない未来に雌雄を決する事となる。
その結果は不明だが、今以って人間と魔族の間には深い溝があり、頻繁に小競り合いが繰り返されている。
だが、中には二つの世界の間で愛が芽生え、育まれているという噂も数多く知れ渡っていた。




勇者「魔王、覚悟しろっ!!」
魔王「小賢しい、今日こそ引導を渡してあげるわ!」







メイド長「それは良いですが、お子様達が泣いておられますよ」
少女「あわわわわわ」
後輩「おしっこみたいです」
少年「さっき換えたばっかりだぞ……」ガックリ
メイド長「あらあら」ニコニコ




The Lost Memories Special Ep.5 END.
I hope you enjoyed this story.
Written by M.O.
See you someday. Thank you.


143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/04(月) 00:35:09.13 ID:/OaFQ/3Fo


おつ


元スレ:少女「私が……魔王?」
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