梓「いま、会いにいきます」

このエントリーをはてなブックマークに追加 コメント (0) | カテゴリ: けいおん!SS | 更新日: 2011/07/14 22:30
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:42:40.49 ID:NzZfbvjxo


憂「そろそろ起きてお姉ちゃん、お仕事遅刻しちゃうよ」

唯「うーん……おはようういー」

 ぴんぽーん

憂「お客さんだ、私朝食の用意で手が離せないからお姉ちゃん代わりに受け取ってきてもらえるかな」

唯「おっけー」

唯「今でまーす、どなたですかー?」

ケーキ屋「おはようございます。○○洋菓子店ですが」

唯「おはようございまーす。あれれ?クリスマスケーキなんて私頼んだっけ……」

ケーキ屋「えーと、去年受けた注文では確かにこの家宛だったはずですが……平沢唯さんのお宅ですよね?」

唯「はい、そうですけど。確かに私宛ですね。あっ、送り主の名前が……」

ケーキ屋「心当たりありませんか?」

唯「いえ、確かにこのケーキ、私宛に送られた物です」

ケーキ屋「いやーよかった。住所間違えたらどうしようかと思いましたよ」

唯「わざわざありがとうございました」

ケーキ屋「ようやく肩の荷もおりたので、私はこの辺でお暇しますね」ばたん

――


3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:43:32.08 ID:NzZfbvjxo


唯「憂、クリスマスケーキが届いたよー」

憂「え?お姉ちゃんクリスマスケーキなんて頼んでたの?」

唯「ううん、私は頼んでないよ。ただほら、見て見てよ憂、このケーキを贈った人の名前」

憂「ん?誰かからのプレゼントなの?……えっ!?これって……」

憂「そっか……それじゃあ今夜パーティしよっか。みなさん呼んで」

唯「うん!」

憂「さ、早くご飯済ませてお仕事いかなきゃ」

唯「そだねー」

 私はテーブルにケーキの入った箱を置いて窓から外を見る。
 今年の冬は暖冬だと言われていたせいか窓の外は本来降る筈の雪が降ることなく生憎の雨模様だった。
 それ程激しくない雨、いわゆる霧雨が静かに降り続いていた。


4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:44:21.19 ID:NzZfbvjxo


唯憂「いってきまーす」

 朝食も済ませた私達姉妹は2人で一緒に家を出てそれぞれの職場へと向かおうとしていた。
 雨の中、私はふとこの雨とさっきのケーキである事を思い出して半ば衝動である場所へと向かう。
 そこは家の裏山にある森に囲まれた古い神社だった。
 うっそうとした木々に囲まれ街の喧騒から隔離されたような静かなこの空間は、私にとっては思い出の場所。
 ここで私の頭の中に去年起きたある出来事が鮮明にフラッシュバックしてくる。

 去年のあの日、雨の季節に私達に訪れた奇蹟は、この森から始まった。
 たった6週間の奇蹟。
 もしかしたらあれは霧の向こうの幻だったのかもしれない。
 けど、私達は確かにあの子にまた会えたんだ。


5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:45:01.43 ID:NzZfbvjxo


―― 話は1年前の6月、私が25歳の時に遡る 

 ここは桜ヶ丘郊外にある墓地。
 その中にあるまだ真新しいお墓の前、線香の香りの漂う中、私は憂と軽音部のみんなと手をあわせて拝んでいた。
 墓石には「中野家」と書かれている。

律「さて……そろそろ行こうか」

澪「そうだな」

 お墓参りも終わりみんな帰る準備をしていたけど私達姉妹は帰るそぶりも見せずただその場に座り込んでじっとお墓を見つめていた。

澪「梓が亡くなってからもう1年か……」

律「長かったよなこの1年、色々ありすぎてさ……」

紬「大丈夫なのかしら唯ちゃんと憂ちゃんは……2人共あんなんだし」

澪「それでも1年前のあの頃に比べたら大分立ち直れてきているようだけど……やっぱりまだ辛いんだろうな」

律「突然だったもんな、無理もないって。私だって未だに信じられないし」

 私が19歳の時に私とあずにゃんは本格的に恋人関係になった。
 そしてあずにゃんが大学を卒業したのを契機に私達2人は安い一軒家を借りて一緒に生活を始める。
 だけど今から1年前のある日、あずにゃんは急な病で突然倒れて病院に運ばれてしまう。
 
 一時は意識を取り戻したものの、それから2日後……容態が急変しあずにゃんは私達に見守られながら静かに息を引き取った。
 それはあまりに突然の出来事で私は勿論、他のみんなも現実を受け入れるなんて到底できるものじゃなかった。



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:45:34.25 ID:NzZfbvjxo


―― それから数日後

 私は同居人のいなくなった家で今も1人で生活をしていた。
 実家に帰るという選択肢もあったけど、思い出の詰まったこの部屋を去る気にはならなかったから。
 
 ちなみに時々憂が私の家を訪れては色々と世話をしてくれている。
 元々ズボラな性格もあったけど、一番の理由は今の私の身体にある問題があったからだ。

憂「お姉ちゃん、朝ご飯できたよ」

唯「うん」

憂「さ、早く食べて仕事いかないと」

唯「悪いね憂、いつも世話かけさせちゃってさ」

憂「そんなことないよ。お姉ちゃんの身体が心配だし」

 あずにゃんがいなくなってからというもの、家事も満足に出来ない私の部屋は荒れ放題だ。
 だけど憂は文句一つ言わずにいつも私の世話をしてくれている。

 今の私達姉妹には1年前から待ち続けている「ある事」があって、多分それが心の支えになっているからなのかもしれない。

唯「憂」

憂「どうしたの?」

唯「やっぱりあの話、憂は信じてるの?」

憂「あの話って……雨の季節になったら梓ちゃんが帰ってきてくれるって話だよね」

唯「うん……」

憂「私は信じたいな。だって私も梓ちゃんにまた会いたいから……お姉ちゃんはどうなの?」

唯「そりゃあ私もあずにゃんに会いたいよ。でも何であんな事言ったんだろ」


7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:46:05.57 ID:NzZfbvjxo


 1年前、病院であずにゃんは亡くなる直前に私達の前でこう言った。

~~~~ 回想 病院にて

梓『泣かないで唯……私、来年の雨の季節になったら必ずまた戻ってくるから』

唯『……え?』

梓『約束……するから……だから絶対私を信じて、ね?』

~~~~
   
憂(あれから1年……もうすぐ雨の季節、か。あの時梓ちゃんはああ言ったけど、なんかワケがあるのかな)

憂(でも私は信じてる。確証なんかないけど……絶対に梓ちゃんは雨の季節と共に帰ってくるんだ)

唯「ういー、どったの?」

憂「あ!ううん!なんでもないよ」

――

唯「それじゃ、いってきまーす」

憂「いってらっしゃいお姉ちゃん」

 今日は朝から青空が広がっている。
 そんな中私は自転車に乗って少し離れた距離にある職場へと向かう。
 本当ならバスや車やバイクで通勤するのが楽なんだろうけど、今の私は訳あって乗り物や人ごみが駄目な身体になっていた。
 自転車で職場への道程を急ぐ私、頭上には青空が広がっているけど遥か西の空には黒い雨雲がでていた。
 もうすぐ雨の季節が来る、そう予感せずにはいられない――


8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:46:45.60 ID:NzZfbvjxo


―― 竹達司法書士事務所

 私は町外れの小さい司法書士事務所で事務雑用で働いている。

唯「おはよーございまーす!」

 大学を中退した上に人ごみや乗り物も駄目な私が就ける仕事は、このご時世そんな簡単に見つかるわけがない。
 そんな中、この事務所は私を採用してくれた。
 ここで働いている人は私を含めてもたったの4人、いい人ばかりだし最適な職場環境だ。

澪「おはよう唯」

唯「おはよう澪ちゃん」

 私と澪ちゃんは同じ職場で机を隣同士にして一緒に働いている。
 この職場に入れたのも、ここで前から働いていた澪ちゃんの紹介があったからだ。

竹達「Zzz……」

唯「所長さん今日もまたお昼寝してるね」

澪「そうだな、まぁそっとしておいてやろう。とりあえず私達は今日の分の書類を今のうちにまとめておこうか」

唯「そだねー」


9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:47:34.00 ID:NzZfbvjxo


――

澪「――うん、ここはそうやって……こうした方が早いし楽だと思う」

唯「ふむふむ……なるほど、確かにそうした方がよさそうだね」

唯「とりあえずメモしておこうっと」

 私の記憶力は昔に比べて明らかに落ちていて、こうやっていちいちメモを取らないとすぐに忘れちゃうようになっていた。
 
唯「澪ちゃんいつもいつも本当にありがとう」

澪「いやいいんだ、私は別に大したことはしてないしさ」

唯「ねえ澪ちゃん」

澪「どうした唯」

唯「今週末の土曜日、お祭りなんだよね」

澪「そういえばそうだったな。憂ちゃんと行くのか?」

唯「うん……憂も私の前では明るく振舞ってるけど、絶対寂しがってると思うんだ。だからたまにはさ……」

澪「でもさ唯、お前人ごみ大丈夫なのか?」

唯「そうなんだよね。私のこの身体さえ平気だったらなぁー」

TV「―― 一部、雨が強く降る恐れもあります」

 オフィス内で垂れ流し状態のTVから天気予報のキャスターの声が聞こえてきて私の視線はそっちに注がれる。
 「雨」という単語に最近やたらと敏感になっているから。

TV「しかし、前線が近づいてくるということはいよいよ梅雨入り間近、雨の季節到来という事になります――」

唯「いよいよ梅雨入りかぁー」


10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:48:35.00 ID:NzZfbvjxo


澪「なんだか嬉しそうだな唯。やっぱり信じているんだあの事」

唯「うん!そりゃあありえない話だと思うけどさ、やっぱり心のどこかで期待しちゃうんだよね」

澪「ところでさ……」

唯「ほぇ?」

澪「この調子じゃ土曜日雨かもな……」

 梅雨入りはもうすぐそこまで来ている。
 実際この後どうなるのかは正直なところ私にも分からない。

 けど、出来るなら……もう1度、あの子に会いたい。
 1度でいいから会って、話がしたい。


11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:49:00.80 ID:NzZfbvjxo


 その日の夕方 平沢家(実家)

純「やっほー、憂いるー?」

憂「いらっしゃい純ちゃん。あがってあがってー」

純「それじゃ、お邪魔しまーす」

――――――

――――

――

純「ういー、なにやってたのさ?」

憂「ちょっと、てるてる坊主を、ね」

純「ああ、週末のお祭りが中止にならないようにって事だね……ってええ!?」

憂「?」

純「吊る下げられてるてるてる坊主、全部逆さまじゃん。まさかこれ、雨乞いのつもり!?」

憂「うん、もうすぐ梅雨入りだからね、早く来て欲しいんだ」

純「そっか……もうすぐ梓の言ってた雨の季節か」

憂「うん」

純「会いたいよね梓に……ロクにさよならも言えずにいなくなっちゃったからさ」

憂「そうだよね……ねえ純ちゃん」

純「何?憂」

憂「私今でも思うんだよ。あの時もっとちゃんとお姉ちゃんと梓ちゃんを見てあげてたらって」

憂「お姉ちゃんは大学生の時にあんな身体になって、梓ちゃんはそんなお姉ちゃんにずっと付き添ってた。きっと大変だったと思うんだ」

憂「だから私がもっと早くに梓ちゃんの異変に気付いてあげてたら……お姉ちゃんが今こんな辛い想いし続けなくて済んだのかもしれないって」

純「それは違うって憂」

憂「え?」

純「先がどうなるかなんて誰にも分からないし、こうなったのも憂1人のせいなんかじゃないから。それにさ……」

憂「それに?」

純「唯先輩は今も不幸せじゃないよ、きっと」

憂「どうして?」

純「憂がいるから……妹であるあんたがこうやっていてくれるからこそ唯先輩は今も頑張っていられるんだよ」


12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:49:42.87 ID:NzZfbvjxo


―― 同時刻 ファミレス

 この日は軽音部のみんなとここで待ち合わせしてお話をすることになっている。
 私と澪ちゃんは仕事を上がると一緒に待ち合わせ場所のこのお店へ行って、そこでりっちゃんとムギちゃんと合流した。

唯「最近あずにゃんのことで思い出せない事が増えてきてるんだよ。ビデオや写真の中でしかあずにゃんを感じることができないんだ」

唯「でもね」

紬「でも?」

唯「あずにゃんは戻ってくるんだよ、もうすぐ」

律「雨の季節に戻ってくるって言い残してたんだよな?」

唯「そだよー」

律「信じているのか唯?」

澪「さっきも仕事中その話しててさ、唯は信じてるんだ。勿論憂ちゃんも」

律「そっかー」

唯「みんなはこの話、ありえないと思う?やっぱり」

紬「まあ、科学的には……ね」

唯「やっぱりそうだよねぇ」

澪「唯は梓に戻ってきて欲しいんだよな?」

唯「うん、私はあずにゃんを幸せにしてやれなかったから、全然ね」

紬「本当にそうなのかしらね……」

唯「私がこんなんだからあずにゃんに負担ばっかりかけちゃって。最初から最後まで」

律「お前やっぱり自分の身体の事をまだ……」

唯「一度でいいからさ……私と一緒に生きていて良かったって思ってもらいたかったよ。だからもし戻ってきたらそんな思いをさせてやりたいなーって思うんだ。普通の恋人同士みたいに一緒に旅行に行ったりとかさ」

澪「なるほどな……」


13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:50:15.76 ID:NzZfbvjxo


―― その夜

 この日も憂は私のとこに来て家事を手伝ってくれていた。
 自分の時間をわざわざ割いて来ているのに満面の笑顔を浮かべて嫌な顔1つしないで接してくれているその姿が正直見ていていたたまれない。
 
唯(いつもいつも憂には迷惑かけっぱなしだなぁ……たまには気分転換させてあげたいなー)

憂「お姉ちゃーん、お風呂はいったよー」

唯「はーい」

唯(そうだ!いいこと思いついた!)

憂「どうしたの?」

唯「あのね憂、今度の土曜日さ、お祭り行こうよ」

憂「え!?」

唯「ほら、前にも軽音部のみんなと一緒に行ったじゃん。楽しかったからさ、だからまた行こうよ、ね?」

憂「で……でもお姉ちゃん、身体大丈夫なの?人混みとか駄目じゃなかったっけ」

唯「へ?いやいや大丈夫大丈夫!まっかせなさい!!」

憂「そうなんだ。じゃあ今度も軽音部の皆さん誘って行こうよ」

唯「それがいいねぇ。じゃあ後でみんなに連絡しておくよ」

唯(場のノリで大丈夫なんて言っちゃったけど……平気だよね、うん!)

 憂や軽音部のみんなには笑顔でいて欲しい。
 あずにゃんを失ってしまった今、みんなの存在は今の私にとっては生きる糧なのだから。



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:50:53.13 ID:NzZfbvjxo


―― 土曜日!

唯「うっわぁー……すごい人の数だねぇ」

憂「うん、前来た時よりも混んでるよね」

律「それじゃ行きますかー。てきとーに見てまわろーぜ」

紬「そうねー」

澪「みんなはぐれないようにな」

唯(うぅっ……心臓がバックンバックンいってるよぉ……それにさっきから眩暈が……)

唯(やっぱまだ人の多いとこ駄目なのかなぁ)

憂「お姉ちゃん、手繋ご?」

唯「う……うん……そうだね」

唯(憂の手を握ってるからギリギリ落ち着いていられるけど……どうしよう……)


15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:51:23.04 ID:NzZfbvjxo


 私達はこうしてしばらくの間色んな夜店を見て回った。
 その間も私の眩暈と動悸はどんどん酷さを増していってる。
 ずっと誤魔化してたけど……さすがにもう限界かも……
 いや、誘った手前こんなとこでみんなに迷惑なんてかけれないよ!

律「唯、どうした?なんか顔色悪いぞ?」

紬「唯ちゃん、やっぱりまだ身体の方がよくなってないんじゃないの?」

唯「へへっ、そんなことないってばぁ。人がいっぱいいる場所来るの久しぶりだからね、ちょっと疲れちゃったみたいなんだ」

律「少し休むかー?」

唯「うん、私そこのベンチで少し休んでるからみんなは遊んできてよ。しばらくじっとしてれば良くなると思うし」

憂「あの、心配なので私もお姉ちゃんについてますね」

澪「私もついてるよ。2人を放っておくなんてできないし」

唯「憂も澪ちゃんも私に気を使わなくていいから楽しんできなよ。みんな気に病みすぎだって」

憂「そこまで言うなら……でも何かあったらすぐ連絡してね?」

唯「うん、いっておいで」

紬「悪いわね唯ちゃん。出来るだけ早く戻ってくるからね」

唯「うん」


16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:51:53.48 ID:NzZfbvjxo


 こうして私はベンチに座って気分を落ち着かせ……ようとしたけどやっぱり無理だよ……
 眩暈はますます酷くなって、まるで洗濯機に放り込まれて散々回された後のように視界がグルグルと回って止まらない……とにかくマトモにいられない状態だ。

唯(少しでも人の少ない場所に行こう……ここじゃ休まらないよ。りっちゃん達には後で連絡しとこっと)

 そう思ってここを離れようとして立ち上がった瞬間、私の中で何かの糸が切れたような感じがして、その直後意識が途絶えてしまう。


憂「お姉ちゃーん、ジュース買ってきたよー」

憂「ってあれ!?お姉ちゃんがいない!?」

澪「どうしたんだ憂ちゃん」

憂「お姉ちゃんが……お姉ちゃんがいないんです!確かにここにいるって言ったのに!」

律「近くにいないのか?」

紬「駄目ね……人が多すぎてこれじゃ区別がつかないかも」

律「とにかくみんなで手分けして唯を探すぞ!見つけたらすぐに電話するようにな」


17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:52:25.29 ID:NzZfbvjxo


 数十分後

憂「お姉ちゃーん、どこー?いたら返事してー?」ウロウロ

憂「……」キョロキョロ

憂「駄目だぁ……見つからないよぅ……どこ行っちゃったのかなお姉ちゃん」

純「あれ?憂?」

憂「あっ、純ちゃん?」

純「やっぱり憂だ。お祭り来てたんだ。誰か探してるみたいだけどどうしたの?」

憂「それが……軽音部のみなさんとお姉ちゃんと来てたんだけど、お姉ちゃんとはぐれちゃって……」

純「えぇっ!?唯先輩来てたの!?こんな人が一杯の場所に来てはぐれるなんてマズいって!」

憂「私が目を離したせいだよね……やっぱり」

純「今そんなん言ってる場合じゃないでしょ。私も手伝うからさ、出来るだけ急いで見つけなきゃ!」

憂「分かった……ありがとう純ちゃん」


18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:53:06.23 ID:NzZfbvjxo


 数十分後

純「どう憂、見つかった?」

憂「だめ……どこにもいないよぅ……どうしよう……」

prrr

憂「あっ、電話だ……紬さんからだ」

憂「もしもし?」

紬「憂ちゃん?唯ちゃん見つかったわ、すぐ祭本部の救護所へ来て!」

憂「本当ですか!?」

紬「ええ、他のみんなにも連絡しておくからなるべく早くきてね」

憂「はいっ!」

憂「純ちゃん、お姉ちゃん見つかったよ。お祭りの本部にある救護所だって」

純「それならすぐに行くよ!」

憂「うん!」


19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:54:01.23 ID:NzZfbvjxo


 救護所

 意識を無くした私が次に目を覚ましたのは見慣れないテントの中だった。
 突然倒れた私を誰かが運んでくれたのかな……はっ!そうだ、みんなは!?

紬「気がついた?唯ちゃん」

唯「あっ……ムギちゃん、私……」

紬「唯ちゃんがいなくなったって聞いてね、みんなで手分けして探してたの。それでね、もしかしてって思ってここに来てみたら唯ちゃんが運び込まれてて寝てたから……」

唯「そっかぁー」

紬「他のみんなにも電話したからすぐに来てくれると思うわ」

 それからしばらくしない内にみんなやってきた。
 みんな一様に心配そうな表情をしていた、そりゃそうだよね。

憂「お姉ちゃん……大丈夫?」

唯「憂、みんな……ごめんね、せっかくのお祭りだったのに」

紬「いいのよ、唯ちゃんが無事だったのならそれで、ね」

澪「とにかく大事にならなくてよかったよ……」

律「そうだな……とにかくあんまり無理はするなよ唯。お前に何かあったら一番悲しむのは憂ちゃんなんだからさ」

唯「うん……」

憂「ねえお姉ちゃん」

唯「何?憂」

憂「お姉ちゃんはいなくなったりしないよね?いなくならないよね?」

唯「え?」

憂「私、もう嫌だよ……ヒック……ごれ以上……大事な人を……うぅっ……亡ぐずなんで、絶対嫌だよぉ……グスッ」

 今まで私の前では気丈に振舞い続けていた憂が、今目の前で涙を流している。
 きっと今の私のこの姿と1年前のあずにゃんの姿がダブって見えたのかも。
 さっき「笑顔でいて欲しい」なんて願ったのに私のミスでいきなり泣かせちゃった……お姉ちゃん失格かなぁ、私

唯「いなくならないよ絶対に。ごめん、ごめんね憂」

 私は憂を自分の方へ抱き寄せそっと頭を撫でた、とにかく憂を安心させたかったから。
 その甲斐あってか、さっきまで目に見える程だった憂の全身の震えは収まり、何とか落ち着きを取り戻したようだ。

憂「グスッ……そう、だよね……私こそ……変なこと、聞いちゃったね……ヒック」

唯「はぁ……何で私こんな身体になっちゃったんだろ」

律(唯の奴、高校時代の頃とは別人のようになってる……どうしても考えがネガティブ方向に向かうようになってるな……)

紬(こんな時、梓ちゃんがいてくれてたら……ううん、ダメダメ!生きてる私達がちゃんと唯ちゃんを支えてあげていかなきゃ)


20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:54:47.09 ID:NzZfbvjxo


 その夜、私は部屋でビデオを見ていた。
 高校生の頃からつい1年前までの間撮った思い出のビデオ映像を毎晩寝る前に見るのが日課になっている。

梓『唯先輩、憂、何を探しているんですか?』

唯『えっとね、四葉のクローバーだよっ。これを持ってるとね……えっと、なんだっけ……』

憂『願いが叶うんだよ。なんでもね。そういう昔話があるんだ』

梓『へぇー、それで何をお願いするんですか?』

唯『それはもちろん――』

唯『――あずにゃんといつまでも一緒に幸せでいられますようにって』

 私の頭の中から毎日少しずつあずにゃんと過ごした記憶が無くなっていく。
 その思い出の日々をいつまでも忘れないように、こうやって映像を見て補っている。

 そして映像は私の高校生活最後の年、大学入試直前に撮った場面に変わった。
 場所は家の裏山にある神社、そっか、あの時確か「受験に合格できますように」って願掛けする為に行ったんだよね。

梓『唯先輩、大学受験頑張ってくださいね!』

唯『もっちろん!私にまっかせなさい!あずにゃんも来年からの軽音部の部長、頑張ってね』

梓『はいっ!』

唯『それじゃお願いしよっかー』

梓『そうですね、先輩、お賽銭は用意できてますか?』

唯『うん!それじゃいくよー』

 懐かしいなぁー、映像の中にいるあずにゃんはとっても元気だ。
 またこんな日々が戻ってきてくれたらどんなにいいか……


21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:55:13.13 ID:NzZfbvjxo


 ビデオを見終わった私の耳にふと音が聞こえてくる。
 窓の外と屋根の上からだ。
 まさかと思って窓から外を見ると雨が降り出していた。
 
唯「いよいよ梅雨入り、かぁ……」

唯「なんだか懐かしくなってきたし、明日になったら憂と裏山の神社に行ってみよっかな」


22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:55:46.60 ID:NzZfbvjxo


 翌日

 この日は日曜日の休日、昨夜から降り始めた雨は今もまだ降り続いている。
 そんな中、私と憂は2人で裏山の神社へ行くことにした。
 わざわざ雨の中、こんな場所まで来るなんて普段はありえないんだけど、昨日ビデオを見た時から何故か妙な予感がしてそれを確かめる為にここまで来た。

憂「やっぱり雨だからかな、誰もいないね」

唯「そうだねー」

 今私の視線の先には木で出来た古ぼけた小さな社がある。
 所々木材が腐食していて、もう何年も放置されてるんじゃないかって思わせるような佇まいを見せている。
 
唯「なんだろ……なんかさっきから変な胸騒ぎがする……あそこに何かあるのかな?もしかして」

 何かに導かれるようにして私は社の扉の前に立つ。
 そして目の前にある埃の被った扉を両手でゆっくりと開ける。
 立て付けの悪い扉は積もった埃を撒き散らしながら軋んだ音を出してゆっくりと開いていく。
 
 真っ暗な室内を目を凝らしてよく覗きこんでみたけど、そこは何も無いただの空間だった。

唯「はぁ……そりゃそうだよね。こんなとこに何かあるわけないよね。やっぱ私の気にし過ぎだったかな」

 私はそう呟いて開けた扉をまた閉める。
 そして後ろを振り向き社から離れると憂がやってきた。


23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:56:44.86 ID:NzZfbvjxo


憂「お姉ちゃん、どうしたの?」

唯「あ、うん、何でもないよ」

憂「それなら別にいいけど……」

唯「それより雨強くなってきたね。そろそろ帰ろっか」

憂「そうだね、そろそろお昼ご飯の支度をしなきゃいけないし」

唯「いこっか」

 そう言って私達姉妹は境内に背中を向けて帰ろうとしていた……が、その時背筋に電気のような物が走った。
 
唯「……!?」

憂「!?お姉ちゃん、どうかしたの?」

唯(な、何この感覚……なんか懐かしいようなこの感じ……)

 突然足を止めてそう思っている私の背後で木の軋む音がした。
 そう、あの社の扉が開く音だ。
 2人の視線は音のあった方へと自然に向いてしまう。

唯「扉が……開いてる?あれ自動ドアだったのかなぁ」

憂「そんなワケないよ流石に……って……お、お姉ちゃん!あ、あれ!!」

唯「どうしたの憂?……えっ!?」

憂「う、嘘……だよね?」


24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:57:34.76 ID:NzZfbvjxo


 憂が指し示した方向を見た私は我が目を疑って、まるで一瞬時間が停止したような衝撃を受ける。
 
 扉の前に付いている5段程度の小さい階段、そこにいつの間に現れたのか1人の女の子が体育座りで座っていた。
 赤いキャミソール、白いスカート……そして特徴的な長い黒髪のツインテール……間違いないよ、忘れる筈がないその見慣れた姿。
 
憂「あ、あずさ……ちゃん?」

唯「あずにゃん……なの?」

憂「本当に……本当に帰ってきてくれたんだ……梓ちゃん」

 私達は雨に濡れるのもお構いなしに大急ぎであずにゃんの元へと駆け寄った。
 
憂「梓ちゃん!」

 憂がそう呼びかけるとあさっての方向を向いていたあずにゃんの視線が私達姉妹の方へ向いた。
 だけどその顔は何か鳩が豆鉄砲を食らったような、そんな表情だった。

唯「あずにゃん!本当にあずにゃんなの!?」

 私も嬉しすぎて半ば錯乱状態でそう話しかける、だけどあずにゃんの反応はあまりにも予想外なものだった。


25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:58:09.97 ID:NzZfbvjxo


梓「あなた達……誰?」

唯憂「え……?」

憂「あ、梓ちゃん、何言ってるの?」

梓「あずさ?それ……私の名前?あなた達は……一体誰なんですか?」

 あずにゃんは唖然とした表情でそう答えた。
 あまりに予想外の反応に私は戸惑ったけど、とにかく今はこの状況を教えてあげないといけないのかも。

唯「覚えてないの?ほら、私は唯だよ。同じ高校で同じ部活だったし今迄ずっと一緒に住んでたじゃん」

梓「ゆ……い……?」

唯「そうそう、平沢唯だよ。そして、この子は私の妹であずにゃんのお友達の憂だよ」

憂「梓ちゃん、本当に私達のこと、覚えてないの?」

梓「わからない……それに、一体ここは何処なの……?」

 ――雨の季節、約束通りあずにゃんは私達の元へと帰ってきてくれた。
 
 だけど……あずにゃんは全ての記憶を失っていた――


26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:58:56.77 ID:NzZfbvjxo


 ――自宅

 今私達姉妹はあずにゃんを連れて私の家へ戻ってきている。

唯「本当に何も覚えてないの?」

梓「はい、それに自分の名前も分からないです……」

唯「えっとね、君の名前は中野梓ちゃんで、私の後輩で、憂の友達なんだよ」

梓「私が、ですか?」

憂「そうだよ?」

梓「うーん……」

唯「何か証拠になる物なかったかな……あ、そうだ!」

 何かを思いついた私は押し入れの中から1冊のアルバムを取り出してそれを見せてみることにした。
 ちなみに中身は私の小学生からの記念写真集、当然高校の軽音部時代の写真も一杯入ってる、これなら思い出してくれるはず!

梓「これ、確かに私ですね……それと一緒に写ってるこの人たちは誰なんですか?」

唯「えっとね……その人達は私達と同じ軽音部のみんなだよ。私の同級生の友達なのです!」

梓「軽音部?私、音楽やってたってことですか?」

唯「そだよー、私と一緒にギターやってたんだ。放課後ティータイムって名前のバンドでね」

唯「証拠ならあるよ。ほら、部屋の隅に2本のギターが飾ってあるよね?梓ちゃんのギターは赤い方のだから」


27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 20:59:50.21 ID:NzZfbvjxo


 私は部屋の隅の壁に立てかけてある2つのギターを指さす。
 1つはいつも私が使ってるギー太……といっても最近ワケあって触ってないんだけどね。
 もう1つの赤いギター、それはあずにゃんの形見のギターであるむったんだ。
 
梓「実感は正直あんまりありませんけど、こうして私が写真に写ってるってことは私がバンドやってたって話は本当みたいですね」

梓「それに一緒に写っている人達は唯さんの同級生ってことはですよ、それって私の先輩にあたる人達てことですよね」

唯「そだよー」

梓「あと話は変わりますが他の写真も見てみた感じ……私と唯さんがツーショットで写っている写真が多いですよね。私達、何か特別な関係か何かだったんですか?」


28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:00:45.03 ID:NzZfbvjxo


唯「うっ……そ、それは」

梓「どうしました?」

唯「……まあいっか、どうせ言わなきゃいけないんだし。えっとね、私とあずに……梓ちゃんはその――」

梓「その?」

唯「……恋人同士だったんだ」

梓「え!?恋人同士って、私達女性ですよ!?」

唯「うん、そうなんだけどさ……とにかく私達、恋人同士だったんだ。信じてもらえないかもしれないけどね」

梓「訳が分かりませんよ、もう……」

憂「あっ!そ、そうだ!それよりも梓ちゃん濡れたままだよ。風邪引くといけないから着替えないと」

唯「そ、そうだね!ここのクローゼットの中の服、梓ちゃんの物がそのまましまってあるからさ」

梓「そのまま?それに私の服がこの家に?」

憂「へ?そ、そう!ええと、と……とにかく早く着替えて、ね?それとお姉ちゃん、ちょっとこっちへ……」

唯「どったの憂?」

憂「いいから早く、ちょっと話があるんだ」

唯「う、うん……それじゃ梓ちゃん、ごゆっくりー」

梓「……??」


 ――――――

 ――――

 ――


29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:02:18.23 ID:NzZfbvjxo


 私は憂に促されて隣の部屋に連れてこられ憂の手によってドアがしっかりと閉められる。
 きっとあずにゃんに聞かれたくない話なんだろう、憂が何を言いたいのかは私にも大体わかる。
 
憂「お姉ちゃん、これからの事なんだけどね。梓ちゃんの事、他の人達にはどう報告するの?」

唯「いきなりこんな話してもみんな冗談だと思って信じてくれないよぉ」

憂「でも、梅雨が来たら梓ちゃんが戻ってくるって話みんな知ってるからそうとも言えないかもしれないよ?」

唯「そうだね、とにかく日を選んでみんなに話してみるね。みんなだってあずにゃんに会いたいかもだし」

憂「分かった。あとそれとね、今の梓ちゃん何も覚えてないみたいだよね。私の事もお姉ちゃんの事も、軽音部の皆さんの事も。そして自分が一度死んでしまったことも」

唯「どうしてなんだろう……憂は何か心当たりある?」

憂「私にだってそんなの分かんないよぅ!」

唯「……私との今までのこと、全部忘れちゃったんだよね」

憂「……多分、ね」

唯「ならさ、記憶がないならまた今日から好きになってもらえればいいんだよ!憂の事も私の事もね」

憂「うん、そうだよね!」

唯「あと考えたんだけど、あずにゃんには自分が死んじゃった事をさ、内緒にしておこう?」

憂「それがいいかもね、混乱させちゃいけないし」

唯「じゃ、戻ろっか」

憂「うん」


30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:04:10.99 ID:NzZfbvjxo


梓(壁にいっぱい写真が飾ってあるけど……どれも私が写ってる。やっぱり私はあの人達の知り合いなんだ)

梓「あ……鏡台の上に指輪……さっき唯さんが付けてたのと同じ物だ」

梓「ちょっと付けてみようかな」

梓「……ぴったりだ。どうして?これも私の物だったの?」

 がらがら

唯「あっ、梓ちゃん着替え終わったんだねー」

梓「ええ、なんか不思議ですね、どの服も私の体にピッタリのサイズなんですよ」

憂「そりゃあ全部梓ちゃんの服だからね、ピッタリ合ってて当然だよ」

唯「わーい!梓ちゃんやっぱりその服お似合いだよー!」ぎゅーっ

 私は昔を思い出したかのように条件反射的にあずにゃんに飛びついていた。
 いきなり抱きつかれたあずにゃんはすごく困惑した顔で私を見つめている。


31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:04:50.42 ID:NzZfbvjxo


梓「にゃあっ!い、いきなり何なんですかっ!」

唯「あっ、ごめんねーついつい可愛くって抱きついちゃったっ!」

憂「お姉ちゃん梓ちゃんとスキンシップするの好きだったからね」

憂(記憶がなくても反応は昔のまんまだ……本能だよねこれって……)

梓「は、はぁ……(何だろう……変わった人だなぁ……けどあんまり嫌な感じがしない、かも)」

梓「とりあえず離れてくれませんか?」

唯「うーん、やっぱり私にはあずにゃん分がないとつらいよぉー」

梓「……意味がわかりません、ああ、そうだ、話は変わるんですけど」

唯「何かな?」


32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:06:00.54 ID:NzZfbvjxo


梓「さっき、私何であんな森の中の神社なんかにいたんですか?傘も持たないで1人で」

梓「それにどうして記憶まで無くしてるんですか?」

唯憂(ギクッ!!)

唯「んー、それはね、あ、あれだよ!(どうしようどうしようどうしよう!!)」

憂「散歩してたんだよ、私達3人でね」

唯(憂ナイス!)

梓「……散歩、ですか?あんな雨の中でですか?」

憂「ほ、ほら、あそこ自然がいっぱいある場所だから雨になると雨の時しか顔を出さない動物や虫がいるんだよ!だからそれの観察にわざわざ来てたんだよ」

梓「……」

唯(うわっ、そうきたか……)

唯「うん!そうなんだよ!それでね、途中で梓ちゃんが具合悪くなってあそこでお昼寝してたんだよ。そんで起きた時には今迄の記憶が全部飛んじゃってたんだ」

梓「うーん、そうなんですか?」

唯「うん!そういうことですっ!」


33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:07:34.35 ID:NzZfbvjxo


梓「それじゃあ私、記憶がなくなる前はここに住んでたんですよね?」

唯「そだよー」

憂「うんうん、この家でお姉ちゃんと梓ちゃんは2人で住んでたんだよ?」

梓「私は……中野梓。あなたの後輩であり憂の友達……」

唯「うんうん!」

梓「1つ聞いていいですか?」

唯「何かな何かな?」

梓「この部屋、すっごい散らかってるんですけど……私ってこんなだらしない人間だったんですか?」

 そう言われて周りを見渡すとゴミやら服やら色んな小物やらが無造作に散乱していた。
 そういや前に憂が掃除してくれた時から結構日が経ってるもんね。
 あずにゃんがいなくなってからの私ってこんな自堕落な生活してたんだ……

憂「あ……こ、これはね!梓ちゃんはとても几帳面で綺麗好きな子だよ?ただ最近病気がちで寝込んでることが多かったからさ、あんまり掃除が行き届いてなかったんだよ」

梓「……そんなもんなんですか……それにしても酷いですよね、これは……」

 あずにゃんに色々と説明をしている内にあっという間に日が暮れてしまった。
 そしてその夜――

 あずにゃんは今日1日色々あって疲れたようで早々に床に就いて今はぐっすり熟睡中。
 そんな寝室の隣で私と憂は余っていた缶ビール一献傾けながら会話をしている最中だ。

憂「今日は色々ありすぎた1日だったよね」

唯「そうだよねぇ。それにしてもホントにあずにゃんが戻ってきてくれるなんてね」

憂「実際に起きてみると本当に信じられないよ、これ夢なんじゃないかなって思っちゃったりするんだ」

唯「だよねー、まさか幽霊……な訳ないよね?」

憂「まさか……ちゃんと足付いてたし生きてる人間の感触がしたよ」

憂「梓ちゃんは今どこに?」

唯「私のベッドに寝かせてあげてるよ。元々あずにゃんと2人で寝るために用意したダブルベッドだし丁度いいからねぇ」

憂「そうなんだ、それじゃあ私もそろそろ寝るね、なんか眠くなってきちゃった」

唯「それじゃそろそろ寝よっか」

憂「おやすみお姉ちゃん」


34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:09:23.89 ID:NzZfbvjxo


唯「おやすみ憂」

――

 寝室のベッドの上ではあずにゃんが気持ちよさそうな寝息を立てて熟睡している。
 あずにゃんが亡くなってからはその広さを持て余していたダブルサイズのベッドだったけど、今はその広さを持て余す事無く機能していた。
 
唯「……あずにゃん、ぐっすり寝てるね」

梓「Zzz……」

唯「可愛い寝顔だなぁ……またこうやってあずにゃんの顔が見れるなんて私何て言ったらいいか……」

 私は起こさないようにそっとあずにゃんの頬を触ってみた。
 柔らかい肌の感触がして、手に体温の温かみが伝わってくる。

唯「間違いない、ちゃんと生きてる。あずにゃんは幽霊なんかじゃない、ちゃんと今生きている人間だよ」

唯「そっくりさんでもないし、この私が間違える訳ないもん」

 ――出来るなら……もう1度、あの子に会いたい。
 1度でいいから会って、話がしたい――

 私はあの時確かにこう願った。
 まさか本当に願いが叶うなんてね、正直びっくりかも。
 ただし今迄過ごしてきた記憶は全部無くなっちゃってたけど……
 でもそんな事はもうどうでもいい、今はただ帰ってきてくれた事を神様に感謝しないとね。


35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:11:10.88 ID:NzZfbvjxo


 翌日

憂「お姉ちゃん、朝ごはんできたよ」

唯「うーん、おはよーういー……って、何か背中がヒンヤリするよぉ」

憂「お姉ちゃん何で床で寝てたの?」

唯「そっか……昨日あのまま床で横になってそのまま寝ちゃってたんだ」

 居間

憂「梓ちゃん、お姉ちゃん起こしてきたよ」

梓「ありがとう憂」

唯(あ、あれ??)

唯(昨日あれだけ散らかってた部屋が綺麗になってるし、あずにゃんがキッチンでお料理してる……)

梓「おはようございます唯先輩」

唯「あっ……お、おはよう、梓ちゃん」

唯「今さ、唯先輩って呼んでくれたよね……?」

梓「ええ、私達高校の先輩後輩の関係だったんですよね。ならこう呼ぶのが一番いいかなって。それに「さん」付けだとすごく違和感感じるんですよ、不思議な位に」

唯(ああ、記憶が戻ったわけじゃなかったんだ)

唯(でもなんか昔を思い出すなぁー)

梓「どうしました?」

唯「あっ!ううん、なんでもないよー」

梓「そうですか。それと唯先輩、部屋綺麗に掃除しておきましたから、もう散らかしちゃダメですよ」

唯「う、うん」

唯(この感じ、記憶がなくてもやっぱりあずにゃんはあずにゃんだなぁ)

梓「さ、朝ごはんの用意もできましたし、食べましょうか」

唯憂「うん!」


36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:12:25.28 ID:NzZfbvjxo


唯「梓ちゃんの手料理久しぶりだねぇー」

憂「そうだよねー」

梓「久しぶり……?」

唯憂「あ……」

梓「なんか変な感じ……」

唯「あっ!ああ、この服?そうだよね、私がスーツ着てるって合わないもんね!」

梓「いえ、そうじゃなくて……あなた達姉妹が」

憂「え?」

梓「なにか隠してませんか?私に内緒で」

唯憂「そんなことないよ!」

 やばい、どう見てもあずにゃんは私達を疑ってるよ!
 とにかくなんとかしてこの場を乗り切らないと!って思ってたその時、玄関のチャイムが鳴った。
 助かったぁー、誰か知らないけどありがとうお客さん。

梓「こんな朝早くにお客さんかな?私ちょっといってきますね」

唯「あっ!待って!」


37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:13:35.21 ID:NzZfbvjxo


 本当は既に死んじゃってる筈のあずにゃんを他の誰かに会わせるのは非常にまずいと思い、咄嗟に呼び止める。
 しかし僅かに間に合わなくて私が呼び止める声とドアを開ける音が見事にハモって聞こえてきてしまった。

梓「はーい、どちら様ですか?」

純「おはよーございまーす唯先輩!憂こっちに来てますかー?って何だ梓か」

純「……あれ」

純「って、えええええええ!!?」

梓「??」

純(何これ……寝不足のせいで私まだ寝ぼけてるのかな……梓の幻覚が見えるよ、しかも声付きで)

憂「あっ!純ちゃんおはよう」

純「う……憂!!ちょっとこれ、どういうこと!?なんで梓が」

憂「ごめんね純ちゃん、ちょっと話せば長くなるから後でいいかな?」

純「う……うん」

梓「あの、あなた私の事知ってるんですか?」

純「え?どうしちゃったの梓、その言葉遣いなんか変だよ?」

唯「あのね梓ちゃん、その子は梓ちゃんと憂の同級生で友達の純ちゃんだよ」

梓「私の同級生?友達?」

純「な……何なのこれ、さっぱり状況が理解できないんですけど」

憂「それは後でゆっくり説明するからとりあえず行こ?」

純「う、うん」


38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:14:10.00 ID:NzZfbvjxo


憂「それじゃお姉ちゃん、梓ちゃん、いってきまーす」

唯梓「いってらっしゃーい」

唯「さて、憂も行っちゃったし私もそろそろ行くね」

梓「はい」

唯「そうだ、梓ちゃんはまだ外に出ない方がいいんじゃないかな。ほら、また具合悪くなったりすると困るし」

梓「そうですね。それなら今日は外出はしないでおきますね」

唯「うん、お留守番お願いね!それじゃ行ってきます!」

梓「いってらっしゃい唯先輩」

 梅雨時にしては珍しく晴れ間がのぞいていて強めの日差しが照りつける中、私はあずにゃんに見送られ自転車にまたがって会社へと向かった。

 自転車のペダルを漕ぐ速さが今日はいつもより速い。
 あずにゃんに「いってらっしゃい」と見送られて出発する、これは1年前迄なら何でもなかった普通の日常。
 一度は壊れたそんな日常がまたこうやって戻ってきた喜びで、この時の私の心は躍っていた。



39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:15:56.83 ID:NzZfbvjxo


――通勤中

憂「という訳でかくかくしかじか云々ってことなんだ」

純「なるほどねぇ、約束通りホントに雨の季節に帰ってきたんだね」

純「それにしてもいきなり梓が出てくるんだもん、最初幽霊だと思ってびっくりしちゃった」

憂「あはは!ごめんね。純ちゃんにはなるべく早く言うつもりだったけど驚かせちゃったよね」

純「もうっ!」

純「でも梓がまた帰ってきてくれてよかったよ。もう2度と会えないかと思ってたからさ……」

憂「そうだよね、私もすっごく嬉しいんだ。お姉ちゃんも今朝は久々に心の底から笑ってたみたいだったし」

純「それは憂だって同じじゃない。まあ私も人のこと言えないけどっ!」

憂「えへへっ♪ねぇ純ちゃん、今度また梓ちゃん入れてみんなで遊びに行こうよ。また昔みたいにね」

純「おっ!それいい考えじゃん!」


40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:17:50.53 ID:NzZfbvjxo


――竹達司法書士事務所

唯「おはよーございまーーっす!!」

澪「おはよう唯、なんだ、今日はえらくご機嫌だな。何かいいことあったのか?」

唯「えっへへー、そうなのです澪ちゃん!」

澪「へぇ、どんなことがあったんだ?私もちょっと聞きたいな」

唯「えーっとねー(はっ!?)」

唯(そうだ、どうせなら他のみんながいるとこで発表して驚かせよっかな)

唯「そう、まだ内緒なのですっ!」

澪「おいおい……ま、いいか、今の唯本当に楽しそうだもんな。なんか久しぶりに見たよ、こんな明るくしてる唯をさ」

唯「ねえねえ、今度みんなで家に集まってパーっとやろうよ!」

澪「いいなそれ。わかった、律には私から伝えとくよ。唯はムギに連絡しておいてくれ」

唯「了解であります!」

澪(まるで高校生の頃に戻ったみたいだな今の唯は。何があったか分からないけど、また笑ってくれた唯を見れて私も嬉しいな……)


41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:19:49.11 ID:NzZfbvjxo


――夕方

唯「ただいまー」

梓「おかえりなさい唯先輩」

唯「えへへ、それではおかえりのぎゅーを……」

梓「ふにゃああっ!もうっ、いきなり何なんですかっ!やめてくださいっ!」

憂「お姉ちゃんおかえりー」

唯「おおっ、憂も来てたんだね」

純「お邪魔してます唯先輩」

唯「おっ、純ちゃんもいらっしゃーい。今日は2人共もうお仕事上がりかな?」

純「はい、なので梓に会いにここに寄ってみたんです」

唯「そうなんだー。ま、ゆっくりしていくといいよー」

憂「あっ、そうだ!私と梓ちゃん、夕食の仕込み中だったんだっけ」

梓「そうだったね、それじゃあ私と憂は夕食の支度してますので」

唯「うん」


42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:20:41.93 ID:NzZfbvjxo


 部屋に荷物を置いて部屋着に着替えを済ませた私は居間で純ちゃんとぼーっと会話をしている。
 しばらくするとキッチンの方からいい匂いがしてきて私達2人の視線は自然とそっちの方に向く。
 ああ……これはカレーだなぁ……

純「……唯先輩」

唯「ふぇ?どったの純ちゃん」

純「今でもたまに思うんです。こうやって私の目の前に梓がいて普通に私達と会話したり食事したりしてるこの光景が実は夢か幻覚じゃないのかなって」

唯「夢じゃないよ。あずにゃんはちゃんと今こうやって私達の元にいてくれてるよ?ちゃんと足も付いてるし触ることもできるし幽霊なんかじゃない本物のあずにゃんなんだよ?」

純「別に幽霊でも構いませんよ、梓にまた会えるんなら。でも幽霊でもなくちゃんと生きてる人間として戻ってきてるんですよね」

唯「うん」

純「またこういう毎日が続いてくれたらいいですよね……今度は誰も悲しい目に会うこともないように」

唯「そだねぇ」


43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:21:18.14 ID:NzZfbvjxo


梓「2人共ご飯できましたよー」

唯「おっけー、純ちゃんいこっ!」

純「そうですね!」

――――――

――――

――

唯「ホント2人のカレー美味しいよねぇ、いつ食べてもさー」

梓「喜んでもらえて何よりです」

憂「純ちゃん、味の方はどう?」

純「うん!いいんじゃないかな、とっても美味しいと思うよ!」

梓「良かった!純さんにそう言ってもらえて嬉しいです」

純「梓、「さん」付けはやめようよ、堅苦しくってしょうがないって」

梓「え?」

純「それに敬語も禁止!私と憂と梓の3人は同級生の友達同士なんだから」

梓「う、うん……じゅ、純?これでいいのかな」

純「おっ、そうそう、そんな感じだよ梓」

梓「えへへ、それじゃ純、何も覚えてない私だけどこれからもよろしくね」

純「うん、よろしくね梓」

 こうして私達4人の楽しい団欒の時間もあっという間に過ぎていき……


44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:21:46.66 ID:NzZfbvjxo


唯「2人共帰っちゃうの?今日もゆっくりしていけばいいのに」

憂「ごめんねお姉ちゃん、昨日家空けちゃったせいで家事が溜まっちゃってるんだ」

唯「そっかー、それじゃ仕方ないよね」

純「今日はありがとうございました、また来ますね唯先輩」

唯「うん、また来てねー、そしたらまたご馳走するからさ」

梓「ご馳走したのは私と憂ですよ!」

唯「あっ、そうでしたー、へへっ」

純「梓も今日はありがとっ!また来るからね」

梓「うん、純こそ今日はありがとね」

憂「それじゃおやすみお姉ちゃん、梓ちゃん」

純「お邪魔しましたー」

唯「おやすみういー」

梓「おやすみ憂、純、またねー」


46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:24:19.83 ID:NzZfbvjxo


 次の休日、私はあずにゃんと一緒にある場所へ出かけた。
 そこは私達の母校の桜ヶ丘高校だ。

梓「ここが私が通っていた学校なんですか?」

唯「そだよー。ささ、中に入ろ?」

梓「いいんですか?勝手に中に入って」

唯「平気平気!」

 とは言うものの、一応あずにゃんの事を知ってる人だけには鉢合わせしないように注意しなきゃね。
 今の時点で既に死んじゃってる筈のあずにゃんを見たら厄介な事になるのは明白だから。

 私が目指したのは当然軽音部の部室でもある音楽室。
 借りてきた鍵でドアの鍵を開けあずにゃんを中へ招き入れる。

梓「ここが軽音部の部室なんですか?」

唯「そそ、それにしても私達がいた頃と全く変わってないなぁ……」

梓「……何で音楽室にティーセットが置いてあるんですか?」

唯「それで部活の時間にティータイムをしてたからだよ!」

梓「……はぁ?部活の時間なのにお茶、ですか?」

唯「うん、そこにある机の一番奥の椅子にいつも梓ちゃんは座ってたんだよ。そして私の席はここ」

唯「毎日こうやって放課後集まってムギちゃんの用意してくれたお茶とお菓子を楽しむのが日課だったよ」

梓「軽音部なんだから演奏しましょうよ……」

唯「まあ、とにかく座りんさい」

梓「は、はぁ……」


47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:25:20.41 ID:NzZfbvjxo


 私はあずにゃんを席に座らせた、そう、お互いあの頃と同じ席へ……
 席に座ってからも辺りを不思議そうにキョロキョロ見ていたあずにゃんだけど、しばらくしたら私に向き直って話しかけてきた。

梓「ねえ唯先輩」

唯「どったの?」

梓「最初私と先輩が女性同士なのに恋人だって聞いて信じられませんでした」

唯「まー、そりゃそうだろうねぇ」

梓「でもこうして先輩と数日間過ごしてみて何となく、うまく説明はつかないんですけど冗談じゃなくて本当なのかなって思うようになってきたんです」

唯「思い出しかけてきてるの?」

梓「いえ……ごめんなさい。思い出せないんです、まだ何も」

唯「ゆっくりで……ゆっくりでいいよ。急ぐ必要なんてないからね。少しずつ思い出していけばいいよ」

梓「私達のこと教えてくれませんか?どうやって知り合ってどうやって好きになってどうやって結ばれたのか」

唯「そうだねぇ、私達が初めて出会ったのは私が高校2年の時の春、新学期が始まってすぐの頃だったかな」

唯「この時私達の軽音部は4人で活動しててさ、この年入学した新入生の子を新歓ライブで入部させようって目標を立ててたんだ」

梓「たった4人ですか?」

唯「そう、でも勧誘活動そのものが上手くいかなくってさ、ライブも成功したと思ったのに中々新入生の子が来てくれなかったんだ」

唯「でも4月もそろそろ終わりかなって頃に大きな出来事が起きたんだよ」


48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:27:18.02 ID:NzZfbvjxo


 ※注『』は回想用昔キャラの台詞


~~~~ 9年前の4月 桜ヶ丘高校

律『こうなったら憂ちゃん拉致ってくるかー』

澪『拉致るって何だよ……』

ドア『がちゃっ』

唯澪律紬『ん?』

梓『あのー、入部希望なんですけど……』

唯澪律紬『え……?』

梓『あ、あれ……?』

律『確保ーーーーーーッ!!』

~~~~

唯「これが私達の初対面だったんだよ」

梓「へぇー、それじゃ結局この年入部したのは私1人だったんですか」

唯「うん、でも私にとってはそれでも十分だったしとっても嬉しかったんだ」

梓「続き聞かせてくれませんか?」

唯「うん」

唯「好きになったのは私の方からだったんだ」

~~~~

律『てことは、ライブでの私等の演奏聴いて入部を決めてくれたんだ』

梓『はいっ!私、新歓ライブでのギターの先輩の演奏がすごく印象に残ってここに入部するって決めたんです!』

澪『だってさ、唯』

唯『ふぇー?』

梓『よろしくお願いします唯先輩!』

唯『先輩……唯先輩……』ほわーん

律『おーい、戻ってこーい』

~~~~

唯「初めて先輩って言われてとっても嬉しかったんだ。私中学まで部活とかやった事なくて梓ちゃんが初めて出来た後輩だったから」

梓「そうだったんですか」


49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:28:54.65 ID:NzZfbvjxo


唯「梓ちゃんはとっても真面目でいつもお茶飲んだりお菓子ばっかり食べてばかりで練習しない私やりっちゃんによく怒ってたんだよ」

唯「初めて怒った時なんかはいきなりキレてティーセットを撤去するべきです!とか言ってたっけな」

梓「私ってそんなに堅い人間だったんですか?」

唯「どうなんだろうねぇ。でもそんな真面目で可愛くて誰にでも優しい世話好きな梓ちゃんが私はとても大好きだったんだ」

梓「それで私は先輩のことが好きではなかったんですか?」

唯「多分、私の片思いだったんだよ」

梓「片想い?」

唯「うん、自分で言うのも何だけど私は変わり者だったから」

唯「いっつもぼーっとしてたりとか居眠りしてたり練習もしなかったり、梓ちゃんにもよく怒られてたんだよ。だから多分、私に憧れて入部してくれた反動からかあんまり良く思われてなかったかもしれないね」

~~~~

唯『あっずにゃーん!』ぎゅー

梓『もう!いきなり人前でやめてください!』

唯『よいではないかよいではないかー、すりすりー』

梓『ふにゃあぁ……もう、頬擦りまでしないでくださいよ……恥ずかしい……』

~~~~

唯「こんな感じでいっつも抱きついてたんだよね」

梓「そういえばさっきもしてましたよね……それにしても」


50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:29:33.66 ID:NzZfbvjxo


唯「なになにー?」

梓「その「あずにゃん」て何ですか?思い返すと裏山で最初出会った時もそう言ってましたよね」

唯「猫耳が似合っててとっても可愛いからあずにゃんなんだよ!」

梓「さっぱり理解できないです……」

梓「でも……さっき抱きつかれた時も、あずにゃんだなんて変なあだ名を聞いた時もあんまり嫌な感じがしなかったんです。本当はもっと嫌がるはずなんですけど変ですよね」

唯「頭の記憶がなくても身体が覚えてるのかもねぇ」

梓「そうかもしれませんね。それと、あの……お願いがあるんですけど」

唯「お願い?」

梓「その……これから私のこと、そのあだ名で呼んでくれませんか?あずにゃんって」

唯「え?」

梓「そうすれば……多分忘れてる記憶が少しずつ思い出せるんじゃないか……そんな気がするんです」

唯「うん、わかったよあずにゃん」

梓「ふふっ、早速ですか」

唯「当然ですっ!」

梓「それじゃあ、続き聞かせてください」

唯「うん」


51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:32:17.91 ID:NzZfbvjxo


唯「はじめてあずにゃんとの関係に大きな動きができたのはその年の夏休みの時だったかな」

唯「この日、私達軽音部は合宿にきてたんだ。その夜中、私がこっそり1人でスタジオで練習してたらあずにゃんが来たんだ」

~~~~

唯『ごめんねあずにゃん、こんな夜遅くに練習付きあわせちゃって』

梓『いいんです、気にしないでください。私も唯先輩と一緒にもっと練習したいと思ってましたから』

 私はあずにゃんにギターを教わってるのが楽しかったし、すごく幸せだった。
 あずにゃんの憧れの期待を裏切っちゃったかもしれない私に対して、嫌な顔1つしないで1つ1つ丁寧に教えてくれたんだ

 あずにゃんの教え方はとても上手でね、今まで1人じゃ上手くいかなかったとこがちゃんと出来るようになって私ホントに嬉しかったんだよ。

唯『私、あずにゃんに出会えて良かったよ!』

梓『えっ?うわわっ!』

 この時私、余りの嬉しさにあずにゃんを床に押し倒す勢いで抱きついちゃったんだ。
 もしかしたらあずにゃんはただ練習をやり足りなくて付き合ってくれただけなのかもしれないけど、私にとってはとても重大な出来事だったんだよ。
 
~~~~

梓「それで、その後どうなったんですか?さすがに同姓相手じゃ中々切り出せなかったんじゃないですか?」

唯「うん、私もこの頃はそう思ってたよ。だからとてもじゃないけど好きだなんて言えなかったんだ。もし告白したりとかして逆に嫌われたらどうしようって想像しちゃって怖かった、とても」

梓「じゃあ2人きりでお出かけとかしなかったんですか?」

唯「そうだねぇ、いつも遊びに行く時はさ、軽音部のみんなや憂が一緒にいたから2人だけでお出かけって高校2年間の間あんまりなかったんだ。もっとも、言い出す勇気がこの時の私にはなかったんだけどね」

梓「え?それじゃあこの後何も進展しなかったんですか?」

唯「一応だけど、この後一度告白しようって思ったことがあったんだっけ」

梓「そうなんですか。聞かせてくださいよ」


52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:33:11.49 ID:NzZfbvjxo


唯「あれは私が3年の時の夏休みだったかな。私達軽音部5人で、夏フェスに行く機会があったんだけどね。その夜だったかな、私が会場から少し離れたキャンプ場の丘で1人で音楽を聴いてたらあずにゃんがやってきてね……」

~~~~

梓『せーんぱい』

唯『あっ、あずにゃーん』

梓『こんなところで何してるんですか?』

唯『遠くから聞こえる曲、聞いてたの。本当に一晩中やってるんだねー』

唯『まー座りんさい』

梓『あ、はい』

梓『じっとしてたら蚊に刺されませんか?』

唯『大丈夫、虫除けバンド両手にしてるから』

梓『はぁ』

 もう半年もしたら私達は卒業して離れ離れになっちゃう、私に残された時間はもうあんまり残ってなくて正直焦ってたよ。
 だから2人きりでいられる今は絶好のチャンスだった。
 夜空の下で、遠くから聞こえる音楽を聴きながら告白なんて、場面的にも最高だし。

 たった一言「好きです」の4文字を言えば全てが解決するんだ!
 いつも抱きついたり頬擦りしてるんだからこれくらいやらなきゃ!
 覚悟を決めようよ私!
 こう自分に言い聞かせてね、ようやく出た言葉が――

唯『一個あげよう』

梓『どうも』

~~~~

梓「全然ダメダメじゃないですか!」

唯「だよね、この時はほんとに自分自身を嫌いになりそうだったよ。私ってこんなに度胸がなかったんだなーって改めて思い知らされたな」


53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:34:04.71 ID:NzZfbvjxo


梓「それで、もうチャンスは無かったんですか?この後も」

唯「うん、この後も色々あったけど、あくまで私達は仲のいい先輩と後輩って関係のまま。でもその間も私の横には付き添うようにずっとあずにゃんがいてくれたんだ」

唯「だけどそれ以上の大きな進展はなくって、結局卒業式を迎えちゃったんだ」

唯「それでね、卒業式の日に私達3年生であずにゃんにある企画をしようと話がでてね」

~~~~

唯『え?あずにゃんに寄せ書き?』

律『そっ!最後だから梓に何か記念になるモン残してあげようと思ってさ。ダメか?』

唯『駄目なんかな訳ないじゃん。私も賛成だよー』

澪『唯が書き終わったら完成だから放課後になったら私達の代表で渡してあげてくれないかな』

唯『うん!』

紬『じゃあ唯ちゃん、また放課後、部室でね』


54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:35:51.70 ID:NzZfbvjxo


 この時、正直何を書いたらいいのか全く考え付かなかったんだ。
 まさか、「好きです!」なんて書くわけにもいかないし……ね。

唯『むっむー……どうしよっかなぁ……』

唯『あっ!そうだ!』カキカキ

 色紙の真ん中が綺麗にくり貫かれたように空白だったんだ。
 まるでみんなが私に対して席を譲ってくれてるように……
 私はそこに大きな文字でこう書いたんだ。

 【ありがとう、あずにゃんの隣は居心地がよかったよ ゆい】 

 そして卒業式も終わって放課後、帰り際に私達5人は下駄箱で寄せ書きを渡したんだ。

唯『実は私達からあずにゃんへもう1つプレゼントがあるのです!』

梓『え?さっき歌ってくれたあの曲だけじゃなかったんですか?』

律『あれとは別にな。ま、所謂突発企画なんだけどさ』

澪『梓も私達に手紙を書いてきてくれたんだし、お返しになるかなって』

唯『はい、どうぞ!あずにゃん』

梓『え!?これ……寄せ書きの色紙……ですよね』

紬『ええ、私達も梓ちゃんに何か形に残る物を残したくてね』

梓『ありがとうございます!私、この色紙大事にしますから!』

澪『さて……そろそろ帰るか』

紬『この校舎ももう見納めねぇ……みんなとこうして顔合わせるのもしばらくお預けねぇ』

唯『そっかぁ、私達みんな違う大学でバラバラになっちゃうんだよね』


55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:37:06.92 ID:NzZfbvjxo


澪『今生の別れじゃないんだし、また会えるよきっと。私も大学出たらまたこの街に戻ってくるつもりだし』

律『梓、新学期からの軽音部任せたからな!しっかり頼むぜ新部長!』

梓『はいです!いっぱい新入部員いれて、今よりずーっとすごい軽音部にしてみせます!先輩方も大学生頑張ってくださいね』

 こうして私達の高校生活は終わってあずにゃんともしばらくの間お別れってなったんだよ。
 実はこの時、色紙に自分のサインペンを挟んだままあずにゃんに渡しちゃってて、それを後になってから気が付いたんだけどさ。
 だけど今更ペンなんてどうでもよかった、どうせ100均で買った安物だったし……

 結局ペンは返してもらわないまま、私は大学のある東京へ上京したんだ。
 
~~~~

梓「ちょっと待ってください!私達結局そこで終わっちゃったんですか?」

唯「まぁまぁ、ちょっと待ってね。まだ話には続きがあるんだよ」

梓「まだあったんですか」

唯「もうちょっとだけ我慢して聞いてくれるかな?」

梓「……はぁ」

唯「その年の夏かな、お休みに入ってすぐ、私は桜ヶ丘の実家へ帰省する予定を立てたんだ。それであずにゃんにも連絡したくて電話をかけようとしたんだけど……駄目だったんだ」

梓「どうして?」

唯「正直に言うと、緊張してビビってた……ていうのかな。ただペンを返してもらうだけの話をするだけなのに電話をかけることができなかったんだよね」

唯「今迄はさ……あずにゃんに対して時間なんかお構いなしに適当な話をメールや電話したりしてたんだけど、この時だけは違って何も出来なかった……人を好きになるってこういう事なのかもね」

唯「結局、電話してお話したのは秋の連休に入ってからなんだ」

梓「唯先輩って結構ヘタレだったんですね……」

唯「がーん!ショックだよあずにゃん!心外だよ!」

梓「ふふふっ……あははっ」

唯「もうっ!からかわないでよっあずにゃんっ!」

梓「ふふっ……すいません。それでその後どうなったんですか?」

唯「えっと……」


57:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:38:25.04 ID:NzZfbvjxo


~~~~

憂『お姉ちゃん、梓ちゃんに電話するだけなのに何でそんなに緊張してるの?』

唯『あ……いやー、別に何もないよー』

憂『梓ちゃんになんか用があるなら私が代わりに電話してあげよっか?』

唯『いいよいいよー、大して重要な話でもないから』

 prrr

唯『あっ、あずにゃん?お久しぶりぶりーっ!元気してた?』

梓『お久しぶりです唯先輩。なんか相変わらずみたいですね先輩は』

唯『えっへへー。今休みでこっちに帰ってきてるから電話してみたのですっ!』

梓『そうだったんですか』

 この時さ、緊張してるのを隠す為にやたらテンション高くして話してたんだ。
 だけどあずにゃんの声を久しぶりに聞いたからなのかな……話してる内にね、気分も大分解れてきたんだよ。

唯『それでね、お願いなんだけど今から会えないかな?』

梓『どうしたんですか急に』

唯『えっとね、卒業式の日に渡した寄せ書きの色紙覚えてる?』

梓『ええ』

唯『実はあの寄せ書きにペン挟んだまま渡しちゃってて……突然でなんだけど返して欲しいんだ』

梓『あのペン先輩のだったんですか。誰のか分からなかったし、もしも大事なペンだったとしたら大変だから一応とっといてありますけど……』

唯『よかったぁ……あれとても大切にしてたペンだったんだよ!取っておいてくれてありがとう!』

梓『全く……そんな大切な物を簡単に忘れたりしないでくださいよ』

 この電話の後にさ、すぐに会う約束をして私は待合場所へ行ったの。
 待ち合わせの場所に選んだのは桜高の校門前、私とあずにゃんにとって一番長い時間を一緒に過ごした場所。

 ちなみにね、あのサインペン、さっきも言った通り大事な物でも何でもない只の100均モノだよ?
 そう……口実だった。
 あずにゃんに会う為の……

 ――――
 ――

 校門前、遅れちゃいけないと思って15分前に行ったら、もうあずにゃんが来てたんだ。
 あずにゃんは最後に会った時と殆ど変わってなかった。
 なんか安心したのと同時に、もう何年も会ってなかったかのような懐かしい気分にもなったんだ。


58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:39:51.68 ID:NzZfbvjxo


唯『やっほーあずにゃーん!待った?』

梓『いえ、今来たとこですから……とにかくペン返しますね』

 いつもならここで抱きつくのがお約束……でもこの時不思議と身体が動かなかったんだ。
 ううん……抱きつくっていう選択肢そのものがなかったのかも。

梓『すいません、大事なペンを』

唯『ううん、いや……いいんだよ別にさ。それよりありがとね?』

梓『あっ……はい……』

唯『……本当に久しぶりだよね。元気だった?』

梓『はい……』

唯『そっかー』

唯梓『……』

 私達2人共会話が続かない位にぎごちなかった、今までで初めてだったんだよ?こんなのって。
 なにか言いたいのに言い出せない、すごく気まずい気分だったよ。


59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:40:55.65 ID:NzZfbvjxo


梓『それじゃあ……私行きますね』

唯『あっ!ちょっ……ちょっと待って!』

 咄嗟に声が出たんだ、本能的にね。
 ここで何もしなかったら後で絶対後悔する!そう思ったから。
 それで帰ろうとしてるあずにゃんを何とか呼び止めることができたんだ。

唯『あ、あのね!今度の日曜空いてないかな?』

梓『え?』

唯『その……遊びに行かない?今回は2人でさ』

 それを聞いたあずにゃんはその場でしばらく立ってたんだ。
 こっちに背中を向けたまま、ただ俯いてこっちに顔を見せたりしないで1言だけ、こう返事してくれたんだよ。

梓『……勿論いいですよ』

~~~~

唯「自分でもよくあそこで咄嗟にあんな台詞が出たなって思うよ。でもまあこうして、記念すべき第1回目のデートが出会ってから2年以上経ってようやく実現したんだ」

梓「なんか……今の唯先輩のキャラと違って随分奥手というか不器用っていうか、そんな感じがします」

唯「……面目ないです。だって人を好きになったのなんて初めてだし……それにこれってどう見てもデートだし……」

梓「それでその後どうなったんですか?」

唯「えっとね……日曜日、私達は色んな場所を2人きりでまわったの。服や楽器を見たりお菓子を物色したりとか」

唯「それで休憩しよっかって話になってね、すぐ近くにあった喫茶店に寄って、お茶しながらお喋りしてたんだ」

唯「そこで私は、なんだかダムが決壊したみたいに喋り続けたんだ。それもいつも以上にね。もう止まらないんだよ」

唯「止まっちゃうと、あずにゃんは「帰りますね」って言い出しそうでそれが怖くて。大学のこと、好きな音楽のこと、最近見つけたケーキの美味しいお店の話、この前見たTVの話題とかさ」

唯「――そしてあずにゃんの事がずっと好きだったことも」

梓「……」


60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:42:29.63 ID:NzZfbvjxo


唯「次に私達が行ったのは、裏通りにあった小さな雑貨屋さんなんだけどね。そこで私はある物を買ったんだ」

梓「ある物?」

唯「うん、目立つ物もなくて普通なら素通りするようなお店だったんだけど、何故かこの時惹かれる何かがあってここに寄り道してみたんだよね」

~~~~

唯『あずにゃん、どったの?何か気になる物でもあったの?』

梓『いえ、そんなに大した物ではないんですけど……』

唯『むぅ……何を見てたか気になるよ』

 そこにあったのは指輪だった。2つペアになった銀色に光る指輪だった。

唯『ペアの指輪だねぇ。いいなぁこれ……あずにゃんはこの指輪を私とおそろで付けたいのかな?』

梓『なっ!べ、別にそんなんじゃ……』

唯『うーん……よし!ちょっと待っててね!』

 私もあずにゃんも、その指輪に何か感じる物でもあったのかな、私は衝動的にその指輪を買いに走ったんだ。
 まあ、ちょっと高かったけど今月のお菓子を少し減らせば何とかやっていけそうだから、奮発しちゃったんだよ。

唯『あずにゃんや、指だして、薬指だよ薬指!』

梓『え?』

 恐る恐る指を出したあずにゃんの手を取って、私は買ったばかりの指輪をはめたんだよ。
 サイズはピッタリ合ってて綺麗にはまったんだ 


61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:44:13.83 ID:NzZfbvjxo


梓『ちょっ!唯先輩、これ高かったんじゃないんですか?』

唯『いーのいーの!たまには先輩を立てなさい!』

梓『は、はい……あ、あの、その……あ、ありがとうございます』

唯『私も付けてみたよ!これで2人お揃い、どこに行ってても、どんなに離れてても私達はこの指輪で一緒なんだよ』

梓『そうですね……』

唯『それにしても何か、結婚指輪みたいだねぇ』

梓『は、恥ずかしいこと言わないでください!なんで先輩はそんな事恥ずかしげもなく言えるんですか!』

唯『えへへ、もう私何だか嬉しくて嬉しくて』

~~~~

梓「なるほど、だから部屋にあった指輪、私の指にぴったり合ってたんですね」

唯「そだよー、あれはあずにゃんの物なんだもん」


62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:45:02.83 ID:NzZfbvjxo


唯「それからも私達は色んな場所に行って楽しんでたんだけど、時間が経つのは早いものでいつの間にか辺りは暗くなっててお別れの時間が来ちゃったんだ」

梓「それで?」

唯「あずにゃんと帰りの電車に乗る為に駅のホームで一緒に電車を待っている時かな――」

~~~~

 この日はとっても寒かったのを覚えてる。
 あずにゃんはコートを着込んでたけど、それでも寒さで体が震えてるのがよく分かったんだ。

梓『ねえ唯先輩』

唯『なあに?あずにゃん』

梓『……寒いですね』

唯『そだねぇ……あっ、そうだ!』

 私はそう言うとあずにゃんの手を取って自分のコートのポケットの中に引き入れて、ぎゅっと握ったんだ。
 最初は冷たかったあずにゃんの手もポケットの中で握り合ってたらすぐに温かくなったのを今でもよく覚えているよ。


64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:45:50.65 ID:NzZfbvjxo


梓『あっ、唯先輩……』

唯『私のポケットをお裾分けしますっ!ささ、どうぞどうぞご遠慮なさらずー』

梓『何なんですかそれ……ふふっ、それじゃ、ちょっとの間お邪魔しちゃいますね』

唯『えへへ、しばらくぶりのあったかあったかだねー』

梓『はい……』

梓『あの、また会えますか?』

唯『ごめんね、明日の朝イチの電車で東京に戻らなきゃいけないんだ』

梓『そうですか……なら、手紙を出します!メールより手紙の方が、より唯先輩が近くにいるように感じられそうなので』

唯『うん!それなら私も手紙出すよ!』

~~~~

唯「2年以上の私の片想いもようやく実を結んで、こうして私とあずにゃんはカップルとして正式にお付き合いするようになったんだよ」

梓「なるほど……色々あったんですね」


65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:46:53.96 ID:NzZfbvjxo


唯「今でもあずにゃんには感謝の気持ちで一杯なんだ。女の子同士なのに……どう見てもおかしい話なのに、普通なら断るような話なのに、それでもあずにゃんが私の気持ちを受け入れてくれたことが、ただただ嬉しかった」

梓「そうなんですか……でも、すいません。まだ何も思い出せないんです」

唯「そっかぁ……まあ、しょうがないよね」

梓「だけど今もこうやって先輩とお話してると、それだけで楽しくなってくるんです。ずっと隣にいて欲しいって思えてくるんです。当時の私がどうして唯先輩に惹かれていったのか分かる気がしてきました」

 そう言った直後、あずにゃんは私の隣にやってきて服のポケットに手を入れてきた。
 正直、ドキッとしたけど目の前で笑顔で向き合ってこの体勢でいる内に、駅のホームでの出来事を思い出して懐かしい気分になって顔が綻ぶ。

梓「もしこのまま記憶が戻らなかったのなら、その時みたいに少しづつあなたに慣れていきたいです……もう1度唯先輩のことを好きになっていきたいんです――」

唯「――ありがとう、あずにゃん」


66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:48:27.17 ID:NzZfbvjxo


 翌日、私は近くの喫茶店で軽音部のみんなとお話していた。
 今日こそあずにゃんが帰ってきた事を報告するために。

澪律紬「え?」

唯「信じられる?信じられないよねぇやっぱりさ」

律「いやぁ……その、さ、何ていったらいいか」

紬「唯ちゃんも憂ちゃんも嘘をつくような人じゃないのはわかってるけど、ねぇ」

澪「そうだよな……それにここにいる私達全員、梓の葬式に参列してたんだし」

唯「信じてくれなくていいんだよ。ただみんなに知らせておきたかったから」

紬「困ったわねぇ」

唯「憂と純ちゃんにも聞いてみるといいよ。2人とも私の家であずにゃんと会ってるし」

澪「前にさ、会社で唯が笑顔で出勤してきて何か秘密にしてたの、あれ梓が帰ってきたからなんだよな?」

唯「そだよー」

律「でもさ……もし唯の言っている事が本当だとして」

唯「うん」

律「雨の季節に戻ってきた梓は雨の季節が終わるとまたいなくなるってことじゃないのか?」

澪「じゃあまた悲しい思いをしなきゃいけないじゃないか……憂ちゃんと」

澪「……それに、唯も」

唯「……あっ」

 そうだった、雨の季節に戻ってきたあずにゃんはもしかしたら――

 ――雨の季節が終わったらいなくなってしまうかもしれないんだ


67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:49:11.39 ID:NzZfbvjxo


 それからの毎日、あずにゃんは記憶を取り戻すことはなかったものの、今の生活には大分慣れてきたようだった。
 私達に、またいつもの日常が戻ってきたんだ、笑顔の絶えない日々が。
 でも雨の季節が終わったらあずにゃんはいなくなってしまうかもしれない。その懸念だけがずっと頭の中にこびりついていた。
 でもあずにゃんは今こうして私の傍にいる、もしいなくなった時後悔しないように今やれるだけの事をしてあげようと思っている。
 そんなある日……


68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:51:06.30 ID:NzZfbvjxo


梓「え?明日軽音部の先輩方に?」

唯「うん、もしかしたらみんなに会えばあずにゃんの記憶に何か変化があるのかなーって」

梓「そうですね、私も会ってみたいです。それに少しでも私の記憶を取り戻せる可能性があるかもしれませんし」

 翌日、近所のスタジオを借りてそこでみんなで待ち合わせすることにした。
 ちなみにあずにゃんの記憶が全部無くなっちゃってることはあらかじめみんなに説明はしておいた。
 どういう形であれ、折角5人揃うんだからやっぱり音を合わせてみたいもん。
 
 待ち合わせ場所に着くと、既に他のみんなは到着していた。
 遠くから私の姿を見たみんなが手を振ってくれて、私も手を振り返す。

唯「おまたせーみんなー!ほら、いくよあずにゃん」

梓「はいっ」

 私はそう言うとあずにゃんの手をとってみんなの下へ走り出した。


69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:52:06.31 ID:NzZfbvjxo


律「おいおい……マジかよ……ホントに梓じゃん」

紬「どういう事……?まさか幽霊、じゃないわよねぇ」

澪「ひいぃぃっ!梓のお化け梓のお化け梓のお化け梓のお化け……!」

律「おーい澪、よく見てみろって、ありゃどうみても生きてる人間だって」

紬「そうねぇ、それにもしも梓ちゃんの幽霊だったとしても何にも怖くないじゃない」

澪「あ……ああ……」

唯「どったの?みんな」

紬「うふふ、なんでもないわー。それよりお久しぶり、梓ちゃん」

唯「あずにゃん、この人達が高校生の時からずっと一緒に音楽やってきた軽音部のみんなだよ」

梓「あっ、はい!えっと……こ、こんにちは……みなさんの事は何も覚えてませんけど……」

律「よっ、久しぶり梓っ!なんだよ、ホントに何にも変わってねーし」

澪「梓……本当に梓なんだよな……会いたかったんだぞ!もう!」

紬「ねえ梓ちゃん、本当に私達のこと、何も覚えてないの?」

梓「はい、すいません……みなさんとてもいい人なのはよく分かるんですけど、それ以上は」

澪(本当に記憶が無いのか……わざとからかってるようにも見えないし……生き返ってきた件といいどういう事なんだ?)


70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:52:53.90 ID:NzZfbvjxo


律「じゃあみんな改めて自己紹介しようぜ。唯はもうしてるから私達3人な」

 みんな順番に自己紹介をしていった、まるで初対面の人間に対するかのように細かく。
 そうすることであずにゃんの軽音部での思い出が少しでも戻ってくるかもしれなかったから。

唯「自己紹介も終わったことだし、久しぶりに演奏しようよ!」

律「そうだな!でも唯、お前はちゃんと弾けるのか?ブランクあるだろ結構さ」

唯「大丈夫だよ。最近になってまた家でギー太触るようになってきたからね」

澪(唯、大学中退して音楽やめちゃったのかと思ったけど、梓が帰ってきてからまたギター弾くようになったのか)

唯「あずにゃん、ちゃんとむったん持ってきたよね?」

梓「はい、でもちゃんと弾けるのかなぁ……」

唯「あずにゃんは私よりギターうまいんだから出来るって!」

――――――

――――

――

澪「よし、と。みんな用意はいいか?」

唯「おっけーだよ!」

紬「いつでもいいわよ」

梓「や……やってみます!」

律「よーっし!じゃ行くぞー!1、2!」


71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:53:44.10 ID:NzZfbvjxo


 聴きなれたふわふわのイントロが流れ始める。
 あずにゃんは当然として、私にとっても久しぶりの音だった。
 大学を辞めてからの私は音楽を完全に封印していたから。

 そんな封印もあずにゃんが帰ってきてから解くようになった理由はただ1つ。
 またあの頃みたいにあずにゃんと演奏したい、少しずつ元の日常に戻していきたいから。


72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:54:33.83 ID:NzZfbvjxo


梓「うーん、なんかまだうまく弾けませんね……すいません、折角誘ってくれたのに」

 記憶のないあずにゃんは当然ながらギターの弾き方も忘れてしまっていた。
 昨日私と少し音合わせしたけど、それでもまだ万全じゃなかったようで。

澪「しょうがないさ、これからまた少しずつ練習していけばいいんだよ」

律「そうだな、これからはまた時間見つけてさ、こうやってみんなで集まって演奏しようぜ」

唯「それいいね!賛成!」

紬「やっぱりこの5人でバンド組むのが一番楽しいものね」

律「梓もそれでいいよな?」

梓「はい、まだ上手く弾けませんけど皆さんと一緒に練習していたらいつかまたちゃんと出来るんじゃないか、そう思えてくるんです」

梓「だからこれからもまたよろしくお願いします!」

律「いいっていいってそんな畏まらなくても。それにギターの弾き方忘れてても1年生の頃の唯よりちゃんと出来てたぞ」

唯「ぶーっ!ひどいよりっちゃーん!」

澪「そうだよな、何だかんだで要所はきっちり押さえてたし流石だよ梓は」

紬「じゃあ外に出てお茶しましょ?こんなこともあると思って紅茶とケーキ用意してきたの」

唯「やっぱムギちゃんのお茶がないと始まらないよねー」

 私達はスタジオの外でムギちゃんの用意してくれた紅茶とケーキでティータイムを始めて他愛のないお喋りで時間を忘れて盛り上がった。
 高校時代毎日やってたあの放課後の時間が、また戻ってきたような気分かも。


74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:55:40.72 ID:NzZfbvjxo


 あの日以来、私達HTTのメンバーは時間を見つけては集まって演奏やティータイムをするようになっていた。
 みんなの事を完全に忘れてしまっていたあずにゃんだったけど、こうしている内に少しずつまた元のように打ち解けるようになっていってた。
 ただ1つ重要な事、あずにゃんに1年前に自分が既に死んじゃってる件は言わない約束は事前に教えておいて、みんなもそれを理解して気を遣ってくれている。
 なんとなくだけど、自分が死んじゃってることをあずにゃんが知っちゃったら、私達の前からいなくなるような気がして……だから言えなかった。


75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:56:57.11 ID:NzZfbvjxo


 そんなある日、私達は部屋でビデオを見ていた。

梓「それにしても、今までの出来事をこうやって全部記録しておいたんですか?」

唯「そだよ。澪ちゃんやムギちゃんがカメラ大好きだからね、こうやっていろんなのを撮ってもらってたんだよ」

梓「何か新鮮ですね、これは」

唯「おっ、次は私達が初めて2人組でユニット組んだ場面だよ!」

唯『どうもどうもー!桜ヶ丘高校3年、平沢唯でーっす!』

梓『同じく2年、中野梓』

唯梓『2人あわせて!』

唯『ゆい!』

梓『あず!』

唯梓『でーす!』

梓「……私、唯先輩と漫才コンビもやってたんですか?」

唯「一応、ギター弾き語りするために参加してたんだけどなぁ」

梓「なんていうか、私自身に対するイメージが訳わからなくなりそうです。でも――」

唯「でも?」

梓「……すごく幸せそう、私」

唯「そうだよ。私達とっても幸せだったんだ」

唯(そう……この頃までは、ね)


76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:58:06.31 ID:NzZfbvjxo


 その更に数日後、平沢家

純「なんか大分元の生活に戻ってきたよね、あんた達姉妹も、私達もさ」

憂「そうだよね。梓ちゃんがいなくなって狂っちゃった歯車を、また梓ちゃんが1つ1つ治してくれてるような、そんな感じがするな」

純「いいことなんじゃないかな、それってさ」

憂「そうなんだけど……私最近になって思ったんだ」

純「なにを?」

憂「梓ちゃんがここにいられるのは雨の季節の間だけかもしれないって。ずっと私達と一緒にいてくれるんじゃないか……そんな錯覚に陥ってるんじゃないのかなって」

純「……」

憂「もしも……そうなったらお姉ちゃんはどうなっちゃうんだろう。気が付いてるのかな、お姉ちゃんもこの事に」

純「多分……ね。唯先輩も薄々勘付いてると思うよ。でもさ……」

憂「でも?」

純「もしもそうなっちゃうならね、今の内に、今度は何も思い残すことはないようにしておいた方がいいと思うな。限られた時間は大事にしなきゃね」

憂「そうだよね」

 ピンポーン

純「おっ、そろそろきたのかな?」

憂「ちょっと行ってくるね!」

ドア「がちゃっ」


77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 21:59:52.76 ID:NzZfbvjxo


梓「こんにちは、憂」

憂「いらっしゃい梓ちゃん。さ、あがってあがって」

梓「お邪魔しまーす」

 ――――――

 ――――

 ――
純「おーっす!あーずさっ」

梓「純も来てたんだ。こんにちはっ」

憂「すぐにお茶用意するから適当に座っててー」

梓「うん、そうさせてもらうね」

純「さ、私の隣が空いてるからここに座りんさい」

 純は自分の隣の座布団を手で叩きながら私を招き寄せようとしていた。
 それはまるで、この前の部室での唯先輩のように。
 
梓「何よもう。それって唯先輩のマネしてるつもり?」

純「あんた記憶がなくても言う事はあんま変わらないね……」

 この2人とは時間があればよく会ってこうやってお喋りをしたりしている。
 純っていつも私をからかったり茶化したり笑わせようと色々なことをしてくるけど、それがとても面白かった。
 記憶がなくなる前の私って、こんな面白い子と友達だったんだなぁ……

 しばらく会話を弾ませている途中、私の視界にベランダにかけられた大量のてるてる坊主がはいる。
 ただそのてるてる坊主、1つ残らず全て逆さまで頭が下を向いている状態、雨乞いの儀式でもするつもりなのかな。
 どうみても憂はワザとやっている……不思議に思った私は憂に聞いてみた。

梓「ねえ憂」

憂「どうしたの?」

梓「この家のてるてる坊主、なんでみんな逆さまなの?」

憂「……」


78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:00:47.95 ID:NzZfbvjxo


 憂は少し俯いて黙ってしまった。
 私の場所からだとよく分からないけど、何か寂しそうな……そんな風にも見えた。
 さっきまで率先して喋ってた純も表情を曇らせて無言で私と憂を見つめている。
 ……何か私、聞いちゃいけないことを聞いちゃったのかなぁ。

憂「……ねえ梓ちゃん」

 無言で俯いてた憂が時間を置いて小さい声で話しかけてきた。

梓「なに?どうしたのよ憂。そんなしんみりした顔しちゃってさ」

憂「梓ちゃんは……どこにも行かないよね?もう勝手にどっか行っちゃったりしないよね!?」

 憂は半分涙目のようになっていた。
 何がなんだかよくわからないけど、私は憂の手を握って微笑んだ。

梓「……どこにもいかないよ。約束する」

 なんだかいたたまれない空気が充満している。
 その空気を入れ替えようとしたのか純がでかい声できりだしてきた。

純「ったく!やめやめ!そんなん今の時点で考えてもしょうがないんだからさ、だから……」

梓「……だから?」

純「ゲームしよっ!ゲーム!」

梓「そうだね!遊ぼっか、3人でさ!」

憂「うんっ!」


80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:01:38.26 ID:NzZfbvjxo


 同時刻 近所のファミレス

唯「私ね、あずにゃんってすごいと思ったんだ」

律「どうしてそう思うんだ?」

唯「だってさ!だってだよ?昔と今で記憶が繋がってないだけでも辛いはずなのに、前に進んで記憶のない自分を乗り越えようとしてるんだよ?」

紬「そういう子だったよね、梓ちゃんは」

澪「ああ、梓はひたむきで、ホント真面目な奴だったからな。よく分かるよ」

唯「ねぇねぇみんな!私ね、あずにゃんに何かしてあげたいんだけど何かないかな?」

律「うーん……そう言われるとなぁ……」

紬「……そうだ!それならね、くっつけてあげればいいんじゃないかしら、唯ちゃんがね」

唯「ふぇ?」

紬「梓ちゃんの、過去と今よ」

唯「出来るのかなぁー、私に」

澪「大丈夫、応援してるその気持ちさえ伝わればいいんだからさ、唯になら出来るよ」

唯「うん、分かった!私やってみるね!」

律「それならさ、今度みんなで旅行行くってどうだ?」

澪「旅行?」

律「前にさ、唯言ってただろ?梓が帰ってきたら旅行とか連れて行ってあげて少しでも恋人らしいことしてあげたいって。だから行こうぜー」

紬「いいわねぇそれ」

澪「でも急にそんなの決めてどこに行くか考えてあるのか?」

律「ないッ!」

澪「おい」

律「でー、唯はどうなんだ?肝心の唯はさ」

唯「私はおっけーだよ。だって私も行きたいもん!あずにゃんと少しでもいっぱい色んなことしたいもん」

律「よーっし、決まりだな。それじゃ唯は梓に聞いてみてくれ。行き先は私等でどっかいいトコ決めとくから」

唯「了解であります!」


81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:02:57.53 ID:NzZfbvjxo


 こうして私達5人は旅行へ行くことがきまった。
 学生の頃と違ってまとまった休みが無いので週末に1泊2日で出かける程度の旅行だけど。
 ちなみに今はもう軽音部じゃないから「合宿」じゃなくて「ただの旅行」です。

澪「で……結局ムギの別荘にまた来たわけだけど」

律「ここが1番いいんじゃねーかなーと思ったわけでここにしたんだけどなぁ」

紬「やっぱり梓ちゃんの記憶のこと考えたらここが一番いいんじゃないかしら」

梓「……おっきな別荘ですね。ここってムギ先輩の別荘なんですか?」

紬「そうよ。前にも1度合宿でみんなで来てるんだけどね」

唯「確かここ、あずにゃんが入部した年に来た別荘だったよね」

律「そいじゃ、とりあえず……」

澪「海か?」

律「て言いたいトコだけどさすがにまだ早いよなぁ」

唯「でもとりあえず海行ってみない?折角ここに来たんだもん」

律「そうすっかー」

 海!

 海まで出てきた私達だけど、正直今日は天気も曇っててちょっと肌寒いから海にどっぷり入るのはやめていた。
 なのでみんなそれぞれ波打ち際で遊んでたり貝を拾ってたり砂浜に寝転んだりしてゆったりしている。


82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:03:57.61 ID:NzZfbvjxo


律「おーい、梓、ちょっとこっちこっち」

梓「どうかしました?」

律「そこにいる澪にな、ちょっとこの伝言を伝えてきてくれ」

梓「え?」

律「耳貸してみ?ほらほらー」

梓「は、はぁ……」

――

梓「澪せんぱーい」

澪「ん?どうした?梓」

梓「律先輩から伝言があるんですけど……」

澪「律から?」

梓「はい、えっと……フジツボの話をきry」

澪「ひいぃぃぃぃぃぃっ!!」

梓「ええっ!?」

梓(一体何が起きたんだろう……)

――

澪「りいいぃぃつううぅぅぅっ!!」

律「え!?い、いや……その……こ、これは若気の至りっつー奴でー……」

澪「問答無用!」ズガーン

律「すいませんでした……ってか梓!律先輩からってのが余計だー!」

梓「ぷっ!ぷははっ」

律「なあかぁのおぉぉぉっ!」グリグリ

梓「あはははっ、もう、やめてくださいよっ、ぷぷっ」

 私はこの時、りっちゃんとあずにゃんがじゃれ合ってるのを、少し離れた場所でムギちゃんと一緒に砂浜でくつろぎながら見ていた。
 あんまり激しめな運動はできないから今はこうしているしかないけど、ただこうやって見ているだけでも何か楽しい。


83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:04:32.58 ID:NzZfbvjxo


紬「楽しそうよねぇ、りっちゃんも梓ちゃんも……それに何だかんだで澪ちゃんもかなり楽しそうだし」

唯「そうだね、やっぱりみんな嬉しいんだよ。あずにゃんと喋ったり遊んだり出来ることがね」

紬「それは唯ちゃんもでしょ?」

唯「えへへっ、まあねー」

紬「私ね、知ってたんだ、高校生の頃から唯ちゃんはずっと梓ちゃんの事見てたの」

唯「え?」

紬「人は、1人の人をこんなに真っ直ぐに好きになれるんだって、唯ちゃんを見てて感動したの。そして梓ちゃんが一度いなくなった後でも唯ちゃんはその気持ちを変えようとはしなかった」

唯「……うん」

紬「だからわざわざ言う必要も今更ないとは思うけど……これからも梓ちゃんを大切にしてあげてね?梓ちゃんを幸せにしてあげられるのは唯ちゃんだけなんだから」

唯「私は元々そのつもりだったよ。今までしてあげられなかった分、もし本当に雨の季節が終わってあずにゃんがいなくなっちゃう日が来ても、私はその時までずっとあずにゃんの傍にい続けるよ」

紬「ふふっ……もう完全に元通りの唯ちゃんね」


84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:05:03.95 ID:NzZfbvjxo


 私とムギちゃんが2人で話していると、空からぽつぽつと雨粒が降ってきた。
 天気があんまりよくないと思ってたから降ってきそうな予感はしてたけど、傘も合羽も持ってきてないのですぐに別荘に戻ることにした。
 そういえば海に来て雨に降られるの、今年が初めてだな……梅雨時に来たっていうのもあるけど。

律「だーっ!こんな日にいきなり降ってくるなんて空気読め雨ーっ!」

紬「まあ今日は元々降りそうな空だったからしょうがないわよねぇ」

梓「そうですね、それよりこれからどうします?」

澪「うーん、流石に夕食にはまだ早いしなぁ……」

唯「それならいい考えがあります!」

梓「なんですか?」

唯「練習しようよ練習!せっかくスタジオあるんだし!」

梓「それいいですね!賛成です!」

澪「合宿に来たわけじゃないのに練習、か……だからみんなわざわざ楽器持ってきてたんだな」

律「そういう澪だってちゃっかり自分のベース持ってきてるじゃんか」

澪「う、うるさい!」


86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:06:13.22 ID:NzZfbvjxo


 すたじお!

梓「うわぁ……広いスタジオですねぇ……設備もいいし」

澪「まあな……前にもここでこうやって練習したことあったし」

律「ほらー、早く始めるぞー!準備準備!」

梓「律先輩、はりきってますね」

澪「あいつにしても唯にしてもさ、今まで何度も合宿きてて自分から練習しようなんて言い出すの初めてなんだよ」

梓「そうだったんですか……まあ何となくわかりますけど」

澪「いつもは練習なんて一番嫌がるクセにな。大体私か梓にうるさく言われてしぶしぶ始めるのがお約束なんだ」

梓「なんか先輩達らしいですね」

澪「そうだな……」

唯「ほらほら澪ちゃんにあずにゃん!準備準備ー」

澪「ふふっ、それじゃやるか梓」

梓「はいです!」

 あずにゃんのギターは本来とまではいかなかったけどかなり上達していた。
 暇さえあれば家で私とギターを弾いてるからっていうのもあるけど、やっぱりあずにゃんの体に染み付いてる才能の所以なのかもね。


87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:07:02.68 ID:NzZfbvjxo


 練習も終わった頃には雨も上がってたのでみんなで露天風呂へ入り、その後少しお茶を飲んだ後それぞれ寝室へ向かっておやすみの時間になった。
 だけど私は寝付けなかった、久しぶりにみんなで騒いで体が興奮気味だったから……
 なので少し夜風に当たろうと別荘のすぐ真正面の砂浜で座り込んでぼーっと夜空を見上げていた、ただ何をするでもなく。
 どれくらい経ったんだろう、背後に人の気配を感じた。

梓「せーんぱいっ♪」

唯「おっ、あずにゃーん」

梓「どうしたんですか?こんなとこで」

唯「ちょっと寝付けなくてね、あずにゃんもそう?」

梓「ええ、なんか楽しすぎてちょっと興奮気味で……」

唯「それじゃちょいとお話しよっか」

梓「そうしましょうか」

 ――

 私とあずにゃんは砂浜に寝転んで空を見ている。
 さっきまで雨が降っていたのが嘘のように視界には満天の星空が広がっていた。


88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:08:27.22 ID:NzZfbvjxo


梓「綺麗ですよね……こうやって明かりのない場所で見る星空がこんなに輝いて見えるなんて思いもしませんでした」

唯「うん……」

 この時、雨の季節が終わったらあずにゃんは、その星空の中の星の1つに行ってしまうんじゃないか、と一瞬想像してしまった。
 だけどすぐに頭の中身を切り替えた。そんなの考えるより前に今のこの現状を楽しまなきゃ、そう思えたから。

梓「ねえ唯先輩」

唯「何?あずにゃん」

梓「私思ったんです。もしこのまま……このまま記憶が戻らなくても別にそれでいいんじゃないかって」

唯「え?」

梓「唯先輩も軽音部の先輩達も憂や純のこともみんな好きです。このまま皆さんと楽しく過ごせられれば、それでいいんです」

梓「そして、あなたとずっと一緒に、ずっと恋人でいられれば他にはもう何もいらないんです」

唯「そっか……ねぇ、あずにゃん……」

梓「どうかしましたか?唯先輩」

唯「その……ちゅーしていいかな?」

梓「……」

唯「やっぱり嫌?」

梓「……いいえ」

 そう呟くとあずにゃんは私の方に顔を寄せてきて目を瞑る。
 私もそれに応えるように顔を近づける。

唯「それじゃあ……いくね」

梓「……はい」

 私はあずにゃんと唇を合わせ、しばらくの間その体勢のままでいた。
 唇を離した後も私達の顔は間近で向かい合って互いに見つめあっている状態だ。
 そこでのあずにゃんの顔は何やら怪訝な、何か疑問を感じているような表情だった。

唯「どうしたの?嫌だったの?」

梓「いえ……別にそうではないんですが……なんか、不思議な気分です」

唯「どんな?」

梓「初めてのキスみたいな感覚がしたんです」

唯「記憶がないんだもん。そりゃそうだねー」

梓「ふふっ」




90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:09:44.93 ID:NzZfbvjxo


 
 それからの私は、前にも増してあらゆることに精が出るようになっていた。
 仕事の方も前にも増して順調で上手く行き過ぎてるくらいだ。
それから時は流れ、7月に入っていた。

唯「澪ちゃん、この書類の整理終わったから確認のハンコくださいっ!」

澪「ああ、助かるよ唯。最近ホント仕事に精が出てるみたいだな」

唯「そんなことないよー。あっ、まだ残ってる書類あったんだっけ。すぐ持ってくるからそれも確認お願いね」

澪(……まるで別人のように見違えたな今の唯は。いや、これが元々の唯なんだけどさ……)

TV「――丁度勢力が同じぐらいなんですよね。したがってこの前線の活動も活発になっています。という事は今年の梅雨は長引く恐れがあるんですね。で、この前線の下では特に激しく雨が降る可能性が……」

唯「おおっ!梅雨が長引くんだ!」

 私は小さくガッツポーズをとり、澪ちゃんはそんな私をにこやかな顔で見つめている。
 日本中探しても梅雨が長引いてこんなに喜んでいるのは多分私くらいなものだろう。

澪(本当に嬉しそうだな唯。まあ私達全員そうなんだけどさ……)


91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:10:38.52 ID:NzZfbvjxo


 その頃、唯の家――

梓「今日の夕食は何にしようかな……うーん、そうだ!焼肉でいいかな」

梓「確かホットプレート押入れの奥にしまってあったよね。えっと……」

 ホットプレートを探すため押し入れの中を物色し始めた私は、押し入れの奥の方で固く封をされているダンボール箱を見つけた。
 表と裏、両方をガッチリとガムテープで固定されたそのダンボールはまるで中を見ることを拒絶するかのようにも見えた。

梓「なんだろうこれ……引越ししてきた時に出すの忘れてた荷物なのかな。唯先輩ならありえるかもね」

 最初はそう思っていたけど、よく見るとダンボールの側面に「AZUSA」と太いマジックで書かれているのが見える。

梓「私の名前が書いてあるし、これ私の私物なのかな……」

梓「うーん、気になるなぁ。記憶がなくなる前の私、何を入れたんだろ」

 箱を覆っているガムテープに手を伸ばそうとしたその時、玄関のベルが鳴りそちらへ注意が向く。


92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:11:41.72 ID:NzZfbvjxo


憂「こんにちは梓ちゃん」

梓「いらっしゃい憂。さ、あがってあがって」

憂「お邪魔しまーす」

梓「ちょっと探し物してて散らかっちゃってるけどごめんね」

憂「何を探してたの?」

梓「ホットプレートなんだけどね。それで押入れの中を探してたらこの箱が出てきたんだ」

憂「AZUSAって書いてあるね。何だろうこれ……梓ちゃんの物なのかな」

梓「憂も知らないの?この箱の中身」

憂「うん……お姉ちゃんと梓ちゃんがここへ引越ししてくる時、私も手伝ってあげたんだけど、その時はこんな箱なかったよ」

憂「――そうだ、開けてみようよ!」

梓「いいのかな、勝手に開けちゃって……」


93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:12:30.86 ID:NzZfbvjxo


憂「もしもこれがお姉ちゃんが片付けた箱だったとしても、梓ちゃんが中身を見たんならお姉ちゃんは何も言わないと思うよ。多分中身は梓ちゃんの物だし」

梓「……それじゃ開けてみよっか」

 固く封をされていたガムテープを端からゆっくりと剥がしていき、上面を広げてみる。
 中からは私が色々な人と写った写真の山が出てきた。
 その更に下、箱の底の方から1冊の本が姿を現す。表紙には「Azusa's Diary」と書かれている。
 表紙をそのまま読む限りだと、どうやら私の日記帳のようだ。

梓「Azusa……これ私の日記帳だ……」

憂「何でこんな場所にあったのかな……」

梓「分からないよ。でも記憶が無くなる前の私は何か理由があってこんな人目に付かない場所にしまっておいたんだと思う」


94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:13:21.75 ID:NzZfbvjxo


 そう言って日記帳の表紙をめくろうとした時、外の方から雨水が地面と屋根を叩く音が聞こえてきた。
 その雨音はあっと言う間に激しくなり外は雷混じりの土砂降りの荒れ模様となってしまう。

梓「今朝の天気予報だと今日は確率10%って言ってたから唯先輩雨具持っていかなかったんだっけ……どうしよう、今から迎えに行っても多分間に合わないし……」

憂「丁度この時間、お姉ちゃんが帰ってくる時間だよね。大丈夫かな……ただですらあんな身体だし……」

 私達2人が途方に暮れていると、外から大きな物音がした。
 なにか金属混じりの重い物が倒れるような……そんな音が。

憂「な、何今の音!?」

梓「庭の方だよ!行ってみよう!」

 縁側の戸を勢いよく開けて外を見ると、雨の中びしょ濡れになった唯先輩が庭の中で気を失って倒れていた。
 その傍らに自転車が倒れているのを見る限り、ここまで走りこんできて自転車に乗った状態で気を失って転倒してしまったんだろう。


95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:14:04.35 ID:NzZfbvjxo


憂「お姉ちゃん!!」

梓「唯先輩!大丈夫ですか!先輩っ!!」

 私は傘もささずに庭に飛び出し唯先輩を抱き起こす。
 
梓「唯先輩!しっかりしてくださいっ!!」

憂「私タオル取ってくるね!梓ちゃんはお姉ちゃんを家の中に入れてあげて」

梓「分かった!」

 ――――――

 ――――

 ――

 唯先輩を家の中に入れた私と憂はすぐにタオルで身体を拭いて、パジャマに着替えさせてベッドに寝かせた。
 大事には至らなかったようだけど……正直、肝の冷やしたとはこの事だ。
 
 それからしばらくの間、私はずっとベッドで眠っている唯先輩の横に座り込んで付き添っていた。
 ひたすら眠り続ける先輩の寝顔をじっと見つめながら私は考え事に耽っている。

梓(最初は風邪の症状だと思ってたけど……よく考えたらこれって風邪じゃないよね。じゃあ一体何の症状なんだろ……)

梓(後で先輩に訊いてみようかな……)


96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:14:41.50 ID:NzZfbvjxo


 しばらくの間、1人で色々想像をしていると、唯先輩の瞼がかすかに動いてゆっくりと目が開いた。

唯「あ……あれ?あずにゃん?それにここ、私の部屋だ……そっか、私さっき……」

梓「先輩!唯先輩!もう、心配したんですよ!!」

唯「ごめんねあずにゃん、また心配かけさせちゃったね……」

梓「急に雨が降ってきたと思ったら家の外でびしょ濡れで倒れてるんですもの、いくらなんでもびっくりしますよ」

 そう会話していると、部屋のドアが開いて、憂がお粥を持ってはいってきた。

憂「お粥持ってきたよ。お姉ちゃん目が覚めたんだね、よかったぁ……」

唯「そっか、憂にも心配かけさせちゃったんだね……ごめんね憂」

憂「気にしないで。お姉ちゃんが無事でいてくれてるのならそれだけで安心できるから」

唯「……うん」

憂「でもお姉ちゃん、ほんとに身体大丈夫?」

唯「大丈夫だよ。今回のは軽い発作だけだし少し寝ればすぐによくなるよ」

憂「それならいいんだけど……」

憂「とりあえず、私はちょっと疲れちゃったから後片付けを終わらせて少し休んでおくね。梓ちゃんはもう少しお姉ちゃんについててあげて」

梓「わかった」

憂「じゃあ、お姉ちゃんも梓ちゃんもおやすみ」


98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:15:23.87 ID:NzZfbvjxo


 憂が部屋を出て行って、この場には私と唯先輩が取り残された。

梓「……どうして何も言ってくれなかったんですか?」

唯「最初にちゃんと言っておかなかくてごめんね。私、たまにあるんだ……こういう事がさ」

梓「病気だったのを隠してたんですね……ズルいですよ、隠し事をしてるなんて、最低ですっ」

唯「あずにゃんに余計な心配かけさせたくなかったから……」

梓「……もう、今後はこういうのは無しですからね?」

唯「うん……」

梓「それじゃあもう辛気臭いのはヤメにしましょうか」

唯「そうだね」

唯「そういえばあずにゃんや」

梓「なんですか?」

唯「よければこっちに来ない?」

梓「何ですかそれ」

唯「ほれほれー遠慮なさらずに」

梓「……しょうがないですね、今回だけですからね」


99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:16:05.27 ID:NzZfbvjxo


 とか言ってはいるものの、内心ではこう言われてとても喜んでいる私がいる。
 本心と逆の発言をしちゃうこの性格、ひょっとして記憶が無くなる前から私ってこんなんだったのかな。

梓「……それじゃ、お邪魔しますね」

唯「どうぞどうぞ、ご遠慮なくー」

 私はベッドに乗り、唯先輩に促されるままに、その隣に横になる。
 
唯「なんかうまく寝付けないや。いつもはあずにゃんが隣にいてくれればすぐに寝れるのになぁ」

梓「それなら少しお話しましょう」

唯「そうだね、何からお話しよっか」

梓「うーん……そうだ!この前学校でした話の続き聞かせてくださいよ」

唯「え……!?」

梓「あのデートの後、私達どうなったんですか?」

唯「えっとね……実は私達あの後一度別れちゃったんだ……」

梓「え!?私達に何があったんですか!?」

唯「この身体のせいなんだ」

梓「どういうことですか?」


103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:48:23.87 ID:NzZfbvjxo


唯「大学1年の冬頃かな、私の身体に異変が起きたんだ」

梓「どんなですか?」

唯「何ていうのかな……何もしてないのにやたらと身体が疲れたり、微熱が続いたり、変な症状が年末頃から出るようになったんだよね」

梓「風邪……ではないですよね」

唯「うん。いつの間にか食欲もなくなって寝不足にも悩まされるようになったんだ。でも不思議と勉強とか何もかもすごくいい感じで、全てが順調だったんだ。だから私は身体の異変をただの疲労と思い込んで無視した」

唯「そうしている内に私の身体のネジは少しづつ壊れていったんだよね……」

梓「それで……どうなったんですか?」

唯「年が明けてすぐの頃だったかな。とうとう「パチン」と音を立てて切れてしまったんだ」

唯「すぐに病院に運ばれて検査を受けた。けど特に異常はなく、すぐに退院できて、結局只の疲れだったって最初はそう思い込んでたんだ」

梓「でも実際は只の疲れじゃなかった……と」

唯「そうなんだよね……退院してからの私はしばらく大学を休んで疲れを取ろうとした……けど全くよくならなかった。気になった私は、大きな病院をあちこち廻ってみたんだ」


104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:49:21.60 ID:NzZfbvjxo


唯「それでいくつかの病院で検査してもらって分かった事は、どうやら私の体をコントロールしている脳の中の化学物質……ていうのかな……で、それが、でたらめに分泌されるようになっちゃったみたい……ってことだった」

唯「原因は正確には分からないっぽいんだけど、一番ありえる話がストレスから発症した可能性が高いってことかな。多分、何もかも初めてな都会暮らしや、アパートを借りての慣れない1人暮らし、毎日忙しい勉強やアルバイト辺りがきっかけになったんじゃないのかな」

唯「でもこんなストレス抱えてたのは私だけじゃなくて他にも一杯いたし、たまたまそれが私だった……当たり所が悪かった、っていうのかな」

梓「……」

唯「その間もあずにゃんからの手紙は届き続けたよ。この頃は私の方から全く書かなくなったし、返事も書かなくなってたんだ。そのせいか段々手紙の内容も私を心配している内容になっていったんだけど、この時の私にはそれが辛かったんだよ」

~~~~

 唯先輩へ

 最近、手紙が来ないので、ちょっと心配しています。
 大学生活はどうですか?勉強も部活もちゃんとやれてますか?
 先生になるための勉強ってすごく大変なんですか?それに今は時期的に一番忙しそうな頃ですし。
 それとも先輩……何かあったんですか?気になって色々考えてしまいます。
 私でよければ、何でも話してくださいね。
 声だけでもいいから聞きたいです。

 では、また書きますね。
 
 中野 梓

~~~~

唯「確実に分かったことは1つ……それは武道館のステージに立つ事も、先生になる夢も、何もかも取り上げられたって事……」


105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:50:17.00 ID:NzZfbvjxo


唯「人ごみも乗り物も駄目になっちゃって、ずっと大学に出てこれない毎日が続いて、結局留年しちゃってね。それで全てに絶望して大学を辞めちゃったんだ」

梓「私はその事を教えてもらえなかったんですか?妹である憂から聞かされてなかったんですか?」

唯「大学を辞めた事は憂から聞かされてたみたい。ただそれ以上のことはこの時は黙ってたんだ」

梓「病気のことは言えなかったんですね」

唯「うん、言い出せなくって……この時憂とお父さんとお母さん以外には誰にも話してなくてさ、違う大学に行った他のみんなには連絡しなかったし、いずれ私の口から直接みんなに話すって事で誰にも言わないように頼んでたんだ。結局みんなに話したのはその年の夏になってからだよ」

梓「それで、私はどうなったんですか?」

唯「普通の病気とは違っていたし、私は普通の人ができることの半分も満足にできない。将来の見通しは暗かった。そんな私の人生に、あずにゃんを付き合わせるわけにはいかない。だから私は決めた……あずにゃんの前から静かにいなくなろう、って……」

梓「そんな……」


106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:52:14.28 ID:NzZfbvjxo


唯「そして私は大学に退学届を出した日に、あずにゃんにお別れの手紙を書いたんだ」

~~~~

 あずにゃんへ

 のっぴきならない事情で、これから先、あずにゃんへ手紙を送ることが出来なくなるかもしれません。
 もう会う事も話す事も出来ないかも。
 いきなりでごめんね……さようなら、元気でね。

 平沢 唯

~~~~
唯「大学を辞めた私はこの町に戻ってからすぐに、今もお世話になってる主治医の先生と知り合って病気と向き合うようになれたんだよ」

唯「あずにゃんは私が通ってた大学に進学したんだけど、憂は私が放っておけないからって大学行くのやめて地元に残ってくれたんだ。私のことを気にしないように言ったんだけど聞かなくて……」


107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:53:12.25 ID:NzZfbvjxo


唯「それからの私は、特にやりたい事も見つけられずに何もしない日々だった。いつも近くの公園か自分の部屋で何もしないで、只ぼーっとしてるだけ、この時の私は人生投げかけてたんじゃなかったのかな……。でも、そんなある日、いつものように公園でぼんやりしてたら、いきなりあずにゃんが私の前に現れたんだ」

~~~~

梓『唯先輩、すいません突然押しかけて』

唯『あずにゃん、いきなりどうしたの?』

梓『この前の手紙の中身が気になって直接会って話を聞きたくて。その……迷惑でしたか?』

唯『うっ……』

梓『いきなり先輩が大学辞めてこっちに戻ってきたって話聞かされてびっくりしましたよ。何かあったんですか?』

唯『その……うん、いろいろ計画があったからね。だからさ……もう会えないんだよ』

梓『どうして急にそんな……何か話しにくい事情でもあるんですか?話してくださいお願いします!私、先輩の力になりたいんです』

唯『いつかまた会えるといいね。また軽音部のみんなで集まってお茶したりとかさー。その頃にはもうお互い結婚しちゃってたりなんかしてー、えへへ』

唯『……幸せになってもらいたいんだよ、あずにゃんにはね』

梓『何で急にそんなこと――』

唯『――じゃ、私これからちょっと用事があるから!!』

梓『ちょっ!待ってください唯先輩!そんなんじゃ私……』

~~~~
唯「私はあずにゃんが何か言いかけてるのを遮るかのように、逃げるようにその場から去ったんだ」

唯「せっかく会いに来てくれたあずにゃんに私は酷いことをしちゃった。でもこれでいいんだ、そう自分に言い聞かせてたんだ。こうしてあっけなく私達の恋は終わろうとしてた」


108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:54:05.55 ID:NzZfbvjxo


梓「でも一方的すぎませんか?話してしまった方が楽になるかもしれなかったですよ?」

唯「あずにゃんを巻き込みたくなかったんだよ。こんな私とこれ以上付き合わせて迷惑なんてかけれないもん」

梓「酷いですよ!それなら尚更一緒にいてあげたいじゃないですか!それに大体、迷惑だなんてこれっぽっちも思いませんよ!」

唯「だからだよ……あずにゃんは自分より他の人の事ばかり気にかけちゃう上に責任感も強いし、1人で何でも背負い込んじゃう子なんだもん。私が病気だよって告白したら絶対無理矢理にでも付いてきちゃうじゃん」

唯「それじゃあずにゃんは幸せになんてなれない……私はあずにゃんに不幸になってもらいたくなかったから」

梓「……私達、それで終わっちゃったんですか?そんなの悲しすぎます!あんまりですよ!」

唯「まあまあ落ち着いて。そこで本当に終わっちゃってたら、今私とあずにゃんはこうして一緒にいない筈だよね?」

梓「……あ」

唯「公園での出来事からしばらくしても、私はまだあずにゃんの事を忘れられなかったんだね。やっぱり……もう一度会いたいって。自分勝手なのは分かってたけど、もう一度あずにゃんに会いたかった」

梓「それで、どうしたんですか?」

唯「会いに行ったんだよ。今度は私の方からね」


109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:55:06.59 ID:NzZfbvjxo


唯「すぐに夜行バスに乗って一人で東京に向かったよ。でもそれは、その頃の私には考えられないくらい無謀な行動だったんだけどね。そんな行動に出ちゃう位に、どうしても我慢できなくてさ……どうしても、あずにゃんに会いたくて体に無理があるのを分かっていながら行ったんだ」

唯「その日は夕方頃から強めの雨が降っていたかな。大学に着いた私はすぐにあずにゃんを探した。簡単に見つかるわけないよねとか思ってたのとは正反対に簡単に見つけることが出来たんだけど……」

~~~~

梓『……』

唯『おっ、あずにゃん発見!あのキャミソールはやっぱり目立つなぁ』

唯『おーい、あっずにゃ……えっ!?』

 あずにゃんの元へ駆け寄ろうとした私だけど、直後に衝撃が走った。
 そのショックで私の足も口を本能的に止まっちゃったんだ。

モブ『おっ、キミこの大学の生徒さん?』

梓『ええ』

モブ『見かけない顔だね、もしかして今年入った新入生の子?』

梓『そうですけど……』

モブ『ならさ、これから新入生の歓迎コンパがあるんだけどキミもどう?』

……

唯『あずにゃん、知らない人といつの間にかあんなに楽しくお話してる……やっぱり私じゃないんだよね』

 あずにゃんにふさわしいのは私のような人間じゃない、そう思ったんだ。
 私じゃあ無理なんだって……そう思って私はあずにゃんに話しかける事もしないで静かにその場を去ったんだ。

~~~~

唯「これで良かったんだ、この方があずにゃんにとっては幸せな選択なんだって私は自分にそう言い聞かせてた。そして私が東京へ出てくるのも、もうこれが最後かもしれないって……」

梓「……」


111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:57:33.02 ID:NzZfbvjxo


唯「そのあと私から連絡することはなかった。あずにゃんからの連絡もなかった。きっと私のことはもう忘れたいんだよ、そう思ってた」

唯「でも、2ヶ月近くたったある日突然電話がきたんだ。手紙でもメールでもなく電話が……」

~~~~

梓『もしもし唯先輩ですか?梓ですけど、ちょっと先輩に大事な用がありまして』

唯『私に?』

梓『少し唯先輩にお話があるんです』

唯『え?どうしたの突然お話って』

梓『今こっちに来てるんですよ。少しでいいんです、会えませんか?』

唯『うん、分かったよ。それじゃ明日会おっか』

~~~~

唯「翌日、私とあずにゃんは近所のヒマワリ畑で待ち合わせする事にしたんだ。この日は今でも忘れてないよ。梅雨明け直後の雲1つない青空で、太陽の光がとても眩しかった日だった」

~~~~

 ヒマワリ畑の真ん中で私は1人佇んで待っているとあずにゃんが現れたんだ。
 そして私を見つけるとにっこりと微笑んでくれてた。

梓『お久しぶりです、唯先輩』

唯『うん……』

 私はこの時、あずにゃんへの申し訳なさで自然と涙が出て顔がぐしゃぐしゃだった。
 そんな私の元へあずにゃんはゆっくりと近寄ってきて優しく話しかけてきてくれてね……

梓『もう……なんて顔してるんですか』

唯『だってさ……』

梓『病気のことなら知ってます。だからもう気にしないでくださいね』

唯『え……何で病気のことを?』

梓『ふふっ、何ででしょうねっ』

梓『唯先輩にそんな顔は似合いませんよ?いつも笑顔で元気一杯の、ありのままの先輩が私は一番好きなんですから』

唯『だって……私は、あずにゃんにはふさわしくないって思うから……」

梓『そんなことある訳ないじゃないですか、バカですよ先輩は……もう』

 あずにゃんはそう言った後、私の背中に両腕をまわして抱きついてきてね……
 私の胸元に頬を摺り合せるかのように顔をつけて、まるで小さい子を諭すかのようにこう言ったんだ。

梓『大丈夫……大丈夫ですから、私達はきっと幸せになれますよ』

~~~~

唯「なんだかあずにゃんのその自信に圧倒されて、私は頷いたんだよ。でもその言葉は、あずにゃん自身が自分に言い聞かせているようにも思えたんだ。その自信に満ち溢れた顔を見て、この子とならこの先何があっても一緒に乗り越えていける、そう確信したんだよ」


112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:58:31.87 ID:NzZfbvjxo


唯「その後、あずにゃんが大学を卒業したのをきっかけに、私達はこの家に2人で住み始めたんだ」

梓「それからの私達は幸せだったんですよね?」

唯「うん」

梓「これからもずっと幸せですよね?」

 そう尋ねられた私は、何も言わずにあずにゃんの両肩の裏に手を伸ばし抱き寄せる。
 あずにゃんも一瞬戸惑ったものの、すぐに理解して私の胸に頬を乗せて、空いている私の手を握り締めた。

梓「なんか、すごく落ち着きます……」

 その顔はとても安心したような、心地よさげな顔をしていて、口に出さなくても心底落ち着いてるのがすぐに分かった。
 
唯「今の私達、ベストポジションって奴なんだよ?」

梓「何ですかそれ」

唯「私の肩先に、あずにゃんの髪があって、私の腕の中にすっぽりくるまって、私達のベストポジションなんだよ」


113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:59:17.41 ID:NzZfbvjxo


 ――

唯憂「いってきまーす!」

梓「2人共いってらっしゃい。トラックに気をつけてね」

唯憂「はーい」

 ――

梓「さて……2人がいない今の内に家の中を掃除しちゃおうかな」

 唯先輩も憂もいない今の内に家の中をくまなく掃除しようとした私は、押し入れの中から掃除機を取り出そうとしていた。
 押し入れのふすまを開けて中にあった掃除機に手をかける……と、ふとその掃除機の横のダンボール箱が目に入る。
 
梓(あの箱、この前中身見ようとして途中で片付けちゃった箱だよね。そういやちゃんと中見てないなぁ)

 そう思い立った私は、何かに導かれるように掃除機ではなくダンボール箱の方に手を伸ばしてしまう。

梓「そういえば私の日記があったよね。それを見れば昔の私の手がかりが見つかるかもね」

 日記帳はすぐに見つかった。いつでも見れるように私が一番上に載せていたからだ。
 布張りの表紙の日記帳を手に取りそれをしばらく見つめ、ゆっくりと表紙をめくる。
 そこには私が高校に入ってからの出来事がこと細かく書かれていた。
 軽音部での部活動や先輩達の事、同級生の親友の憂と純の事、学園祭の事、合宿の事、夏フェスの事、本当に楽しそうにしていたのが文字からひしひしと伝わってきて私の顔から自然と笑みがこぼれる。

梓「面白いなぁこれ、昔の私ってこんなんだったんだ……ふふっ」
 
梓「さて、次のページは……と、あっ!」

 換気の為開けっ放しにしていた窓から強めの風が部屋の中に入り込み、私は咄嗟に声を上げた。
 その風で日記帳のページが勝手にめくられていき、一気に最後の方のページへと飛ばされてしまったようだ。


114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 22:59:58.19 ID:NzZfbvjxo


梓「もう、ゆっくり順番に見るつもりだったのに。どこまで記録してあるんだろうこの日記」

 気になった私はその紙に書かれている文字を読んだ。
 だけどこれが全てのきっかけだった、私は閉じられた重い扉を開けてしまっていたんだ。

梓(うそ……何これ……どういうこと!?)

 私は唖然として何も考えられなかった。
 突きつけられた事実に全身の力が抜け、手に持っていた日記帳を落としてしまう。
 
 このとき、私の頭の中に全ての記憶が次々と蘇ってきていた……そう、全部思い出したんだ。
 まるで日記帳が私の記憶の封印を解く鍵だったかのように全てを理解した。


115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:00:59.46 ID:NzZfbvjxo


梓「もしもし、律先輩ですか?」

律「梓か、どうした?急に電話なんかよこして」

 あの日記を見て1人悩んでいた私は律先輩に電話をかけていた。
 澪先輩は職場で唯先輩と一緒にいるし、純ももしかしたら今憂といるかもしれない。となると電話をかける相手は律先輩かムギ先輩しかいなかったから。
 どうしても大事な用事が……確かめたい事があったから。

梓「すいません、ぶしつけなんですけど今から少し会えませんか?」

律「ああ、私は今日フリーでヒマしてたから別にいいけど……何かあったのか?」

梓「どうしても行きたい場所があるんです。律先輩なら知ってると思うんですけど、連れて行ってもらえませんか?」

律「じゃあ今から車で迎えに行くよ。唯の家でいいんだよな?」

梓「はい、お願いします」


116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:02:07.33 ID:NzZfbvjxo


 ―― 1時間後

 私は律先輩にある場所に連れてきてもらっていた。
 今目の前には「中野家」と書かれた墓石があり、それをじっと見つめている。
 墓石の横には私の戒名と名前と享年と命日がしっかりと書かれていた。
 
律「なあ梓――」

梓「――いいんです、分かってますからもう。本当にお久しぶりです先輩、何も変わり無いようで何よりです」

律「……やっぱりそうだったんだな。いきなり「私のお墓に連れて行ってください」とか言うから、もしやとは思ったけど、思い出しちゃったんだな、全部……」

梓「はい、全部思い出したんです。今までの記憶を……私が昔書いた日記を読んで全部理解したんですよ」

律「自分の日記がきっかけ、か……じゃあここには、それを確かめる為に、ってことか」

梓「そうですね。本当の私は1年前に死んでいて、今のこの世界に中野梓という人間は存在しないという事、それを確かめたかったんです」

律「辛くないのか?自分の墓を見てさ」

梓「最初事実を知った時、信じられませんでした。でも今は不思議と冷静でいられてます。ただ……」

律「ただ?」

梓「雨の季節が終わったら、私はみなさんとも、今の楽しい生活ともお別れしなきゃいけない……それも事実だって分かって正直どうしたらいいか悩んでるんです」

律「唯の予感は正しかったってワケか……」

梓「唯先輩も予感してたんですね」

律「まあな。それに多分憂ちゃんもな」

 そんな時、後ろから足音が聞こえてきた。
 後ろを振り向くと、そこには水桶と花を持っている見慣れた親しい人物の姿があった。


117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:02:52.05 ID:NzZfbvjxo


梓「純……」

純「うそ……何であんたがこんなトコにいるのよ……」

 純の手から水桶が落ち、中に入っていた水が四方へ飛び散った。
 だけどそれにも目もくれずに私を困惑した目で見つめている。

梓「落ち着いて純、実は私――」

 ――

純「そっか……記憶が戻っちゃったんだ」

梓「うん……純にもいずれは言うつもりだったんだけどね」

律「いずれこうなる日は来ると思ってたんだけどな、いざ来てみるとなんだかなぁ……」

純「そうですね……そもそも隠し通すことに無理があったんですよね」

純「それで梓、雨の季節が終わったらまたいなくなっちゃうの?」

梓「うん……」

純「梓が帰ってきてさ、憂すっごく喜んでた。また梓の顔が見れる、お話できるって。こんな毎日が続けばいいなって言ってたんだよ。ねぇ、何とかならないの?このままずっとここにいられる方法とかないの?」

梓「……多分無理だと思う。私がわざわざ嘘を日記に書くなんてありえないし、そんなことする理由もないから」

純「そっか……」

梓「私あれから色々考えたんだ。私に残された時間は少ない、だから残りの時間をどう過ごそうかなって」

律「普通に考えたら唯と一緒にいる時間を一杯つくってやるって事がベストだと思うけどなぁ」

梓「確かにそれは言えてますね。あととにかく私が今こうやって存在していた証を残しておきたいんですよ」

純「何か物を残すとか?」

梓「残す物かー。純にしてはいいこと言うね」

純「一言余計だっ!」


118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:03:30.83 ID:NzZfbvjxo


梓「それと聞きたいんですけど、私が戻ってくる前の唯先輩って普段どうやって暮らしてたんですか?」

律「ああ、お察しの通り家事がてんでダメなのは相変わらずでさ、病気である事を差し引いても酷いもんだよ」

梓「やっぱり……」

律「だから憂ちゃんがよく世話をしに通ってるんだ」

梓「なるほど……なんとなくやるべき事が分かったような気がします」

梓「それはそうと、純は今日はお墓参り?」

純「そうだよ。あんたが死んじゃってからは、こうやってこまめに通ってるんだ」

梓「ふふっ、ありがとね純」

純「お墓参りに行ってる相手に直接お礼言われるなんて前代未聞だって……」

律「貴重な経験だぞー?」

純「まるで幽霊相手にしてるみたい」

梓「ちゃんと生きてるから!幽霊なんかじゃないもん!」

律「よし、とりあえず戻ろっか。そろそろ唯と澪が仕事上がる頃だし」

梓「そうしましょうか」


119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:04:12.90 ID:NzZfbvjxo


 ――翌朝

憂「ふあぁ~、よく寝たなぁ。あっ!もうこんな時間」

 昨夜は私と梓ちゃん、お姉ちゃんの3人で遅くまでお話していたせいもあってまだ眠い。
 ゆっくりと起きて、隣を見るとそこにはお姉ちゃんの姿も梓ちゃんの姿もなかった。

梓「じゃあ、やってみてください」

唯「う、うん」

梓「ゆっくりでいいですからね」

 キッチンの方から2人のやりとりが聞こえてくる、もしかして朝食作ってるのかな。

梓「ダメですよ!力入れすぎなんです。さ、もう1回やりますよ」

唯「えぇー!だって難しいよこれー」

 キッチンで私が見たのは、梓ちゃんがお姉ちゃんに目玉焼きの作り方を教えている姿だった。
 いきなりどういう風の吹き回しなんだろう。

梓「じゃあもう1回いきましょうか」

唯「うまくいかないよぉ……うーん」

梓「唯先輩!」

唯「はぁーい」


120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:05:27.43 ID:NzZfbvjxo


 どうやら卵の割り方を教えているようだ。
 お姉ちゃんは卵を綺麗に割れずに悪戦苦闘しているようだった。それを何度も梓ちゃんがリテイクさせている。
 何度かやっている内に、とうとうフライパンに綺麗な黄色と白の丸が2つ出来た。

梓「出来たじゃないですか!やっぱり先輩はやれば出来るんですよ!」

唯「えへへー、やっぱりあずにゃんに褒められるとうれしいなぁ」

梓「あっ!おはよう憂、起きてたんだ」

憂「おはよう、お姉ちゃん、梓ちゃん」

唯「みてみて憂ー。この目玉焼き私がやったんだよ?」

憂(どうして今になってお姉ちゃんに料理の仕方を……?梓ちゃん何を考えてるんだろ)

 ――――――
 
 ――――

 ――

梓「今度は洗濯物の干し方ですね」

唯「えーっ、まだやるのー!?」

梓「当たり前です!」

梓「いいですか?しわのついたまま干しちゃダメですからね。かけたらしっかり形を伸ばして整えてくださいね」

唯「おっけー」

梓「あーっ!もう、先輩、服が表裏逆ですよ!?しっかり確認してくださいよ」

唯「だってだってー」

梓「だってもヘチマもありません!」

憂(今度は洗濯!?一体どういうこと?)


121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:06:21.93 ID:NzZfbvjxo


 その夜、梓ちゃんが床についた後、私とお姉ちゃんは2人きりで会話をしていた。
 
憂「お姉ちゃん、色々と家事がんばってるんだね」

唯「うん……あのね憂」

憂「どうしたの?」

唯「前に雨の季節が終わったら、あずにゃんはいなくなっちゃうかもって言ったよね?」

憂「うん」

唯「最近になって考えたんだけど、あの話、やっぱり本当なんじゃないのかなって思えてきてるんだ」

憂「うーん、どうなのかなぁ……でもね」

唯「でも?」

憂「梓ちゃんはそんなの忘れてるかもしれないから、ひょっとしたら帰らないかもしれないよ?」

唯「それならいいんだけど……」

憂(昼間お姉ちゃんに家事を教えてたのは、もしかしたら記憶が戻っているからなのかもしれないな。自分がいなくなって1人残されたお姉ちゃんを、私が助けなくても1人だけでもしっかりやっていけるように……て意味なんだろうけど)

憂「とにかく、今は大事にしないとね。梓ちゃんと一緒にいられる時間を」

唯「うん、そうだね」

憂(お姉ちゃんも薄々勘付いてるのかもしれない……)


122:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:07:22.72 ID:NzZfbvjxo


 翌日

梓「もしもし、ムギ先輩ですか?梓ですけど、今お時間大丈夫ですか?」

紬「あら梓ちゃん、どうしたの急に電話なんて」

 次の日、私はムギ先輩に電話をかけていた。
 どうしても頼みたい事があったから……私がここにいられる内に、やりたい事、やり残した事を全て済ませておく必要があったから。

梓「実はですね、ムギ先輩においしいケーキ屋さんを紹介してもらいたくて」

紬「ケーキ屋さん?」

梓「はい。先輩、いつも部活の時間になるとおいしいケーキを持ってきてくれたじゃないですか。どこのお店なのか聞きそびれてちゃってますし、聞いておきたいんです、今の内に」

紬「……!?部活の時間!?梓ちゃん、何であなたそれを覚えてるの?まさか……!」

梓「はい、全部思い出しちゃったんです。自分の日記を見て今までの記憶全てを」

紬「そう……じゃあ1年前の出来事も?」

梓「知ってますよ。それにもうすぐ私はいなくなってしまうことも……」

紬「いずれはこうなると思っていたけど……ああ、ケーキ屋さんだったわね」

梓「ええ」

紬「じゃあ連れて行ってあげる。今からでいいかしら?」

梓「お願いします」


123:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:08:31.61 ID:NzZfbvjxo


 その後、ムギ先輩と待ち合わせした私は雨の中、先輩行きつけのケーキ屋さんへ案内してもらった。
 もちろん、ケーキを買うために。

ケーキ屋「いらっしゃいませ紬お嬢様」

紬「こんにちは。今日は私じゃなくて、この子にこのお店を紹介して欲しいって頼まれて来たんですよ」

ケーキ屋「そうですか。それで本日のご用件は?」

梓「すいません。クリスマスケーキはありませんか?」

紬・ケーキ屋「へ?」

ケーキ屋「ま、まあ、ウチは注文を受けてから作りますので、用意はできますけど……」

紬「梓ちゃん、今まだ7月よ?」

梓「分かってますよ。その……私、みなさんとクリスマスパーティがしたいんです。ただその……私12月までいれないので……」

紬「……あ」

 私の一言でムギ先輩の表情がみるみるうちに曇っていった。
 そう、私には次のクリスマスどころか来月すらないのだから、それを改めて思い出したせいで先輩はその表情を浮かべたんだろう。

紬「……そうね、そうだったわね。それならまたみんな呼んで盛大にパーティをやりましょうか!」

梓「はいっ!」

紬「そういう訳で、お願いできるかしら、なるべく早くに」

ケーキ屋「はい。今日は注文は入ってませんので夕方にはお渡しできると思います」

梓「よろしくお願いします。あっ、あともう1つそれとは別で来年のクリスマスの分の予約いいですか?」

ケーキ屋「大丈夫ですよ。それならこの紙のお届け先の欄に記入をお願いします」


124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:09:28.67 ID:NzZfbvjxo


 ケーキの注文も済んで、私はムギ先輩と時間潰しの為に街を歩いていた。
 しばらく目的もなくぶらついていたら、突然後ろから誰かに声をかけられた。

澪「やあ梓、ムギ」

紬「あら澪ちゃん、こんにちは、奇遇ね」

梓「こんにちは澪先輩」

澪「2人でいるなんて珍しいな。買い物か何かか?」

梓「ええ、ムギ先輩にお店紹介してもらいたかったんですよ」

紬「澪ちゃんもお買い物?」

澪「うん、そんなとこだよ」

紬「そうだ!こんな場所で会えたんだし、そこの喫茶店でお茶でもしながら話さない?」


126:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:10:38.07 ID:NzZfbvjxo


 ―― 喫茶店

澪「――そうか、梓の記憶が……」

紬「私もさっき知ったばかりなのよ。梓ちゃんから電話があった時に直接聞かされてね」

梓「純と律先輩にはこの前話したので、澪先輩とムギ先輩にも話しておくべきかな、って思ったんです」

澪「それでか……ようやく分かったよ。最近の律の態度が何かおかしかったからさ」

紬「それで、唯ちゃんと憂ちゃんはまだ知らないのよね?」

梓「まだ言ってません。でも2人にもなるべく早くに言うつもりです」

澪「それで……本当に雨の季節の間しかここにいられないのか?」

梓「はい、だから心配なんです。唯先輩と憂が私がいなくなったらどうなるんだろう……って。特に今の唯先輩は生きていく上での色んな力が弱いから、それがどうしても気がかりなんです」

澪「そうだな、気持ちは分かるよ。もし梓がいなくなって、あの2人がまた1年前の時みたいに落ち込む毎日になるかもしれないと考えると私も正直不安だし」

紬「そうね、唯ちゃんも憂ちゃんも梓ちゃんが帰ってきてからすごく幸せそうだったもの。だからその反動があるのかと思うと、ねぇ」


127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:11:45.95 ID:NzZfbvjxo


梓「本音を言わせて貰うと、唯先輩には早く新しい人をみつけて幸せになって貰いたいんです。あの人が私を精一杯愛してくれたように、新しい人にも同じようにしてあげてほしいんです」

 澪先輩とムギ先輩は私の言葉を聞いて、何も言わずに只黙って私を見つめている。
 しばらくその状態で沈黙が続いた後、突然私の両目から涙があふれてきた。
 
梓「ああ、だめだ……私、そんな立派なこと言えるような人じゃないや……」

 思わず顔をおとして両手で顔を隠す、けどそれでも涙が止まらなかった。
 
梓「確かに新しい人を見つけて早く幸せにはなって欲しいです。でも反面、もしその新しい人を私が見たとしたら嫉妬してしまうかもしれないんです。唯先輩のことは心配ですけど、他の誰かといるのは嫌なんです。他の誰かを愛するようになるなんて、考えられないんです」

梓「私酷いですよね!あれだけ唯先輩に幸せになって欲しいなんて言っておいた側からこんなんですから。最低ですよ、私」

澪紬「……」

梓「……すいません、今の話、忘れてください……」

澪「大丈夫、心配しなくていいと思うよ」

梓「え?」


128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:12:35.97 ID:NzZfbvjxo


澪「梓も知ってると思うけどさ、あいつは1つの事に集中すると他の事は全部忘れちゃう性格だったろ?それは多分音楽や勉強だけじゃなくて恋愛でも同じなんじゃないのかな」

紬「そうね、唯ちゃんは梓ちゃんに初めて会った時からずっと気にかけてたみたいだったし」

梓「それは前にあの人から直接聞きました。私達が出会った時からの話を。みなさん知ってたんですね」

紬「ええ」

澪「だから唯が梓以外の誰かを本気で愛することはないよ。他の誰かを梓と同じように愛するなんてありえない、唯のことを幸せに出来るのは梓だけなんだよ」

紬「唯ちゃんと梓ちゃんは高校の頃から今までいつも仲良しで幸せそうで、周りから見ても羨ましくなる位だったもの。梓ちゃんが亡くなった時もこっちが心配になる位落ち込んでたし、戻ってきた時はすごく嬉しそうだった」

紬「私の目には、一緒になってからのあなた達の姿は、同性だからという後ろめたさとかがまるでなかったかのように見えたわ。あなた達にとってはそんな物は些細な問題に過ぎなかったのかもしれないし、一緒に乗り越えていける自信もあったのかもね」

澪「あそこまで1人の人間を一途に愛し続けられる人なんて中々いないよな」

梓「……そう言ってもらえて何かほっとしました。すいません、私の為に色々考えてもらって……」

紬「当たり前よ。私達にとっても梓ちゃんは大切な子なんだから……」

澪「そうだぞ、だからそんなに心配しなくても大丈夫!」

紬「……しかしそれにしても、私達、今梓ちゃんと話してるのよね?昔の記憶も全部ある、ありのままの梓ちゃんと……」

梓「唯先輩から聞いています。澪先輩と唯先輩、同じ職場で働いているそうですね。いつも色々面倒みてもらっているようでありがとうございます」

澪「お礼を言われる程のことはしてないよ。それより……改めて、久しぶりだな梓。また会えるなんて思ってもいなかったよ」

梓「お久しぶりです澪先輩」

澪「私のこともちゃんと覚えているのか?」

梓「はい、先輩が1年の時の学園祭ライブのことまでちゃんと覚えてますよ」

澪「思い出さなくていいネタまで思い出すなよ……」

梓「ふふっ、すいません。ちょっとからかいたくなっちゃいましたので」

梓「そうだ!話さなきゃいけないことがあったんだっけ。あの……先輩方お2人、今夜時間空いてますか?」

澪「え?今夜?」

梓「はい。実は――」


129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:15:19.61 ID:NzZfbvjxo


 その夜――

唯「あれ、あずにゃんどったの?このケーキ、クリスマスケーキだよね?」

梓「そうですよ。今日は他のみなさんとクリスマスパーティをしましょうよ」

唯「え?クリスマスって……今7月だけど?」

梓「いいんです!どうしても今日やりたくなったんですから」

 それから数分後、玄関のベルが鳴った。
 どうやら軽音部のみんなが来たようだった。
 事前にあずにゃんがみんなにお誘いをかけてたようだ。

憂「え?クリスマスパーティ?」

梓「そそ、急にやりたくなっちゃったからみんな誘ってみたんだけど、迷惑だった?」

憂「ううん!そんなことないよ!」

梓「よかった。それじゃあみなさんもう少し待っててくださいね。もうすぐ準備終わりますから」

憂「あっ!それなら私も手伝うよ」

律「よし、じゃあ私も可愛い後輩の為に一肌脱ぎますか!」

梓「ありがとう憂、それに律先輩も」

 ――

梓「それでは、半年早まっちゃったけど……」

全員「メリークリスマース!」

 みんな一斉に乾杯をし、クラッカーを鳴らしたのを皮切りに季節外れのパーティが始まった。
 外は雪じゃなくって雨、それでも今日は本当に12月24日じゃないかって錯覚する位にみんな楽しんでいた


131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:18:04.09 ID:NzZfbvjxo


唯「ねえみんな、今日はこうやってパーティやるって知ってたの?」

律「ああ、昼過ぎに梓から誘われててな。最初何かと思ったよ、季節外れもいいトコだもんな」

梓「ふふっ、今日になっていきなり思いついたんですよ。まあ確かにちょっと急でしたね」

紬「それで私は昼間、梓ちゃんのケーキ選びに付いていってあげてたのよ」

澪「なるほどな、だからさっき一緒に歩いてたんだな」

憂「みなさーん、おかわりならまだまだありますからね!」

唯「あっ、シャンパン切らしちゃったー。あずにゃん、買い置きしてあったっけ?」

梓「あっ、もう残り少ないですね。そろそろ追加買ってきた方がいいかもですね」

純「そんなこともあろうかと、ちゃんと飲み物買って来ましたよー!」

律「おっ、気が利くじゃないか鈴木さん。じゃあ私はこのワンカップな」

澪「ていうか、全部酒じゃないか……」

梓「あんまり飲みすぎてへべれけにならないでよね、純」

純「いいじゃんいいじゃん!今日は無礼講だって!ほら、梓もこっちおいでよ」

梓「はあ……私は飲めないからね」


132:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:19:56.21 ID:NzZfbvjxo


 食事が一段落した後、澪ちゃんが持ってきたカメラで記念写真を撮る事になった。
 前列真ん中に私とあずにゃんが座って、そこを囲むようにみんなが入る。
 そして正面に三脚付のカメラをセットして、澪ちゃんがシャッターを覗きながら調整を済ませている。

澪「よし……と、ちょっと入りきらないからみんなもう少し真ん中に寄ってくれ」

純「ほら梓、もっと真ん中!真ん中!」

梓「な、何いってるの!」

唯「そうだよー、ほらおいでおいであずにゃーん」

梓「もう!唯先輩まで……」

律「梓、今日の主役はお前なんだぞ?ほらほらー」

 しぶしぶ言いながらもあずにゃんは真ん中……つまり私の方へ寄り、肩と肩がぴったりとくっつく。
 
純「梓、顔真っ赤だよ?なんだかんだで、まんざらでもなさそうですなー」

梓「うっさい!」

澪「よし、全員入るな。準備はいいかー?」

唯「いつでもおっけーだよ!」

 みんな口々にOKサインを出す。

澪「じゃあ撮るぞー」

 澪ちゃんがカメラのスイッチを弄ると、機械音を出して動き始めた。
 どうやら5秒後に自動的にシャッターが切れるようにセットしてあるようだった。


134:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:20:41.01 ID:NzZfbvjxo


律「ほらー、早くしろー澪ー」

澪「ああもう!わかってるって。ほら律、横空けろって、私が写れないだろ」
 
律「へいへい」

 りっちゃんに茶化されるように急かされた澪ちゃんがあわててりっちゃんの横に入り、正面を向いたと同時にカメラのフラッシュが焚かれ、シャッターがきれる音がした。

 この時私は考えていた。
 まるであずにゃんは、やれる事は今のうちにどんどんやってしまおうって、まるで焦っているように見えていたから、もしかしてもうすぐ自分が消えてしまうかもしれないって分かっているのかもしれないと、そう考えていた。
 でも、だからといって貴重な時間を悲しみに浸って費やすなんて勿体無いことはしたくはなかった。
 例えあずにゃんの記憶が戻っていてもいなくても、私がするべきことは決まっているのだから。


135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:23:54.35 ID:NzZfbvjxo


 楽しいパーティもお開きとなり、静かになった部屋で私は1人、窓から外の雨を物思いに耽りながら眺めていた。
 どうしてもさっきの事を思い出してしまう、記憶が戻っているのを訊くのが怖い、もし「記憶が戻っているの?」と訊いてみて否定されなかったらどうすればいいんだろうと悩み、何も言えずにただこうしているしかなかった。

梓「先輩」

 後ろから声が聞こえて、そっちへ振り向く。

唯「あずにゃん……」

梓「私、唯先輩に謝らなきゃいけないことがあるんです」

唯「……え?」

梓「もう、1人で悩まなくてもいいんですよ」

唯「どういうことなの?」

梓「私、自分の日記を見ちゃったんです。その――」

唯「……」

梓「私、本当はここにいない筈なんですよね?」


136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:25:08.23 ID:NzZfbvjxo


 突然の告白に私は言葉を失った。
 予感は当たっていたんだ。
 外の雨足は一層強まっていって、静かな部屋の中に雨音が強く響いている。

唯「あずにゃん、私――」

梓「――何も言わないでください」

梓「辛いこと全部1人で引き受けて私を守ってくれてたんですよね。本当にありがとうございます。私なら大丈夫ですから」

唯「……」

梓「真夏のクリスマス、悪くなかったでしょ?少しは楽しんでくれました?」

唯「あずにゃん、もしかして雨の季節が終わったら……やっぱり……」

梓「……はい」

 困惑する私に、あずにゃんは近寄ってきてそっと手を握ってきた。
 その顔は全てを悟りきったような、とても穏やかな表情だった。

唯「私は奇跡を信じたいんだ。一度起きた奇跡は2度起きるかもしれないから。私も憂も、みんなもまた奇跡が起きるって信じてるんだよ?だから……あずにゃんも信じてほしいな。あずにゃんを何処にも行かせたくないんだよ!」

梓「私も、ずっとこのままいたいですよ……あの、唯先輩」

唯「ん?」

梓「1つ、お願いがあるんです」


138:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:28:49.81 ID:NzZfbvjxo


 今私達は居間にある鏡台の前に立っている。
 目の前には1個の指輪が置かれていた、あずにゃんと初めてお出かけした時、ペアで分け合ったあの指輪だ。
 指輪の横には私とあずにゃんが2人きりで並んで写っている写真がある。これは写真屋さんに行ってしっかりと撮ってもらった物だ。

梓「……お願いします」

 あずにゃんはそう言って左の薬指を私の方へ差し出してくる、その手を私は左手で握ると、空いた右手で指輪を持つ。
 
唯「じゃあ……つけるよ」

梓「はい……」

 私は手に持った指輪をあずにゃんの薬指にはめ込む。引っかかることもなく、それはすっぽりとあずにゃんの指へ収まった。
 自分の薬指にはまった指輪をじっと見つめたあずにゃんは、何も言わずに笑顔を浮かべ私を間近で見つめている。
 その顔を見つめた私は突然心苦しくなって、視線を逸らすように下を向く。

梓「どうしたんですか?」

唯「私はいつもあずにゃんのおかげで……そんな私と一緒になって、あずにゃんは本当に――」

 遠慮がちにそこまで言った私を、あずにゃんは突然抱きしめてきた。
 突然に行動に私は声を失い、その先を言うのを躊躇ってしまう。

梓「何も言わないで。しばらくこのままで……このままでいさせてください」

唯「うん……」

 私もあずにゃんの背中に手を廻し、あずにゃんに負けないようにより強く抱きしめた。
 温もりたっぷりの身体と、シャンプーの香りで今私の中にあずにゃんが居てくれる事を改めて実感する。
 やっぱり私にはあずにゃんが必要だ。この子がどんな時も私の傍にいてくれたお陰で私は今まで幸せで、この身体とも向き合ってこれたんだ。

唯「あずにゃん」

梓「はい」

唯「――好きだよ」

梓「はい……私も大好きです、唯先輩」

唯「愛してるよ、ずっと、ずっとね――」

 こうして私とあずにゃんは、2度目の恋をして、2度結ばれた。
 それはあずにゃんが私達の前に戻ってきて、丁度6週間目の夜の出来事だった。


139:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:29:53.40 ID:NzZfbvjxo


 ―― 翌日

 夜中降り続いていた雨は朝には上がったものの、空はまだ厚い雲に覆われていた。
 雨音はもうなく、残った水滴が軒先から滴り地面に落ちる音だけが、ただ聞こえている。

 それは、その日の午前中に起きた。

 ―― 平沢家

純「憂!ちょっと憂!」

 この日はお休みで、家でお姉ちゃんと梓ちゃんに持っていくお菓子を焼いていた私の元に、純ちゃんが血相を変えて飛び込んできた。

憂「どうしたの純ちゃん、そんなに慌てて」

純「どうしたのって……外見てみなって!外を!」

憂「え?外?」

 純ちゃんに言われるがままに、私は窓の外を見た。
 すると、今朝まで空を覆っていた厚い雲はすっかり消え、青空が広がっていた。
 昨日まで聞こえることのなかったセミの鳴き声の合唱が耳に入ってきて、強い日差しが部屋の中に差し込んできている。


141:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:31:26.25 ID:NzZfbvjxo


憂「純ちゃん……これってまさか!?」

純「言い忘れてたけど……梓ね、記憶が戻ってたんだよ。自分の日記を読んでね」

憂「え!?」

純「梅雨が終わったら去らなきゃいけない、前に梓はそう言ってた」

憂「じゃあもしかして……」

純「梅雨が明けちゃったかもしれないよね、この天気。とにかく嫌な予感がするんだ」

憂「こんなことしてられないよ!私、梓ちゃんのとこ行ってくる!」

純「私も行くよ、とにかく急ごう!」

 ――――――

 ――――

 ――

 私と純ちゃんはとにかく大急ぎでお姉ちゃんの家へ向かった。
 もう既に梓ちゃんがいなくなってたらどうしようと頭の中で考えてしまうけど、すぐに考えるのをやめた。
 絶対に梓ちゃんはいなくなったりしない、私は自分にひたすらそう言い聞かせた。

 お姉ちゃんの家の玄関は鍵がかかっていなかったので、私と純ちゃんはまるで殴りこみでもかけるかのように部屋の中へなだれ込んだ。
 居間には誰もいなかった。ただ部屋の中がいつも以上に綺麗に片付いていた。


142:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:32:43.24 ID:NzZfbvjxo


純「あずさぁっ!!」

憂「梓ちゃああん!!」

憂「もう、いなくなっちゃったのかな……」

純「そんな訳ないって!絶対に梓はまだいるって!」

 かすかな希望を信じて2人で大声を出して家中探し回る。
 するとその予想に反して、家の奥のドアが開いて中から梓ちゃんが現れた。

梓「憂、純、どうしたの?」

憂「あ……梓ちゃん……よかった……」
 
純「よかったぁー、一時はどうなるかと思ったよ」

梓「何かあったの2人共。ん?外がさっきより明るい……」

 梓ちゃんは窓の外を見ながら、どこか寂しげな表情を浮かべていた。

梓「……そっか、晴れちゃったんだね」


143:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:33:57.81 ID:NzZfbvjxo


 一方その頃、唯の職場――

澪「おい唯!唯ってば!!」

唯「どったのー澪ちゃん」

 トイレから出てきた私を、澪ちゃんはまるで一大事でも起きたかのように大声で呼んできた。
 私はそんなことも露知らず、抜けた返事をしながら澪ちゃんの下へと向かう。

澪「唯!外見てみろ、外!」

唯「え?」

 私が窓から外を見たのと同時に、TVから天気予報のキャスターの声が聞こえてきた。

TV「今日気象庁は、関東甲信地方の梅雨明けを発表しました。先日、梅雨明けは来週以降になるとお伝えしましたが、一週早まったようです。嬉しい誤算といったところですね。本日からしばらくの間は、30度越えの真夏日が続くと思われます」

唯「うそ……梅雨明けって今年は遅くなるんじゃなかったの!?一週早まるなんて聞いてないよそんなの!」

澪「早くいけ唯!所長には私から伝えておくから、お前は早く梓のとこへ!」

唯「え?でも……」

澪「頼む、行ってあげてくれ!梓の奴、きっと黙っていくつもりなのかもしれない」

唯「分かったよ……ありがとう澪ちゃん!私行くよ!」

 私は澪ちゃんにお礼を言うと、荷物も持たずに大急ぎで会社を飛び出していく。


144:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:35:30.13 ID:NzZfbvjxo


竹達「おや?平沢さん早退かね?随分慌ててたようだったけど」

澪「はい、遠くから会いに来てくれていた大事な人が今日帰ってしまうんです。だからせめて見送りだけでもさせてあげたかったので無理にでも帰すことにしたんですけれど」

竹達「そうかそうか」

澪「私の独断で無理矢理行かせたんです!唯は悪くありません。勝手なことしてすいませんでした!」

竹達「いいよいいよ、それに、その会いに来てくれた人って秋山さんにとっても大事な人なのかね?」

澪「え、ええ……その、昔からずっと付き合いのあった古い友達ですから」

竹達「なら君もいっておいで」

澪「え?でも私は……」

竹達「平沢さんも秋山さんもずっと真面目にやってきてくれてたからね、たまの早退くらい何とも思わんさ。早く行ってあげるといいよ」

澪「は、はい……!すいません、ならお言葉に甘えて失礼します!」

竹達「若い内の青春っていいもんだねぇ……」

竹達「おっ、何か眩しいと思ったら外が晴れてるじゃあないか!いよいよ夏だなぁ」


145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:37:13.60 ID:NzZfbvjxo


prrr

澪「電話!?律からか、もしもし?」

律「澪か!天気予報見たか!?」

澪「ああ、今さっき知って唯と一緒に会社早退させてもらったんだ」

律「今どこにいるんだ?」

澪「まだ会社出たばっかだ。ちなみに唯は一足先に行かせたよ」

律「よし、丁度今ムギとそっちに迎えに行ってる途中だ。すぐ着くからそこで待ってろ、いいな?」

澪「ああ、頼む」


146:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:39:35.16 ID:NzZfbvjxo


唯「はぁっ……はあっ……」

 私は、滝のように汗をいっぱい流しながら必死に自転車を漕いでいた。
 空は雲が全くない青空が広がり、遠くには入道雲が立ち昇り、太陽の光がいっぱい私に降り注いでいる。
 両耳にはセミの鳴き声が、まるで急かすかのように聞こえてきていた。
 午前中は涼しかった気温もグングンと上がって、今は完全に夏と呼べるような、そんな暑さになっていた。

唯「あずにゃん……私が行くまで……待ってて……」

 そう祈るように自転車を漕ぎ続け、ようやく家に着いた私は自転車を玄関前に乗り捨てて家の中に駆け込む。

唯「あずにゃんっ!!」

 家中をくまなく探しながら声をかける。

唯「あずにゃん、いたら返事して!!」
 
 ひたすら呼びかけたものの、返事はなかった。
 もうあずにゃんはいなくなっちゃったのかな……そう諦めようとした時、電話が鳴った。

唯「もしもし?」

澪「唯か!今どこだ!?」

唯「私の家だけど……澪ちゃんは今どこ?もしかして会社早退できたの?」

澪「ああ、所長が帰してくれたんだ。それで今は律の車でそっちに向かってる!」

唯「ねぇ聞いてよ!あずにゃんがいないんだよ、どこにも……」

澪「え?」

唯「家中探したけど何処にもいないんだよ!どこいっちゃったんだろ……」

澪「落ち着け唯!……え?ムギ、何だって?」

唯「どうしたの?」

澪「あ、いや……ちょっとムギに電話代わるぞ」

紬「もしもし唯ちゃん?聞こえる?」

唯「うん」

紬「いい?よく聞いて!梓ちゃんと初めて会った場所は何処?」

唯「えっと……高校の部室だけど……」

紬「そうじゃなくて、記憶が無くなった梓ちゃんと再会した場所よ!」

唯「うーん、確か……家の裏山の神社だったかな」

紬「ならきっとそこに向かったのかも。唯ちゃんはすぐに裏山に行って!私達もすぐ後を追うから!」

唯「うん!わかった」

 通話を終えた私はすぐに家を出て、もう1度自分の身体にムチを打つかのように裏山の方向へ全力で駆け出した。


147:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:45:00.65 ID:NzZfbvjxo


 ―― 裏山

 私は梓ちゃんと純ちゃんの3人で神社の前まで来ていた。
 この森は、頭上まで枝と葉っぱに覆われちゃう位うっそうとした場所で、本当なら大量に降り注ぐはずの陽の光は、葉っぱに遮られてちょっとしか差し込んでこない、少し薄暗い場所だった。
 そして目の前に佇んでいる古い社の扉は6週間前と同じように開け広げてあった。
 だけど吹き付ける風で、その扉はグラグラと、揺れ動いている。

梓「ねえ憂、純」

 社の正面まで来た所で、梓ちゃんは足を止めて話しかけてきた。
 私達2人は何も言わずに、ただ黙って梓ちゃんの目を見つめる。

梓「2人に言っておかなきゃいけない事があるの。私ね――」

憂「……嫌だよ」

梓「え!?」

憂「嫌だよ!折角また梓ちゃんと会えたのにまたお別れしなきゃいけないだなんて……私、そんなの嫌だよぉ……ぐすっ」

梓「ごめんね憂。大事なことなのに最後まで黙ってて……本当に悪かったと思ってる」

憂「だっだら……ヒック……何処にも行がないでよぉ……ぐすっ……行がないでっで前に約束したよね?」

梓「うん……でも、どうしてもお別れしなきゃいけないんだ……私も憂や純と会えなくなるのは辛いけどね」

 梓ちゃんは申し訳なさそうにそう言うと、私の目尻についた涙を自分の指でそっとふき取ってくれた。

憂「ねぇ梓ちゃん」

梓「何?どうしたの?」

憂「ごめんね……私がもっとしっかりしてれば梓ちゃんは死ななくて済んだのかもしれないのに……本当にごめんね梓ちゃん……」

純「憂はさ……梓が死んじゃったのをずっと自分のせいだと思い込んでたんだよ。自分がしっかりしてたら、あんたの異変に気がついていれば、こうはならなかったって……」

梓「そんなことないよ。これっぽっちもないから!」

憂「え!?」

梓「私はね、高校に入ってすぐに憂や純と友達になれてすごく良かったって思ってる。2人がいつも私を支えてくれてたお陰で私は楽しい毎日を送ることが出来たんだからさ。だから憂が謝る必要なんてない、むしろ私からお礼を言いたい位なんだよ」

憂「梓ちゃん……」

梓「それに、新歓ライブのあったあの日に憂に出会ってライブに誘ってくれたから私は軽音部に入ることが出来たし、みんなと出会うこともできたから……だから、本当にありがとう、憂」

 私の視界は既に涙でぐしゃぐしゃで何も見えなかった。
 だけど梓ちゃんが私の両手をしっかりと両手で握ってくれているのは感触でよく分かった。

憂「ううっ……ヒクッ……グズッ……梓ちゃあん……」

梓「ほら、もう泣かないで、ね?」

憂「う、うん……」


148:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:46:32.43 ID:NzZfbvjxo


純「梓……」

梓「純……思えば今までずっと私、純に助けられっぱなしだったよね」

純「やめてよ……別に私、梓にお礼されるようなこと何もしてないって」

梓「いつだって純はそうだった。マイペースでいい加減でふざけてばかりだったけど、いつも私のことを黙って見てくれていて、私が困ってると背中を押してくれてた」

純「だからやめてってば……私、そんなんじゃないから……それ以上言われたら私、梓のこと笑顔で見送れなくなっちゃうじゃないの……」

梓「私にとって純は、腹を割って話せる一番の友達だったから……その、今までお世話になりました。ありがとう、純」

純「もう、何なの、そのベタな台詞は……バカ梓っ!……ぐすっ」

梓「ふふっ」

純「全く……少しは感謝しなさいよ?折角この私がわざわざ見送りに来てあげてるんだからさ」

梓「はいはい、そういう事にしといてあげる」

純「最後の最後まで……でも……梓らしいといえば梓らしいや……」

梓「人のこといえないでしょ?」

純「う、うるさいっ!あ、でも最後に私からもあんたに言っておきたいことがあるんだ」

梓「なに?」

純「その……ありがとう梓、また戻ってきてくれて……」

梓「うん、純も元気でね」

憂「それはそうと、お姉ちゃんには会わないの?」

梓「どうなのかな……多分今こっちに向かってるんじゃないのかな」

憂「お姉ちゃん、間に合うのかなぁ……」

純「大丈夫だよ憂、唯先輩なら必ず来る、来ない理由がないんだから」

梓「そうだよね。そういえば思い出すなぁ……前にもこんな事あったよね。学祭で唯先輩がギターを忘れて家に取りに戻って、何とかギリギリで間に合ったあの日のライブ。あの時は間に合ったんだから今回も絶対に来るよあの人は」


149:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:47:36.65 ID:NzZfbvjxo


 梓ちゃんがそう言った直後、麓の方から誰かが上がってくるのが見えた。
 私はお姉ちゃんが来たかと思って、そっちの方を向いた。
 だけど上がってきたのはお姉ちゃんじゃなくって、軽音部の皆さんだった。

律「はあっ……はぁっ……ふぅ……何とか間に合ったようだな」

 軽音部の皆さんは息も絶え絶えに大急ぎでここに走りこんできた。
 だけどやっぱりお姉ちゃんはいない、どこに行ったんだろう……

憂「あの、お姉ちゃんは一緒じゃなかったんですか?」

澪「唯なら私より一足早く帰らせたんだけどな……電話でこっちに向かうって話はしてたんだけど、一体どうしたんだろう」

憂「あの、もしかしたらまだ家にいるかもしれないので、私ちょっと家見てきますね!」

純「待って!それなら私も付いてくよ」

 私と純ちゃんは、お姉ちゃんを迎えに行くために大急ぎで山を降りて家へ向かった。

梓「ちょっと!憂!純っ!」


150:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:49:35.98 ID:NzZfbvjxo


紬「いっちゃったわね、憂ちゃんと純ちゃん」

梓「ええ……」

梓「先輩方にもお礼を言っておかないといけませんね。私、軽音部に入って、みなさんと演奏できてよかったです!本当にお世話になりました!」

律「もう、よせよっ……くっ」

澪「なあ梓、本当に何とかならないのか?このまま何処にもいかないでずっとここに居られる方法とかあるんじゃないのか?」

梓「すいません……私もずっとここに居たいんですけど、どうにもならないんです。雨の季節が終わったら去らなきゃいけない……日記にそう書いてあって、あらかじめ決められてた事みたいなんです」

律「そっかぁ……また寂しくなっちゃうけど、短い間だったとはいえお前に会えたんだから……それだけでも十分私等は幸運だったんだよな」

梓「かもしれませんね……でもみなさんと最後に演奏することなく去らなきゃいけないのはちょっと心残りですけどね」

紬「そうね、せめてあと1回、梓ちゃんと演奏したかったわ」

梓「みなさんが歳を取って、私のとこに来れたらまた演奏しましょう。待ってますからね」

律「何十年先になるか分からないけどなっ」

梓「そうですね。その頃には先輩方みんなもうお婆ちゃんになってるのかな?ふふっ」

紬「もう!梓ちゃんったら……」

澪「それにしても……唯の奴遅いな……」

律「ちゃんとここに来いって教えたのか?」

澪「私はちゃんと伝えたぞ!」

紬(お願い、唯ちゃん……間に合って……早く)


151:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:52:39.43 ID:NzZfbvjxo


唯「はぁっ……ふぅっ……ひぃっ」

 その頃私は山道を走り続けていた。
 急な上り坂を全力でダッシュしてるせいで、呼吸が困難になり頭の中もフラフラしてきて足元がおぼつかなくなってきていた。
 
唯(あずにゃん……まだ行っちゃだめだからね)

 私は何度も転びながら必死に頂上を目指した。
 別にこの身体がどうなってもいい。今急がなかったら私はこの先の人生、後悔しながら過ごす事になるから。
 そして私は走りながら力の限り叫んだ。

唯「あずにゃああああんっ!!」

 ――

律「!?今の声!」

澪「ああ、やっと来たか!」

梓「……唯先輩」

 私が神社に着くと、そこには軽音部のみんなとあずにゃんがいた。
 じっと丸太の上に座ってたあずにゃんは、私の姿を見ると立ち上がってこちらを嬉しそうに見つめてくれてた。

梓「よかった……間に合ったんですね」

 あずにゃんは、自分の目の前で膝に手を付いて息を切らしている私に、穏やかそうな顔でそう話しかけてきた。

澪「唯、憂ちゃん見なかったか?」

唯「え?見なかったけど……憂がどうかしたの?」

澪「憂ちゃんと鈴木さんがさ、唯が来ないからもしかしたら家に居るんじゃないかって迎えに行ったんだよ」

唯「もしかしてどこかですれちがっちゃったのかなぁ」

梓「最後くらいみんな一緒にいたいのに……憂も純も早く戻ってきてくれないかなぁ」

澪「よし、それじゃ、私等はちょっと離れてるか」

紬「そうしましょう」

唯「みんな……」

律「私達はあっちにいるからさ、お前は梓としっかり話をしとけよ。今度こそ心残りのないようにな……」

唯「うん、わかった」


152:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:55:19.87 ID:NzZfbvjxo


 私とあずにゃんは社の前の階段に2人で並んで座っていた。
 ただ何も言わずに私を笑顔で見つめてくれているあずにゃんの姿を見てたら、熱いものが段々とこみ上げてきそうになる。

唯「あずにゃん、私ね――」

梓「待ってください!」

梓「唯先輩、昨日の夜、言いかけててやめた言葉があったでしょう?こんな私と一緒にいて本当に幸せだった?て多分そう言おうとしてたんですよね」

唯「うん……ごめん、本当にごめんねあずにゃん。私、あずにゃんを幸せにしてあげたかったんだよ……こんな駄目な先輩で本当にごめんね……」

梓「もう、何言ってるですか!ほんっとよく似た姉妹ですね」

唯「え!?」

 あずにゃんはそう言って目を真っ赤に腫らせた私の顔を触りそうな位近い位置で見つめ、両頬を両手でさするように触ってきた。
 私は何もすることなく、ただ泣くのを堪えながらじっとあずにゃんの顔を見つめ続けた。

梓「幸せだったんです、私は。ずーっと幸せだったんですよ?あなたを好きになってから、ずっとね」

梓「私の幸せは、唯先輩なんですよ。先輩の傍にいられた事が、私にとっての幸せだったんです」

 よく見たらあずにゃんの目も潤んでいた、泣きたいんだろうけど、それを我慢しているのが分かった。

梓「出来るなら……ずーっといつまでも、唯先輩の隣にいたかったです」

唯「あずにゃん、今からでも何とかならないの?1度起きた奇跡は2度起きるかもしれないって、前にも言ったよね?」

梓「それは無理みたいなんです。どうしても戻らなきゃいけないんです」

唯「そっかぁー、残念だなぁ……」

 いつのまにか私の目からは、溢れんばかりの涙が流れ出していた。
 2度目の奇跡はない事を知り、2度目のお別れが目の前に迫っている今、もう我慢なんか出来るもんじゃなかったから。

梓「先輩、1つ聞きたいことがあるんです」

唯「なに?」


153:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:57:52.36 ID:NzZfbvjxo


梓「唯先輩こそ、私なんかと一緒になって本当に良かったんですか?」

唯「どうしてそんなの訊くの?」

梓「だって私と一緒になったせいで、唯先輩も、他のみなさんもこうして辛い想いをしなきゃいけなくなったから……私に会わなければこんな悲しい目に会わなくて済んだはずですよね」

唯「そんなことある訳ないじゃん!」

梓「え?せ、先輩?」

唯「あずにゃんがいたから、私は今までやってこれたんだよ!あずにゃんが私を支えてくれたからこそ、私は自分の身体と向き合うことが出来たんだよ!だから私は後悔なんかしてない、あずにゃんに出会えて本当に良かったって……だからそんな事言わないで、ね?」

梓「……はい。そう言ってもらえて嬉しいです」

 そう言った時、私はあずにゃんの手に異変を感じた。
 見間違いならいいけど、手が透けて見えたんだ。

唯「あっ!あずにゃん、その手……」

梓「えっ!?」

 あずにゃんは左手を空にかざして、じっとそれを見つめる。
 気のせいじゃなかった……あずにゃんの手の向こうには、新緑の葉っぱが映りこんでいたんだ。

梓「どうやら時間みたいですね」


155:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/03(日) 23:59:41.63 ID:NzZfbvjxo


 その直後、突然季節外れの冷たい風が突風になって私達に吹き付けてきた。
 その風はまるで、社の中へと流れ込むように吹いているように感じられる。

梓「ねぇ唯先輩?」

唯「どったの?あずにゃん」

梓「……寒いですね」

唯「……だね」

 私達は立ち上がって扉の方向に向かって並んで立って、私とあずにゃんは手を握り合う。
 そしてその握り合った手を、私はスーツのポケットに引き入れた。
 そう……あの寒い夜、駅のホームでやった時と同じように……

 昨日の夜、私がはめてあげた指輪の冷たい感触が暖かいポケットの中から直接私の神経に伝わってくる。
 あずにゃんの頭が私の胸に寄りかかってきて、私は強く抱き続けた。

梓「ありがとうございました……唯先輩――」

梓「あなたの隣は、居心地がよかったです……」
 
 その直後、社の扉がゆっくりと音もなく閉じていく。
 まるであずにゃんを迎えに来たかのように――


157:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:01:04.94 ID:scvwc1Q4o


憂「梓ちゃーん、お姉ちゃん結局見つからなかったよ」

純「って、あれ、唯先輩来てるじゃん」

 憂と純ちゃんがやってきたのはその直後だった、まるで入れ違いのように。

憂「ねえお姉ちゃん、梓ちゃんはどこ?」

 一部始終を何も知らない憂に対し、私は背中を向けながら言った。

唯「ごめん憂……あずにゃん、もう居ないんだ……もう、帰っちゃったんだよ」

憂「え……!?嘘……だよね?お姉ちゃん、嘘なんでしょ?」

 黙って首を横に振る。

純「そんな……梓……なんでっ!」

憂「嫌だよ……そんなの絶対嫌だよ……梓ちゃん……」

憂「あずさちゃああああんっ!!」

 憂の叫び声がセミの鳴き声以外何も聞こえない森に響き渡る。
 私は何も言わず、ただその場に立ち竦むしかできなかった。
 でも、ポケットの中……あの冷たい感触、あの指輪は私のポケットの中に残ってた。


158:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:02:38.59 ID:scvwc1Q4o


 ―― 翌日

 この日私は、部屋で何をするでもなく、ただ1人でぼーっとしていた。
 昨日まではこの部屋にあずにゃんもいたけど……今はもう私しかいない。
 じっとしていればしているほど寂しさがこみ上げてくるから、何かしようと思って立ち上がろうとしたその時……

唯「あれ?このダンボール……」

 私の目に見慣れないダンボールが映る。
 そこには「Azusa」と書かれてあって、あずにゃんの残した物だというのがすぐに理解できた。

唯「あずにゃん、私に内緒でしまっておいたんだね……私に隠してまで何を入れてたんだろう」

唯「ちょっとぐらい中見てもいいよね?このままじゃ気になって眠れないもんね」

 中を見ると、私や軽音部のみんな、憂や純ちゃんとの今までの思い出の品々が入っていた。
 そこには、学生時代に私が送った手紙の便箋も含まれてた、それも全部。

唯「懐かしいなぁ……あずにゃん、私の手紙捨てずにとっておいてくれてたんだ……あれ、これは?」

唯「日記帳?そういえば一昨日の夜、これを見て記憶が戻ったっていってたよね。一体何が書いてあるんだろ」

唯「うぅーん、気になる!気になるなぁー。常識で考えたら見ちゃいけないんだけど、やっぱり見たいなぁ……」

唯「やっぱり我慢できないや!少しだけ読ませてもらいます、あずにゃん」


159:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:03:31.07 ID:scvwc1Q4o


~~~~

 4月22日

 今日、私は知り合ったばかりのクラスメイトの子に連れられて新入生歓迎会に行った。
 そこで私は、気になる人を見つけてしまった。
 軽音部の紹介のライブ演奏中、私はステージ真ん中でギターを弾いている人に目がいってた。
 それからというもの、その人の事ばかり思い出してばかりいる。
 もしかしたら、女の子同士なのにその人の事が好きになってしまったのかもしれない。
 変かもしれない、いや、かなり変だ。でもそう思わずにはいられない。
 
 一緒に新歓に行った知り合ったばかりの子が言うには、どうもそのギターの人は、その子の実のお姉さんらしい。
 なんていうか、すごい偶然かも。
 高校に入って初めて出来たその友達の名前は平沢憂。
 私と憂はすぐに打ち解けることができた。もしかしたら彼女とは、これから長い付き合いになるのかもしれない、そんな気がする。


160:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:04:59.89 ID:scvwc1Q4o


 4月23日

 放課後、私は軽音部の部室である音楽室へ行った。
 勿論、入部届を出す為に。
 部室に入るや否や、いきなり部長さんに飛び掛られてしまった。
 正直びっくりだ、一体どんな部活なんだろうか、ここは。
 目の前には、ギターを弾いていたあの人がいる。この時の私は正直ちょっと緊張してたかも。
 でも、見た感じ憂の言ってた通りとても優しそうでいい人そうだ。
 
 彼女の名前は2年2組、出席番号2X番、平沢唯。

律『てことは、ライブでの私等の演奏聴いて入部を決めてくれたんだ』

梓『はいっ!私、新歓ライブでのギターの先輩の演奏がすごく印象に残ってここに入部するって決めたんです!』

澪『だってさ、唯』

唯『ふぇー?』

梓『よろしくお願いします唯先輩!』

唯『先輩……唯先輩……』ほわーん

 唯先輩、私に声を掛けられてなんだか心がどっかにいっちゃったようだ。
 なんか想像と違って変な人だなぁ、今まで見たことがないタイプの人だ。


161:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:06:14.21 ID:scvwc1Q4o


 それからは毎日練習の日々、だと思ってたらそんな予想は見事に裏切られた。
 毎日楽器すら触らないでお茶飲んだりお菓子食べたり、本当にここ軽音部なのかな。
 律先輩は部長なのにすごいだらけてて、私の憧れの人だった筈の唯先輩はそれ以上にだらけてて、すぐ抱きついてくるわ私の事を「あずにゃん」とか勝手にあだ名をつけてくるわ、あのステージでの姿は一体なんだったんだろう、まるで別人だ。
 はたから見れば変な人だけど、それでも突き放す気分にはなれない。
 何をされても許せてしまう、口では色々言ってるけど、内心はそれ程まんざらでもないし、不思議な人だ、この人は。


162:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:07:15.65 ID:scvwc1Q4o


 8月15日

 この日は海にあるムギ先輩の別荘に泊まりこみで合宿をした。
 私にとっては、この日はとても忘れられない夜になってしまった。

 夜中、トイレに行った帰りにスタジオに明かりが付いてたのを見て、気になって様子を見に行ってみると、唯先輩が1人で練習をしてたんだ。
 唯先輩、ギターを弾くのに夢中になってて私が見ているのに気が付かないみたい。
 正直、唯先輩がこんなに熱心に練習してるなんて思いもしなかった。
 考えを改めさせられた。この人はただふざけて怠けているだけの人じゃないんだ。むしろ人一倍頑張っている人なんだと。
 今の私にはこのまま黙って部屋に帰るなんて出来ない、どうしても唯先輩の事が放っておけない。
 唯先輩と一緒にギターを弾きたい、もしかしたら練習なんて口実なだけなのかもしれない。


163:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:08:22.98 ID:scvwc1Q4o


唯『ごめんねあずにゃん、こんな夜遅くに練習付きあわせちゃって』

梓『いいんです、気にしないでください。私も唯先輩と一緒にもっと練習したいと思ってましたから』

 もっと練習してたい……この人は楽譜は読めないし用語も知らない、コードも覚えてないし何でこんなんで今までやってこれたのか疑問しか出てこない人だけど、それでも私は唯先輩にギターを教えるのが苦じゃなかった……いや、むしろ楽しかった。
 
唯『私、あずにゃんに出会えて良かったよ!』

梓『えっ?うわわっ!』

 私が教えた甲斐もあって、今まで出来なかった部分が出来るようになった唯先輩は私に抱きついてきて、その反動で床に押し倒される形になった。
 先輩からすれば、出来なかった事が出来る様になった嬉しさと感謝の気持ちがああいう形になっただけなんだろうけど、私にとっては正直心臓が止まるかもしれない衝撃だった。
 
 やっぱり、私は唯先輩のことが好きなんだ。
 でも、唯先輩は私の気持ちを全然知らないかもしれない、というか女の子同士、知るわけがない。
 いわゆる片思いってやつなのかな。


165:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:10:54.63 ID:scvwc1Q4o


 10月1日

 学園祭が間近に迫ってるっていうのに、唯先輩はさわ子先生が作った衣装を着て一晩過ごしたせいで風邪を引いて寝込んでしまった。
 澪先輩からはリードの練習もしておいてくれって言われたけど、唯先輩の代わりなんて他の誰も務まるわけがない。
 というより唯先輩抜きのライブだなんて私には耐えられない、辞退した方がマシだ!と思うだけなら良かったものの、ついうっかり口に出してしまった。
 心配で最近は夜もロクに眠れてない私にとってはそれ位切実なんだ。
 
 10月5日

 今日は学園祭!なんと本番直前になって唯先輩が部室に戻ってきた。
 どうやら風邪が治ったらしい、私はこの時本当に嬉しくて半分泣きがはいってたのかもしれない。
 唯先輩は私に「ごめんね」と優しく、そして本当に申し訳なさそうに声をかけてきてくれた。
 それならそれで素直に喜べばいいのに私は心にもない事を言って、挙句の果てには頬を引っぱたいてしまう。
 むしろ唯先輩じゃなくって、肝心な時に意固地になる私自身を殴りつけてやりたい。
 でも……本当によかった……

 翌6月28日

 期末試験も迫ってるっていうのに、唯先輩は隣のお婆さんの為に演芸大会に出ようとしてるらしい。
 それも本番は試験の翌日……一体何を考えてるんだろうあの人は。
 お世話になったお婆さんへの恩返しのために出るらしいって憂は言ってたっけ……唯先輩らしいな、そこがあの人のいい所なんだよね。
 
 放課後、私はお母さんからお使いを頼まれたついでに唯先輩を探した。
 部室は使用禁止だし、家じゃ憂に気を使って音は出せないだろうし、どこか外でやってるんじゃないかなって予想して気になった場所を見て回った。
 以外とあっさり見つかった、近所の河原で1人でギター持って練習してるのを見つけると、私はさも偶然を装って先輩に声を掛けてみる。
 私は唯先輩に演芸大会に一緒に出たいとお願いしてみた。
 先輩はすごく嬉しそうにOKしてくれた。何でも言ってみるもんだね。
 正直この人は見てて危なっかしくて放っておけないから……というのはまあ確かに間違ってないけど、本当の理由はもっとシンプルだ。
 
 ぶっちゃけ、理由なんかどうでもいい。
 私は唯先輩の隣にいられるだけでいい。
 隣にいて、唯先輩の喜ぶ顔が見たい……それだけで、ちょっと幸せ。


166:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:13:10.98 ID:scvwc1Q4o


 8月14日

 さわ子先生がチケットを持っていたお陰で、私達軽音部は夏フェスに行くことになった。
 確かにバンドの演奏を聴くのは楽しかったけど、私の中にはモヤモヤする物があった。
 それは当然あの人のことだ。
 もうすぐ先輩達は卒業してしまう、そうなれば会う機会も減ってしまう。
 いや、会えるかどうかの保証もない。
 だから唯先輩に想いを伝えることができる時間はもうあまり残ってない。
 幸いこの日の夜、唯先輩は1人でライブ会場の音楽を聴いていた。
 シチュエーション的にも最高だ、今しかチャンスはないんだ。


167:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:15:08.09 ID:scvwc1Q4o


梓『せーんぱい』

唯『あっ、あずにゃーん』

梓『こんなところで何してるんですか?』

 何となく平静を装って近づく、なんかすっごい緊張してくる。

唯『遠くから聞こえる曲、聞いてたの。本当に一晩中やってるんだねー』

唯『まー座りんさい』

梓『あ、はい』

梓『じっとしてたら蚊に刺されませんか?』

唯『大丈夫、虫除けバンド両手にしてるから』

梓『はぁ』

唯『一個あげよう』

梓『どうも』

 貰った虫除けバンドを腕にはめて、私は唯先輩の顔をじっと見つめる。
 今しかない!こんな時に勝負をしなくていつ勝負するんだ私!
 
 覚悟を決めた私は「あの」と言い出した……つもりだった。
 けどその空気は突然思いもよらない形で破られることになっちゃった。

律『あーらお2人さん、こんな所で内緒のお話ぃ?』

 肝心なとこで律先輩とその他先輩方が現れ、私のチャンスは見事に潰えた。
 正直残念だった。けど……私は自分に言い聞かせる。
 もう半年しかない!じゃなくて、まだ半年あるんだ!と。
 まだチャンスならある、作ってみせなきゃ。
 すぐに頭を切り替えよう。
 唯先輩だけじゃなくて軽音部の先輩方全員と楽しめる最後の夏なんだからね。

 それに、こうしていられるだけでもやっぱり幸せであることに変わりはないんだから。


168:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:16:21.44 ID:scvwc1Q4o


 唯先輩、あなたのことをもっと知りたいです。
 あなたはなんの本を読んでるんですか?
 どんな音楽が好きですか?
 どんな色が好きですか?
 どんな……人が好き?
 
 あれから私は何度も唯先輩に自分の気持ちを打ち明けようとした……けど、どうしてもできない。
 やっぱり変だから……女の子同士なんて禁断の愛、こんなの先輩に言っても気持ち悪がられて逆に軽蔑されるのがオチだ。
 だから怖くて言えなかった……素直じゃない上に度胸もない……こんな自分が時々嫌になる。
 
 何も始まらないまま、ついにお別れの日が来てしまった。
 どうしよう。
 どうしたらいいの?


169:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:18:17.32 ID:scvwc1Q4o


―― 3月1日 2年1組 放課後

梓『』ぼー

純『梓、私そろそろジャズ研いくね。先輩達に挨拶しなきゃいけないから。梓も軽音部行かなくていいの?』

憂『梓ちゃんずっとあの調子だよね』

純『心ここにあらずって奴か』

憂『梓ちゃん、お姉ちゃんの事ずっと考えてるんだよね?』

梓『なっ……!そっ、そんなんじゃないもん!!』

純『そうムキになって否定するって事は、図星だったみたいだね』

梓『わ、私は別に……っ!』

憂『私も純ちゃんもずっと気が付いてたんだよ?梓ちゃんがお姉ちゃんのこと好きなんだって。お姉ちゃんは気が付いてないみたいだったけど』

純『早くいってあげなよ唯先輩のとこへさ。今日逃したらもう当分会えないんだよ?』

憂『そうだよ。梓ちゃんとお姉ちゃんはお似合いだと思うし、お姉ちゃんもきっと梓ちゃんを受け入れてくれるから。妹の私が保証するから絶対に大丈夫、うまくいくよ!』

梓『でもさ、考えてもみてよ。私も唯先輩も女の子だよ?だからそんなのって――』

純『だーーっ!!いつまでウジウジしてんのさもう!そんなの関係ないでしょ。男と女なんて生物学上の区別でしかないんだって!唯先輩が好き、それだけの理由があれば十分なんだって』

梓『そんなもんなのかな……』

純『もしここで何もいえなかったらさ、あんたこの先ずっと後悔するよ。そんなの嫌でしょ?』

梓『うん……』

憂『梓ちゃんがお姉ちゃんを取りにいかないんなら、私がお姉ちゃんを貰っちゃおうかなぁ……』

梓『そ、そんなぁ!』

憂『ふふっ、冗談だよ冗談。私とお姉ちゃんは姉妹だもん。いくら何でもそんな関係にはならないって』

梓『もうっ!憂までそんなことをっ』

純『じゃあさ、口で言うのが苦手なら、手紙に書いて渡すってどう?これなら平気だよね』

梓『それいいね!ナイスアイディア純!』

純『へっへー。いざという時に頼りになるのがこの私、感謝しなさいよあずにゃん』

梓『全く、少し褒めるとすぐ調子に乗るんだから……』


170:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:19:25.71 ID:scvwc1Q4o


 純のアイディアで私は先輩方に手紙を書いて部室で4人全員に直接手渡した。
 けど、唯先輩への手紙の内容、これって告白というより普通の感謝の手紙なだけなような……
 
 部室では先輩方がわざわざ私のために曲を披露してくれた。
 そして帰り、下駄箱で突然唯先輩が1枚の色紙を手渡してきた。


171:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:20:03.34 ID:scvwc1Q4o


唯『実は私達からあずにゃんへもう1つプレゼントがあるのです!』

梓『え?さっき歌ってくれたあの曲だけじゃなかったんですか?』

律『あれとは別にな。ま、所謂突発企画なんだけどさ』

澪『梓も私達に手紙を書いてきてくれたんだし、お返しになるかなって』

唯『はい、どうぞ!あずにゃん』

梓『え!?これ……寄せ書きの色紙……ですよね』

紬『ええ、私達も梓ちゃんに何か形に残る物を残したくてね』

梓『ありがとうございます!私、この色紙大事にしますから!』 
 
 その色紙の真ん中には一際目立つ大きさで唯先輩からのメッセージが書いてあった。
 まるで他の3人の先輩達が唯先輩に場所を譲るように……そんな風にも見える。

 【ありがとう、あずにゃんの隣は居心地がよかったよ ゆい】


172:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:20:54.17 ID:scvwc1Q4o


 放課後の帰り道、唯先輩とこうやって一緒に帰るのも今日で最後。
 そう考えるとすごく寂しい気持ちになってくる。
 結局何も進展しなかった……親身になってアドバイスしてくれた憂と純には申し訳ない気持ちで一杯だ。
 
唯『それじゃあずにゃん、私こっちだから』

梓『はい、さようなら唯先輩』

唯『ねえあずにゃん』

梓『はい?』

唯『私達……また、会えるよね?』

梓『え、ええ……』

唯『そうだよね!それじゃあずにゃん、また会おうね、元気でね!バイバーイ!』

梓『唯先輩もお元気で!憂がいなくてもちゃんと1人暮らしやってくださいね』

 横断歩道を渡って段々小さくなっていく唯先輩の背中を見守る私。
 ここでふと気が付く、さっき貰った色紙にペンが挟まってたんだ。
 このペンは覚えてる、前に一緒に勉強した時に唯先輩が使っていたペンだ。 

 あの時、すぐに追いかければ返せたのに……
 でも……私は行かなかった。
 だって、持っていればもう一度唯先輩に会える。
 返したいって電話をすれば、また先輩に会えるから。


173:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:22:23.15 ID:scvwc1Q4o


 
 夏休み、唯先輩がこっちに帰省してると聞いて電話をしようとした。
けど、その一歩が中々でない。
 単純にペンを返しますって言うだけなのに。
 でも……その勇気が出ない。
 何でもないただの電話なら何も気にしないでかけれるのに、意識すればする程決心が鈍くなる。

 そう悩んでいるうちに、あっという間に秋になってしまった。
 そんなある日……


174:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:23:36.82 ID:scvwc1Q4o


 prrr

唯『あっ、あずにゃん?お久しぶりぶりーっ!元気してた?』

梓『お久しぶりです唯先輩。なんか相変わらずみたいですね先輩は』

 驚いた。まさか唯先輩の方から電話をくれるなんて思わなかった。
 
唯『それでね、お願いなんだけど今から会えないかな?』

梓『どうしたんですか急に』

唯『えっとね、卒業式の日に渡した寄せ書きの色紙覚えてる?』

梓『ええ』

唯『実はあの寄せ書きにペン挟んだまま渡しちゃってて……突然でなんだけど返して欲しいんだ』

 唯先輩に会える、会えるんだ……
 もしかしたらこのペンは幸福を呼ぶペンなのかもしれない。

 こうしてペンを返すため、すぐに待ち合わせの為に学校の正門前に行った。
 私が来てすぐに唯先輩が現れた。

梓『すいません、大事なペンを』

唯『ううん、いや……いいんだよ別にさ。それよりありがとね?』

梓『あっ……はい……』

唯『……本当に久しぶりだよね。元気だった?』

梓『はい……』

唯『そっかー』

唯梓『……』


175:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:24:22.54 ID:scvwc1Q4o


 久しぶりにあったからなのか、緊張して声が出ない。
 何か言いたいんだけど、頭の中が真っ白でどうしたらいいか分からない。
 高校の頃みたいに抱きついてきてくれればまだ話題を作り出せそうなんだけど、抱きついてはこなかった。
 やっぱ大学に行って大人になっちゃったのかなぁ。
 とにかく今は気まずい空気になってた、この状況をどうにかしなきゃいけない……

梓『それじゃあ……私行きますね』

 私は踵を返して帰ろうとしてしまう。
 こんなんじゃダメだ私は……!
 あんなに会いたかったくせに、このまま帰っちゃうの?
 本当にそれでいいの?

唯『あっ!ちょっ……ちょっと待って!』

唯『あ、あのね!今度の日曜空いてないかな?』

梓『え?』

唯『その……遊びに行かない?今回は2人でさ』

 びっくりした。まさか唯先輩の方から誘ってくれるだなんて。
 内心とても嬉しかった。でも唯先輩に気取られたくなかったから私は振り向く事をしないで、唯先輩に見られないようにこっそり微笑んだんだ。

梓『……勿論いいですよ』


176:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:26:02.30 ID:scvwc1Q4o


―― 日曜日

 この日、私達は2人でお出かけをした。
 途中で喫茶店に入るとまるでダムが決壊したみたいに、唯先輩はしゃべり続けた。
 大学のこと、部活のこと、そして私の事が好きだったことも。
 私はあんまり話せなかったけど、すごく幸せだった。
 あなたの隣にいられる、それだけでいいんだから。
 ずーっとこの時間が続けばいいのに。


177:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:27:23.50 ID:scvwc1Q4o


 途中、唯先輩が通りの隅にある雑貨屋さんに行こうって言い出した。
 中に入って最初に目に付いたのは一対の指輪。
 この時私は、この指輪を唯先輩と二人で分け合ってる姿を妄想してニヤけ顔をひたすら我慢してた。
 欲しいなあこれ。でもちょっと高い……私の今月のお小遣いじゃ買えないなぁ……
 
唯『ペアの指輪だねぇ。いいねーこれ!あずにゃんはこの指輪を私とおそろで付けたいのかな?』

梓『なっ!べ、別にそんなんじゃないです』

 全く、この人は人の心を読む能力でもあるんだろうか。
 私の心を見透かされたような気分がして、ついつい否定してしまう。
 だけど唯先輩はその指輪を本当に買ってきてしまった。
 指輪は綺麗に左手の薬指に収まった……ていうか何で左手の薬指!?これじゃまるで……
 でも、この指輪をつけてると、どこにいても唯先輩がいつも隣にいてくれてるような……そんな気分になる。
 
 そんな楽しい時間もあっという間に過ぎてしまい、とうとうお別れの時間がきてしまった。
 もう真冬かって思う位身を切るような寒い夜、でも今日が終わったらまたしばらく唯先輩に会えなくなる……その方が私には辛い。


178:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:29:17.02 ID:scvwc1Q4o


梓『ねえ唯先輩』

唯『なあに?あずにゃん』

梓『……寒いですね』

唯『そだねぇ……あっ、そうだ!』

 唯先輩とポケットの中で繋いだ手、とても暖かくて寒い夜だというのを忘れてしまう程だ。
 本音を言えば別れたくない。「行かないで」と我侭を言いたい、けどそれはダメだ。
 
梓『あの、また会えますか?』

唯『ごめんね、明日の朝イチの電車で東京に戻らなきゃいけないんだ』

 明日になれば唯先輩はまた東京に戻ってしまう。
 気持ちを伝えられるのは今だけで、次はいつになるのか分からないんだ。
 だから私は考えた。指輪だけじゃなくて他にも何か先輩と繋がれそうなものを。
 
 そうだ、手紙だ!手紙をだせばいいんだ、メールではなく手紙を。

梓『そうですか……なら、手紙を出します!メールより手紙の方が、より唯先輩が近くにいるように感じられそうなので』

唯『うん!それなら私も手紙出すよ!』

 こうして、私達の遠距離恋愛が始まった。
 唯先輩は休みになるとよく会いに来てくれて、私も受験勉強の合間を縫ってよく東京まで会いに行ってた。


179:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:30:47.85 ID:scvwc1Q4o


 それからしばらくして春になった。
 私は大学受験に合格して、4月からは唯先輩と同じ大学に進学が決まってた。
 そんなある日、一通の手紙が届いた。

~~~~

 あずにゃんへ

 のっぴきならない事情で、これから先、あずにゃんへ手紙を送ることが出来なくなるかもしれません。
 もう会う事も話す事も出来ないかも。
 いきなりでごめんね……さようなら、元気でね。

 平沢 唯

~~~~

 たった3行の手紙、でもその3行の文章に私はショックを受けた。
 本当にこれ唯先輩本人が書いた手紙なの!?実はイタズラで他の人が書いた手紙なんじゃないの!?
 この手紙とほぼ同時に、憂からある事実を聞かされた。
 唯先輩が大学を辞めた……と。


180:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:33:23.01 ID:scvwc1Q4o


 何があったんだろう……私、何か先輩の気に障ることしちゃったのかな……いや、それで大学を辞めちゃうなんて考えられない。
 何かは分からないけど、今の唯先輩は他の誰にも話せない深い悩みを抱えてるんだ。
 居てもたってもいられなくなった私は、上京する前日、こっちに戻ってきている唯先輩に会いに行った。

梓『唯先輩、すいません突然押しかけて』

唯『あずにゃん、いきなりどうしたの?』

梓『この前の手紙の中身が気になって直接会って話を聞きたくて。その……迷惑でしたか?』

唯『うっ……』

 目の前にいる唯先輩は、私が知っている先輩とはまるで別人のようだった。
 目の生気は無くなっていて、髪の毛もボサボサ、顔色も悪い……明らかに普通じゃない、あのいつも明るくて元気だった先輩がこうなるなんて、一体どうしちゃったんだろう。

梓『いきなり先輩が大学辞めてこっちに戻ってきたって話聞かされてびっくりしましたよ。何かあったんですか?』

唯『その……うん、いろいろ計画があったからね。だからさ……もう会えないんだよ』

梓『どうして急にそんな……何か話しにくい事情でもあるんですか?話してくださいお願いします!私、先輩の力になりたいんです』

唯『いつかまた会えるといいね。また軽音部のみんなで集まってお茶したりとかさー。その頃にはもうお互い結婚しちゃってたりなんかしてー、えへへ』

唯『……幸せになってもらいたいんだよ、あずにゃんにはね』

梓『何で急にそんなこと――』

 どうしてそんな事言うんですか。
 私の幸せは、あなたの隣にいられる事なのに……
 ずーっとあなたの隣で一緒にいたい、ただそれだけなのに……

唯『――じゃ、私これからちょっと用事があるから!!』

梓『ちょっ!待ってください唯先輩!そんなんじゃ私……』

 何も理由も言わず、あなたは行ってしまった。
 本当に私達は、これで終わりになっちゃうのかな、こんなあっけなく終わっちゃっていいのかな。

梓『どうして何も言ってくれないですか……こんなのって……こんなの絶対おかしいよ……あんまりだよ』

梓『私、嫌ですよ……ゆい……せんぱい……どうして……ヒック……ぐすっ……』

梓『うわああぁぁぁあん!!』


181:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:35:13.44 ID:scvwc1Q4o


 唯先輩と別れてから数ヶ月が過ぎた。
 東京での暮らしも、大学にも慣れたものの、心の中にはもやもやした物が残ってた。
 やっぱり唯先輩のことが忘れられない。
 いや、忘れるなんてできない。
 たまらなく会いたい。
 せめてもう1度会って、ちゃんと話をして納得のいく返事が欲しい。

 そんなある日だった。
 その日、講義を終えて外に出ると雨が降っていた。
 梅雨入りしているのに私は傘を持ってくるのを忘れていて途方に暮れてしまう。
 仕方ないのでその場で雨宿りしていると、この学校の生徒らしい人に声を掛けられた。


182:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:36:52.86 ID:scvwc1Q4o


モブ『おっ、キミこの大学の生徒さん?』

梓『ええ』

梓(うわっ、何か面倒そうな人がきた……)

モブ『見かけない顔だね、もしかして今年入った新入生の子?』

梓『そうですけど……』

梓(すっごい嫌な予感しかしないんだけど……どうやって抜けだそうかな、これ)

モブ『ならさ、これから新入生の歓迎コンパがあるんだけどキミもどう?』

梓(やっぱりそのパターンだよね。当然No!Thank Youですよ。ん?あそこにいるのって……)

 この時校門の外、人ごみの中に見慣れた人の姿を見つけた。
 茶色のショートのボブヘアー、前髪を留めたヘアピン、間違えるなんてありえない、唯先輩だ。

梓(唯先輩?どうしてこんなとこに居るんだろう……)

モブ『ねえねえ君、話きいてるー?』

梓(あっ、帰ろうとしてる!とにかく、追いかけて話を訊かないと!)

モブ『おーい』

梓『すいません、ちょっと急用できたので失礼しますっ!!』


183:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:39:20.53 ID:scvwc1Q4o


 私は傘もささずに唯先輩を追いかけようと雨の中駆け出した。
 丁度夕方で、通りは学校や仕事帰りの人でいつも以上に溢れかえっていたせいもあって先輩の姿を見失ってしまう。

梓(唯先輩……どこ!?どこに行ったの!?)

梓(ひょっとしたら……唯先輩、私に会いに来たのかも。なら、どうして!?)

 私は人ごみを掻き分け必死に探した。
 絶対に会わなきゃいけない、そうしなきゃいけないという予感がしていたから。

 全身ずぶ濡れになりながら、私は駅前の交差点まで来ていた。
 ふと気になって駅のホームを見ると、そこには電車を待っている唯先輩の姿があった。
 壁によりかかってとても辛そうな仕草をしてる……どうしたんだろう、風邪でも引いたのかな。

梓(いたっ!唯先輩、やっぱりそうだ、唯先輩だっ!!)

梓『唯先輩っ!待って!先輩っ!!』

 はやる気持ちを抑えられなくなった私は、電車が来る前に唯先輩に追いつこうと青信号に切り替わった瞬間に横断歩道へ駆け出していた。
 
梓(電車が来たら一巻の終わりだ……とにかく急がなきゃ。お願い、気が付いて……唯先輩……)

日野デュトロ『ゴッフオォォォ!!』

梓『え!?』

 後から聞いた話だと、私はこの時信号の切り替わりに急いで飛び込もうとしてたトラックに撥ねられたらしい。
 薄れいく意識の中、私の視界は唯先輩が電車に乗り込む姿をずっと映し続け、ずっと唯先輩の名前を呼び続けていた。

梓『私……会わなきゃ……唯先輩に……』

梓『お願……い……まって……ゆ……い……』

 私の意識はここで完全に途絶えた。


184:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:41:30.97 ID:scvwc1Q4o


 ――

 気が付くと、私は全ての記憶を失って森の中に1人佇んでいた。
 そして目の前には少し歳をとったあなたと憂がいた。

 多分、誰に言っても信じて貰えないだろうし、自分でも信じられない。
 理由は分からないけど、交通事故に遭った18歳の私は、未来へジャンプしていた。
 6年後の、雨の季節に。
 私は唯先輩と結ばれていて、私達2人は一緒に生活をしている事を知った。
 記憶は無くなってたけど、とても幸せな毎日で、私はもう1度あなたに恋をした。
 だからあの旅行の夜、砂浜でしたキスは私にとっては初めてのキスで、あなたにとっては何度もあった事かもしれないけど、私にとっては初めての事でとても嬉しかった。
 あなたと1つ屋根の下で幸せな暮らしをして、25歳になった軽音部の皆さんとまた演奏をして、憂や純と高校時代と変わらない付き合いをしたり……
 私が夢にまで見た未来がそこにはあった。


185:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:45:55.40 ID:scvwc1Q4o


 でも私は知ってしまった。
 本当の私は、1年前に死んでしまっていることを……
 私は死んでしまう、23歳で。
 愛する唯先輩や大好きな人たちを残して……
 1年後の、雨の季節に戻ってくると約束して私は死んでしまうんだ……
 ひょっとしたらあの日記は、死期を悟った1年前の私がしまったものなんだろう。
 1年後に過去の私がこうしてタイムスリップしてくる事が分かっていたから。

 あなたを愛して、あなたに愛された6週間は私にとってはかけがえのない時間でした。
 雨の季節も終わって、私は6年後の世界に別れを告げて、元の世界へと戻りました。

 ――――――

 ――――

 ――

 未来から戻った私が、次に気が付いた時目に入ったのは病院の天井だった。
 どうやら6週間の間ずっと昏睡状態が続いていたらしい。
 みんな進学した大学がバラバラだったせいか、事故の事は両親以外誰も知らなかったようだ。
 ちなみに怪我は大した事なく、検査さえ終わればすぐに退院できるそうな。

 窓の外を見ると雨が降っていた。
 私はベッドから起き上がり窓の傍に行って外を見ながら物思いに耽った。

梓(あれは一体何だったんだろう……6年後の未来の世界……もしかしてずっと夢でも見てたのかな)
 
梓(いや……あれは夢なんかじゃない。夢にしては余りにもリアルすぎる。だから私は将来唯先輩と結ばれて、23歳の時にこの世を去っていくんだ)

 数日後、この世界での梅雨明けと同時に私は無事に退院できた。
 だけど私にはまだするべき事が残っている。


186:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:47:07.76 ID:scvwc1Q4o


 ――
 
 唯先輩

 もしこのままあなたと出会わなければ、私は違う誰かと結ばれて違う人生を送るんでしょうか。
 もしかして、23歳で死なない未来があったりするんでしょうか。
 でも私はそんなの嫌です。
 私はあなたを愛してしまったから。
 あなたとの未来を知ってしまったから……
 私にとっては大好きで大切な人達、澪先輩、律先輩、ムギ先輩、純、憂……私はみなさんと一緒に生きる人生を過ごしたいんです。 
 この選択のせいで、皆さんに辛い想いをさせてしまうかもしれません。
 自分勝手過ぎるのは分かってます。
 けど、どうしてもそうしたいんです、こんな私を許してください。


187:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:48:14.15 ID:scvwc1Q4o


 ―― 公衆電話

梓『もしもし唯先輩ですか?梓ですけど、ちょっと先輩に大事な用がありまして』

唯『私に?』

梓『少し唯先輩にお話があるんです』

唯『え?どうしたの突然お話って』

梓『今こっちに来てるんですよ。少しでいいんです、会えませんか?』

唯『うん、分かったよ。それじゃ明日会おっか』

 ――


188:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:49:05.92 ID:scvwc1Q4o


 たとえ短くても、愛するあなたたちと一緒にいる未来を、私は選びたい。
 待っていてください唯先輩……

 いま、会いにいきます――


189:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:50:14.49 ID:scvwc1Q4o


 ―― ヒマワリ畑

 唯先輩との待ち合わせの場所に選んだのは近所のヒマワリ畑だった。
 梅雨明け直後の抜けるような青空の下、ヒマワリが満開の花を咲かせ、一面に黄色い絨毯を拡げているようにも見えた。
 そんな黄色い絨毯の真ん中で、あの人は私を待っていた。

梓『お久しぶりです、唯先輩』

唯『うん……』

 私の顔を見た唯先輩の目からは段々と涙が溢れて零れ落ちているのが見えた。
 涙の意味は分かっていたけど咎める気なんてあるわけがない。
 
梓『もう……なんて顔してるんですか』

唯『だってさ……』

梓『病気のことなら知ってます。だからもう気にしないでくださいね』

唯『え……何で病気のことを?』

梓『ふふっ、何ででしょうねっ』


190:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:54:17.23 ID:scvwc1Q4o


梓『唯先輩にそんな顔は似合いませんよ?いつも笑顔で元気一杯の、ありのままの先輩が私は一番好きなんですから』

唯『だって……私は、あずにゃんにはふさわしくないって思うから……』

梓『そんなことある訳ないじゃないですか、バカですよ先輩は……もう』

 私は唯先輩の背中に両手をまわして、自分の頬を先輩の胸に付けて優しく語りかけた。

梓『大丈夫……大丈夫ですから、私達はきっと幸せになれますから』

梓『私とあなたはずーっと一緒なんです。そう決められてるんですよ』

唯『決められてる?』

梓『そう……たったひとりの相手なんですから……』

 私は一度抱きついた姿勢から外れて、向かい合った状態で唯先輩の顔を見つめながらそう言った。
 これから先の未来の出来事を思ってしまったのか、いつの間にか私の目も涙で溢れていた。

梓『……好きよ』

梓『――唯』

 私は唯の唇に自分の唇を合わせる。
 唯もそれに応えて私を強く抱き寄せてくれた。
 私達2人は時間も忘れてずっと抱き合って、互いにその唇を離すことはしなかった。

 少し湿った風が吹き付けてヒマワリの花が一斉に揺れ、黄色い絨毯がまるで波打つかのように動く。
 それはまるで、私と唯の門出を祝福でもしてくれるかのようだった。


191:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:56:07.83 ID:scvwc1Q4o


~~~~

唯「ふぅ……」

 あずにゃんの日記を読み終えた私は、その表紙を閉じて脇へと置いた。
 それと同時に、玄関のベルが鳴った。

唯「おっ、そろそろみんな来る時間かな」

憂「私ちょっと見てくるね」

澪「こんにちは憂ちゃん」

憂「いらっしゃい澪さん。それにみなさんも」

律「憂ちゃんも唯も、今日は誘ってくれてありがとな」

憂「いえ、折角のクリスマスなので、どうせなら皆さん一緒がいいじゃないですか」

純「それで、唯先輩は?」

憂「もう中で待ってるよ。さ、立ち話もアレなのでみなさんあがってくださいね」

澪「じゃあそうさせてもらうよ」

紬「お邪魔しまーす」

――

唯「いらっしゃーいみんなー」

純「お邪魔します唯先輩」

律「ん?唯、お前またその日記読んでたのか」

唯「えーっ!いいじゃーん、何度読んでも飽きないんだよこれは」

憂「みなさんもう少し待っててくださいね。もうすぐお料理できますから」

唯「待ってよ憂。今日は私がみんなにご馳走するって決めてたんだから」

唯「でも、みんな本当にいいの?折角のクリスマスパーティにこんな料理で」

律「いーんだよ。唯のカレーと目玉焼き本当に旨いもんな」

唯「そっかぁー。じゃ、みんな待っててね」

――


192:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:57:09.82 ID:scvwc1Q4o


 こうしてクリスマスパーティはとても賑やかに進んでいって……

律「でもさ唯、お前何でカレーと目玉焼き作るのがそんなに得意なんだ?」

唯「へへー、何ででしょうねぇ」

澪「何か思わせぶりな言い方だよな」

憂「お姉ちゃん、そろそろケーキあけようよ。今朝とどいたやつ」

唯「おおっ!そうだねー。みんなちょっと待っててね!」

紬(ケーキ?もしかして1年前の……)

――


193:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 00:59:38.31 ID:scvwc1Q4o


唯「おまたせー。それじゃあけるよー?」

 そこに入っていたのは大きめのケーキとクリスマスカードだった。

澪「ん?クリスマスカード?表紙に何てかいてあるんだろう」

 【唯先輩、澪先輩、律先輩、ムギ先輩、憂、純へ】

紬「やっぱりあの時のケーキだったのね」

純「これって1年前に梓が贈ったケーキだったのか……だからあの時もクリスマスパーティをやったんだね」

憂「梓ちゃんが帰っちゃってから1年……か。あっという間だったなぁ」

純「そうだね。あれから色々変わったもんね。唯先輩の病気も大分いい方向に向かってきてるし」

紬「それにしても、過去の世界から未来に飛んでまで好きな子に会いに来るなんて……素敵ねぇ……」

澪「雨と共に訪れ、雨と共に去る……か。まるでアジサイのようだな、梓の奴は」

律「あーら澪ちゅわん、随分とロマンチストな表現ですことっ」

澪「やかましいっ!」ズガン

律「うわらばっ!」

唯「ねえみんな」

紬「どうしたの?唯ちゃん」

唯「私はさ、あの時確かにもう一度あずにゃんに恋をしたんだ。短い間だったけどとっても幸せだった」

律「ああ、分かってるさ。それ以来お前も変わったもんな」

澪「そういう出会いを果たせる人は、この世にどれぐらいいるんだろうな……出会ったら必ず、何度でも惹かれあってしまう、そんな関係の相手に出会うことが出来る人はさ」

紬「唯ちゃんも梓ちゃんも、出会っちゃったのよね。そのたったひとりの相手に……」

唯「うん!」


194:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 01:02:14.53 ID:scvwc1Q4o


 私はクリスマスカードを手に取って、中をのぞいてみる。
 そこにはあずにゃんの手書きの文章が書き添えられていた。

~~~~ 
  
 お元気ですか?
 多分今年のクリスマスはみなさんと一緒に過ごしてて、今頃このケーキをみなさんで囲んで食べてるんじゃないのかな、って思ってます。
 私は一緒に祝うことは出来ませんけど、遠くからいつも見守っていますから安心してください。
 澪先輩、律先輩、ムギ先輩、いつまでも私が尊敬してた、素敵なままの先輩でいてください。
 憂、純、いつまでも仲良く幸せなままでいてね。私、いつまでも2人の事は忘れないから……
 唯先輩……あなたに会えて良かった。ずっと、ずっと愛してます……

~~~~

 おしまい!


197:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/04(月) 08:13:55.93 ID:f7/fuTWFo


乙、久々に読み応えがある力作に出会えた、元ネタ知らないが楽しめた
切なくて悲しい話なのにすごく読後感が爽やかですごくよかった


202:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東):2011/07/05(火) 19:01:39.14 ID:Ul5if85AO


乙!
さらに唯梓好きになったわ!


203:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2011/07/10(日) 18:53:20.67 ID:ifKv1zhPo


これは泣いたわー……
唯梓の永遠性みたいのを凄まじく感じました。
関係ないけど死んだ母を思い出して更に泣きました。
素晴らしかったです、お疲れ様です!!


元スレ:梓「いま、会いにいきます」
    梓「いま、会いにいきます」のコメント
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