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少女「ねえ、雨って好き?」

このエントリーをはてなブックマークに追加 コメント (0) | カテゴリ: その他 | 更新日: 2011/12/05 22:30
1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 22:50:11.94 ID:WU+RL98eO


ピンクの傘を持った女の子が言う。

僕「雨は嫌い」

傘を持たない僕が言う。

女「どうして?」

僕「遊びに……お菓子を買いに行く事もできないから」

女「ふうん……ね、隣座っていい?」

神社の石段を指差して、彼女は言う。

僕「別にどっちでも」

石段に座っていた僕が言う。

女「ふふっ、ありがとう」

なぜか彼女は笑顔だった。


3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 22:56:13.53 ID:WU+RL98eO


女「雨、すごい降ってるね」

楽しそうに彼女は言う。

僕「……」

楽しくない僕は、何も答えない。

女「雨、嫌いなんだ?」

もう一度、彼女が僕に聞いた。

僕「さっきも言ったよね、嫌い」

同じような事を僕は返した。

女「なんで嫌いなの? こんなに気持ちいいのに」

言葉が違う方へ一歩向かう。

僕「気持ちいいの、このジメジメが?」


5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:05:52.40 ID:WU+RL98eO


女「うん、大好き。外は涼しいからそんなにジメジメも感じないし」

サラッとした雰囲気で彼女が言う。

僕「じゃあ室内だったら?」

女「ん~……ちょっと苦手かも」

初めて、彼女の表情が曇った。

女「あ、でもね。窓を開けて雨の匂いを部屋に入れるのは好き。うん、だから好き」

彼女の雲はすぐに晴れた。

外は、まだこんなに水の音がするのに。

女「ね、どこに行くつもりだったの?」


6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:10:26.42 ID:WU+RL98eO


僕「どこに?」

女「うん、傘も持たないでさ……お出かけ?」

僕「一人で散歩して……お菓子でも買いに行く途中だったんだよ」

女「傘がないから、雨宿り?」

僕「うん」

女「そっかお菓子か~」

小さな神社の石段で……彼女の体が小さく揺れている。

揺りかごのように、ゆっくり、ゆらり。

女「ね、この傘使う?」


7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:14:56.36 ID:WU+RL98eO


ピンクの傘を差し出しながら彼女が言う。

僕「……いらないよ、恥ずかしいから」

ピンクが恥ずかしい僕は、まだ子供。

女「でもお菓子買いに行くんでしょ?」

僕「……」

まだ、雨はたくさん降っている。

座って話しているうちに、何だか立つのも面倒になってしまった。

僕「もう少し……ここでいいや」

女「そっ。じゃあ私も」

彼女は傘を引っ込めて、またポ~ッとして石段の向こうを見ている。


10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:21:42.59 ID:WU+RL98eO


女「お菓子さ」

僕「ん、何?」

雨に消されそうな声で、彼女が言う。

僕は質問の内容もわからず、ただ返事をするだけだった。

女「何買うつもりだったの? 私、チョコレートが好きだなあ~」

僕「ああ、お菓子ね。別に何でも……お店で決めるつもりだったから」

女「何買うつもりだったの?」

具体的な商品名を聞きたいらしい。

僕「おせんべい……かな」

女「塩っぽいのも必要だよね。甘いのとしょっぱいの……私も塩せんべいが好きかな」

雨がちょっと降っている間に、彼女からチョコと塩せんべいが好きだと聞けた。


11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:27:20.25 ID:WU+RL98eO


女「ま、私買い物に行かないから関係ないんだけどね~」

わざとらしいくらいに、声が聞こえる。

わざと? 

僕「お菓子とか、買いに行かないの?」

わからないから、僕は尋ねた。

彼女の考えがまだ見えないから。

女「あんまり……ね。一人で行く勇気もないから」

僕「僕は、一人の方が好きだけどさ」

……。

そこまで話したら、また雨の音が耳に響く。

音がする……遠くで、車が水溜まりを通ったみたい。

女「……私はやっぱり一人は嫌だなあ」


12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:33:08.24 ID:WU+RL98eO


ずいぶんと間が開いて、彼女は言った。

僕「その割には……こんな場所(とこ)にいてさ。寂しくないの?」

女「寂しくないよ。お話してるし、ここは好きな場所だから……でも、一人ってなんだか嫌」

ああ、一人で買い物をするのが嫌なんだ。

僕は思ったままに、そう聞いてみる。

女「ん~……買い物? よくわからないや」

返ってきた言葉は、ひどく曖昧で。

また、次の言葉を繋ぐまで雨が僕たちの間に降って。

僕(早くやまないかな……)


14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:39:34.84 ID:WU+RL98eO


女「……うん、多分ね。誰かのために買い物する時は一人でも大丈夫だと思うんだ」

彼女が話すと……屋根を叩く雨音が一段強くなった気がした。

僕は、本堂の方にちょっとだけ目配せをしながら彼女に聞いた。

僕「誰かの? どういう意味?」

女「例えば……一人待っているお友達がいてさ。その子のためにお菓子を選んでいるの」

彼女は、少し俯いて両手を軽く握っている。

そこに少女らしさを感じて。

女「それだと、一人だけど一人じゃないから……だからそういう買い物は平気。一人も大丈夫かな」


15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:45:33.96 ID:WU+RL98eO


それは、本当に一人って言えるんだろうか?

友達が待っているなら、それは多分二人分の買い物で……。

僕「じゃあさ、二人で買い物に行ったら……まあ二人だよね?」

女「うん? うん、そうだね」

僕「その友達がいなくて、自分だけのお菓子を買っていたら……一人で買い物をしてるんだよね?」

女「そうだね~」

僕「君はその『一人』っていうが、嫌いっていう事?」

女「……」

彼女が黙ると、雨の音が強くなる気がする。

空はずっと灰色で、少しも色に変化が見えない。

女「ん……それはね」

雲が少し黒くなってから、彼女は口を開いた。


17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/09(土) 23:53:21.04 ID:WU+RL98eO


女「一人でも、自分のためにちゃんと買い物できれば幸せ。でも、私はそれが苦手だから……だから一人が嫌なんだろうね」

僕「自分のためにお菓子を買うのが嫌?」

女「ふふっ、お菓子に限った話じゃないよ。自分より誰かのために生きていた方が……楽しいタイプなんだよきっと」

僕「……」

僕は子供だから、少し難しい話が入ると口を閉ざしてしまう。

せめて、目の前で降っている雨だけでもやめばいいのに……そうしたら少し違う気持ちで話ができるのに。

僕がこんなに上手く話が出来ないのも、きっと雨のせいだから。

……今度は僕が会話を止めて、ただ周りを見渡すしかなかった。


18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 00:07:21.48 ID:zdeFcgw/O


女「あ、雨さ。やんできたよ」

彼女の言葉通り、屋根から響く音が段々と弱くなって……視界が少し開けてきて。

僕「ん……」

女「よかったね、これで買い物行けるよ」

僕「うん。君は……まだここにいる?」

女「えへへ、私は雨がやんだらお別れ」

僕「なんだよそれ」

軽い言葉、ただの冗談だと思っていた。

でも、雨がやんで雲の間から少し太陽が差したら……。

女「じゃあね、バイバイ」


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 00:17:06.40 ID:zdeFcgw/O


それまで、座っていた彼女がいきなり立ち上がって。

急に……お別れを言ってそのまま石段を下りていく。

女「お話できてたのしかったよ。じゃあ、ね」

あっけないくらいに、そのまま。

僕「あ……ま、待った」

女「?」

思わず彼女を引き留めてしまう。

僕「えっと、また話せるかな?」

女「明日も雨が降ったら、ここにいるよ」

僕「雨が……降らなかったら?」

女「……」


20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 00:31:19.49 ID:zdeFcgw/O


結局、彼女は何も言わないまま去ってしまう。

雨は降っていないのに、ピンクの傘を差しながら。

僕「……」

気持ちが曇った僕は、手ぶらのまま家へ……。


明日の天気予報は雨だった。

僕は少し嫌に思ったけれど……。

石段に座っている彼女がもう一度見られるのなら……。

僕(明日は傘を持って、出掛けてみようかな)

外ではまた雨が強く降っている。

どしゃ降りの天井を見つめながら……僕は眠った。


22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 00:46:32.31 ID:zdeFcgw/O


女「あ、また会ったね」

ピンクの傘を持った、彼女がいた。

僕「雨だから、ね」

青い傘を握っている、僕が言う。

女「あ、傘」

僕「雨だから、ね」

同じ事を僕は言う。

女「ふうん……」

昨日と全く同じ石段に、僕たちは座っている。

外もまた、何一つ変わらないまま雨がただ降って。

僕たちはまた雨を見ながら話している。


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 00:54:39.28 ID:zdeFcgw/O


女「昨日さ、あれからお菓子買った?」

僕「ううん、結局帰っちゃった。晩ごはんの時間も近かったし……」

女「そっか。残念」

僕「でも、今日は……ほら」


ビニール袋を彼女に渡して。

彼女の表情がパッと晴れたんだ。

女「あ、チョコレート」

僕「ここくる前に……」

女「え~どうしてどうして?」

僕「今日は傘を持っているから、買い物が出来たんだよ」

彼女のために買ってきたなんて、照れくさくて言えなかった。

雨のおかげで、恥ずかしさからくる体温の上昇は感じなくて。

僕「あげるよ、これ」


25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:01:50.31 ID:zdeFcgw/O


女「え、いいの?」

チョコレートを持った彼女が笑う。

僕「うん。あげる」

塩せんべいを持った僕も、ちょっとだけ笑顔。

女「あま……おいし」

僕「しょっぱ……でもおいしい」

パキッ、とチョコレートが折れる音と。

パリッ、とおせんべいが割れる音が。

僕(あとは……)

相変わらず降っていた雨の音だけが。

今日の雨は、強くも弱くも変化しないで……少し穏やかに降っている気がした。

彼女の小さな声も今日はよく聞こえるだろうか。


26:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:08:28.39 ID:zdeFcgw/O


僕(口がちょっとしょっぱいや)

女「ねえ、そっちのおせんべい少しちょうだい?」

多分同じ事を考えていた、彼女が言う。

僕「そっちのチョコと交換ならいいよ」

女「ん、半分こだね」

はいっ、と素直にチョコレートをくれる彼女。

僕「じゃあ、これ」

おせんべいを渡す僕の気持ちも……きっと素直なはずだ。

女「ふふっ……ちょうどいい感じ」

僕「ん……あま」

女「美味しいね、偏らない味ってさ」

僕「そうだね」


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:15:34.15 ID:zdeFcgw/O


女「今私たちってさ、同じ味を感じてるのかな?」

変な事を彼女は言った。

僕「チョコレートとおせんべいだよ?」

僕もよくわからないまま、返事をする。

女「同じ物を食べてるんだからさ……多分同じ風に感じてるはずだよ~」

モグモグと、幸せそうに笑ってる彼女を見ていたらどうでもよくなってしまって。

僕「……ごちそうさま」

ゴミをまとめて、僕はまた雨の音を聞いていた。

女「おいしい~……」

彼女はまだ幸せそうにお菓子を食べている。


29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:24:54.50 ID:zdeFcgw/O


女「……」

僕「……」

僕も彼女も雨を見ている。

女「ねえねえ。君ってさ、もしかして友達いない?」

雨に混じって、彼女から変な事を聞かれてしまう。

僕「なんでいきなり……友達くらいいるよ」

女「え~、だって日曜日なのにこんな場所にいてさ。昨日だってここに……」

僕「そんな事言ったら、そっちだって同じだよ?」

あははっ、と彼女は笑って答えた。

女「私はほら、好きでここにいるから。友達とか関係ないんだよ」

僕だって、少なくとも好きという気持ちがあるからここにいるのに。


30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:34:39.10 ID:zdeFcgw/O


僕「友達じゃない人に、お菓子は買ってこないよ」

違う形で、僕は彼女にそれを伝える。

女「あははっ、私たちってもう友達なんだね」

友達だと思っている彼女が言う。

僕「違った?」

女「ううん、違わない。じゃあ私も……今度は何か持ってくるからさ」

僕「いいよ別に。今日だって気まぐれみたいなモノだから」

女「くすっ、じゃあ私も気まぐれで持ってくるよ」

僕「雨が降らなくても、ここにいる?」

女「あ~、それは気まぐれってわけにはいかないかな~」

雨の日に現れた少女は言う。

僕「それはどうして?」


31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:43:35.16 ID:zdeFcgw/O


女「気が向いたら教えてあげる」

僕「……そこは気まぐれなんだ」

僕の気持ちは、モヤモヤに曇ってしまった。

女「ふふっ」

それでも彼女は空が晴れたみたいな笑顔で僕を見ていて。

女「今日は雨やまないね~」

相変わらず、雨が降っている。

灰色のままの空と神社を叩く雨の音と……遠くで道路とタイヤが擦れる音が、なぜか聞こえていて。

僕「……はあ」

こんな天気の日はため息しか出てこないんだ。


32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:54:57.80 ID:zdeFcgw/O


女「あ、そろそろ帰らないと」

雨が降っているのに彼女は言った。

僕「もう? まだ四時くらいだよ?」

雨が嫌いな僕は、ここに一人にはなりたくなくて。

女「今日は帰らないといけないんだ。チョコレートありがとう、美味しかったよ」

僕「あ、じゃあ……また明日……」


33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 01:57:58.36 ID:zdeFcgw/O


明日からはまた学校が始まる。

僕「ね、君は何年生?」

女「ん……小学三年生だよ」

僕より一つ下の学年、彼女を学校で見かけた事はなかったけど。

僕「そっか、うん……わかったよ」

女「じゃあまた……雨が降ったら、会いましょう」

ピンクの傘が遠ざかる。

雨がまた一段と激しく降って、彼女の姿を消してしまった。

僕「雨が降ったら……ね」

神社の石段で、僕はまだ雨の音を聞いていた。

右の視界がちょっと開けて……風もなんだかよく通る気がして。

僕は一つ、小さくクシャミをした。


36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 02:08:13.32 ID:zdeFcgw/O


今日は晴れ。

木々や葉っぱが朝日によく光っている……その水分は今日のうちに蒸発してしまうだろうか。

僕「今日は学校だからいいんだ。彼女は……雨じゃなくてもいるはずだから」


学校まで僕は自然と足取り軽く……。


38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 02:17:39.29 ID:zdeFcgw/O


僕は休み時間を使って三年生の教室に遊びに行ってみた。

ただの知り合い……お友達を探しに。

でも……。

僕「あれ?」

彼女の姿が、見当たらない。

僕(傘でも持っていたら、すぐにわかるのにな)

冗談を言える余裕があったのは、まだドキドキしてる気持ちがあったから。

でもそのドキドキも、クラスメイトの子から「今日は女の子が一人休んでいる」と聞いて消えてしまった。

その一人が、多分彼女なんだろう。


39:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 02:25:32.75 ID:zdeFcgw/O


帰りながら僕は夕焼けを見ていた。

葉っぱに光っていた水分も、今はただの葉っぱに戻っていて。

僕「そうか、やっぱりお前のせいか」

学校に置いてあった自分の傘を太陽にビシッと差して……ちょっとしたヒーロー気取り。

そうでもしないと、僕はモヤモヤしたままで今日を終えてしまうんだ。

僕「明日は雨でも降らないかな。そうすれば彼女だって……」

勝手に僕はそんな事を考えていて。

大嫌いだった雨が少しだけ嫌いなくらいに変わる、そんな放課後を僕は一人で歩いていた。


41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 02:34:14.94 ID:zdeFcgw/O


次の日には雨が降った。

おとなしい雨音が、朝から街を包んでいた。

僕はまた三年生の教室まで出掛けて……彼女を探す。

でも、見当たらない。

今度は違う子にクラスの事を聞いてみたら、今日は休みの子はいないと言った。

それでも彼女は見当たらない。

僕(……雨なのに?)

その、昨日は来てなかった女の子を教えてもらっても、やはり違う子だった。


42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 02:45:52.76 ID:zdeFcgw/O


土曜日、晴れ。

太陽のせいで白く光って見える神社の石段には、誰もいなかった。

僕「今日持ってきた分は、無駄か」

そのまま、一時間ほど彼女を待っていたけれどチョコレートが溶けてしまったので僕はその場所を離れた。

僕「明日は、雨が降ればいいのに」


43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 02:57:13.71 ID:zdeFcgw/O


日曜日、小雨

見慣れたピンクの傘が、僕の前に立っている。

天気予報が外れて僕が昨日の帰りに呟いた通りに……雨が降ってくれた。

女「あ、こんちわ」

子猫みたいな、なつっこい笑顔で彼女はもう一度。

僕「ねえ、学校いなかったよね?」

一週間で溜まっていた事を、彼女を見るやすぐに口に出してしまう。

女「学校? 普通に行ってたよん?」

余裕のためか口調が明るい彼女がいる。

僕「嘘だよ、だっていなかったもん……」

女「あははっ、もしかしてさ地元の小学校の事?」

僕「だってそれ以外には……」

女「私は、それ以外に通っているんだよ」


44:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:08:17.37 ID:zdeFcgw/O


女「スクールバスとかあってさ、毎朝それでね」

違う学校に通っている彼女が言う。

僕「そこってさ、遠い場所?」


学校で彼女を見つけられなかった僕は、少しでも彼女を探したくて。

女「バスで二十分くらいかな。おじょうさま学校? なんだってさ」

僕「ふうん……いないわけだね」

女「くすっ、そんなに探してくれたの?」

素直に彼女は笑ってくれている。

僕「ひ、暇だったからさ……」

素直になれない僕は言う。

女「それでも嬉しいよ、ありがとう」

雨を背中にして……彼女は言う。

僕はただ、彼女がくるくると回しているピンクの傘に見とれていた。


45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:14:25.23 ID:zdeFcgw/O


僕「違う学校ってさ。どんなとこ?」

女「ん~。どうしたのさ、いきなり」

チョコレートをかじりながら、彼女が言った。

僕「……口のとこ、付いてるよ」

女「ペロッ……何でもない普通の学校だよ。ただちょっと遠くて、男の子がいないだけ」

僕「ああ、おじょうさま学校だもんね」

でも彼女に会えない学校の事にはあまり興味がなくて。

女「うん……ね、そっちの学校ってさ……」


46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:24:43.51 ID:zdeFcgw/O


女「へえ、やっぱりあまり変わらないんだね~」

僕「……今日はそろそろ帰らないと」

女「そう? 今日はちょっと早いね」

僕「うん、親戚の人が来るみたいでさ」

女「ん、バイバイ~」

特に気にする様子もなく彼女は手を降る。

少しだけ雨が冷たく感じた。


47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:30:10.20 ID:zdeFcgw/O


僕「あ、あのさ」

女「ん~?」

少しでも会話を引き延ばそうと話題を探す。

僕「家って近いの? この辺り?」

女「この辺だよ。歩いていける距離」

僕「そ、そう……」

女「……」

僕「また……雨が降ったら?」

女「うん、雨が降ったら。じゃあ……バイバイね」

ゆっくりと青い傘が彼女から離れる。

女「気をつけてね~」

何度も振り返る後ろで、彼女はずっと手を振っている。

人懐っこい笑顔が見えにくくて、少しだけ雨が鬱陶しかった。


48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:40:45.68 ID:zdeFcgw/O


それから、晴れの日が何週間も続いて。

太陽の出ている日に神社に行ってもやっぱり彼女はいない。

それでも、僕は少しのお菓子を持って……毎週日曜日には神社を訪ねていた。

雨が降らない日でも、毎週毎週……。

いつの間にか僕は、雨の日が好きになっていた。

太陽が出ていい天気になるより……少し暗くて肌寒いくらいの一日が、大好きで。

久しぶりに雨が降った平日に……学校帰りに走って神社に向かっていた。

雨の中を走るのは、今ではこんなにも楽しい。


49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:46:18.65 ID:zdeFcgw/O


女「あれ、どうしたの?」

紫色の傘を持った彼女は言う。

僕「ん……雨だから」

青い傘が、隣に座る。

女「そっか、おかえり~」

僕「おかえり?」

女「学校終わりだから、ね」

ああ、確かに。

僕「ただいま」

女「うん、おかえりなさい」

……。

今日は雨の降る音だけが聞こえる。

車が水をはねる音も、学校帰りの誰かの声も聞こえない。

彼女と二人、神社の石段に座って……ただそれだけ。

女「もし、今雨が降ってなかったらさ、きっと寂しい風景なんだろうね」


50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:53:07.38 ID:zdeFcgw/O


僕「……うん」

彼女の言葉の意味が、なんとなくわかる。

雨が降っているから、僕の目の前はこんなにも綺麗に見える。

女「ねえ、雨って好き?」

いつかと同じ事を、彼女は聞いた。

僕「うん、好きだよ。大好き」

ずっと言えなかった言葉で、僕は答える。

女「そう……よかった。私も好きだよ、大好き……」

彼女の言葉の後で、また雨音が強くなった。

屋根を叩く音が、今までないくらいに激しく鼓動を打っているみたいだ。

僕(今日は……しばらく雨はやみそうにないな)

僕だけが、一人でそんな事を考えていた。

女「ん……雨やんじゃいそうだね」


51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 03:59:40.83 ID:zdeFcgw/O


雨がやむ?

僕「こんなに強く降っているのに?」

女「うん、やみそう。何となくそんな気がする」

僕「そっ……か。でもまた雨が降ったら会えるもんね。学校終わりでも君がここにいるなら」

女「……ん。ありがとうね、好きって言ってくれて」

僕「う……うん」

雨が好き、という気持ちを共有出来て嬉しかったんだろうか。

僕「やっぱり、友達いないんだ?」

つい、そんなひねくれた言葉も口に出してしまう。

女「ふふっ、そういう君だって……」

僕「僕は……」

この神社で君と話していられれば。

そう答えようとした瞬間。

「お~い」

遠くから、優しい声がする。


52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:05:13.29 ID:zdeFcgw/O


女の子?

ああ、あれは確か同じクラスの……。

女「お友達? 顔付きが可愛いね」

僕「うん、友達」

白とピンクの水玉模様が、どんどん神社に近付いてくる。

まだ遠いけど……雨の道を走る速さでは、すぐにここまでたどり着いてしまうだろう。

女「ふふっ、友達いたんだね」

僕「当たり前だよ。ね、今からみんなで遊ぼうよ? まだ雨が降っているから……平気だよね?」

彼女はフッと空を見た。

女「ダメだよ。もう雨はやんじゃうもの」

相変わらず、雨は強くて激しい。

そう言ってる間に……クラスメイトの女の子が一歩、また一歩と階段を上ってくる。


54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:09:13.60 ID:zdeFcgw/O


「ね、こんな所で何してるの?」

僕「ちょっとお話。雨宿りみたいなものだよ」

「……雨宿りはわかるけど、お話って?」

僕「ん、彼女と……?」

隣には、もう少女はいなかった。

「変なの。独り言? 友達いないの~?」

少女と同じような事を言われて、少し記憶が上書きされる。

僕「……いるよ、友達くらい」

「……まあいいや、ねえ。一緒に帰ろうよ。雨で困ってるでしょ?」


55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:16:02.13 ID:zdeFcgw/O


僕「別に、傘はあるから雨なんて気にしない」

「……? 手ぶらじゃんか~」

僕「え?」

右手を探しても、左手を探しても……僕が持っていたはずの青い傘はなくなっていた。

もちろん彼女の紫色の傘も……石段には、僕だけがいる状態になっていたんだ。


56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:18:14.28 ID:zdeFcgw/O


「ま、雨宿りしてたくらいだもんね。帰り困ってたでしょ? も、もしよかったら、一緒に帰ってあげてもいいけど……」

僕「もうすぐ雨はやむから大丈夫だよ」

「や、やまないよ! 天気予報でもしばらくずっと雨だって言ってたし……」

僕「……ちょっとだけ」

「え?」

僕「ちょっとだけ待って、やまなかったら帰ろう、ね?」

「う、うん……それでも別に、いいんだけどさっ」

そう言って、石段にクラスメイトの女の子が座った。

隣の子はどういう気持ちでこの雨を見ていたんだろう。

僕は、彼女の言葉通りすぐに雨がやむと思いながら……雨音を聞いていた。


57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:21:56.44 ID:zdeFcgw/O


「……やまないね」

僕「みたい、だね」

「帰る?」

僕「……うん」

「じゃあさじゃあさ、傘……一緒に入ろう。その方が濡れないし、絶対いいよ!」

僕「そう、だね」

「ふふっ、じゃあ……いこっ」

水玉模様の下から空を見ると、透けた生地の上から雨が弾ける音がする。

隣の彼女は嬉しそうに前の方だけを見つめている。

僕は、少し雨が弱くなった上と、誰もいない石段を交互に何度も見つめて。


59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:34:27.14 ID:zdeFcgw/O


彼女がいきなり僕の前から消えてしまった理由はわからない。

雨を大好きになったせいか、友達があの場所に来てしまったせいか……それとも告白しようとしたせいか。

いずれにしろ、あの日以来彼女は僕の前から消えてしまった。

大雨の日に神社を訪れても、たくさんのチョコレートを持っていっても、石段には誰もいないまま。

やがて、神社に通う事もだんだんと無くなっていった。


61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 04:40:05.25 ID:zdeFcgw/O


雨が降ると、今でも彼女の事を思い出す。

遠い日に、彼女が持っていた傘の色などはもう何色だっかも忘れてしまったけれど……。

ただ、雨に映えるアジサイを見つける度に、こんな色だったかなあという記憶が蘇る。

他にも……もっと色々な事を思い、感じていたのかもしれないけれど。

雨の思い出は全部、あの神社の石段に置き去りにしてしまったようだ。

僕が雨に対して持っている記憶は……これで全部だ。

今日も外では雨が降っていて……知らない二つの傘が仲良く歩いている姿を、僕は遠くから見つめている。




65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/10(日) 05:16:49.36 ID:yPXSqPFf0


大層乙であった



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